大人の仲間入りはまだまだ先

おはようございます。
もう昼です、本当によく寝ました。
慣れない日本社会に溶け込むのはかなり神経を使ったので精神的に疲れてしまいました。

『……』

やっぱり今日は左耳もダメージ喰らったか…

とても静かです。
スマホを確認すると何度も着信が入っていたようで、タブレット端末からテレビ電話を起動してベッドで折り返しの電話を掛けた。

[蛍、久しぶりだな、まだ寝てたのか?]

『"昨日潜入捜査が終わったけど、日本社会に溶け込むのに疲れてさっきまで寝てた"』

["どのくらいの期間の潜入だったんだ?"]

『"3週間
帰っても残業で夜中まで仕事に追われたし、本部の仕事と組織の仕事はインターン期間中だからって少なくなるわけじゃないからね…"』

["道理で連絡が取れないと思ってたんだ
睡眠時間もろくに取れてなかったんだろう?
今日はそれで耳も死んでるのか?"]

『"まあね…
昨日緊張が解けたのか、帰り道気持ち悪くなったから相当体に負担掛けてたみたい…"』

画面の向こうのイケメンは馬鹿な奴…とボヤいていました。
イケメンだからって言っていいことと悪い事があります。
この野郎。
と思っていたらスクリーンショットを撮られたのでガバッと体を起こした。

『"ちょっと!何してんの!"』

["目が覚めたか?
これを奴に送りつけてやろうと思って…"]

『"ちょっと待って、奴って誰?"』

["いるじゃないか、お前の寝顔が好きで好きで堪らんといった奴が"]

いや、全然心当たりありませんけど…
え、怖いんだけど、何ー?

ため息を吐き出して画面の向こうの秀一にデコピンしてやりました。

『"よくわかんないけど、とりあえず今日はゆっくりさせてもらおうと思ってたの
あんなに電話寄越したんだから、仕事の話でもあるの?"』

["ああ、情報を譲ってもらえないかと思ってな"]

『"仕事か…わかりましたよ"』

["それと…"]

『"まだ何か追加情報?"』

ベッドを降りてパソコンを立ち上げる。

["今の話を聞く限り、彼とは会ってなかったようだな
最近どうした?"]

『"っ…馬鹿!関係ないでしょ!?
昨日の夜たまたま会いましたよ!"』

["この3週間、お前どうしてたんだ?
連絡取ってなかったのか?
もう、一回シたんだろ?"]

『"…!"』

枕でタブレット端末を殴りつけました。
なんて奴だ。
どこからそんな情報を仕入れたんだ、この野郎。

「"ようやくの朗報じゃないか
潜入捜査の前にでも会ったんだろう?その夜にか?"」

『"黙秘権を発動します"』

["まあ、込み入った話は直接聞くとしよう
今から行く、30分後には着くからまた着いたら連絡する
それまでにメールで添付した資料を見ておいてほしい"]

『"わかりましたよ
シャワー浴びてくるから一旦切るね"』

ゆっくりカフェを一杯飲む前に仕事が入ってしまった。
とりあえず朝のシャワーを浴びて、送られていたメールを確認。
それから関連する情報を漁ってきて選別し、ディスクに書き込んで用意しておいた。
それからやっと朝食と言うかブランチのパン・オ・ショコラとカフェをいただいていたらスマホが光ったので、パンを片手に玄関のドアを開けた。

「"ちゃんと起きたみたいだな"」

『"寝起きで仕事だって言われたらそりゃ起きるでしょ…"』

イケメンを家に上げてリビングに通し、とりあえず部屋からディスクを持ってきた。

『"カフェ淹れたばっかりだけどいる?"』

「"ああ、もらうとしよう"」

淹れたてのカフェをテーブルに出し、向かいのソファーに座った。

「"それで、昨日の夜の前はいつ会ったんだ?"」

『"……"』

どうしてすぐに俺のプライベート話になるんでしょうか…
これから仕事の話だっていう流れだったと思うんだけど

「"いつ奴の物になった?"」

『"物って…
別にそんなんじゃなくて…"』

そうなんです。
実は、俺が散々理解できていなかった"お付き合い"の意味を安室さんが半ギレで説明してくださったのが約1ヶ月前の話。
丁度夜ごはんサービスの契約が満了になった夜でした。
俺は、その、ちゃんと安室さんとお付き合いというものをすることになりました。
今までの男運の悪さからは考えられないくらい信じられないことで、初めてちゃんとした恋愛ルートを辿っています。
その夜に、初めてイケメンとちゃんと一晩をベッドで過ごし今は正式に交際しております。
大人の仲間入りですね。
以前の俺とはもう違います、なんてったって大人ですから。

『"まあ、すぐに俺も仕事入ったから…
この3週間はろくに会えなくてなんていうか、それどころじゃなかったっていうか…"』

「"昨日は?"」

『"俺が疲れてたし吐き気で死んでた所を拾ってもらっただけ
久しぶりにキスしたけど…腰抜かして部屋まで運ばれた"』

爆笑されました。
酷い話です。

『"だ、だって3週間ぶりでディープまでいく!?
フランスでナンパされた時以来じゃないかな、ディープされたの…
車の中だったし…イケメンて本当に罪だよね!
罪だ、あんなの犯罪だ…!"』

カフェを飲んでからため息を吐き出したら秀一は手を動かした。

「"今日は会うのか?"」

『"今日からまた1週間の夜ごはんサービスの契約しちゃったし、夕方来ると思うよ?
なんかたくさんレシピ用意してくれてるみたい、ちょっと楽しみだよね"』

「"惚気か"」

『"や、そんなんじゃなくて…!
その…ここんとこずっと夜ごはんなんてカップ麺か食べないかのどっちかだったし、ちゃんとしたごはん食べられるのはやっぱり心持ち全然違うし"』

「"体には気をつけろといつも言ってるだろう
お前が奴に頼りすぎてないか心配していたんだが、やはりそうなっていたか…"」

『"でも料理自体嫌いじゃないから時間あればするよ、仕事中はそんな時間なかっただけ
別に頼りすぎてるなんて…そんな気はなかったんだけど"』

「"とにかく食生活には気をつけろ"」

『"料理出来ない秀一に一番言われたくないんだけど…?"』

煙草を吹かしているイケメンは立ち上がってキッチンに向かい、冷蔵庫をチェックしてきた。
何故秀一が家庭的なことをしているんだ。
こんな家庭的な方でしたっけ。
そう思って眺めていたら手招きされたので、行ってみたら冷蔵庫の中は空っぽ同然でした。

『"嘘…これ消費期限切れ?
あ、これも…えーっ、これも?
どうしよう、安室さんに提供できる食材何もないじゃん…"』

「"買い物にでも行くか?
まだ時間もあるし、お前が1人で出掛けるよりはマシだろう、車も出す"」

『"あ、ありがと…助かります"』

というわけで人生の先輩イケメンとデパートまでお出掛けです。
なんだかんだ色々と手助けをしてくれるこのイケメンは気を利かせて冷蔵庫チェックしてくださったんですね、俺が忘れてると思って。
もちろん忘れてましたとも。
しかし工藤邸を出てみたら見慣れない車が停まっていました。

『"…あれ?誰の車かな…"』

するとイケメンは、真っ赤なマスタングに近付いていくとロックを外した。

え?

「"蛍?"」

『"秀一、車変えたの?"』

「"色々あってな"」

どうやら俺が働いていた3週間の間に周りも色々と変わっていたらしい。
お邪魔します、と真っ赤なマスタングに乗り込んでシートベルトを締めた。

「"何買うんだ?"」

『"とりあえず野菜と…魚とか肉もちょっと買っときたいんだよね"』

安室さんが来ても困らない状態にしておきたいのでとりあえず最低限のものは買っておいた。
それからまた輸入食品店に向かってスパイスや調味料も買い足しておいた。
店から出たら、外で待っていたイケメンは電話をしていました。
多分マダム・ジョディかムッシュ・ジェイムズですね。

なんか仕事中なのに付き合わせちゃったな…

電話を切った彼に謝ったら首を横に振られた。

『"でもお仕事だったんじゃ…"』

「"いや…お前が気にする事じゃない"」

『"秀一…"』

「"気にするな
まあ、たまにはジョディにも顔を出してやれ
最近どうしてるか気にしてたみたいだ"」

『"ああ…FBIの皆にはご無沙汰だったもんね
今度また情報提供の時にでも呼んでよ、行くから"』

車で工藤邸に戻り、買ってきた食材を冷蔵庫に詰めていたら秀一はディスクを持ってジャケットを羽織ったので手を止めてリビングに向かった。

『"秀一、もう行くの?"』

「"ああ"」

『"買い物とかありがとね
また何かあったら連絡して、またお酒飲もうね"』

頷いた秀一はまた頭を撫でてから工藤邸を出て行きました。
シボレーを見送ってから部屋に戻ってゆっくり報告書を書くことにした。

…秀一もなんだか久しぶりだったから会えて良かったな
あー、本当やっとゆっくり出来るよ…
嬉しいなあ、ハッキング祭りも明日には開催しよう
早く耳が元に戻ってくれないとどうしようもないからな…

夕方までは報告書を纏めておいて、今夜はのびのび過ごす予定だ。
スマホが光ったのでメールを確認したらイケメンが到着したようです。
玄関のドアを開けたら昨日ぶりのイケメンでした。
とはいえ昨日は俺が疲れて死んでいたので、やっと2人でもゆっくり出来るわけだ。

『おかえいなしゃい』

「"ちゃんと寝ました?"」

頷いてから家に上げて、玄関のドアを閉めて安室さんの服を引っ張った。

『"実は食材が消費期限切ればかりでさっき買ってきたばかりなんです"』

「"1人で出掛けたんですか?そんな状態で?"」

『"あ、いえ、連れはいましたけど…手伝ってもらっただけなんで…"』

安室さんの目が変わりました。
リビングに行った安室さんを追いかけたら、案の定また車に一度戻って消臭スプレーを持ってきて空間の洗浄をしていました。

…あれ、なんだろう、この光景に慣れてきた自分がいる
俺がおかしいのかな…

「"コナン君伝いにあの男から写真が届いていたのでどうせあの男と会ったんだとは思いましたが…"」

『"写真…?何の写真ですか?"』

「"貴方の写真ですよ"」

え、なんで秀一が?
今日いつか写真撮られてたっけ…?

ふと朝の会話を思い出してハッとした。
まさか、秀一と電話してる時に撮られたスクリーンショットですかね、あの写真が何故安室さんに送られる羽目になったんでしょうか。

『"あ、あれは仕事のテレビ電話で…"』

「"わかってますよ
それをわざわざ僕に送りつけて、挑発でもしているつもりなのかもしれませんが"」

コツンと額がぶつかって至近距離でのイケメンに未だにドキドキします。
いや、これは耐性を作れと言われても無理な話です。
やはり適度な距離感と用法用量が必要です。

…こんな状態で喋られても聞こえないよ
唇読むのも精一杯だし、最近読唇も頑張ってるけどまだまだだし…

頭を撫でられたのでもうマタタビをいただいた気分です。
幸せです。
久しぶりの重労働明けでこれは幸せです。
体を離されてすぐに作りますと言われたのでダイニングの椅子で待っていました。
この時間も久しぶりです。
今日のごはんはビーフシチューでした。

『"美味しいです…!
夜ごはんも久しぶりなのでやっぱりこうじゃないと…"』

「"夜ごはんが久しぶりってどういう事ですか"」

『"あ…その、食べてましたけどここまで美味しいのは久しぶりだったので…"』

「"今はそういう事にしておいてあげましょう
それより蛍さん、今日ポアロに行かなかったんですか?
梓さんから連絡がきましたよ、待っていたのに来なかったから何かあったんじゃないかって"」

ポアロ…

『"あ…!すっかり忘れていました!
というか今日は昼まで寝てたのでモーニングセットの時間も終わってましたし…"』

「"でも軽食はいつでもありますよね?
コーヒーもありますけど?"」

『"か、買い出しに行っていたので…"』

「"昨日あんなに梓さんに会いたくて珍しく夜ポアロにいらしたのに、あの男と行動する方が梓さんに会いに行くよりも大事だったというわけですか…
それに昨日、梓さんがいないとわかってすぐ帰ろうとしましたよね?
久しぶりに会ったのは僕も同じだというのに、酷くないですか?"」

…明らかに嫉妬です
梓さんに対する嫉妬ですか…
いや、昨日は疲れ過ぎていて貴方と会って自我を保てる自信がなかったので…

『"…秀一に言われるまで冷蔵庫の中の食材が消費期限切れなのに気付かなかったので一応それは大事な事だったかと…
あの、梓さんには明日会いに行きますから…"』

「"…それで、どうして僕に冷たくされたんですか?"」

いや、そんなつもりは全くありませんてば…

『"昨日は疲れていただけです!"』

ビーフシチューを平らげてから買ってきたワインを冷蔵庫から持ってきた。
それを取り上げられて取り返した。

「"すぐ酒に逃げないでください"」

ワインを再び取り上げられて机の上で手をバタつかせた。

「"これは明日にしてください
今日は飲ませません、それから僕も今日は緊急の仕事が入らなければ此処にいるつもりなので"」

ということは、お泊まりですか!
やりました!
イケメンと一晩を過ごすわけですね、ドキドキします!

「"この意味、ちゃんとわかってますよね?"」

『"はい、勿論です!"』

嬉しいです。

『"安室さんが抱き枕になってくださるのが久しぶりなので今日は安眠確定です!"』

「"……貴方って人は相変わらずですね"」

呆れられました。
今日の添い寝彼氏をゲットしたという話だと思ったんですが違うのでしょうか。

…大人の仲間入りをしたのに、まだ安室さんはどうして俺を子供扱いするんだろ?
だってもうちゃんと大人なのにね

「蛍さんが安眠と言う時は、大抵5分以内に入眠されますが…この関係になってまでまだそんな事を言うんですね…」

イケメンは何か言っていましたがまあいいや。
今夜は2人でのんびりできます。
緊急の仕事が入ったら警察庁に喧嘩吹っかけにいくつもりです。

覚悟しといてくださいね、警察庁…!





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