喫茶店の席

お仕事が繁忙期を迎えています。
嬉しいことにそれだけ収入もあるということです。
先日はなんだかとんでもない精神状態になっていたようで、とりあえず安室さんにレストランでストレスですねとバッサリ斬られました。
もう大丈夫です。
休養と美味しいごはんとイケメンを摂取したら元気になりました。
イケメンはやはり偉大でした。

『はい、もしもし』

[俺だ、もうすぐ迎えに行けそうだが予定は大丈夫か?]

『あと5分待ってもらえたら大丈夫』

[わかった、10分後に行く]

『ありがと、助かります』

電話を切ってデータの纏めにかかる。
10分後には身支度を整えて仕事道具を揃え、丁度良く呼び鈴が鳴った。
インターホンを確認せずに家を出て戸締りをしっかりし、門を開けてお兄さんにご挨拶。

『お迎えどうも』

「暫く休養期間だったそうじゃないか
体はもういいのか?」

『大丈夫大丈夫、安室さんにちょっと長めに休養しとけって言われただけだし』

「元気ならいいがお前はすぐ無理をするからな」

『そうでもないよ』

真っ赤なマスタングに乗り込んでシートベルトを締める。
秀一は早速煙草に火をつけて車を発進させた。

『先日のお仕事でちょっと情緒不安定に陥りましてね…
情けないことに空き地でボロ泣きして煙草吸ってたらしいよ』

「仕事?組織のか?」

『うん』

「何かやり合ったのか?」

『ううん、何も』

「トラブルでも?」

『いや、別に
ストレスが溜まりに溜まっただけ』

「俺に何を言いたい?」

『…初めて秀一にコンタクト取った時、面白かったなあと思って』

ふっと煙を吐き出した秀一は微妙な顔をした。

「お前が猫になった日の話ならもう聞き飽きた」

『まだ何も言ってないじゃん』

「いつもそうだ」

『そうでしたっけ…』

「何年の付き合いだと思ってる」

『…そうでした』

お兄さんもなかなか鋭いです。

「それで休養期間だったのか…
満月の夜の狼男みたいな奴だな、お前は…」

『狼男…?』

「狼が嫌なら新月の夜に豹変する猫だと言えば満足か?」

『動物の問題ではないかな…』

苦笑。
この人はもう何が言いたいんだ。

「その事を奴は知っているのか?」

『あー…ジン様と浮気してんの?って疑われた
ちょっとだけだよ?
結局は仕事だってわかってもらってるし…』

「ついに浮気を疑われたか
蛍と組織の関係は奴も特別なものだとわかっているだろうに
気の毒だな」

『珍しい…安室さんの肩持つなんて』

「肩を持っているわけじゃないが、お前と付き合うならそれくらいは考慮しておかないといけないということだ
お前も猫とはいえ、組織では幹部クラスだからな…」

『幹部ですか、いつの間に昇進したかな…
ペットも昇進させてくれるような組織だったかな?』

「少なくとも中枢には近い所にいる」

『ジン様々ってやつかな
バックに幹部がいると昇進も早いってわけね
道理でガサ入れしてる情報屋に狙われるわけだ』

マスタングは駐車場に停まって2人で降りた。
今日は久しぶりにFBIの皆様と歓談しながらお仕事です。
いつもいつも迎えに来てくれるお兄さんには頭が上がりません。

『Bonjour à tous! 』
(こんにちは!)

路肩に寄せてあった車を開けて元気にご挨拶。
ムッシュ・ジェイムズ、お久しぶりですがお元気そうで何よりです。
本当にイケオジですね。
素敵です。

「ルイ、本当に久しぶりね!元気だった?」

『え、あ、うん
マダムはいつも元気そうで尊敬するよ
ムッシュ・キャラメルは?今日いないの?』

「ええ、別件で今日は外してるわ」

『あ、そうなの…』

ちょっと時間が惜しくなってきたので早速お仕事です。
取引をして、本部からの要請にも答えてあげたらなんとFBIからお礼の報酬を山ほどいただきました。
本当にありがとうございます。

『こ、こ、こんなにいいんですか…』

「本部もルイには頭が上がらないようだ
今までの分も含めての報酬だそうだ、受け取ってほしい」

ムッシュ・ジェイムズ…
ていうかもう頭が上がらないのはこっちだよー…

振込の確認メールをこっそり閉じて、これからもよろしくお願いしますとFBIに改めて感謝。
人脈も大事ですね。
情報屋やってて本当に良かったです。

「ルイ、今日これからごはんとかどう?」

『あ…マダム・ジョディ、それは嬉しいんだけど今ちょっと繁忙期で次の取引先との会議が30分後にありまして…』

「ちょっとー…いつも仕事ばっかりじゃない
シュウとは出掛けても私とは全然ランチもディナーもしてくれないじゃないの」

『ほ、本当にタイミングの問題で…』

「今度はちゃんと約束入れるわよ」

『はい…』

マダム・ジョディもなぜそこまでして俺とごはんをしたいのかよくわからないのですが、誘われるうちは幸せなことですね。
いつか行きましょう。
ということで一度帰宅して今度はドイツと電話会談をして情報の取引。
本部の同僚にも連絡を入れておいて、それから今度はカナダへ連絡。
そしたら呼び鈴が鳴ったので、電話をしながらインターホンを確認して玄関を開けた。

「…仕事解禁した瞬間に仕事三昧ですか」

いきなりそんな小言を言ってきたイケメンを家に入れてお仕事を続けます。
イケメンは勝手にごはんを作り始めたのでその間にこの案件を片付けようと思いました。

『…Ok, I agree. Then I'll send all files of that case.

Yes, ok, thanks. Good luck.』
(わかりました、そういうことで
ではその件のデータは全て送ります

はい、わかりました、ありがとうございます
幸運を)

電話を切ってすぐにメールを出してから部屋を出た。

『お帰りなさーい』

キッチンに入ってイケメンに抱き着いた。

「今日はそのくらいにしておいたらどうです?」

『…そうですね、今日は取引も何件か終わりましたし休憩をしてもいいかもしれません』

「そう考えられるようになっただけでも進歩ですね…」

頭を撫でられて癒されました。
仕事の後にこれは本当に癒しでしかないです。

「あの男に会ってましたね?」

『1対1じゃありませんよー…
そしたらもうFBI本部からものすごい報酬いただいちゃったんで、今度どっか行きます?
旅行くらい行けそうですけど』

「そういえば蛍さん、京都に行きたいって前に言ってましたよね」

『あ、はい、行きたいですけど…
まだ西日本はちょっと警戒してるので行けそうにはないですね』

「でしたら東北とかはどうです?」

『美味しいものあります?』

「美味しいものだらけです」

『決まりです、東北に行きます』

「でしたら僕も何か仕事を抜け出す言い訳を考えておかないといけませんね」

えー、いいんですか…!
貴方そんなことしちゃって…

『あ、でもまだ繁忙期なのでもう少し先になるかと…』

「日付が決まったら教えてください」

『わかりました』

イケメンとデートですか…!
旅行行けちゃうみたいですよ…!
これは最高のご褒美になりそうなのて繁忙期はこれで乗り切れます…!

美味しいイケメンごはんをいただいて、今日はあと最終チェックだけしたら寝られます。
本当に良い仕事生活です。

『あ、そうだ…
安室さん、明日はバイトですか?』

「ええ、午前のシフトです」

『その後本部へ?』

「いえ、明日は探偵事務所に顔を出す予定です」

『そうなんですね
毛利さんにお会いしたいのはやまやまだけど、お仕事だからなあ…

まあ、じゃあ夕方お待ちしてます
遅くなるようでしたら連絡してください』

今日はこれにてお仕事終了。
安室さんも繁忙期なのか、本当にごはんを作りに来ただけで今日は少しだけお喋りをして帰っていった。

まあ、お仕事だし仕方ないよね

翌日。
朝から仕事を済ませ、午後2時ごろ、休憩も兼ねて遅めのお昼ごはんでも食べようと散歩に出掛けた。

さて、何を食べようかな…

迷った挙句に結局ポアロ。
そしたら梓さんが出迎えてくれたのでこれはこれで良いです。
癒しです。

「いつものソファー席、空いてますよ」

『え、あ、どうも…
なんで今日ソファー席ってわかったんです?』

「自分がいない時に蛍さんはいつもどこに座ってますかって安室さんに聞かれたんです
いつもソファー席に座るのを伝えたら、少し機嫌が良さそうに接客をされてたので聞いたんですけど…
蛍さん、安室さんがいる時じゃないとカウンター席に座らないって言ってました

今日安室さんのシフトは昼まででしたし、今の蛍さんの言い方だと本当だったみたいですね」

あ、あの人は…またいらん事を推理していたのか…
なんなんだ、全く…
無駄な洞察力を…

『じゃあ期待を裏切ってカウンター席にしましょうかね…』

「あの、もうカウンター埋まっちゃって…」

『…さっきまで1席空いてましたよね?
全く、これじゃ安室さんの思い通りじゃないですか』

はあ、とため息を吐き出してソファー席に座った。
梓さんは苦笑。

「相変わらず仲良いですね」

『今度は安室さんがいてもソファー席に座ると宣言しておきますので、彼にもちゃんと伝えておいてくださいね』

「わ、わかりました」

その次の日。

「いらっしゃいませ」

『梓さん、今日は…』

「蛍さん、今日いらっしゃるなら連絡してくだされば…」

あれ、今日もバイトでしたか

安室さんのエプロン姿も久しぶりな気がしたので無意識にカウンター席に座ってカフェとサンドイッチをオーダー。

「蛍さん」

『はい?何です?』

梓さんは苦笑。
なんで苦笑されてるんだ。

「昨日、ソファー席に座るって…」

『……あ!』

忘れてた!
安室さんがいてもソファー席座るって言ってたんだ!

『い、今から席変えます!』

「ソファー席、今埋まりましたよ」

『ええっ…』

何それ…
どうして天はいつもイケメンの味方をするんですか…
彼がイケメンだからですか?

「コーヒーです」

『……』

もういいです。
黙ってカフェをいただきました。
美味しいです。
サンドイッチもいただきました。
美味しいです。

『なんかもうどうでもよくなってきました』

「じゃあいいじゃないですか」

『もういいですよ
あくまで食事に来てるんですから』

「それでこの後も仕事ですか?」

『ええ、明日くらいには一息つけそうですけど』

「そうですか
たまにはゆっくり仕事してほしいんですけどね」

『今休憩でゆっくりしてますよ?』

「そういう事ではなくてですね…」

『とりあえずこれ食べたら帰って仕事するんで
仕事終わったらまた連絡しますね、そしたら都内観光でも連れてってください』

至近距離のイケメンは素敵です。
これだけでもう午後のお仕事頑張れます。
綺麗に切り分けられたサンドイッチをイケメンにそのまま餌付けされるので、この席は意外と神席かもしれません。






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