やっぱり原点はサンドイッチ

「お待たせしました」

『ひっ…』

「なんですか」

『い、いえ…あの、お気になさらず…』

「食事を提供しただけで悲鳴をあげられるとこちらも少しは不快になります」

ほ、本当にイケメンが家に来てしまいました…
そして散らかったままの服やUSPを華麗にスルーしたイケメンは真っ先にキッチンに入っていったんだけど、なんでキッチンの場所知ってるんですか…
何の躊躇いもなく冷蔵庫をチェックして慣れた手付きで調理しているのは何故ですか…

ダイニングの椅子に座ってイケメンの様子を観察しながら待っていたのだが、不意にサンドイッチの乗った皿を置かれたので驚いた。
その距離の近いこと。
思わず心の悲鳴が漏れてしまい、どうやら不快にさせたようです。

『……』

向かい側に座ったイケメンの前にお皿はありません。

『…あの、安室さん、ごはんは…?』

「以前からこうでしたよ?」

『な、なんだか俺だけ食べるというのも気が引けるのですが…』

「僕が好きでこうしているんですからいいじゃないですか」

何がいいんですかね、イケメンの考えていることがよくわからないぞ…
だって向かいに座っている人が食事をするのをただ眺めてるだけだ、一体何が楽しいというんだ…全くもって意味がわからない…なんだそれは…

「食べないんです?お腹すいてらっしゃるんでしょう?」

『す、すいてますけど…その、一人で食べるのは…』

「僕に構わずどうぞ」

『どうぞって言われましてもねえ…』

せめてと思って立ち上がり、カフェを淹れてきてテーブルの上に乗せてそっと差し出した。

「そんなに気を使わないでください」

『ですが…お客様に食事を作らせた上に何もお出ししないのはどうかと…
それに俺だけ物を口にするのは気が引けます』

席に戻ってから手を合わせてサンドイッチに手を伸ばした。

『こ、これは…』

「蛍さんが指定した最低限の食材は入れましたが、玉ねぎやマスタードがあったので特製ソースを作って隠し味に…」

『あ、あの、ちょっと待ってください』

「なんでしょうか?」

『…貴方、料理の専門家か何かですか?』

「いえ、違いますけど…」

『だって玉ねぎだってどう処分しようか考えていたような微妙な量でしたし、この生ハムだって今日賞味期限だったからどう処理しようかと思っていたようなもので…そんな食材ばかりで、なんでこんなサンドイッチが作れるんですか!
貴方天才ですか!?』

イケメンで天才なんですか!?
罪ですよ、貴方!

「とりあえず座りません?」

『あ、はい…』

しまった、興奮して思わず立ち上がってしまった…

座り直してから改めていただきます、とサンドイッチをいただくことにしました。

こ、これは…

『お、美味しい…』

骨抜きです。
メロメロです。
俺をこんなにしたサンドイッチは初めてです。
しかもこれが残り物食材で作られたものだとは思えません。

『おいしい…最高…なんだろう、これ、もう死んでもいい…』

完全にマタタビをいただいた気分です。
もう美味しくて手が止まりません。
イケメンは料理もお上手なんですね、わかりました。

「僕の前で死ぬという単語を口にするのを禁止にしていたんですけどね…」

『はい?』

「いえ、何でもありません
それから手に付いたソースは舐めずにティッシュできちんと拭き取ってください、貴方一応人間なんですから…」

『勿体ないじゃないですか
それに組織での食事は食器がないので全て手掴みでしたよ、下品でどうもすみませんでしたね』

ティッシュを箱ごと目の前に突き出されたのでちょっとムッとして一枚抜き取って手を拭いた。

「その組織での生活についてお聞きしてもよろしいですか?」

『いえ、それはできません』

「飼い主から口止めされているんです?」

『いえ、そういうわけではありませんが…
組織の事に関して、俺は飼い主とラム、そしてあの方についてしか存じ上げません
ジン、ラム、あの方以外の構成員は皆コードネームを持たない構成員と同格と見なし無駄な接触はしないようにとラムから毎日モニター越しに10回は暗唱させられました
たとえコードネームをお持ちだとしても貴方のことは存じ上げないので組織のお話はできませんし、ラムに見つかればそれこそ…』

「いつから貴方の飼い主はラムになったんです?」

『俺の飼い主はずっとジン様ですけど?』

「その言い方だとジンだけでなくラムからの干渉があったようですね
それに今、さりげなく口を滑らせたの自覚してます?」

『……ああっ』

「貴方の置かれている状況が少しわかりました」

『忘れてください!記憶から抹殺してください!』

「わかりましたよ」

カフェを啜ったイケメンはため息を吐き出した。

「直接聞き出すのは難しそうですね」

『…貴方が何を考えてらっしゃるのかわかりません』

「わからなくて当然ですよ
所詮人間の頭の中なんて誰も覗けませんから」

そもそもこのイケメン、なんかこの家にナチュラルに溶け込んでるけどいいの?
とても不思議なくらいに不自然さのない景色なんだけどなんだろう、俺がおかしいのかな…

「あ、蛍さん
貴方がいつも買いだめしている戸棚のクッキー、もう一箱しか残っていませんでしたよ」

『え、買いに行かなきゃ……ってなんで人ん家の戸棚勝手に見てるんですか!
それに買いだめしてるなんて、どうして貴方がそんな事まで知ってるんですかね?
たかだか数回会っただけで、本業でもお世話になっていたとしても家にまで入り浸る機会なんて無かったでしょう?
仕事の付き合いで、なんでそんな事まで知ってるんですか?
やっぱり貴方ってストーカーなんですか?』

