大阪ギャルソン、東京襲来。

「おー、フランスの兄ちゃんやないか
えらい久しぶりやったけど、元気にしとったか?」

『平次君じゃん、どしたの、東京に来るなんて…
俺、そろそろムッシュ服部が恋しくて府警に乗り込む理由考えてたとこなんだよね』

「…アンタの目当ては親父かいな」

買い物に行こうと歩いていたら、なんとびっくり。
久しぶりの平次君でした。
毛利探偵事務所に向かう所だったらしいので途中まで一緒に行く事にしました。

『それで、その依頼を受けてわざわざ東京に?
別に大阪でだって解決できたんじゃ…』

「それが難儀なやつやってん
まあこんくらいの事件やったら工藤も食いつくやろ思て、東京に来る理由にもなるし依頼を受けたんや」

『…君の目当ては工藤君なんだね
俺とそんなに考えてること変わらないと思うけど』

まあ、俺も久しぶりの探偵事務所なので挨拶をしておこうと思います。
ポアロの横の階段を登っていくと、バンッとドアが開いて俺と平次君の間を押しのけて男が出て行った。

「この野郎…!待て!」

コナン君の切羽詰まった声が聞こえたので、平次君に財布を押し付けて階段をその場から飛び降りて男を追いかけた。
ポアロの前を通り過ぎて速さを上げ、踏み込んでから塀を支点にして男に前から喉元に回し蹴りを入れて爪先がめり込んだ。

「ガハッ…」

『…あれ、やり過ぎたかな』

その場にパタリと倒れた男の胸倉を持ち上げ、コートの中を探ったら毛利探偵事務所の小物がゴロゴロ出てきた。

あー…もしかして毛利さんの周りを探ってて何か盗んでたわけね
盗みはいけませんよー

とりあえず盗品を全て出していたらUSBメモリを見つけたのでちょっと気になりましたがこれは今は解析できません。

「おーい、フランスの兄ちゃーん!」

「ルイさん…!」

平次君とコナン君もやって来てしまったので、このUSBは今はお預けかな。

『なんか伸びちゃったから交番に連れてく?
これ、全部窃盗品でしょ?』

「あ、うん、そうなんだけど…」

「…さ、流石にやりすぎなんとちゃうか?
泡吹いとるで…」

『全然本気出してなかったんだけど…』

「(ま、組織の猫で、前にホテルから飛び降りるくらいの身体能力だし、男1人くらい一撃で殺しちまいそうだな…)」

とりあえずパトカーを要請して引き取ってもらい、多少話を聞かれたりしたけれどとりあえず3人で探偵事務所まで戻ってきた。

「何やったんや、あの男…」

『毛利さんが過去に解決した事件でなんか恨みでも買ってたんじゃない?
窃盗品はチェックしたけど、毛利さんのデスクの中にあるものばっかりだし』

「ルイさん、なんでおじさんのデスクの中ってわかるわけ?」

『え?あ、まあ…ほら、この前ウイルス感染した時にパソコン操作してたら毛利さんの引き出しひっくり返しちゃって…』

危ない危ない。
コナン君にちょっと怪しまれましたが、なんとか納得してくださった様子です。

「せやけどフランスの兄ちゃんの言うことも一理ありそうやな
俺が持ってきた事件の前に、そっちも解決したろうやないか
おい、工藤、この兄ちゃんも使えるんとちゃうか?」

「ルイさん、そういうの嫌いだと思うけど」

『…うーん、お願い聞いてくれたら、付き合ってあげてもいいよ』

「お願い?」

平次君にこっそりお願いしてみた。

「え、なんやそれ…
そんな事でええんかい…」

『そりゃあ、日本文化には興味ありますから』

「まあ、あともう一個のお願いやったらすぐにでも叶えたるわ」

『え、本当に!?』

探偵事務所でスマホを取り出した平次君は電話を掛けて、カメラを起動してくれました。

[なんや平次、こないな時間に…]

『ムッシュ服部、ご無沙汰してます…!』

僅かに眉毛をピクリと動かしたムッシュ服部は今日もビシッとスーツを決めています。
素晴らしいですね。
イケオジです。

[なんや、ルイ、平次と一緒やったんか
久しぶりやな、最近どないや?]

