深まる疑念

『はい、クロードです』

電話に出てパソコンの画面を監視モードに設定。

『ああ、その件ですね…
すぐにデータはお送りします、それから今日は久しぶりにお伺いしましょうか?

ええ、わかりました
ではそういうことで、失礼します』

ワイシャツを掴んで電話を切り、スラックスも装備して今日は完璧なお仕事スーツです。
USPを入れていくと面倒なことになりそうだけど一応携帯しておく。
それからお仕事用の靴を履いて損はありません。
防弾チョッキはなくともお仕事用のカッチリした格好をしたのは久しぶりだしやっぱり慣れない。
もっと緩い格好の方が好きだ。
工藤邸を出て鍵をかけ、駅の方でタクシーを拾って久しぶりに警視庁へお邪魔することにしました。

『お久しぶりです、目暮さん』

「これはこれは、久しぶりですな、クロードさん
わざわざご足労を…」

『とんでもございません、暫く仕事の方をお休みいただいていたので折角の依頼もお断りしてしまってましたし…
ご挨拶くらいさせていただかないとこちらもお世話になっているので申し訳ないですから
早速ですがデータの現物をお持ちしました、紙媒体ですので後で焼却してください』

鞄からファイルを取り出して出力してきた資料を目暮さんに渡した。

「助かります、これで捜査が進みますよ」

「目暮警部!
先程の件で、調査を進めていたんですが……ってクロードさん!?」

『あ、高木さん、お久しぶりです』

「え、あ、お久しぶりです
長期休暇だったようですが、お体の調子でも崩されたんですか?」

『あー…まあ、そんなところですかね
少し休養期間とさせていただいていたんです』

「そうだったんですね」

『しかし久しぶりの警視庁ですがなんだか慌ただしいですねえ…』

「そのことで貴方に依頼したんですよ」

『そういう事でしたか…』

危うく事件に巻き込まれるところでした。
はあ、とため息を吐き出す。
とりあえず久しぶりの警視庁へ挨拶はちゃんと済ませたし、あとはFBIの皆さんにきちんと直接お礼とご挨拶をしておかないといけないか。

『ではそろそろ失礼しますね』

「あ、ああ…
お忙しいところわざわざすみませんでした」

『いえ、たまには外に出ないと体も鈍ってしまいますし
また何かご用命の際はいつでも連絡してください』

失礼します、と一礼してから警視庁を出てメトロの駅まで散歩をする。

あ…警察庁だ
お隣の建物だったんだねえ、なんか仕事で数回来たことがあるような…
そうだ、何か聞けるかもしれないしちょっと行ってみるか、アポ取ってないけど
組織のデータベースでチラッと見た名前、公安に潜り込んでるみたいだし偵察には丁度いいか

警察庁にお邪魔することにして、エレベーターで行き慣れた階数で降りたら久しぶりの方々にお会いした。

「あれ、クロードさん?
久しぶりじゃないですか、どうされたんです?
今日は特に降谷さんとお約束されたわけではないですよね…?」

『えっと…今日は警視庁に行ってたんですけど、久しぶりだったので折角ですし皆さんにご挨拶しようと思っていただけなので…
アポも取らずに来てしまってすみません』

「いえいえ、久しぶりにお会いできて嬉しいですよ」

相変わらず此処の人は優しいけれど、約束って何なんでしょうか。
それに降谷さんってどなたでしょうかね。
俺が約束するような人が此処にいるってことなんでしょうか。

『あのー…その降谷さんにはお会いできます?』

「生憎ですが今は外に出てますよ
今日も戻られるのは恐らく深夜かと…」

『深夜…?
随分お忙しい方なんですね、やっぱりアポ取っておくべきでした…』

…どうやらキーパーソンらしき降谷さんには会えないみたいだね
会ったら何か思い出すかと思ってたんだけど

「クロードさん…?」

『あ、はい?』

「あのー…どうかされました?
降谷さんに伝言でしたら頼まれますよ?」

『いえ、大したことではないので大丈夫です
今日は皆さんにご挨拶しに来ただけなのでそろそろお暇しますね』

収穫なし。
うーん、と項垂れて警察庁を出たら、丁度一台の白い車が入ってきた。

あの車、なんか見覚えあるけど気のせいかな…

チラッと目をやり、それからメトロの入り口へと向かった。
携帯を取り出して秀一にメールを出したらすぐに電話が来たので途中の駅で降りた。

『もしもし』

[どうした、いきなり]

