過密スケジュール

今日もなかなかのハードスケジュールです。
朝一で飼い主に呼び出しをくらったので大急ぎで出かけたらまさかの表仕事でした。
そしたらキャンティには襲われそうになりベルモットには尋問されかけ、全く女運もありません。
何食わぬ顔でそれを見ていたジンに、ラムからのお達しだと端末を押し付けられて、こんな拷問まがいの状況でよくもまあ呑気に情報を渡してくれたものです。
結果的にはジンに可愛がってもらったのでもうこの際どうでもいいです。
終わりよければ全て良し。

とはいえ珍しく機嫌が良かったな…
俺がベッタリしても無言で嗜められただけだしベレッタは出てこなかった
まあ、ジン様も俺様だから気分次第だし撃たれないだけ良かったとすべきか…

今日の報酬も魚2匹です。
まあ、欲を言えば3匹欲しいくらいには体力を使いましたが文句は言いません。

『お昼食べたらすぐ行かなきゃ…』

時既に13時過ぎ。
朝の仕事は緊急のものだったので今日の計画が全て崩れてしまったのですが、14時には警察庁に出向かなければなりません。
でも今日は計画が崩れたって構いません。
おスーツ姿の降谷さんにお会いできるのですから!
いや、もういいです、忙しくたって癒しがあれば生きていけます。

さて…どうしたものか
ラムからジン様伝いとはいえお達しが来るのも久しぶりだったからなんか気が張ってしょうがないや
年に何度かのラム直々にチェックが入るNOCリストのデータ、明日までに用意しろなんて言われちゃ今日は徹夜決定ですね…
警察庁の後は軽くFBIとの情報共有会と称した歓談の時間だったのに…早めに切り上げないといけなくなっちゃった…

近くのカフェでランチをしながら事前に送られてきた資料をチェックし、タクシーを捕まえて乗り込もうとして手を止めた。

…あ、発信器

ベルモットにでもやられたんだろう。
はあっとため息を吐き出して袖口に取り付けられていた発信器を潰す。
それから軽くボディーチェックをしたら首の後ろ、襟の裏側からも盗聴器が出てきた。

くそー…ダブルで仕掛けてくるなんて…
ベルモットめ、相当信用ないな
警察庁に出入りする前に気付いて良かった…

それも破壊してからタクシーで警察庁まで飛ばしてもらった。
約束の時間を3分過ぎて到着し、慌てていつものフロアに向かったら部下さんに引き止められた。

「あれ、クロードさん」

『あああ、皆さんご無沙汰です
すみません、ちょっと遅刻してしまったので急いでます、後でお話お伺いしますね』

「……なんで生魚なんて持ってるんだ?」

「…築地にでも行ったんですかね?」

日本人は時間に厳しいらしいし、仕事も時間通りにやると聞いてます。
時間を過ぎてしまったので降谷さんもさぞご立腹だろうと思って、部下さんには申し訳ないのだが部屋に急いでドアをノック。

『Bonjour, M.Furuya?
Je suis vraiment désolé en retard, le plan d'aujourd'hui était changé, ah...du coup...』
(降谷さん?
遅くなってしまって申し訳ございません、今日のスケジュールが変わって…その、それで…)

「焦って母国語に戻るのはわかりますが連絡くらいしてくださっても良かったのでは?」

ドアが開いたら怒ってるどころか呆れ顔の降谷さん。
あああ、スーツです、眩しい。

「聞いてますか?」

『え?』

「ですから遅れるなら事前に連絡くらいしてくださいと言っているんです」

『…す、すみません、でした』

仕事のマナーです、と言われて撃沈。
やはり降谷さんはドライでした。
しかし凛々しいです。
素敵です。
はあああ、とため息が出てきてしまいそうですがお仕事モードに切り替えなくてはいけないので俺もバシッと切り替えます。
部屋に入ってからとりあえずパソコンを取り出して用意しておいたファイルを開く。
するとドアを閉めた降谷さんは近付いてきた。