『ぼちぼちです
ムッシュ服部もお元気そうで何よりです
もうムッシュに会いたくて会いたくて、どう口実作って大阪行こうか考えてたところなんですよ!
そしたら平次君に会ったもので、んー…でもやっぱり直接お会いしたいですね』

[仕事はええんか?]

『ええ、休暇申請出しますよ』

休暇申請しなくても出先でお仕事すればいいだけなので問題ありません。

[せやったら平次が帰る時に一緒に大阪に来たらええ]

『えええっ、いいんですか!?』

頼んでみるものですね、素晴らしいお誘いです。

『あ、ありがとうございます…!
何かお礼の品でも持っていきますので、必要なことがあればメールしてください』

[わかった
ほな、近いうちにな]

『はい!ありがとうございます』

[あ、ルイ]

『はい?』

[なんや色っぽくなったんとちゃうか?]

え。
気のせいか、とぽつりと言ったムッシュ服部はまたとそのまま通話を切ってしまった。

えええええ、何、どういうこと!?

「…確かになんや前よりエロなったな」

『はあ!?』

「まあまあ、褒め言葉や思て素直に受け取っとき
アンタの大好きな親父からのお言葉やで?」

『な、なんか納得がいかないのはなんでだろう…』

「ていうかお前ら、いつの間にそんな仲良くなったんだよ
服部だってルイさんの事気障だの何だの散々言ってただろ」

「そ、そらまあこっちの都合ってモンが…」

『ほら、大阪旅行行ったからその時ムッシュ服部にお世話になって…
まあ一緒にご飯食べた仲だし?』

ね、と平次君にウインク。
お互い色々と誤解していたのですが、今では普通にメールもするくらいの仲です。
たまに平次君から情報の依頼も来るようになった程です。
たまに工藤君相手の事件でも助け舟を出してあげたこともあります。
仲良くなりました。

「…別にいいけどよ、何か腑に落ちねーな」

「アホ、考えすぎや
あ、それとも何や、俺がこのフランスの兄ちゃんと仲良うなって嫉妬でもしとるんとちゃうか?」

「バーロ、するわけねーだろ
仲良くするならルイさんの彼氏に気をつけろよ」

「彼氏?
おい、アンタ、彼氏おったんか!」

『ま、まあ1ヶ月前に出来たけど…』

「道理で親父が色っぽくなったっちゅうわけや…
フェロモンダダ漏れやで…」

『高校生にフェロモン云々がわかるかよ』

ジロッと睨んだ所で探偵事務所のドアが開いた。

「ったく、なんか知らねーが警視庁に呼ばれる羽目になったぜ」

おお、毛利さん…!
しかし事情を知らないということはコナン君しかいなかった時に事件が起こったわけですね…

「あん?
なんで大阪のボウズとお前がいるんだ?』

「おじさんがタバコ買いに行った時に空き巣に入られたんだよ
平次兄ちゃんとルイさんがたまたま一緒に来た時に逃げられて、そのままルイさんが取り押さえてくれて…」

「空き巣だと!?」

『それでパトカー呼んだので…事情聴取とかじゃないですか?』

「それはわかったがなんでこの大阪のボウズまでいるんだよ」

「事件や、事件」

身支度を整えた毛利さんと一緒に4人で事務所を出た。

「で、なんでお前らが着いて来るんだよ!?」

「だってー…その時事務所にいたのは僕だし、平次兄ちゃんとルイさんは犯人を捕らえた現場にいたんだし関係者だし…」

というわけで警視庁に来ました。
今日は窃盗なので捜査三課に来たのですが、犯人も黙りきりでなかなか真相が掴めません。
一旦休憩ということになったのだが、トイレに行った帰りにすれ違った男が俺を見て足を止めた。

「雪白、さん…?」

『え?』

え、誰…?

肩を掴まれた。

「その輪郭、髪色…雪白さんの息子さんですよね!?」

ま、まさか…ママンの知り合い…?

