電話のくだり

『はいはい、もしもしー』

[連絡くらいせえ!ボケ!]

電話に出た瞬間怒鳴られました。
耳が痛いです。
咄嗟に電話を耳から離してため息を吐き出した。

『何なん、急に怒鳴ってー』

[あれから何週間経ったと思うてんねん!
連絡くらい寄越さんかい!]

『しゃあないやん、ムッシュに大阪来たらあかんて言われてるんやしー』

[電話くらいできるやろ!]

『…俺、一応社会人やで?
仕事してるんですけどー、青春真っ只中の高校生とは訳が…』

[やかましいわ!
で、怪我はもうええんやろな…?]

『…何時の話してんねん』

苦笑。
まあ、心配してくれたということでよしというしよう。
可愛いじゃないか、高校生も。
平次君からの電話をしながら組織の端末の自動監視モードをオンにした。
ベッドに座ってから寝っころがる。

[せやったら俺らがそっち行くわ
和葉が会いたがってんねん、俺だけ大阪で会うたん、えらい気にしとるみたいやで
まあ、気が向いたら和葉にも会うたってや]

『そう言うたかて、和葉さんの連絡先知らんし…』

「蛍さん、コーヒー淹れましたけど…」

部屋に入ってきたイケメンに気付かずに電話を続行。
左耳に受話器があるので電話をしている時は周囲の音は拾えない。

『ま、今度会うた時でええわ
東京来るんやったら早よ言うてな、仕事の都合もあるし…
それで…なんで電話してきたん?』

[久しぶりやし、蛍の関西弁の抜き打ちチェックや
この前の事件の後一切連絡も寄越さへんし丁度ええか思てな]

『うわー…抜き打ちとか自分嫌な性格やねー』

[その棒読みがいっちゃんムカつくんやけど…いっぺんしばいたろか、コラ]

『おー、こわ、府警のおぼっちゃまがそんなんでええんかいな』

[ああ、あと親父が蛍がなんとかってぶつぶつ言うとったから…]

『え!ムッシュが何なん!?どないしたん?』

[さあ…俺にもようわからへんねんけど、その感じやとメールとか何も連絡してへんみたいやな…]

『えー…気になるやんかー
何やろ、もう俺の仕事バレとるしなんや怖いなあ…』

視界を手が横切って顔をふと上げた。
安室さんが俺のパソコンを指差してから手を動かした。

「"音、鳴ってますよ"」

『えっ…』

慌ててパソコンを見たら、自動監視モードにしていたモニターに赤い点が点滅してalertの表示が出ていた。
携帯を肩に挟んでキーボードに手を伸ばす。

『すまん、仕事入ってもうた』

[また仕事しかしてへんのか…]

『またって何や、失礼なやっちゃな…
ほなそろそろ切るで、とりあえずムッシュからの許可が出ないと大阪には行かれへんし西日本もまだ油断できへんからな…』

[近々そっち行くわ]

『あ、そうなん?また事件?』

[またってなんや]

『お互い様やん』

[まあ、事件は事件や
もしかしたら情報提供頼むわ
それから俺がそっち行くっちゅうこと、工藤にはまだ言わんといてな]

『別にええけど…』

[ほな、仕事中毒の蛍の大事な時間奪ったら悪いな、そろそろ…

平次ー?ちょっと、誰?

あ、コラ、和葉…!

えー、ルイさんやん!また平次ばっかし電話して
ルイさん?もしもし、お久しぶりです]

『あ、和葉さん…お久しぶりです』

[和葉…!今俺と大事な話しとったんや!]

…何これ、いつ電話切れるんだよ…
そろそろ切りたいんだけど…

[ええやん、ちょっとくらい…!

アーホ、これから仕事やちゅうてたで
ほな、切るからなー

ああっ、ちょっと、平次ー!]

『はーい、またねー』

若いっていいねえ、全く…
あの二人はまた何をやってるんだか…

片手で通話を切ってベッドの方に電話を放り投げたらコツッと音がした。

ん?

『あ…ゴメンナサイ…』

音がした方を見たら、イケメンに直撃していました。
音からして多分頭。
大事な所をすみません。

「蛍さん…」

『い、い、今謝ったじゃないですか!』

「角ですよ、角」

『そ、それはまた痛そうな所に…』

デスクの上には湯気の立ったカフェが置いてあったのでイケメンが淹れてくださったんでしょう。
ますます申し訳ない。
とりあえず椅子から降りて土下座をしました。

『申し訳ございませんでした』

「いいですよ、もう」

そういうわりに声が不機嫌です。
根に持たれることでしょう。
後々弱みとして漬け込まれる可能性があるので要注意事項です。

「それはそうと、なんでまた関西弁なんです?」

『ああ、電話ですか?』

とりあえずお仕事に戻ってグレーと思われる発言をした構成員のアドレスを特定し、ハッキング開始。
組織内のお掃除活動です。

『彼に関西弁を教えてもらってるので定期的に抜き打ちテストみたいなのあるんですよね
まあ、おかげでイントネーションとか思い出せますしなんか楽しいからいいですけど
そこそこ言語は習得していて損はないかと思いまして…』

「Tu n'oublies pas le français?」
(フランス語は忘れませんか?)

『Sans blague, c'est ma langue maternelle.』
(ご冗談を、母国語ですよ?)

「You speak English well, don't you?」
(英語も堪能でしたよね?)

『Of course, it's official language.』
(勿論です、公用語ですよ?)

「Sie haben keine schwierige Sprache?」
(難しい言語はないんですか?)

