女子力

今日の書類を片付けてデスクにファイルの山を乗せた。

『はい、一丁上がり』

さて、これから散歩でもしてくるか。
家を出ようとしたところで電話が鳴った。

『もしもし…』

[また仕事しとるんとちゃうやろなー?]

『電話で一番最初に出てくる言葉がそれですか?平次君?』

[アンタのことや、また仕事しかしてへんのやろ?]

『今丁度終わりましたよ
これから散歩でもしようかと思ってたとこ』

[お、ほんなら丁度ええわ
これから工藤が東京観光してくれるみたいやで]

『東京、観光…?
ていうか工藤君単体なわけないよね?
蘭さんも一緒なんじゃ…』

[そらそうや、誰が小学生一人で行かせんねや
それから和葉も一緒やからどうや?]

『まあ、和葉さんに挨拶するくらいならいいかもね』

じゃあそういうことで、と15分後に探偵事務所前に集合。
今日は革ジャンと愛用のスキニーパンツ、ベレー帽も忘れず頭に乗せて髪をセット。
和葉さんとご挨拶なので今日はオールデンのローファー。
仕事道具は控えていますがUSPだけは一応持っておきました。

「おお、こっちや」

『平次君…目立つね、君って』

探偵事務所横の階段で、平次君が手を振っていました。
なんてわかりやすい。

『お久しぶりです、蘭さん
コナン君はこの前ぶりだね、それから…ご無沙汰ですね、和葉さん』

「こんにちは」

「こんにちは、ルイさん!
ほんまに久しぶりですね、平次から聞いてます
大阪まで来てはったのに会われへんし、電話かて平次とばっかし…
ルイさん、たまにはウチらと遊んでくださいよ
蘭ちゃんかてルイさんと遊びたがって…ほら、女子会でも」

『女子会…は楽しそうですけど俺は女子会に入れるんでしょうかね、男ですが』

「ルイさんは女子みたいなもんやし」

「女子力も高いし」

「乙女さんやし」

え…待って、女子高生に女扱いされてる俺って何?
ていうか女子力って何?
え?はい?

『あ、あの、和葉さん?蘭さん?
乙女さんって何ですかね…じょしりょくって何ですか?』

「ルイさんてほら、中性的で可愛えとこありますし…」

「肌のお手入れもしてるって前にメールしてくださったじゃないですか、香水にも人一倍気を使ってらっしゃいますし」

「ほんま、女の子のお手本やもん」

ねー、なんて女子高生にいわれましても全然嬉しくないのですが。
お肌が綺麗ですよね、なんて乗せられてうっかりお手入れ方法を蘭さんに漏らしたのは間違いでした。

「ルイさん、お相手の話になると乙女になっちゃいますからね」

『え、なんですかそれ…』

「今度女子会しましょう!」

「ルイさんも一緒やったら色々聞けそうやね、蘭ちゃん
もうお相手おる人やったらアドバイスも聞けそうやし…!」

「か、和葉ちゃん…アドバイスだなんて…」

なんてことだ。
女子会に引っ張り込まれるようです。

「んな話どうでもええやろ」

「どうでもええってなんやねん、大事な話やで!」

『あの、今日は観光に行くんじゃなかったんですかね…?』

はあっとため息を吐き出した。
ていうかこの中では一応最年長だし俺が保護者になるのかな。
お昼は都内のご飯でも食べていくのかと思ったら結局ファストフードですか。
高校生らしいですね、全く。

『で、なんで俺がまたこんな…高校生にまぎれて都内をうろうろしてるんでしょうか…』

「ええやないか、若いモンとおったら若返るやろ?
いっつも年上相手に仕事しとるんやし」

『それもそうだけど…
君たちといてもどうも俺が年上だっていう感覚がしないのはなんでだろうね…』

苦笑。
午後は蘭さんと和葉さんのショッピングに付き合わされたわけですが。

「ルイさん、これは?」

「これとかどうです?」

『んー…そっちのよりはこれがいいかと…
和葉さんの肌はそこまで乾燥していませんし、あまり油分が多すぎてもニキビや吹き出物の原因になりますし…
蘭さんはこっちですかねー…
乳液でしっかり蓋をしてあげれば大丈夫ですよ、毎日怠らずにやれば…』