「私ですよ、雪白さんの同期の…」

「おーい、フランスの兄ちゃん、何してんねんそこで…」

遅かったからか連れ戻しに来てくれた平次君に本当に感謝です。
隙をついて手を離し、早足で平次君の所に戻りました。

『もう事情聴取再開?』

「あ、ああ、そうみたいやけど…誰や?」

『知らない人
人違いだと思うけどね』

「人違いであない肩掴んだりするかいな…」

『…今まで何度も警視庁に出入りはしてたのに、なんで今日だったんだろう』

ぽつりと呟いて首を傾げたけれど、まあ、今は探偵事務所の空き巣の方が先だ。
一向に調査も進まないので窃盗品の一部のUSBに目をつけた。

『ねえ、あれ開いたらどうにかなると思わない?』

「あれって…USBか?」

『あの中身、何かの事件だと思う
その事件洗ってみれば関係者だってことまで絞り込めると思うけど』

「なんであれの中身が事件やと思う?」

『あのUSBだけは、窃盗品じゃない
あの男が最初から持っていた、彼の所持品だよ』

「なんでそれを早よ言わへんねん」

『窃盗品として一緒に持ってかれちゃったんだからしょうがないじゃん…』

一応取り押さえた人間として平次君とその旨を話しに行き、USBの中身を見せてもらうことにした。
そしたら急に犯人も慌てだしたのでこれが何らかの手がかりであることは間違いなさそうだ。

『…なるほど』

「そういう事やったか
アンタの言うてた事もあながち間違いやなかったみたいやな」

『だから言ったでしょ?
事件の解決はお願いしますよ、西の名探偵さん』

「ああ、任しとき
今回アイツの出る幕はなさそうや」

いいです!
平次君、今日の君イケてるよ!
なんか今日いい感じだよ!

犯人の代わりに全部真相を語って、口を割らせてくれた平次君。
結局は、毛利さんがまだ眠りの小五郎として名を挙げる前に依頼された事件でした。
毛利さんに容疑者として逮捕された妻が、事件解決の5日後に拘置所で自殺し、そこにはもう耐えられないという言葉が添えてあったためこの空き巣犯は事件に関する情報を片っ端から集めて毛利さんに復讐しようとしていたらしい。
しかし実際探偵事務所にいたのはコナン君で、自分の姿を見られたと思って慌てて逃げ出したんだと。

ま、空き巣には違いないだろうけど殺人事件が関わってるなら捜査一課に資料を依頼した方が早そうだし、毛利さんの名推理なら間違ってないよね…

コナン君はジロリと俺と平次君を見ていたのでちょっと今日は仕返しした気分です。
いつも俺と安室さんの事を散々からかってくるのでたまにはいい気味というやつです。
帽子のツバを後ろに向けた平次君はニヤニヤしてコナン君の頭を撫で回した。

「今回はお前の出る幕なく終わってもうたなあ
流石は西の高校生探偵や、今回は…」

「オメー1人の力じゃねーだろ
ルイさんとこそこそやってたじゃねーか」

「…そ、そうやったか?」

「それで、ルイさんはなんでこんな件に付き合うって言ったわけ?
服部に何か頼みごとしてたじゃねーか」

『えっ?
あ、いや、大した事じゃないんだ…』

「ほんまに大した事やないで」

部屋を出ようとしたら、外が騒がしくなって耳を澄ませた。

「本当だ、雪白刑事の息子さんを庁内で見たんだ」

「しかし…」

「この階だった、何の用事があったのかはわからないが恐らく三課に…」

待て待て待て
さっきのおじさんの声じゃないか…
なんで俺を探し回ってるんだ?