「仕事の付き合い…確かにそれもありましたけど、それ以上の関係と言ったらどうします?」

『それ、以上…?』

それ以上って何?
仕事の付き合い以上の人間関係?
それって…それって、まさか…

『お、お友達、ですか?』

「…はい?」

『あの、仕事以上ってことは…さっきも散々プライベートがなんとかって言われたような気がしますけど、仕事以上なら本当にお友達として組織の仕事以外でも会っていたということですよね?
そしたら家に来たことがあると言っても何の不思議はないと、そういうことですね?』

ずいっと身を乗り出したらイケメンは呆れた顔をしました。
呆れていてもイケメンです。
この人に落ち度はないのでしょうか。

「…そうでした、蛍さんはこういう人でした
簡単に理解してもらえると思った僕が間違っていました、すみません」

『な、なんかそれ失礼ですよね…?』

「それはともかく、お友達という所までは辿り着けたようですので少し安心しました」

『ともかくって…』

「貴方、今夕食はどうされてるんです?」

『それ、先日コナン君にも聞かれましたけど自炊してますよ
俺がそんなに料理できないような人間に見えます?』

「いえ、貴方の料理の腕前は存じていますし、フランス料理は蛍さんに教えていただきましたから」

『……』

「もしよろしければ、僕が貴方の夕食をお作りしますよ」

『…はい?』

「仕事中毒の貴方は一秒でも時間は無駄にしたくないでしょうし、今まで夕食を作っていた時間を仕事に当てられるんですよ?
僕は好きで料理を貴方に振舞いますし、お互いメリットがあると思うんですが…」

…イケメンの、夜ごはんですか?
と、と、とても魅力的です
今のサンドイッチで実証済みです、できるならば俺も仕事に時間は当てたいしそれでイケメンと過ごす時間が出来るというのはこの上なく良い条件です…!

『よ、喜んで…と言いたいところなのですが』

「何か問題でもありますか?」

『流石に頻繁に接触するとなると…』

「そんなに組織の目が気になるのでしたら、週に2回ほどにしておきましょう」

『…2回、ですか』

た、たった2回…
イケメンが来てくださるというのにたった2回ですか…!
ですが匂い移りでもしてジン様に見つかったら大変なことになるのでそのくらいの方がいいのかもしれません…

『そうですね…そのくらいが妥当ですかね…』

「貴方がまさか50日も監禁されるとは思っていませんでしたが、その間にレシピはまたストックしておきましたので」

『はあ…』

ん…?
またって言った?
俺、このイケメンにごはん作ってもらってたのかな…?

「そろそろお暇しましょうか、今日は寝る前にもまた仕事をされるんでしょう?」

『あ、はい、まあ、そうですね』

「くれぐれも無理せずちゃんと寝てくださいね」

玄関まで見送りに行ったら、そっと手を伸ばされたので首を傾げた。

「…これからもよろしくお願いします」

『…それは本業ですか?プライベートですか?』

「どちらもですよ」

なんとなく気障な言い回しにちょっと躊躇いながらもおずおずと手を差し出して握手をしました。
イケメンとの貴重な握手です。
この握手会が無料なんて信じられません。

「今度は握手だけなんて寂しいことはしませんから」

『……』

どういう意味だろう。
するっと解かれた手はまだ暖かくて、パタンと閉じたドアを暫く見つめていた。

…お友達、だったみたいだね
ナンパとか何とか疑ってしまったけれど、どうやら仕事仲間以上の関係らしい…
今の体温だって、なんだかよくわからないけれど安心してしまったよ…

ぱたっと床に落ちていく。
ほら、涙腺が緩んでる。
あの体温を知ってるんだ。

『なんで…?』

仕事どころではなくなってしまった。
なんてことをしてくれたんだ、あのイケメンは。
罪だ。
その場に座り込み、涙が途切れるまでじっと動かずにいて一晩過ごした。

…玄関で朝を迎えるなんて初めてだよ
体痛い、なんでこんな固いところで寝たかね…

よっこらせと体を起こし、とりあえずシャワーを浴びて髪を乾かし、いつものルーティーンワークをこなして朝食を食べにダイニングに向かった。
冷蔵庫を開けて、停止。

『…なんだ、これは?』

サランラップに包まれたバゲットのサンドイッチ。
しかも俺の好きなプレ・キュリー。

『…俺の朝ごはんまで作って行ったの?』

なんて世話焼きな人なんだろう。
それを温め直してからカフェを淹れて、ダイニングでゆったりとした朝ごはんをいただいた。

なんか、いい感じ…
ねえ、この朝ごはんに滋養強壮剤でも入ってるの?
すごく仕事やる気になったんだけど…

『やる気が、漲ります…!』

これすごいよ!
今日お仕事頑張れるよ、これ、毎日食べたい…!

『あ…でも週に2回しか来てもらえないんだっけ…』

そうでした。
これはとても貴重なサンドイッチです。
崇め倒してサンドイッチをいただき、今日はエンジン全開で朝からお仕事を片付けます。

俺が魚よりも好きな食べ物はどうやらサンドイッチらしいけど…なんで食べ物のことなんて忘れてたんだろう?
だって組織関係なくない?
食べ物の話だよね?
うーん…なんか引っ掛かるな
まあいっか、イケメンのごはんが週に2回も食べられるようになったんだし

なんか生活サイクルも良くなってきた気がする。
やはりイケメンは人生に潤いを与えてくださいますね。
貴重な人材です。
今日もイケメンを拝みます。

『…そういえば安室さん、昨日夜ごはんちゃんと食べたのかなあ?』

俺に作るだけ作って帰っていったのでイケメンの食生活がちょっと気になります。
イケメンの生態が謎だからです。
あくまで組織ではなく表の世界でのお付き合いなので大切にしていきたいと思います。
いい傾向だと思います。





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