ってなんで女子高生のお肌トラブルのコンサルタントになっているんでしょうか。

「これでウチらもルイさんみたいにお肌ツルッツルやね
使うの今から楽しみや」

「なんだかたくさん相談に乗ってもらっちゃたね
でもルイさん、本当にお詳しいですね」

『まあ、これくらいは基本ですから』

帰り道に色々と聞かれましたが、基本的なお肌のお手入れしかしてないので特別なことは何もしていません。

「平次もコナン君と先に帰ってもうたし…」

「本当にあの二人も仲いいわね
あ、仲がいいって言えば…ルイさん、あの後どうなったんです?
先日夜ドライブに出かけたんですよね?」

『え、あ、まあ…そうですね…
ドライブといっても、仕事帰りに拾ってもらっただけで…車内で少しお話しただけでドライブなんて言えるようなものではありませんでしたよ』

「でも迎えに来てくださったんですよね?」

『というより、俺の職場に先回りされていただけで…』

「職場まで来てくださったんです?」

『まあ…無駄に首都高走って夜景を見せられて時間稼ぎをさせられたんですけどね
夜遅くだっていうのに、わざわざ遠回りをして帰るなんて本当に馬鹿らしくないですか?
仕事終わりに疲れてもう帰って寝ようっていうところで遠回りですよ?
まあ…その日は俺の機嫌も悪かったので、機嫌取りの意味もあったのかもしれませんけど』

はあっとため息を吐き出したら蘭さんと和葉さんからじーっと見られていた。

『え、な、何ですか…』

「い、今時そんな方いらっしゃるんですね…」

「ほんまにそないな人いてんの…
それって…えらい惚れられてんとちゃうん…!?
ルイさんにぞっこんやん…!」

『ぞ、ぞっこん…ですかね…』

「それで…家まで…?」

『まあ、そうですね
相手もその後仕事だったんであの日は泊まらずに家の前で見送っただけなんですけど
俺のこと、随分と仕事馬鹿だの仕事中毒だの散々罵るくせに、自分だって仕事三昧で…』

「ルイさんの相手の方って年上なんですよね?」

『ええ』

「年上って余裕があるんやろか…
まだ仕事もあるのにわざわざルイさんのこと家に送りに、しかも遠回りしてまで送るなんてそうそうできるもんやないし…」

『…気障なだけですよ』

「あれ、蘭さんに蛍さん」

え…

振り返ってギクリとした。
何も聞かれていないことを切に願います。

「安室さん、どうしたんです?」

「先ほど梓さんから買い出しを頼まれまして、これからポアロに戻る所です」

『…Quelle heure tu finis ton petit boulot?』
(…何時にバイト終わるんです?)

「5 heure et demi.」
(5時半ですよ)

…あと1時間か

『J'attendrai.』
(待ってます)

「Tu peux venir au café, si tu veux. À tout.」
(ポアロに来ても構いませんよ、貴方次第ですが。また後で)

すれ違い様にぽん、と頭に手を乗せられた。
全く、バイト先に乗り込んでやったっていいんだけどね。
一応今日は出かけたので家で素直に彼の夕食を待つとしますか。

「安室さん、前はフランス語は挨拶程度って言ってたのにルイさんと話せるくらいに上達されてたんですね…
もしかしてルイさんが日本語を教えてもらった時に安室さんにフランス語を教えたりしたんです?」

『え、ええ、そんなところですね
言語交換と言いますか…日本語を教えていただく代わりにフランス語をという条件で…』

ま、教えたのはフランス語だけじゃありませんけどね…

蘭さんと和葉さんと一緒に俺もずっと目をつけていたメルヴィータの新作が手に入ったので良しとしよう。
ボディーソープも新調したし、これでシャワータイムもるんるんです。

『これで明日からまたシャワータイムが素敵になりますね…』

「明日?今夜使わないんですか?」

『シャワーは毎日朝浴びてますよ?
あ…日本人は夜に浴びるんでしたっけ…』

「そうですね、夜にお風呂に入りますけど…」

「ウチもやで
フランス人て夜にお風呂入らないんです?」

『まずバスタブ付きの物件なんてそうそうありませんからね…
シャワーが基本ですし、ヨーロッパでは朝が普通ですから』

「そうやったんですね」

「ルイさんのおかげで私も今日はお風呂が楽しくなりそうです」

「ウチもー!
ルイさん、おおきに!」

『いえ、俺も買い物できましたし』

探偵事務所の前についてスマホで時間を確認する。
まだバイトの上がりまでは時間があるし、ポアロに行ってもいいと言われたけどちょっと蘭さんに言われたのが気になったので帰ることにした。
二人と別れてから工藤邸に戻り、買って来たボディーソープを袋から出して暫く睨めっこ。