「ルイさん」

人差し指を立ててコナン君を静止する。

「…行ったみたいやな
あの声、さっきアンタの肩掴みよったオッサンやろ」

『…そうみたい
参ったな、庁内に長居するのも面倒だ…
先に外行ってるから』

ドアから離れて窓を開ける。

「ちょ、此処何階や思て…!」

「ルイさん!」

『何か俺の事聞かれても他言無用でよろしく
5分後に下で会おうね』

窓枠に足を掛けて飛び降りた。
壁でブレーキを掛けながら近くの木に飛び移ってなんとか脱出。

…どういう事だ?
ママンがいた二課からなんで俺が追われなきゃいけない?
ママンは寿退社っていうかちゃんとした手続きで警視庁を去った筈だけど…

警視庁の外にいたら、やっと平次君とコナン君が出てきました。

「相変わらず無茶しよんな」

『…どうもおかしい
俺を見て一発でママンの息子だってわかるか?
俺の髪色も知ってた
どこで捜査二課に接触したかな…」

「…捜査、二課?」

『え?ああ、うん、あの人ママンの同僚って言ってたから
あ、コナン君にはまだ言ってなかったよね
俺のママン、日本で働いてた時は捜査二課にいたんだよ』

「え?」

『捜査二課なんだけど確か…知能犯関係だった気がするんだよね
あれ、違ったかな…よくわかんないけど……ん?』

待てよ…
待て待て待て、捜査二課って言ったら…

『あ!』

「ルイさん、捜査二課って言ったら…」

コナン君と目が合った。

『「怪盗キッド!」』

てことは、さっきの人はキッドを追っている刑事さんで…
ママンはキッドを追っていた…ってこと?

「せやけどさっきのオッサン、やたら雪白さん見てへんかて聞いてきよったで
んな日本人見てへんし、フランス人しかいてへんて…」

『…平次君』

「何や?」

『あのですね…雪白っていうのはですね…
俺の日本名です』

「はあ!?」

「…蛍さん、いいのかよ、服部にバラしちまって」

『工藤君、君だって正体バレてるんだから彼が口が硬いのはわかってる
それに今の所警視庁や警察庁に日本名があることがバレなければそれでいいし

雪白 蛍、これが俺の日本名です
ママンは元警視庁捜査二課の刑事、どうやら怪盗キッドを追ってたみたいだね
道理でフランスの怪盗関係にも詳しかったわけだ
シャノワールに怪盗コルボー、今思えば納得できることばかりだ
今度二課には正面から挨拶しに行くとするかな』

帰ろうか、と一歩踏み出した。

「待て!」

あの人…前に怪盗キッドが出た時に現場にいた…

「警視庁捜査二課の中森だ
雪白さんの息子さんでお間違いないですか?」

『……?』

首を傾げた。
警察手帳は提示された。

『…あ、ポリス?
Ah...je suis désolé, je ne sais pas parler le japonais...』
(あー…すみません、日本語が話せなくて…)

「え?あ、えっと…」

『On se voit quelque part? 』
(どこかでお会いしましたっけ?)

「え、あの、雪白…ドゥーユーノウ?」

『Ah! You speak English!
You're searching someone?
I'm so sorry but I don't know Mr. or Ms. who you're looking for.』
(ああ、英語話せるんですね!
誰か探してるんです?
申し訳ないのですが、貴方が探しているその方は存じ上げません)

では、とコナン君と平次君を半ば強制的に引っ張って警視庁を離れた。

『面倒なことになった…
まさかキッドの担当の警部まで出てくるとは…』

「なあ、俺、どっちで呼んだらええんや」

『平次君ならどっちでもいいよ
状況で使い分けてくれる賢い小学生もいるし』

コナン君の頭を撫でながら言ったら足を踏まれた。
おい、褒めてやったのに。

「ほな蛍やな、和葉がルイさんルイさんやかましいから嫌気が差しとったとこや」

なんですか、その理由…
ていうか年下から呼び捨てかよ…

『なんか忘れ物してるような…』

「ん?そういや何か忘れ物しとるような…」

電車に乗ってる時に平次君を見て、コナン君を見る。
数は3人。
あれ。
確か来た時は4人だったような。

『…あ!』

「あかん…すっかり忘れとった…」

「おっちゃん、警視庁に置いてきちまった…」

仕方がない。
毛利さんなら1人で帰れるだろう。
苦笑して3人で米花町まで戻ってきた。

「蛍、さっきの条件のことやけど…」

『あ、お願いします!』

「メールでも教えたるからたまには俺からやのうてそっちからも送れよ」

『あ、うん、ありがとう』

3日後。

「大分様になっとるやないか、自分、飲み込み早いなあ!
工藤のけったいなモンとは大違いや

おう、その調子や
ほなまた電話するわ」

「おい、服部、どういう意味だよ」

「そのまんまや」

「で、その雪白さんがお前に聞きたがってたことって何だったんだよ?」

「ほんまに大した事やないんやけどな、大阪弁教えてくれって言われてな
なんでも、日本語はペラペラやから問題ないんやけど方言に興味あるちゅうて…」

「…さっき電話してたよな?
どっか行くみたいな感じだったけど…」

「ああ、なんやようわからんけどここの下のポアロやったっけ、喫茶店に用事があるちゅうてこっち来るみたいやで」

「まさか…」

「お、おい、工藤、何処行くんや?」

「下だよ、下
面白いモンが見れると思うから」

「面白い、モン…?」

喫茶ポアロ。
カランとドアが開いてベルが鳴った。

「いらっしゃいませ…
あれ、蛍さん、連絡が取れないのでお仕事に没頭されてるのかと思っていたのですが…」

『仕事仕事言うて朝早う出てってほったらかしにしよって、俺、この前んこと許してへんからな!』

「蛍さん、今度は大阪弁覚えてきたんですね
それにしてもイントネーションもなかなか本物に近くて実戦でも使えそうですね、感心しました」

『触んなアホ!
自分、俺に何か言うことあるんとちゃうん?
朝までおる言うて結局おらへんかったし、おったのはサンドイッチだけや
あの時自分何て言うたん?
責任持って朝までおるて言うたやん!アホ!』

「ちゃんと埋め合わせくらいしますよ
今日はホットケーキでも食べますか?
貴方、この前隣の席でホットケーキを食べていたお客さんのことずっと眺めてましたよね?」

『しらばっくれても無駄やで!
ちゃんと謝らへんのやったら…い、いてこますぞ!』

「物騒なことばかり覚えたがって、仕方のない人ですね
それ、本気で仰ってるならお相手致しますよ」

にっこりしていたイケメンが目の色を変えました。
エプロンを外しかけたので本気だと解釈しました。

ちょっと待った…
確かにちょっと驚かせそうかなっていう不純な理由で大阪弁を教えていただきましたが、平次君にあんまり使たらあかんでと言われた言葉を口にしてしまいました…

意味は把握しておりませんが、安室さんが臨戦態勢に入りかけているので相当なんだと思います。

『タ、タイム…!』

「今更言い訳ですか?」

『い、いてこますって何ですか?』

安室さんはピタリと手を止めて俺のシャツを掴んで引き寄せた。
完全に不機嫌です。

「貴方、意味も知らずに使ってたんですか?」

『いや、あの、あんまり使ったらダメとは言われただけなんで…通じないかと思って試しに…』

「誰ですか、貴方にそんな言葉を教えたのは」

『し、知り合いです…』

「蛍さんには知り合いが世界中に何百人といらっしゃいますからね
その中から関西弁を話す人を探し出しますから覚悟しておいてください」

『い、いや、その人に何の罪もなくてですね…』

平次君、次は貴方が狙われるかもしれません…!
逃げてください…!

カウンターに座らされ、完全に見下されています。
何故か喫茶店でお説教をされています。
そして目の前に置かれたのはふわふわのホットケーキ。

「ちゃんと書き置きは残した筈ですけど」

『…はい、ありました』

「朝ごはんも置いておきましたよね?」

『…はい、ありました』

食器を拭きながらイケメンに睨まれているのでもう顔が上げられません。
というか動けません。

「冷める前に食べてください」

『あの、頼んではないんですけど…』

「僕持ちですけど、何か文句ありますか?」

うん?
何かよくわからないぞ、このイケメン

「それで、僕に今度はアホと言ったんですから清算していただけるんでしょうね?」

『……』

「ではこのホットケーキはなかった事に…」

取り上げられそうになったので慌てて皿を取り返す。
実は密かに気になっていましたから、ここのホットケーキは。

『…好きやねん』

「…あの、何も此処でという話ではなくて…」

『めっちゃ好きやもん
せやから、朝置いてかれるとほんまに惨めで嫌やねん…』

ボソボソ続けたらイケメンが固まりました。
あれ、何かまた地雷を踏んでしまったのだろうか。

「途中で言語モードを変えないでください、ただでさえ貴方が扱う言語の数は多いんですから…
それに外でそういう事を言うのは今度から禁止します…」

『ホットケーキ取り上げようとしたくせに何言ってるんですか!』

「あの、まさか本当に此処で言うとは思わなくて…」

『家まで我慢出来なさそうな顔してたくせに何言ってるんですか』

何なんだ、全く。
ホットケーキにナイフを入れて、食べようとしたらフォークを奪われた。

「今夜はお好み焼きでも作りましょうかね
貴方、以前から大阪を気に入ってましたしね」

あろうことか、安室さんがホットケーキを食べてしまった。

『ちょっと…!』

「僕持ちだと言いましたよね?」

いつからこんな緩いシステムになったんですか、ポアロは。
皿を少し安室さんの方に追いやったら、少し機嫌が直ったようで綺麗にホットケーキを切り分けた。

「全く、此処のところ連絡が取れないのでまた倒れてるのかと思っていたらくだらないことを考えてたんですね」

『くだらないって何ですか、貴方にどうやって謝らせようかずっと考えて仕事をして…』

ホットケーキを口に押し込まれた。

「結局仕事三昧だったんですね
少しは糖分を摂取しないと脳にも良くありませんよ」

『……』

結局一皿全部餌付けをされて、このイケメンには歯が立ちませんでした。

「もうすぐ上がれるので買い出しに行きますよ、待っててください」

「安室さん、マスターが…」

「あ、はい、すぐ行きます」

軽く俺の頭を撫でてから奥へ行ってしまった。
負けました。
今日も完敗です。
溜め息を吐き出して水を飲んだら両隣りにお客さんが座ってきたのですが。

「喫茶店で何イチャイチャしてんねん」

「結局言い負かされてんじゃねーか…」

『うるさいな、君達高校生にはわからない大人の世界があるんだよ!』

「じゃあ聞くけど、安室さんに一回でも口で勝ったことあんのかよ?」

『そ、それは…』

「ないんか、情けないのォ
ちゅうか蛍でも歯が立たへんて何者やねん、あの兄ちゃん…」

「ただのバカップルだよ」

『うるさいな』

年下にまでこんな扱いされたら年上の立場ないっての。

『平次君、事件持って来たんじゃなかったの?
あれはもういいの?』

「ああ、明日から静岡に行く事になってもうてな
俺が大阪戻る時は連絡するさかい、事件が長引かんように願っとってな」

『はいはい』

「早よ会いたいんとちゃうんか?
昨日親父から連絡来たで、蛍はいつ来るんやて」

『えっ、ムッシュから?直々に?』

「この前えらい着物眺めとったから物珍しいんやろてボソボソ言うとったしなあ…」

も、もしかして着物を着れるんでしょうか…!
これは期待大です…!

『平次君、早く事件を解決してムッシュに会いに行こう!
一刻も早くだよ!
明日と言わず今から静岡行ってきなさい!』

「んなアホな…」

「雪白さんが急かす時って必ず誰かが関わってるよな…」

『早期解決のためなら情報提供もするから連絡して
ほら、行ってらっしゃい!』

これでよし。
メールが届いたのでチェックしたら本部からの潜入命令でした。
てっちりと着物とムッシュが俺を待っています。
帰って仕事でもしようかね。

「蛍さん、お待たせしました
買い出しに…」

『仕事します!先帰ってるんで!
あと仕事で大阪行く事になったんでお土産買ってきますね』

「……今日お好み焼きの予定でしたよね?」

待ってろ、大阪…!
丁度大阪での潜入捜査が入りましたし大阪弁をマスターした甲斐がありました!
いや、ちゃんと普通の大阪弁を教えてもらいましたからね







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