『Ich denke, der Russe ist die schwierigste Sprache, die ich je gehört habe.』
(今まで聞いてきたなかではロシア語が一番難しいと思いますよ)

「Me sorprende que hablas alemán.」
(ドイツ語が話せるなんて驚きました)

『Mi dueño me enseño Lo habla bien
  ¿Vas a continuar este juego de idioma?』
(飼い主に教えてもらいました、彼が堪能なので
それよりまだこの言語ゲーム続くんです?)

「Capisci anche lo spagnolo. Mi sono divertita molto.」
(スペイン語も話せましたか、もう十分楽しみました)

『L'italiano è la seconda lingua in Francia, così ho già imparato esso.』
(イタリア語はフランスでは第二言語ですから習得済みですよ)

「貴方に落ち度はないんですか?」

『それはこちらのセリフです
まあ、ロシア語は齧ったくらいですし…ああ、アラビア語の解読には未だに困りますね、あとハングルを覚えていないので韓国語はまだ…』

「貴方、言語において世界征服でもするつもりなんです?」

『まさか
覚えておくとお仕事がしやすいんですよ、一応クライアントはありがたいことに全世界に点在しておりますので』

ジンに報告書を提出。
メールを送信したら少ししてすぐに返信がきた。

『おおお…』

「結局仕事が第一なんですね…」

『勿論ですよ
それより安室さん、見てください、このお魚…』

「なんです?」

じゃーん、と送られてきたメールに添付されていた写真を見せてあげたら苦笑された。

「…ただのサンマですか」

『サンマですよ』

「これが何だって言うんです?」

『今度の報酬です!』

「サンマくらいで喜べるなんて…」

『え、美味しく調理してくださるのは安室さんですよね?』

「僕が手を加えなくてもサンマは美味しいと思いますよ」

『ということで明日取りに行ってくるので明日サンマのご馳走が食べたいです』

「わかりましたよ、何かいい付け合わせも考えておきます」

はあっとため息をついた安室さんは俺の頭に腕を乗せた。
自分が長身だからといってそういう事をするのはよくありません。
ムッとして手をどけたら頭を撫でられたので何か言い返してやろうとしてやめました。

『…今日お仕事はいいんですか』

「…僕を追い返そうとしてます?」

『なんでそうなるんですか』

「そんな言い方されるからですよ」

『お、お仕事があるのかないのかを聞いているんです!』

「仕事はいつだってありますよ」

『じゃあいいです』

なら俺もお仕事に戻ります。
折角誘おうかと思ったのに。

「言いたいことがあるなら言ってくださらないとわかりませんよ」

『お仕事がなかったら今日泊まってくださいと頼む予定でした
もういいです、俺も仕事がありますので』

「なんで最初から素直に言えないんですかね、貴方って人は…」

椅子に戻って再び監視モードをオンに設定。
本部の仕事を片付けようとしたら電話が鳴ってスマホを探しに行く。
そしたら俺じゃなくて安室さんだった。

『……』

珍しい、誰だろ…
降谷さんモードでもないしバーボンでもないし…
やっぱり安室さんのままだし…だからと言って、あんなに楽しそうに話すのって誰?

椅子から降りてそっと近付いてみる。

「そういうことでしたら伺いますよ

ええ、わかりました
そんなに謝らないでください」

穏やかモードでお話しするなんてどなたなんでしょうね…

ちょっとムッとした。
手を伸ばして携帯を掴もうとしたら手首が捕まった。

「蛍さん、電話中です」

『どちら様です?
随分楽しそうにされてますね』

「あの、これは…」

『あー!』

チラッと画面を見て携帯を奪った。

『なんで、なんで梓さんが…?
もしもし、梓さん?』

[蛍さん…?
安室さんとご一緒だったんですね]

『わー、梓さんとお電話なんて嬉しいです!
そういえば梓さんの連絡先知らな…』

「大事な話なので」

『あ、ちょっ、ちょっとくらい良いじゃないですか!
いつも自分は店で会ってるくせに…!』

「蛍さん、とりあえず今からポアロに行ってくるので少しは大人しくしててください」

『大人しくって…』

「すみません、梓さん、一旦切りますね」

通話を切った安室さんには頭をわしゃわしゃされて髪をボサボサにされるという実に酷い制裁をくらいました。

『…あんなに楽しそうにして』

「バイトの話ですよ
全く…何を思ったのかはわかりませんが」

髪を撫で付けて元に戻していたら、予告なしのキスをされました。
ねえ、最近不意打ちばっかりなんだけど余韻に浸るような大人のキスはしてくださらないんですか。
それともまだ子供扱いされてるんですか。

「珍しく蛍さんが嫉妬してくださったので少し驚きました
案外嬉しいものですね」

では、とそのまま安室さんは出かけて行ってしまったので暫く呆然と立ち尽くしていた。

…嫉妬
嫉妬ですか、俺が…

それからなんだかどこかで聞いた電話のくだりだったような気がして記憶を巻き戻してみる。

『……あ、平次君と和葉さんだ』

ちょっと凹みました。
何やってるんだか、と思ってた二人と同じようなことを自分もしていました。

ということは和葉さんは嫉妬してるってこと?
え、平次君、これはチャンスじゃないかね?
えええ、なんか良い展開になってきたんじゃない?

なんだか一人で納得して上機嫌になってきたので仕事が捗ります。
サクサク仕事をしていたら、後で知らない番号から電話がきたので恐る恐る出てみたら梓さんでした。
安室さんから教えてもらいました、と可愛らしく仰っていました。
即登録です。

うん、なんかウキウキしてきた
他人の浮ついた話を高みの見物しているのはなかなかいいものですね…
平次君、和葉さん、楽しみにしてますので何かご報告よろしくお願いします…!

そうお願いして今日はお仕事終了。
後は夜ごはんを待つだけです。
明日はサンマ御膳、今日もイケメンごはん。
最高です。




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