『いや、そろそろ落ち着いたしFBIの皆様にきちんとお礼とご挨拶をしておこうと思って…
今日はまだ時間もあるから…』

[別に構わんが…礼なら情報で支払ってもらいたい]

『それは別にいいんだけど…お茶菓子買ってく手間も省けるし』

[組織の情報に関しては正直今のお前にそれほど期待していない]

『え…?』

[実際そうだろう
お前の情報網は使えても、お前自身がそんな状態なら組織の事は聞き出せん]

『何、今度は…
俺の仕事が今更信用出来なくなったわけ?』

[そうじゃない
俺達が知りたがっている情報も、お前が存在を知らないなら意味がない]

『俺が知らない構成員の情報でも聞き出そうっての?
馬っ鹿だねー、そんな奴らの情報知ってどうするわけ?
俺の飼い主と上二人の情報だけで十分でしょ?』

[だから無駄だと言っているんだ]

…どういう事だ?
また厄介なことになったな…
秀一の欲しがっている構成員の情報って…そんなに大事な構成員なんていたっけ?

『まあ、とりあえず提供できることはするから…
電話きたから六本木で降りたとこなんだけど、どこで会える?』

[近くにいるから俺が向かおう]

『了解、じゃあ、また後でね』

電話を切ってから改札を抜け、地上に出て車を待っていた。
俺が知らない構成員で秀一が欲しがっている人物なんていただろうか。
いや、今後のお仕事関係には支障をきたしたらマズいから秀一に素直に聞き出してみるか。
10分程して目の前に止まった真っ赤なマスタングを見て少し緊張した。

「乗れ、話は中で聞こう」

小さく頷いて助手席にお邪魔する。

『あのさ…』

「少しは食事も出来るようになったようだな、前より顔色もいい」

『はあ…そんなに酷かった?』

「ああ」

パソコンを取り出して、秀一とFBI本部からの依頼を受けることにしてキーボードを叩く。

『ねえ、聞きたいんだけど…その秀一達が欲しがってる情報って誰のこと?』

「…確かに組織の動向を知るのにはジンの情報がもらえるとありがたいし繋ぎ役にはなってもらっているが、それだけでは足りない」

『だからさ、例えば誰?
一応データベースは持ってるんだし、構成員リストだって…多分接触さえしなければラムに怒られないよ』

「例えば…?
そうだな、ジョディが欲しがっていそうなところだと、ベルモットとか」

『またベルモットか…
それ何度目かな、コナン君とあともう一人からの口からも出てきたんだよね、その名前
そんなに有名人なわけ?』

「ああ」

『幹部?』

「そうだろうな」

『…わかったよ、データベースで確認してあげるから
これでFBIとのお仕事出来なくなると俺も困るし、最低限の幹部は流石にわかってないと仕事にもならなさそうだね…』

「ボウヤから連絡があったが、奴と接触したらしいじゃないか」

『奴?』

「バーボン」

『ああ…彼ね
うん、この前長話でもしようって言われたから乗ってあげたんだけど…何故か動物園に連れて行かれたよ
俺が行きたがってたとか、キッチンの場所も知ってたし俺の買いだめしてるクッキーの存在まで知ってたし、俺のこと随分知ってるような感じだったけど
まあ夜ごはん作ってもらっちゃったしそれはそれで良かったんだけどね

そしたらさ、ごはん作ってくれるみたいだよ?
あんまり接触するとジン様に嗅ぎ付かれるから週に2回だけど』

「…それで、それ以降は?」

『さあね、今週の2回目はまだだけどそろそろなんじゃない?
なんか彼の言い方も一々引っかかるんだけど…前にも作ってもらったことありそうなんだよね、考えすぎかな
はい、これが本部からの依頼のもの、こっちが秀一の依頼の
で、これはマダム・ジョディへのプレゼントってことで』