「…まさか朝仕事でも入ったんですか?」

『ええ』

「どうも火薬臭いと思ったらそういうことだったんですね…
それよりも生魚をそのままぶら下げて来るなんて、馬鹿なんですか?」

『え?ああっ…!』

しまった、すっかり忘れてた…
警察庁に生魚の袋をぶら下げて来るなんて…
これは…あまりに恥ずかしい…

「それから急いでいたとはいえ襟がグシャグシャなのはどういうことですか」

『あ、そ、それはタクシーに乗る直前に盗聴器を襟の裏に付けられたのに気付いたので…』

「移動中に服装くらい直せますよね?」

『すみません、急遽別件で仕事が入ってしまったのものですから移動中は作業を…』

完全に機嫌を損ねています。
もうお仕事しましょうよ、俺、これからまだ仕事が入ってるので。

「それから…」

『降谷さん、お仕事しましょう』

流石にストップ。
これ以上お説教が続くとスケジュールに支障が出る。

『この後も仕事が一件入ってるんです、申し訳ないのですがお説教なら後で聞きます』

「…これからまだ仕事があるんですか」

『あ、それから今日は徹夜するのでもし今夜いらっしゃるなら…』

降谷さんはふとドアに目をやり、それから部屋を突然出て行ったかと思うと5分くらい放置された。
お仕事しましょうって言ったのに。
戻ってきた降谷さんは椅子を引いて俺を座らせた。

「続きをどうぞ」

『…は、はあ
その、今日は徹夜の予定なのでお説教は明日にしていただけると助かります
夕食は外で取引先とするので…』

データを引っ張り出してきて、とりあえずお仕事を始めることにした。

「貴方、今日どれだけ仕事入れてきたんですか」

『朝の仕事は本当に緊急招集だったんです
なのでそれは予定外だったとして…昼までは本部から依頼されている調査をする予定でした
ランチをした後、渋滞を考慮し13時に工藤邸を出てタクシーを拾い、13時30分に警察庁へ参って部下さん達へご無沙汰していた挨拶をしてカフェを一杯いただいてから13時55分にこの部屋の前に立っている予定でした
それから17時から別の取引先との会議が一件あるのでそれまでに遅めのおやつの時間として最近出来たと噂の六本木のカフェに立ち寄って、夕食は取引先の方と食べることになっていました
そして20時には解散し、帰宅して22時には就寝、明日は朝5時に起床する予定でした
まあ、朝の仕事のせいで全て計画が狂い、徹夜する羽目になりましたので…』

「…貴方ってそんなにちゃんと計画立てて行動していた人間でしたっけ?」

『失礼ですね…仕事はちゃんと綿密に計画を立てていますよ』

「さりげなく朝5時に起床とか言ってましたけど、今までそんな時間に起きたことありませんよね?」

『起きる必要がなかっただけです、俺のこと何だと思って…』

ため息を吐き出してパソコンの画面を降谷さんに差し出した。

『貴方が依頼した件についてはこれが限界です
先ほどアクセスし、リアルタイムでハッキング、盗聴しています
降谷さんが調査している件の議題でしたら14時30分頃からだと思います、聞き逃さないようにお願いします
一応録音もしていますので後で音声データはお渡しします』

調査をしているという企業か組織かはよくわからないけれど、降谷さんから指定された集団を事前にリサーチ、パソコンを特定して会議をリアルタイムで盗聴。
隣に座った降谷さんも画面を見ながら耳を澄ませて一気にお仕事モードになりました。

か、か、格好いいです…
これは惚れます…
お仕事モードの降谷さんですよ、おスーツですよ、ねえ、本当に今日一番の癒しかもしれないよ
そして隣とはいえさりげなく俺の左側にいるのでお仕事モードなのに妙な安心感があります…
ていうか近い…

一つの画面を二人で覗き込むのはやっぱり距離が近くて心臓に悪いですね。
いや、お仕事モードなので割り切ります。
気にせずいきます。
何も、気に、しない。

…ごめんなさい、やっぱり無理です、無意識にガン見してました
あああ、もうダメだ、癒しだ…

甘えたい気持ちでいっぱいなのですが、それを抑えて例の14時30分がやってきました。
スピーカーの向こうでは会議の議題が変わり、降谷さんの目付きが変わって完全にお仕事モードです。
今なら邪魔したら必ず怒られます。
チラッとこちらを見られ、ジェスチャーをされたので鞄からイヤホンを取り出して渡した。

…俺にも聞かせられないってことですか
ま、俺は後で録音したデータ解析して聞いちゃいますけどね
今はお仕事モードの降谷さんを楽しむとしましょう…

それにしても相手にしてもらえないのでだんだんつまらなくなってきた。
部屋の中を少し物色してみた。
面白いものも特にないし、パソコンには手を出したいけれど堂々とはできないし。
渋々椅子に戻ってきたら左手首を掴まれて恐る恐るそちらを向いた。

部屋色々見たから怒られるかな…
えー、この手はなんでしょう…

そしたら降谷さんはちょっと呆れた様子で付箋に綺麗な字で何かを書き始めた。

"もう少しで終わるのでじっとしていてください"

ウロつかれても困るのね…
それで手も離してもらえないのね…

苦笑。
そしたら頭を撫でられたのでびっくりしました。
まさか降谷さんがこんな事をするとは思いもしませんでした。
最近公私混同が目立ちますよ、降谷さん。

で、でも降谷さんにこうされるの初めてだよね…?
これって貴重な体験だよね…?
だ、黙って甘えておきます!
ひえー、幸せです…!

今日は飼い主にも甘やかしてもらい、降谷さんにもこんな事をされて、本当にこれから徹夜でもやっていけそうです。
いや、絶対乗り越えられる。
暫く堪能していたら不意に手が離れたので顔を上げたら降谷さんはイヤホンを外した。

「ありがとうございました」

『…収穫はありました?』

「ええ」

『でしたら音声データはいらないですかね?』

「後で破棄する事を前提に受け取っておきます、会議くらいには使えそうですから」

『わかりました』

パソコンをいつもの画面に戻して時計を確認する。
15時を回り、まだ時間に余裕がありそうなので六本木のカフェにも行けそうだと思っていたら突然口付けられた。

え、え…?
ちょっと待って、なんで…

『い、今、お仕事…』

「どうせならカフェに行きます?」

『いえ、あの、話聞いてました?
今プライベートなお時間ではありませんし…』

「まだ次の仕事まで時間はありますよね?
データを焼いていただくディスクも用意しますし、少し休憩がてら音声データを…」

『ですからお仕事が…』

「…今日死ぬほど予定を詰めているんですから少しくらい息抜きしませんかときちんとお誘いしているんですけど?
言いましたよね?
僕が蛍さんにこれ以上仕事を依頼すると貴方が過労死する可能性があると」

『えっと…音声データの引き渡しなら今ちゃちゃっとやってしまうので…』

「そんなに一人でカフェに行きたいのでしたら構いませんが、話相手がいなければどうせまたカフェで仕事をするつもりでしょう?」

『そ、それは確かにそうですが…あのですね、次の取引先との準備もありますし…』

「そこまで拒まれる理由があるということですね?」

『まあ、そう言ったらそうなんですけど…』

「ハッキリ言ったらどうなんです?」

『…あの、本当にケーキを食べて仕事をするだけなのであまりお話できる時間がないかと…
それにこれから一緒にカフェだなんて、公私混同ではありませんか?
も、勿論降谷さんとカフェ行けるなら嬉しいのですが…お仕事、ですので…』

いや、取引先というかクライアントであるFBIとこれから会うなんて知られたらこの人本当に怒り出しかねないし、万が一カフェでだらだらしてしまって時間が被って秀一と鉢合わせなんてしたら大変なことになる。
それに今日ベルモットにも会ってしまったから行動を共にしてるのがバレると厄介なことになる。

「…僕に嘘ついてません?」

『え?何をですか?』

「例えば…僕に会わせたくない人とカフェで待ち合わせをしているとか」

前半は合っていますが後半は違います。
ちゃんと一人です。

「もしくは僕と行動している事を知られると厄介事が増えてしまう、とか」

大正解です。
小さく頷いたらちょっと不機嫌になりました。
この人もう怒っていました。

『…ベルモットに尋問紛いの事をされて発信器も盗聴器も付けられて、キャンティに殺されかけたんですよ?
今日はラムからの仕事が……あ』

慌てて口を押さえた。
ラムからの事は他言無用だとジンから言われていました。

「…そういう事ですか」

やってしまった。
降谷さんは流石に諦めたようです。
ため息を吐き出して俺の鞄にパソコンを突っ込むと押し付けてきた。

「ラムからの指示なら、ジンの指示以上の仕事量がある筈です
すぐに帰ってください」

うわ…怒っちゃったよ
やっぱりあれは束の間の休憩と題したプチデートのお誘いだったよね?
でもごめんなさい、お断りする理由ができてしまって俺も本当に心苦しいのです…

『…ご理解くださり、感謝します』

それだけ絞り出して頭を下げる。

「その代わり、後でその仕事についてお聞きしますから」

『はい…』

「明日は行きますから」

『はい…』

「蛍さん」

『はい…』

「事情はわかりましたからそう落ち込まれると僕も困るんですけど…」

『すみません…』

「あの、いい加減頭を上げていただけます?」

『すみませんでした』

はあっとため息が聞こえて身構えた瞬間、ガッと肩を掴まれて無理やり頭を上げられてしまった。

「貴方って人は…」

すみません、本気で残念だったので涙が止まらないです。
今ほど仕事を憎んだことはありません。

「今の蛍さんの方がよほど公私混同しているように見えますよ」

頬をそっと指で拭われ、抱き締められた。
まさかのオフィスというレア度MAXなシチュエーション。
降谷さんが珍しく優しいです。
ドライな降谷さんはどこへ行ったんでしょうか。
もしお仕事モードだったら、俺もすぐにお仕事だといって立ち直れるんですけどこんなに甘やかされると後ろ髪を引かれる思いです。

『あ…すみませんでした』

お仕事モードに切り替えます。
不覚にも泣いてしまったのがバレないように、頬をパンッと叩いて気合を入れ直す。

「早く仕事を終わらせてくださいね
カフェ巡りも、蛍さんの仕事が終わらないと行けないので」

『はい』

よし、と降谷さんに一礼してドアを開けて驚き、足を止めた。

『え…?』

「どうしました?」

驚いたのは俺だけじゃない。
廊下で部下さん達も不思議そうにしている。
俺の後から部屋を出てきた降谷さんは廊下を見回した。
廊下には黄色い規制線。

あの、なんでこんな物が警察庁内に張られているんですか?
事件ですか?
いや、なんか前にもこんな事があったような…

「廊下に規制線?
こんなイタズラ、誰がしたんでしょうね、クロードさん」

『え…あ、そうですね…』

笑ってピッと規制線を外した降谷さんは一応部下さんに事情を聞いていたけれど、俺にはわかります。
もうわかりました。
貴方、そんな偽装工作したって無駄ですよ。

…自分でやっておいてよくそんな事情聴取みたいな真似事ができますね
あの時俺が話している途中で部屋を出て行ったのは、これをするためだったんですね?
なんて無駄な労力とテープの無駄遣い…

苦笑しながら部下さん達に軽く挨拶をして、それから警察庁を後にして六本木へと向かった。

あれ、何か忘れてる気がする…何だろう?
でも思い出せないってことはそんなに重要じゃないってことだよね、まあいっか






「…降谷さん、何かこの部屋生臭くないですか?」

「この匂い…まさか…」

「な、生魚…!?なんでこんな所に…」

「そういえばクロードさん、築地からいらしたんですか?
確かここにいらっしゃった時、魚の入った袋持ってましたよね?」

「いや、そんな話は聞いていない」

「クロードさん、魚置いてっちゃったんですね
これ、どうします?」

「…焼き魚にするしかないだろう」

「え、降谷さん食べちゃうんですか?」

「いや、本人には後で返す
それよりまずは部屋の換気が必要だな…」






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