新月の晩餐会

『お邪魔します…!』

監禁生活から解放されて5日後、なんと哀ちゃんが晩餐会に呼んでくださいました。
驚きましたがとても嬉しいことですね。
阿笠さんのおうちも久しぶりでなんだか平和が戻ってきたような気分です。
コナン君も呼ばれていたらしく、5日ぶりの再会。

『まさか哀ちゃんがまた晩餐会に呼んでくれるとは嬉しいねー
哀ちゃんの手料理…!最高だね』

「思ったより長かったのね」

『ああ、拘置所生活?
まあそれなりに覚悟はしてたけど、妥当な日数だったんじゃないかな…
ジン様の調教より酷いね、ラムは』

「本当にラムと接触したとは思わなかったわ…
それで、監禁の理由はやっぱりその情報ルートだったの?」

『そうみたい
ジン様からバーボンと取引をしたことが契約違反て言われたし、遺された報告書から俺が外部の諜報機関と連絡を取ってたことが知られてたからNOCの疑いをかけられたのかと思ったけど…そういうわけじゃなかったみたい』

ソファーに座って、哀ちゃんと話しながらタブレット端末を弄る。

『ジン様、一回も来てくれなかったんだよね…』

「変ね…ジンのことだから貴方がダウンしたらメンテナンスに来るような飼い主じゃなかったの?」

『今回の調教はジン様じゃない、ラムだよ?
ラムがジン様に俺に手を出さないようにしてたんだと思う
ジン様がいない極限状態で仕事させて試すなんて言い方までしてさ、機密情報に近付いた罰にしては重すぎ…』

はあっと溜め息を吐き出す。

「貴方の事だから用心に用心を重ねたんじゃない?
前にベルモットが組織の秘密を知った人間を始末しようとしてたらしいから」

『…ベルモット?』

「あら、貴方でもこの事は初耳だったかしら?」

『ベルモットって、誰?』

「はあ?ふざけないで、今更何を…」

「灰原、その事なんだが…
どうも雪白さん、ジン以外の構成員の記憶が飛んでるみたいなんだ」

「…どういう事?」

「毎日同じ資料を見せられて刷り込みされたんだろ…
ジンは自分の飼い主、ラムは今回直接連絡を取り合ったNo.2、そしてボスであるあの方って人の存在くらいしか知らない状態で外に出された
雪白さんが戻ってきた日にポアロに行ったけど、コードネームは知っていてもバーボン本人は認識してなかったぜ」

「…組織のやりそうな事だわ
蛍の順応性の高さを利用して組織に染まらせる…
実際今の蛍自体は外界にもう順応しているけれど、組織に関しては本当に極限状態で刷り込まれたようね
蛍がベルモットを知らないなんて有り得ないもの」

『何2人でこそこそ話してんの』

子供だからって…と思いながらヒソヒソ話をしていた2人に声を投げる。
DGSEの本部にも組織から解放されたことの連絡は入れたし情報屋も再開したのでそれなりにお仕事はある。

「確か蛍の彼、組織に潜入してるって人だったわよね?
彼はどうなったの?」

「組織の人間の記憶が飛んでるんだ
付き合ってた人間が組織の人間なんだから、全部飛んじまってるよ
まあ、あの人も切り替えは早いから手を打ってるみたいだしその場で話は合わせてくれたけど…

ねえ、雪白さん」

『ん?何?』

「この前ポアロで誘われた話、結局どうしたの?」

コナン君は隣にやってきた。
鞄の内ポケットから紙を取り出す。


『あー…
この連絡先の話?
後でデータベース調べたから素性はわかったし監禁前に確かに接触してた人間だってわかったから話は聞いてあげようかと思ったけど…
それバレるとジン様とラムに筒抜けだからまだどうしようか迷って連絡してないんだよね
ただのナンパじゃなさそうだってことはわかったから』