…俺のルーティーンワークが崩れるけど、やっぱり蘭さんの言う通り使いたくなるもんだね

ということで夕方ですが急遽シャワータイムです。
シャワールームで新品のボディーソープの蓋を開けたらいい香りが室内に広がりました。

うわー、癒される…!
いい匂い、これは気分上がるし仕事が進むよ
それに保湿効果抜群だし、これは本当に発売を待ってた甲斐があるね…!

鼻歌交じりでシャワーを上がって、とっても最高の気分です。
あとはイケメンを待つだけです。
一仕事してからご飯を待ちましょう。

んー、ほんといい匂い

上機嫌で仕事をしていたら呼び鈴が鳴ったので玄関のドアを開けたらバイト終わりのイケメンがいらっしゃいました。

『お疲れ様です』

「蛍さん、今日は珍しく出掛けていたんですね」

『ええ、誘われたので…
ほとんど女子会みたいなもので蘭さんとお友達とショッピングしただけですけど』

リビングに通したら一番に安室さんのリラックスタイムに入ってしまいました。
これはこれで珍しいです。
ということは安室さん、お疲れなんですかね。

『あ、安室さん…?
お疲れでしたらごはんは後回しで構いませんけど…』

そっとうなじの辺りに鼻先が触れた。
手も何やら腰や腹部をもぞもぞしています。

…ど、ど、どうしたの?
安室さん…?

「髪の根元が若干乾ききっていませんね
貴方、珍しく夕方にシャワー浴びましたね?」

『え、ええ、まあ…』

「匂いも違いますし、ボディーソープも変えたんですね
それで試しに使ってみたんです?」

『…いけませんか』

「いえ、構いませんよ?
今回は保湿効果の高いものを選んだんですね、肌の滑りが前よりいいです」

『セ、セクハラですか…!』

なんなんだ、この人…
もう、甘えてくれたかと思ったらまた洞察力の無駄遣いを…

「触り心地もいいです」

『……』

「いいと思いますよ」

『…なんでセクハラされながらそんなこと言われなきゃいけないんですかね
お腹すいてるんですけど』

「あと30分待ってください」

『30分!?』

ちょっと、30分このままですか!?
いや、いいんだけど、あ、でも身動き取れないからあんまり良くない…
幸せですがこれはあまりにも至近距離でいつもよりセクハラモード入ってますし、なんか危険な香りがします…

『あ、そうだ、安室さん』

「なんです?」

『日本語教えてください』

「今度は何を覚えてきたんですか?」

『じょしりょくって何ですか?』

「……まずは自分で調べる努力をしてください」





「あ、せや、蘭ちゃん」

「何?」

「ルイさんてお肌綺麗やしお手入れのこと詳しいし、ほんまに相手の人がぞっこんになるのもわかる気するなあ…
ほんまに女子力の塊やね、料理かて出来るんやろ?」

「うん、手作りのフランス料理も美味しかったし…
私も見習わなきゃね」

「相手の人、ええなあ
あんな美人さんと付き合うてごはんも食べられて…」

「あ、でもルイさん、言ってたんだよね…
年上…確か4つくらい離れてるって言ってたけど、その人も料理上手みたいでいつもキッチン取られるから結局ごはん作ってもらってるのはルイさんみたいだよ」

「えー!なんやの、そのカップル…!
ごはんに絶対困らへんし最高やん!」

「た、確かに食には困らなさそうだね…」

「一回でええから見てみたいわ…
蘭ちゃんは会うたことないん?」

「うーん…ないけど、ちょっと見当ついてるんだよね」

「えっ、ほんまに!?」

「なんとなくだけどね
だってルイさん、その人の話になると態度が変わるからわかりやすいんだもん
本当に乙女っぽくて可愛くなっちゃうし」

「お、乙女なルイさん…めっちゃ見たい…」

「私の予想だと、今日一回すれ違ったかな」

「え?」

「予想の話よ」





.

[ 30/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -