巻き込まれ潜入捜査官

久しぶりに大人の夜を過ごして今日もお仕事が捗っています。
いいことですね。

『んー…疲れた』

今日は潜入捜査です。
はあっとため息を吐き出して病院の屋上で煙草を一本咥えていた。
それにしてもまた楽しいコスプレ潜入捜査です。
その割にはなかなか重いお仕事です。

「仲本先生、こちらにいらっしゃったんですか」

『あ、ええ、まあ
どうされたんです?』

「そろそろ会議のお時間です」

『ああ、そうだったかな…
じゃあそろそろ行くとするか』

喫煙者である仲本という大学病院の外科医に成りすましているため、久しぶりの喫煙です。
いやあ、白衣を着られるとは思いませんでした。
また局長には写真を送れと言われたのでまた撮影会を開催することになりそうですが。
看護師と一緒に建物内に戻って廊下を歩いていたら、突然悲鳴が聞こえて足を止めた。

「な、なんでしょう、今の悲鳴…」

『ナースステーションの方でしたね』

そちらに足を向けたら看護師に呼び止められた。

「先生、会議はよろしいんですか?」

『ええ、遅れていきます
患者さんが倒れていたのなら一大事ですから』

なんか嫌な予感がするんだよなあ…

そう思いながらナースステーションに向かったら少し人だかりができていた。

『すみません、通してください』

「あ、仲本先生」

『何が起きたんです?』

倒れていたのは見舞客らしい一般人だった。
廊下には血だまり。
脈はあるけれど、意識もないし後頭部からの出血を考慮すると転倒か背後から殴られたか。

『彼女をすぐに…』

「触ったらダメだ…!」

え?
あれ…なんか嫌な予感…

「お兄さん、触っちゃダメ」

「とにかくまだ犯人は病院内におる筈や、すぐに病院封鎖せえ!」

『…少年、確認したけどまだ死んでないよ、この方
脈はあるし後頭部の損傷は生死に関わる、すぐに集中治療室に運びたいんだけどダメかな?』

犯人てことは、この人は故意的に狙われてた人だったのか
もしかして平次君が今度こっちに来るって言ってた事件はこの事だったのかなー…?

すぐに警察の人も来て、いつもの面々を見て苦笑。
また厄介な事になってしまった。
とりあえず被害者は集中治療室に運ばせたのでそちらに向かおうとしたら高木さんに捕まってしまった。

「貴方、現場に居合わせたこの病院の先生ですね?
少しお話を伺っても構いませんか?」

あーあ…デジャヴ
どうしてこうなるかね…

『あのー…居合わせたといっても、悲鳴が聞こえたから此処に向かっただけでして…
もし患者さんに何かあったらと思って急いで来たのですが、襲われたのは見舞客のようですね
いずれにしろ一刻を争う事態でしたので…集中治療室への搬送を検討していたところ、あの少年と高校生の彼がいらっしゃいまして…』

「悲鳴が聞こえた後に此処に来たということは…最初からいたわけではないんですね」

『ええ、屋上で一服していたら担当の看護師から会議だと急かされまして
どうも忘れっぽいのでいつも彼女に時間を管理してもらってるんですよ
なんなら彼女に聞いてくだされば、私を呼びに来たことは証言してくださる筈です
まあ、その会議にはもう遅刻してしまいましたけど』

腕時計を確認してから肩を竦めた。

『幸い被害者も頭蓋骨折には至らなかったようですし、命に別状はありません
転倒か撲殺未遂か、どちらかにはなるでしょうけど彼らがもっと詳しいことを知っていそうでしょうし、医者の出る幕ではありませんよ』

現場検証をしているコナン君と平次君を見る。
今日は毛利さんはいないのかな。
まあ、この二人なら事件も解決できそうだし、大事な会議に出て機密情報を手に入れなきゃいけないんですが会議には遅刻。
念のため事前に盗聴器と録音用のレコーダーは取り付けておいて正解だったけど、これじゃあ回収できるのは夕方以降になりそうだな。

「ねえ、お兄さん」

白衣を引っ張られて下に目を向け、目線を合わせるようにしゃがんであげた。

『何かな?』

「    」

あ、これはマズいぞ。
右側でこそこそと何か聞かれました。
コナン君は少し首を傾げたので、彼の肩を掴んで正面に連れてくる。

「お兄さん?」

『あんまり刑事さんの邪魔したらダメだよ、あまり子供が見るものじゃない』

「せやったら俺が聞いたら答えてくれるんやろな?」

『え?』

「小学生がダメなんやったら…」

『君もダメだよ、高校生だから興味があるのはわかるけれどこういうのは大人に任せないと』

「…俺が大学生やちゅうたら?」

『ダメダメ、骨格や体格からして君はまだ高校生だし嘘はいけないよ』

「なんやあのスカした医者は…」

「おい、服部」

「なんや」

また二人でこそこそしちゃって。
高木さんは慌ただしくしているし、会議の内容を盗聴しましょうか。

「高木君、ちょっといいかしら」

おお、佐藤さんがいらっしゃいました…!
今日も素敵ですね、いいことです
ですが今俺が挨拶すると貴方誰?状態になりますので我慢します

ダメ元で千葉さんに近付いて、会議に行かせてはもらえませんかと聞いたらすみませんと言われたのでまだ解放してもらえません。
待てよ。
これはもしやまた容疑者疑惑がかけられているのではないか。

何回事件に巻き込まれたら気が済むの…

ため息を落として会議を盗聴をしていたのですが、途中からではあまりいい情報が得られません。
早くここから退散したいものですが。
ポケットに手を入れて煙草の箱を手で弄ぶ。
ふと床に何かを見つけて近付いた。

…なんだ、これ
ノリ…じゃないな、ニス?いや、ワックスか…やけにここだけフロアが磨かれてるな
普通の靴なら滑るんじゃないか?

『あの、刑事さん』

「あ、はい、どうされましたか?」

高木さんを呼んできた。

『あの床、妙だと思いませんか?
やけにピカピカです、ここの清掃は毎日行っておりますがこんなに光っているところは見たことはありません
確かここの清掃は2時間前に終わっているので、これがただの転倒事故ではないのでしたら容疑者が何か細工するのは2時間以内だったということになります
あれがワックスや何か潤滑油のような物だったとしたら、被害者が転倒してもおかしくはありませんよね?』

「…確かに、あそこだけ異常に磨かれているようですね」

高木さんは手袋の上から床をなぞると、白い手袋越しの指はツルッと滑った。

『それと、煙草吸いに行ってもよろしいですかね?』

「すみません、それはもう少しお待ちください」

ですよね…
もうズラかろうかと思ったんだけどそうもいかないか

容疑者としてあぶり出されたのは4人。
どうやら計画的な殺人未遂事件らしい。
帰りたい。
非常に帰りたいです。

「お兄さん」

『あれ、君まだ刑事さんごっこしてたの?』

「ちょっと、協力してくれる?」

『生憎これから会議でね、これが解決しないと私も解放してもらえないみたいだしすぐに会議室に行かないと行けないから…』

「じゃあパソコン持ってきたら、すぐに事件は解決すると思ってない?」

核心を突かれました。
確かにパソコンさえあれば情報を洗って解決できると思ってますが。
流石ですね、コナン君。
まさかさっきの質問が聞き取れなかったことだけで俺の正体バレたわけじゃないですよね。

『パソコンで解決してしまったら、警察はいらないよ』

さあ、とコナン君を平次君の方に追い返す。
さて面倒なことになった。
容疑者も出揃ったことだし、俺は帰してもらおうかね。
とりあえず会議室に向かったらもう解散していました。

…まあ、当然だよね
1時間以上は拘束されてたわけだし

机の裏や部屋に取り付けておいた盗聴器とレコーダーを回収して会議室から出る。
今日の仕事はこれでおしまい。
元の仲本さんに白衣を返すだけ。
屋上に向かってとりあえず煙草を一本いただくことにした。

なんて面倒な1日…
もう事件なんてこりごりだ、やめていただきたい…

ふっと煙を吐き出して橙色の空を眺める。

「コスプレでもしてんのか?」

声がしたので振り返る。
屋上のドアにはコナン君がいらっしゃいました。
遅れてやってきたのは平次君。

『あれ、さっきの少年…』

「見え透いた嘘はやめとけよ
俺が右側から質問したのは誤算だっただろ、まさか雪白さんとこんなところで会うとはね」

『雪白さん…?
人違いじゃないのかな、私は仲本だよ』

「しらばっくれんなよ
会議が終わってるにも関わらず会議室に向かった理由、あるんだろ?」

『会議が終わってたなんて知らなかったんだよ』

灰をトンと落として煙草を咥える。

「なあ、ほんまにあれ蛍か?」

「俺が事件とは全く関係ないことを聞いたにも関わらず、事件に首を突っ込むななんて忠告をするのは俺の質問が聞こえていなかった証拠
右耳の側で小声で話したのはたまたまだっただけど」

え…あの時事件の事を俺に聞きにきたんじゃなかったの?
しまった…

『じゃあ、コナン君、一個お願い』

スマホを放ってからウィッグとカラコンを外した。

『上司に提出する報告書と一緒にコスプレ写真撮らなきゃいけないんだよね
上手く撮ってちょうだい』

「ほんまにコスプレかいな…」

「なんで写真撮るんだよ
仮にもそんな職業の人が写真撮るか?」

『なんか知らないけど上司が俺の写真欲しがってしょうがないんだよね
生態確認と一緒にコスプレ写真集めてるみたいだから
10枚くらい撮ってくれたら後で自分で選別するから大丈夫だよ』

「とんでもねー上司だな…」

苦笑していたコナン君からスマホを奪ったのは平次君。

「そんなら俺に任しとき」

「おいおい、大丈夫か?」

「俺の腕ナメとるやろ」

本当に大丈夫だろうか。
コナン君は現場でも記録用の写真を撮ったりしているのでそこそこ大丈夫かと思って頼んだんだけど、平次君の写真の腕前は知らないのでなんか恐ろしいです。

『……』

「どや」

『没』

「なんでや!」

『もっとさー、なんか画角変えるとかないの?ここブレてるし…
綺麗に撮ってって言ったよねー?
やっぱコナン君にお願いする』

というわけでコナン君にお願いしてコスプレ撮影会。
とりあえず平次君よりは綺麗に撮ってもらえたのでよしとしよう。
楽しんだ後は白衣を脱いで一般人を装い鞄に盗聴器やレコーダーを収納。

「で、なんでこないなトコでコスプレなんかしてんねん」

『お仕事ですから』

「また仕事かいな…」

『これで今日の業務はおしまい
二人はこれからどうするの?探偵事務所にでも行くの?』

「まあな」

『そっか、じゃあ途中まで一緒に行こうかな』

トイレ行ってくるね、と言って本物の仲本さんに白衣と名札を返却して何事もなかったかのようにコナン君と平次君の所に戻りました。

「それにしても雪白さんもよく巻き込まれるな…」

『本当、なんでこうなるかなー…
なんか俺って変な運持ってんのかな…』

「確かに巻き込まれ体質やな…
俺と会うた時、大概なんかの事件で鉢合わせやもんなあ」

『そういう厄介ごと苦手だし殺人事件なんて本当やなんだけどなあ…』

三人で探偵事務所の所まで戻ってきた。

『俺は夜ごはんポアロで食べてくから、またね』

「蘭姉ちゃんが何か作ってるみたいだけどいいの?」

「ああ、和葉と一緒に何か作るとか言うとったな」

『蘭さんと和葉さんの手料理?』

それは惹かれる…
たまらなく惹かれますが…

そっと中を覗いてから決めました。

『ごめん、ポアロ行くね』

「あ、そ
ならまたの機会やな」

「雪白さん、さっきの写真もう送っちゃったから」

『え?誰に?』

コナン君はポアロを指差した。
固まりました。

『な…な、なんてことしてくれたんだ、君は!
全く、君ねえ、俺がどれだけ君に貸しを作ってると思ってるんだ!』

「家貸してやってんだからお互い様だろ」

『今度蘭さんに何か君のタレコミ情報でも送りつけてやるからな!
覚えとけよ!』

「あのー、何事です?」

カラン、とベルが鳴ってドアが開いた。

げ…

「あれ、蛍さん、仕事帰りなんです?
それにコナン君と彼も一緒なんて珍しいですね」

「あ、うん、たまたま雪白さんと会ったから…」

「そうだったのか
お店の外が騒がしかったから何かあったのかと思ったよ」

『俺、もうお腹すいたんで帰りますねー』

「蛍、さっき此処で食べるちゅうてたやんけ」

『き、気が変わってね…』

「蛍さん」

『は、はい』

イケメンに肩を後ろから掴まれました。

「お話があります
帰りは送りますからちょっと中に…」

『えええ、いや、もう、帰…コナン君ちょっとどうにかして…』

「最初ポアロでごはん食べるって言ったの雪白さんだよね?
僕しーらない」

「折角和葉とあの姉ちゃんの手料理やでって誘ってやったんに断ったのは蛍やしな」

『えええ、見捨てないで、ねえ、ちょっと…』

二人は階段を上がって探偵事務所の上の方へ行ってしまいました。
なんて酷い高校生でしょう。
途方に暮れていたら、イケメンによって店内に連行されました。
なにこれ、話は署で聞きます的なアレですか。
いつものカウンター席に座らされて、とりあえず水を置かれてメニューに目を通す。

「今日のお仕事はいかがでした?」

『散々でしたよ、途中で殺人未遂事件に巻き込まれて…
スケジュールが全部崩れてこの後解析をする羽目になりました』

「残業ですか、お疲れ様です」

『折角久しぶりのコスプレだったんだけどなー…』

ぼそっと溢したらイケメンの目つきが変わって、ナイフを持ったまま俺の眼前にスマホを突きつけてきました。

「蛍さん」

『は、はい…なんですかね、その写真は…』

「コナン君から送られてきましたよ」

『やっぱり…』

「今度は白衣ですか」

『そうですよ、病院だったので』

「なんで事前に言ってくださらないんですか」

『仕事なんですから言うわけないでしょう!?』

「どうしてコナン君が僕より先に貴方の写真を持っているんですか?
ちゃんと写真は撮ってきたんでしょうね?」

『上司に送るために撮ってますけど記録用であって別に…
ってちょっと、なに勝手に人の端末開いてるんですか!』

テーブルの上に置いておいたスマホを取られた。
あの、パスコードロックもかけてるのにもう意味ないみたいですね、この人には。

「それにしてもなんで貴方が煙草吸ってるんですか」

『ああ、制服をお借りした人物がヘビースモーカーだったみたいでポケットにも煙草が入っていましたしヘビースモーカーなのに1日に1本も吸わないなんておかしな話じゃないですか』

コナン君によって盗撮されていた写真にはしっかりと煙草が写っていました。
そんなに煙草が気に入らないんですね、わかりましたよ。
そしてこれはきっと安室さんの端末のコスプレ写真フォルダに追加されていることでしょう。
小さくため息を吐き出した。

「…あ、でもこれはよく撮れていますね」

『え?そんなにいい写真ありました?』

「ええ」

スマホを返されたけれど、もう写真フォルダは閉じられていてどの写真かは教えてもらえなかった。
納得できないまま、出来立てのサンドイッチを餌付けされました。
帰りはバイト終わりの安室さんに送ってもらったのですが、彼は大変機嫌が良さそうでした。
翌日、確認のために端末をハッキングしてみたら案の定フォルダに写真が追加されていたのですが。

『…あれ、なんだこれ』

新しいフォルダができあがっていました。
プレミアムなフォルダのようです。

『……』

俺が寝ている間に撮った思われる写真やパイロットの制服シリーズの中でもお気に入りだった写真のなかに、夕焼けバックに煙草の煙まで綺麗に映った昨日の写真が入っておりました。

ねえ、これが昨日のなかなか良かった写真なんですか?
もっといい写真あったでしょうに…

電話が鳴ったのでスマホを取り出す。

『もしもし…』

[蛍さん、人のプライベートを覗き見ですか]

『大体こんなに写真保存してる人に言われたくありません』

[でしたら貴方の端末に入っている僕の写真も削除していただかないと…]

『それは無理ですねー…』

[このフォルダ、貴方の手の届かないところに保管しておきますね
今度開いたらどうなるかはご想像にお任せします]

『……はい』

恐ろしい人だ。
絶対恐ろしい制裁が下されるに違いない。
電話を切ってからパソコンを立ち上げ、それから俺も写真フォルダを厳重なセキュリティーの所に移動しておいた。
お互いやることが同じようです。
そして局長は俺の白衣姿の写真を見て喜んでいたのでお仕事もなかなか順調です。

…安室さんのコスプレ写真集作ってやりたいな
ねえ、なんか潜入捜査ないのかな
今度絶対現場押さえてやろう…




.

[ 28/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -