大阪の地下層

やってきました、大阪。
いやあ、賑やかでいいことですね。
新幹線で平次君とお隣同士で大阪に来たのですが、俺は仕事をしてたので平次君はちょっとつまらなさそうにしてました。
というのも俺が本部の報告書を書いてただけです。

「折角新幹線で隣席やっちゅうんに、飯も食わんと仕事かいな
とんだワーカホリックやな」

『お仕事してるのが幸せな人生ですから』

「駅弁楽しみやとか言うてたくせに…結局食べんと、なーんでプラットホームで食べるアンタを待たなあかんねん」

そうなんです。
思ったより報告書が長くなってしまったので、提出したのが大阪に着く10分前。
車内で買ったご当地の駅弁は、今新大阪駅のプラットホームのベンチでいただいております。

『おーいし!
お仕事した後のご飯は美味しいね』

「あの兄ちゃんが無理やり蛍に飯食わせる理由もわかった気ィする」

『え?どういうこと?』

「この前探偵事務所の下の喫茶店でイチャイチャしとったやろ
ああでもせんと、アンタ、仕事に埋もれて飯食わなさそうやもんな…」

『イ、イチャイチャなんかしてない!
それにあれは向こうが勝手に食べさせただけで…
た、確かに仕事入りまくったらご飯の存在はないがしろになりますけど…』

「わかりやすい仕事馬鹿やな…」

平次君にまで呆れられました。
駅弁を食べ終わって満足したのでこれからの仕事も頑張れそうですね。

『大阪も仕事だし』

「え?そんな事聞いてへんで!?
俺の親父に会うだけやのうて、仕事やと?」

『ああ、言ってなかったっけ?
あの日に丁度上から大阪出張の仕事が入ってね、タイミング良すぎてびっくりだよ』

「アンタはこの30分で何回仕事っちゅう単語を口にしてんねん…」

改札を出てから今日は平次君と大阪巡り。
お仕事は明日からなので、ホテルにもチェックインしておいて荷物は置いて夜までお好み焼きや梅田の商店街を遊び歩いていました。

「明日から仕事でどんくらいおるんや?」

『1週間
平次君のおかげでお仕事がしやすくなりました
本当に感謝してます、ありがとうございました!』

「な、なんや急に…」

『ほな、また夕飯でも誘うからな
和葉さんにも言うとき、それからムッシュにもよろしゅうな』

「…ほんま飲み込み早いやっちゃな」

心斎橋の駅で平次君と別れ、駅近くのホテルに戻ってきた。
翌朝、オフィスカジュアルで指定された場所に向かうとそこは外国人観光客向けのツアーを企画している会社だった。

「ああ、君やね、ええと…」

『坂口です、坂口 ルカです』

「坂口君、よろしく
出身は…ああ、梅田やったら丁度ええな
早速なんやけど…」

今回の潜入捜査は外国人観光客向けのツアーの添乗員です。
地元のディープな場所めぐりということで、本部がこの会社に1週間のアルバイトとして送ったのが大阪出身のハーフで三ヶ国が話せるという設定の大学生。
平次君仕込みの大阪弁だし安室さんだってネイティブ並みと言ったくらいなので役に立っております。

『ほな今日はこのコース回って、えっと…午前の部はフランス人、午後はイタリア人のツアーですか』

本音を言うと俺がこのツアーに参加したいくらい、ローカルツアーだし地元飯のオプションもついてるし。

はーあ、俺が食べたいよ
1週間大阪にいられるのは嬉しいけど、この添乗員だっておまけだし結局はこの会社のデータ盗んでくるのが本当の仕事だし

というわけでツアーの添乗員をやっては夜な夜なツアーの行程をチェックをしながらハッキングをして社内のデータをUSBに移していく。
4日目の夕方、業務後に連絡が入ってきたのでなんば駅付近で電話に出た。

『もしもし…?』

[ああ、蛍?
今夜暇か?まだ大阪おんねやろ?]

『平次君か、うん、今丁度今日の業務終わったとこ
何、どっか連れてってくれるわけ?
今の仕事のせいでローカルフード食べたくてしょうがないんだけど』

[ちゅうか、親父が今日はいつもより早よ帰ってくるらしいから蛍も会いたいやろし…]

『え!ほんと!?』

[ああ…梅田で待っとけ、迎えに行ったる
せやけど仕事のせいって、どういうこっちゃ?
何の仕事や?]

『何、俺の仕事に興味でもあるの?』

[…いつもいつも正確な情報ばっかりやから気になるに決まっとるやろ
親父かて信頼しとるし、工藤に聞いたら詮索はすんなっちゅうたけど警視庁ともコネがあるみたいやないか
名前かて日本名ずっと隠しとるみたいやし…
なあ、蛍、アンタ、何者や?]

『…仕事人?』

[そらわかっとるわ!この前の見とって仕事にしか目ェのない奴やっちゅうことくらいわかるわ!ボケ!
そうやのうて…]

『あ、電車来たから切るよ?
今なんばにいるからすぐ行くね、また掛け直すから』

電話を切ってメトロに乗り込んだ。
しかし工藤君といい平次君といい、勘が良くていけないね。
車内でネットニュースを確認していた手を止めて、スマホをしまって腰に手をやった。

「動くな」

『…何、人違いじゃない?』

「まさか我々の社内に潜入捜査官が入るとはな
お前が持ち出した社内のデータ、返してもらおうか」

バレてたか…
まあ、裏にいたジャパニーズマフィアを考慮すると俺が突然バイトで雇われたこと自体が異変だったわけか…

『…車内で何するの?』

「降りるんや」

『今日約束があって梅田まで行かなきゃいけないんだよね』

背中にぐっと押し付けられたのは銃口。

『次の駅で降りてどうするの?』

「データを渡してくれるまで帰さへんで」

ため息を吐き出したら隣駅で降ろされた。
電車が行った後のメトロのホームは人が少ない。

ごめんね、平次君
思ったより到着するのが遅くなりそう…

4人に囲まれ、1人に銃口を突きつけられながら駅構内のトイレに連れ込まれた。

『それで、条件は?』

「データを渡せ」

『あ、そう…無理って言ったら?』

「力尽くで奪うまでや…!」

USPを抜いて相手のコルトガバメントを弾く。

「クソッ…」

しゃがんで腕を軸にして体を回転させて4人の足を薙ぎ払う。
体勢を崩した男に手刀を入れて伸し、向かって来た男に回し蹴りを入れて関節を確実に仕留める。
次の男の肘に直接足を叩きつけ、太腿を踏み台にして男の頭上を越えて背中に踵落とし。

…あと、1人か

『っ…!?』

腹に一発喰らった。
サイレンサーをつけていて、右側からの発砲だったため全く気付かなかった。

『…やってくれんじゃねーか』

右手で腹部を抑えてから最後の男を仕留めにかかる。
銃弾を避けて真正面から喉元に爪先を突き付けた。
それからUSPをこめかみに押し付けた。

『俺も外でドンパチやりたくないの
24時間以内に警察動くからね、いい?』

銃と足を離し、一度背を向けてから油断させ、最後に顔面に回し蹴りを入れた。

『…あっけないね、ジャパニーズマフィアの端くれってのは』

4人をガムテープでぐるぐる巻きにしておいてトイレを出て、少し時間を食ったなと思いながらも梅田に向かった。
カーディガンを着てから地上に出たら電話が鳴ったので通話に出た。

『もしも…』

[遅い!]

突然の怒声にびっくりしました。

『ごめんて、ちよっと色々あって…』

[あれから何回掛けても電話に出えへんし、なんばから来るにしてはやけに時間かかっとるし…]

『今丁度着いたから、どこら辺に…』

あ、れ…そんな撃たれどころ悪かったかな…

眩暈がして壁に寄りかかった。

[蛍?どないしたんや!]

『観覧車の下…』

[観覧車…JRの大阪駅側の梅田におるんか?
おい、蛍!聞いてんのか?]

今日は運が悪い。
電話を切ってから本部にメールを出したら、データだけは死守したので明日大阪から引きあげろとのことだった。
もう寝そうになった時、肩をガッと掴まれた。

「蛍!何があったんや!」

『あ…平次君、ごめんね、電波悪かったみたいで切れちゃって…』

「ったく、それならそうと早よ言い
無駄な心配して…もうて…」

右手を掴みあげられ、カーディガンをめくられた。

「蛍、何やこれは…」

『あー…転んだ?』

「アホ抜かせ!
血出てるやないか!何があったんや!」

『大したことないって、ただの凡ミス
ほら、早くムッシュに会いに…』

「その前に病院や」

『お、大袈裟だな…もう
病院嫌いだから大きめの絆創膏あれば大丈夫だって』

「アホか!」

『うん、アホかな』

とりあえず言いくるめ、バイクに乗せてもらった。
よりによって俺の苦手なバイクとは、と思いながらも迎えに来ていただいた身で文句は言えない。

「さっきより汗掻いてんで
ウチまで飛ばすからしっかり掴まっとるんやで!」

『えー…バイクなんだから安全運転してよー…』

「アンタの怪我の手当てがほんまは先なんやからな!」

もう、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
とりあえずバイクで服部家に連れていっていただいた。
そしたら平次君は一番に俺を畳に下ろしてシャツを捲り上げるもんだから、USPのホルダーを見られたかと思ってちょっと焦りました。

「銃創…!」

「平次、何事や」

「親父…!」

げ…ムッシュにこんな所を見られるとは…

「ルイ、何があったか説明してもらうで」

『…説明することはありませんて
ただの凡ミス、ジャパニーズマフィアのアジトについての情報ならお譲りしますけど?』

「…平次、外すんや」

「せやけど…」

「こっから先は仕事の話や」

平次君を締め出したムッシュは、静かな部屋で俺の腰を弄った。
ホルダー、それから革の名刺サイズのケースを確認された。

見られたか…

「…やり合ったか」

『いえ、俺は素手です』

「場所は?」

『本町、改札内のトイレです
なんばでメトロに乗ってから少しして4人に囲まれました
平次君と梅田で待ち合わせをしてたんですけど、着く前に降ろされて…』

「…淀屋橋の地下に潜ってるっちゅう組織がおる」

『やっぱり…本部から来た仕事がそれだったんで、表会社に潜入してたんですよ
まあ、やられたからには仕方ないので明日には大阪を引き上げろとのことです
USBは持っています
申し訳ありませんが、このままホテルに戻って荷物を纏めたらすぐ東京に戻るつもりです
帰りの新幹線でデータは共有しますから、後は頼みます』

「…わかった
制圧したら連絡する、今の大阪は危険や
ルイが無事に大阪におれるようんなったら遊びに来たらええ
折角やけどすぐに荷物持って東京に戻るんや」

小さく頷く。

「ルイのホテルも割り出されとるかもしれん、すぐに戻れるか?」

『これくらいの傷なら』

「…一応向かわせとく、何処のホテルや?」

『心斎橋の駅前のホテル…
仕事道具置きっ放しなんで連中に先回りされるとちょっと流石に俺もヤバいので』

ムッシュ服部は携帯で部下さんか誰かに電話をして、俺が泊まっているホテルと部屋番号を伝えて荷物を確保するようにしてくださいました。
なんて素晴らしい対応でしょうか。

「今日のチャカは見逃したる」

『どーもすみませんね、気を使わせてしまって』

ふう、と一息ついて傷口を押さえる。
ムッシュ直々に手当てをしてくださってもうなんて素敵なイケオジなんだろうと眺めていました。
惚れます。

「心斎橋まで車を出させる」

『え、そんな…』

「今はお前の安否が最優先や
気を使う使わないの話やのうてルイとお前の仕事道具の保護が一番や
淀屋橋の地下はウチでも目ェ付けとった所や、現に犠牲者を出した
今お前は保護対象や」

『…感謝します
ではデータを取引のお礼とさせていただきます
すぐにお渡ししますので』

呼び鈴が鳴って目を向ける。
それから部屋にやって来たのはなんとムッシュ遠山だった。

『え、ムッシュ遠山…?』

「ルイを心斎橋まで連れ帰るんや」

「…淀屋橋の餌食か」

「ああ
ルイのホテルには大滝を向かわせた」

「わかった」

ムッシュ遠山は俺の腹部を見てから少し険しい表情をしていたのでやはり連中も用意周到なんだろう。
府警が手を焼くくらいだ。
ムッシュ服部とは僅かな時間しかお話出来ずに寂しかったのだが、仕事モードだったので仕方ない。

『ムッシュ服部、また大阪に…』

「今度は丸腰で来るんやな、次持っとったら見逃されへん」

『……』

小さく頷いてムッシュ遠山の車に乗せられて心斎橋まで戻って来た。
ホテルのロビーで落ち合ったムッシュ大滝は、俺のパソコンやスーツケースを持っていた。

「大滝」

「間一髪でした
事情を説明して荷物を纏めてエレベーターで降りる時、丁度上がってきた連中がルイさんの部屋へ…」

『ムッシュ大滝、ありがとうございます…』

スーツケースの中身も確認して、盗聴器や発信器の類もチェック。
パソコン、タブレット共に無事だった。

『ムッシュ大滝、ムッシュ遠山、本当にありがとうございます』

「礼は東京に戻ってからでええ
早よ此処を離れるんや、完全にマークされとるからな」

『はい
帰りにムッシュ服部にデータを全てお渡ししますのでそちらを使ってください』

そのまま3人で新大阪駅に行き、ムッシュ遠山が東京行きの券を代わりに買ってきてくださりムッシュ大滝はずっと警護をしてくださいました。

『本当にありがとうございました』

「気ィつけるんやで
ルイさんの事や、大丈夫やとは思うてるけど新幹線の中は密室や
油断せえへんようにな」

『はい
東京に着いたらムッシュ服部にまず連絡しますので』

一礼してから改札を通り新大阪から東京へと戻ってきてしまいました。
途中で連中らしき追っ手もなかったし気配はなかった。
手に入れたUSBの中身を全て府警に提供し、東京に着いたのは夜中前だった。

…はあ、なんとか戻ってきたけど暫く大阪には行けそうにないな
顔も割れたみたいだし…

東京についてムッシュ服部に電話していたら、途中で平次君に電話を替わられた。

[蛍、今何処や!?]

『ごめんごめん、色々あって今東京戻ってきちゃった』

[し、仕事は1週間やったんやないんか!?]

『ストップ掛かったし落ち着くまで暫く大阪には行けそうにないかな
夜ご飯食べたかったんだけど、ごめんね、色々』

ハンズフリーで電話をしながらメールを出す。
すぐに戻ってきた返信を見て、暫く東京駅のロータリーに佇んで電話をしていた。

『平次君、工藤君の言う通りだよ
俺をあまり詮索しない方がいい、流石に今日でムッシュ服部には俺の身元がバレた
だからって聞き出したりするなよ、君が危なくなる
それから…助けに来てくれてありがとうね』

近付いてきた白い車を見て右手を軽く上げた。

『じゃあ、東京来る事あったら教えてよ
また遊ぼうね
あ、メールも電話も今まで通りオッケーだから』

スーツケースを後部座席に運び込まれ、助手席に乗り込んでシートベルトを締める。

『じゃあ、切るからね』

電話を切ってスマホの画面を暗くした。

「珍しいじゃないですか、油断でもしたんです?」

『ただの凡ミスです』

「怪我の具合は?」

『なんとか止血してます
寝れば治りますから心配していません、よくある銃弾の一発が当たっただけですから』

「全く、心配をかけてくれる…」

サイドブレーキを引きかけた安室さんに後頭部を引き寄せられて唇が重なった。

『……』

「嬉しいですよ、1週間会えなかった筈なのに4日で戻ってきてくださったんですから」

『俺は久しぶりのミスで府警にもお世話になるしイライラしてるっていうのに呑気ですね…』

「今度は府警ですか」

『ええ、元々府警も追っていたそうなので本部長には俺の身元の口止め料としてデータは全て譲りました
誤算でした、DGSEの登録証を見られるとは…
まあ、ただの情報屋から昇格して少しは信頼が得られることを祈るばかりですね…』

東京駅を出て首都高を走り、夜景を眺めながら少し傷心していました。

『……あ!』

「なんですか、急に」

『ど、どうしよう…安室さんにお土産買ってくるの忘れました…』

「…貴方のお土産のセンスには期待していないので別に構いません」

『え、なんですかそれ…!酷い…』

「貴方が無事に戻ってくることが、僕にとっては一番のお土産ですから」

…気障です
すみません、この人気障な事しか言わないのでちょっと誰かそろそろイケメンに対する法律を作って逮捕しませんか?

『…ちょ、調子のいいことばっかり言って…!』

「本音ですが何か?」

こんなに真顔で言われたらもうどうしようもないじゃないですか。
もう、いいですよ。
俺、この人好きです。

い、いつか素直にちゃんと同じだけ伝えますからね…






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