USBを渡してパソコンを閉じる。

「蛍」

『ん?何?』

「何か、思い出したことはないのか?」

『…何の話?』

「ないならいい」

『関係あるのかないのかわからないけど…魚より好きな食べ物があったみたい
俺、サンドイッチ相当好きみたいだよ
なんか彼のサンドイッチ、どっかで食べた味なんだよねー…
それに料理上手みたいだしイケメンだし落ち度もなし、凄いよね
一応お友達になったよ…組織抜きにして本業での関係で』

「珍しいこともあるんだな」

『そう?』

続きを言いかけてやめた。
電話が鳴ったので取り出すと、噂をすればというやつだった。

『もしもし、雪白です』

[蛍さん、こんにちは
今晩、お約束通り夕食を作りに伺おうかと思ったのですが、ご都合いかがです?]

おや。
今日は不意打ちのイケメンごはんですか。

『ええ、大丈夫です
丁度仕事が一件終わりそうなので…夕方くらいには家に戻れるかと』

[わかりました
今日は昼間に外回りでもしているようですが、まだ外にいらっしゃるんです?]

『…な、なぜそれをご存知なんですかね、やっぱり貴方ってストーカーなんです?』

[見かけたからですよ、僕の職場にいらした貴方のことを]

『…はい?』

今日行ったのは警視庁。
それから警察庁、そして今の六本木。
どこで見られたんだろうか。

[仕方ありませんよ、丁度入れ違いだったようですし
では後ほど伺いますね]

『あ、はい、ではまた…』

電話を切ってから暫く画面を見つめたけれど、切り替えることにした。

『秀一!2度目がやってきた!
今日は美味しいごはんにありつけそうです!』

「お前にストーカー扱いされるとは、奴も苦労人だな」

『え?』

秀一は煙草を咥えてしまったので何も答えなかった。

『まあ、いいけどさ…
一応俺も幹部レベルの人間くらい知っとくようにするから
それじゃ、今日はもう帰るね』

「送ろうか」

『いいよ、それ渡してきなよ
電車で帰るから大丈夫、お気遣いありがとね』

では、と車から降りて六本木からメトロに乗り込む。
しかし今日は色々と外回りをして疲れたけれど気分転換にはなった。
米花駅に戻ってきてからスーパーで適当に食材を購入して、帰ってからは仕事をしていた。
17時を少し過ぎた頃、知っているエンジン音がして顔を上げる。

この音…

部屋から出て玄関に向かい、そっとドアを開けてみたら丁度白い車からイケメンが降りてくるところでした。
鍵をかけたイケメンは此方に向かってきて、ふと目が合った。

「まだ呼び鈴は押していませんよ」

『知っている、足音でしたので、つい…』

「…そうですか、足音は覚えていてくださったんですね」

やっぱり何か変だ
この人はあまりに俺の事を知りすぎている…

動向を気にしながら、リビングでパソコンと向き合っていた。
データベースを漁って色々と見ても、出てくる情報は先日下調べした時に見たものと同じ。
更新されてない。

あれ、なんだこれ?

パソコンの隅に作られていたファイルをクリックして絶句した。

「蛍さん、仕事もほどほどにしてくださいね」

『……』

「聞いてますか?蛍さん…?」

肩を叩かれてビクッとし、慌ててパソコンを閉じた。

『お、おどかさないでください…』

「すみません、ですが話しかけても答えがなかったので…
もうすぐ出来るのでダイニングで待っていてください」

『は、い…』

何故だ…

再びキッチンに戻っていったイケメンを目で追い、ゆっくりとダイニングに向かう。

なんでこの人の写真が、俺のパソコンに…?
明らかに盗撮写真だ、てことは俺が撮ったの…?
何のために?

「蛍さんに教えていただいたラタトゥイユです」

出された料理の枕詞が引っ掛かったが今はそれどころではない。

『あの、安室さん』

「はい?」

『…安室さんて、本当に俺のお友達だったんですか?』

「…ええ、そうですよ」

『そうですか』

友達関係であんなに写真が残ってるもんかね…
疑問に思うよ…

少ししてからスプーンを掴み、ラタトゥイユをいただくことにした。
今日も安室さんは向かいに座って此方を眺めているだけ。
非常に食べ辛い状況だけれど食欲には勝てなかった。




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