「…じゃあ、夜ごはんてどうしてる?」

『夜ごはん?
そんなの自炊に決まってんじゃん、何、俺の料理の腕が悪そうに見える?
これでも結構レパートリーあるんだけど?』

「あ、そうなんだ…」

なんだよ、そんなに料理できなさそうに見えるのか。
ちょっとムッとしていたらコナン君にジロジロ見られた。

『何…』

「い、いや、別に…」

そう言ってコナン君はまた哀ちゃんの所へ行ってしまった。
なんなんだ、全く。

「…相手の彼は蛍に連絡してないの?」

「みたいだな
どちらかと言うと雪白さんが自発的に話に乗っかってくるのを待ってるんじゃねーか?」

「とても頭が回るのね、その人
組織のやり方まで熟知していて、まるで蛍がこんな事になることも予見していたみたいね」

「確かに雪白さんの状態を話した時もそんなに驚いてなかったような…」

一通り本部から下りてきた仕事の資料に目を通したのでキッチンに向かう。

『哀ちゃん、何か手伝うことある?』

「ないわよ、あっちでくつろいでなさい」

『何だよ、折角手伝ってやるって言ってるのに…
1人で夕飯の支度したってつまらないだろ』

仕方ないので阿笠さんの発明品を見せてもらうことにした。
俺がいない間にまた新しい製品を作ったんだとか。

『阿笠さんて…たまに、なんだか凄いんだか凄くないんだかよくわからないものを作りますね…』

「れっきとした発明品じゃろうに…」

『いや、これはどうかと…』

面白い物がある一方で、たまに変な発明品が混ざってるので阿笠さんは面白い。
今日は温かいクリームシチューでした。
とても素晴らしいです。

『絶品…!
これはいいよ、哀ちゃん天才!』

「そこまで褒められると逆に疑わしいわね」

『え、酷くない?本心ですけど?え?』

「貴方、嘘をつくのは下手くそだから
仕事になると嘘も平気でつけるのに、おかしな人」

『失礼だな、全く
年上に向かってそんな口を利いていいと思ってるのか?』

「貴方のこと年上と思っていないもの」

『それはそれで失礼極まりないね…哀ちゃん』

まあ、彼女らしいのでそう言うだけにしておいた。
美味しいものも食べたし、今日はあと少しのお酒があれば快眠だろう。
仕事もしたことだし、とても良い一日だ。

『じゃ、俺はこの辺でお暇しますかね』

「雪白さん、帰るなら一緒に…」

『あー…近くのお店かコンビニでお酒買って帰るから直帰じゃないよ?』

「一緒に行くよ」

『どうせなら俺がコナン君送るよ、もう夜だし蘭さん心配するんじゃない?
挨拶もしておきたいし…』

「あ、それは大丈夫だから…!
じゃ、じゃあ探偵事務所の下までで…」

『そうだね、そうしよっか
じゃあ哀ちゃんごちそうさまでした、今度は俺がなんか呼んであげるから楽しみにしててね』

「貴方の手料理は別に楽しみにしてないわ」

『……酷い』

「それよりも貴方が作ったケーキの方が食べたいの
今度夜ごはん呼ぶ時はデザートとして持ってきなさいよ?」

『そういうことなら喜んで作ります』

では、と阿笠邸を後にする。
コナン君と5丁目の方へ歩きながら、煙草を取り出した。

「あれ、雪白さんて煙草吸うんだっけ?」

『いや、普段は吸わないんだけど今日みたいな新月の夜ってどうも精神的にガタつくんだよね
この前ジン様が餌と一緒につけてくださった煙草、ジン様と同じ銘柄だから少しは安定剤になるかと思って
なんか前にも仕事の後、新月の夜にジン様の煙草吸いながら泣いてたらしいから…誰に聞いたかよく覚えてないんだけど…誰だったのかな』

「雪白さん、本当に組織の人間覚えてないの?」

『…どしたの、いきなり』

「さっきのベルモットの時だって…
ベルモットの事を雪白さんが知らないわけないよね、初めて一緒に仕事した人なんだから」

『…なんでそんな事にこだわるの?
初めて一緒に仕事した人なんていいじゃない、誰でも
ジン様がいればいいんだから』

「キャンティやコルンとも面識があった筈だよね?」

『名前は聞いたことあるけど…何してる人だっけ?
コナン君に聞いても仕方ないか
後で調べてもいいんだけど、興味ないから』

ふっと煙を吐き出す。
白い煙は夜の黒によく映える。
月のない夜は嫌いだ。
嫌な夢を見るから。

『じゃ、またね』

探偵事務所の下でコナン君と別れてから近くにあったコンビニでアルコール飲料の売り場へ向かう。

…ワインのボトルがあんまりいいの無いな
まあ、スーパーや酒屋じゃないから文句言ったって仕方ないけど

40度のジンのボトルに手を伸ばしてアマレットも掴む。
葡萄とカクテルレモンは工藤邸にストックしてあった気がする。
そこに並んでいたボトルを眺める。

ウォッカ、ラム、スコッチ…バーボン…

それにゆっくりと手を伸ばしかけて、やめた。
何を考えているんだか。
会計を済ませて工藤邸に戻り、久しぶりにカクテルを作った。

…アンジュ、これが俺のコードネーム
ワインでも何でもなかったね、最初からジンがないと作ることのできないカクテル…

『美味しゅうございます』

一口飲んでからスマホを取り出す。
電話帳から番号を呼び出して電話をかけ、呼び出し音が鳴っている間にふうっと一息ついた。

[もしもし]

『…こんばんは、先日はどうも』

[そろそろ連絡していただける頃だと思っていましたよ、蛍さん]

『…貴方は俺のストーカーか何かですか?』

[ストーカー?面白い事を仰いますね
まあ、今はそれで構いませんよ、貴方の動向も監視しているのは確かなので
それで…僕と長話をする気になったので連絡をしてくださったと解釈してもよろしいですか?]

『…ええ、何をお話されたいのかは存じませんが何度か接触しているようなので挨拶くらいしておかないとと思いまして』

[わかりました
都合はご多忙な貴方に合わせようと思いますが、明日はどうですか?]

『また随分と急ですね』

[貴方にお会いしたいんですよ]

『…ナンパのつもりならお断りします』

[まさか、ちゃんとしたお話ですよ]

『…明日は午後からでしたら時間取れますけど』

[そうですか、でしたら14時にでもお伺いします]

『…伺うって、ちょっと待ってください
あの、それは…やっぱり貴方ストーカーですか?』

[…もういいですよ
そんなに僕が疑わしいんですね]

『というより、貴方に会うということは此方もそれなりにリスクを負う事になるので…』

[そうでしょうね…そこはご心配なさらずとも僕がなんとかしますから
時間は14時で構いませんか?]

『まあ、構いませんけど』

[ではそういうことで、明日お会い出来るのを楽しみにしています]

『はあ…では、失礼します』

そのまま電話を切った。

…バーボン、やっぱり警戒するに越したことはないな
俺の名前を知ってて、宿まで筒抜けか
なんか所々ナンパしてくるのはなんなんだろうね…
前にも散々、仕事中なのに俺の格好がどうとかナンパには気をつけろって言ってくる人がいたけど

黙ってカクテルを飲み干して、今日はもうベッドに倒れ込むようにして布団に潜り込んだ。
新月の夜の夢は決まっている。
今更怖がりはしないけど、目覚めた時の絶望感が苦しいだけ。
嗚呼、煙草の匂いがする。








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