入手できない年上の攻略法。

『……』

「それで、昼まで呑気に伸びてたわけか
俺のいつもの呼び鈴にも出なかったなんて間抜けなものだな、お前も
仕事だと言って帰っていった奴も、俺に釘を刺していったくらいだ、昨日はさぞお楽しみだったんだろう」

とりあえずシャワー後の上裸でタオルを肩からかけたまま、ソファーの上に正座をしていました。
そしてお向かいに座っているお兄さんは呑気にウイスキーを飲んで面白がっています。
昼まで一緒にベッドにいたイケメンはお仕事で行ってしまいました。
丁度秀一と入れ替わりです。

『…とりあえずそれ取って、昼ごはんとワイン』

「それで?」

『ええ、お楽しみでしたよ、貴方のご想像通りでございます…!』

サンドイッチを頬張ってワインを流し込む。
起き抜けのワインです。
昼前、静かな部屋に安室さんの着信音が響いて目が覚めたのだけれど、降谷さんはバッと起き上がって服を拾い上げるとさっさと支度をしてしまいました。
すみません、とお詫びのキスをされている所に呼び鈴の連打をされたのです。

タイミングが悪過ぎ…
昼って言ったのに昼前に来るかよ…

ゆっくり起き上がった時には彼氏は仕事、リビングにはズラリと並べられた酒瓶と煙草を咥えたイケメン。
シャワー上がりにこれを見た瞬間には流石にため息しか出ませんでした。

「俺に話せるような愚痴は出来たのか?
お前の話は惚気よりも愚痴の方が面白いからな」

『性悪…』

「愚痴があるからって俺を酒盛りに誘ったのはお前だろう?」

『それはそうですけど』

自棄酒モードになってきました。
本当にこのままじゃ警察庁に喧嘩吹っ掛けに行くぞ。

『今日みたいに急に置いてかれるみたいになるのも…仕事の都合なのはわかってるし
いや、別にいいんだけどね
昨日もこんな奴とお付き合いしていただいてる事に本当に感謝して幸せに浸ってたところです
あの人本当にすごいもん…
いっつも俺の何手も先まで読んでてちょっと悔しい…
ねえ、年上ってなんであんなに余裕綽々なわけ?
秀一もそうだけどさ、なんか年下だからって下に見てない?
なんて言うか、いつも見透かされてるような気分だよ』

ボトルごとワインを流し込み、サンドイッチを頬張る。
カラリと氷を鳴らした秀一はグラスを回してウイスキーを馴染ませた。

「下に見ているつもりはない
今まで俺がお前に一度でも指図をしたことがあるか?」

『ない、けど…
そういうことじゃなくて、俺のこと子供扱いしたり猫扱いたり…』

「俺はお前を相当買っている
対等な関係を意識しているからこそ、お前を可愛がっているつもりだ
その辺のFBIの奴らよりもお前には目をかけているし情報の取引もしている
俺がお前を年下に見ていると言うならば、こんな風に一緒に酒を飲んでやらん」

『…そうですね』

「奴がお前にどう接しているかは知らん
だが、これだけは言っておこう
俺はお前を部下や年下ではなく、後輩だとは思っている
それからFBI外での隠れた相棒とでも言っておこう」

全く、気障なんだから…
調子がいい…

ボトルを飲み干してからドンとテーブルに置いた。

『ビジネスの話はそれでいいよ、そうじゃなくてプライベートの話
秀一だってプライベートじゃ散々俺のこと子供扱いしてるよね?
マダム・ジョディだってそうだし最近仲良くなった警視庁のお姉さんだってそうだし、年下だからって…!
こっちだって仕事してんだよ!年下だから何だってんだよ!
年下年下言いやがって、何が年下だから可愛いだよ、小動物だよ…!
ふざけんじゃねえ!』

そのままそのボトルを投げ、それは壁にぶつかってパリンと割れた。
立ち上がって秀一のグラスを奪ってそれを飲み干す。

「蛍、少しは限度をわきまえろ」

秀一の隣に右足をボスンと乗せて胸倉を掴み上げた。

『呑気に煙草吸ってんじゃねえよ、この野郎
俺が今までどんな思いでのし上がってきたと思ってんだよ
本部でだって局長に子供扱いされて、組織でだって、ガキの頃からの扱いだっていつも皆そうやって俺を見下して…』

「落ち着け、蛍」

手首を掴まれてパンッと頬を叩かれた。

『あ…ごめ、ん…俺、何言って…』

「構わん、お前のことだ
酒でもないと憂さ晴らしも出来ないのはよく知っている
奴もいないことだ、存分に愚痴でも何でも言えばいい、俺は酒をいただこう」

秀一はまたウイスキーを注いでゆっくり飲み始めたので少し安心した。
こんなに付き合ってるとわかられるもんだね。
酒の調達を頼んで正解でした、ちゃんといつも俺が飲むのでスピリタスを用意していてくれたようです。

『……なるほど、伊達に俺と何年もの付き合いじゃないね
じゃ、遠慮なく今日は泥酔させていただきまーす』

「いや、泥酔しろとは言っていないんだが…」

スピリタスをショットグラスに注いでレモンと一緒に一気して久しぶりのお酒飲み放題コース突入です。
端末を持ってきて同僚にはお返しとばかりに昼間から酒祭りだと実況電話をしてやった。
それから酒瓶ごと飲んで愚痴やら文句やらをフランス語で思いっきりぶちまけてやり、途中でスイッチが切れました。

『う…』

「全く、手の掛かる酔っ払いだ」

『やばい、吐く、吐く…』

「もっと落ち着いた飲み方ができないのか、お前は」

秀一に抱き上げられてトイレに連行され、一通り戻して体をリセット。
これで明日からは仕事ができます。
スッキリしました。

『はー…飲み直しといきますか、第二ラウンド…』

「もうやめておけ」

『まだなんか足りないんだよねえ…』

よっこらせと立ち上がって口を濯いでからふらふらしながらリビングに戻ってスピリタスに手を伸ばしたら瓶を取られた。

『秀一…』

「物足りなければ彼に強請れ」

『お仕事中の彼氏に何を強請れって言うの?
いないからこその愚痴大会やってんのに何言ってんだか』

「それは告げ口しておこうか」

『えっ…だめ!』

というわけで秀一の飲みかけのウイスキーグラスに手を伸ばしてちびちび飲んだら呆れられた。
隣に座ったお兄さんとぽつぽつゆっくりお酒を飲むことにしました。

『はー…なんか酔ってきた、眠くなってきた
いい感じだねえ、お兄さんの言うことも一理あるよ、ゆっくりお酒飲むのもいいかも…』

「お前もそろそろ大人の飲み方を覚えたほうがいいんじゃないのか?
その方が奴とも大人の話ができるだろう」

『え?安室さん全然お酒飲まないけど?』

「お前が馬鹿飲みをすると奴も蛍とは夜にゆっくり話もできんだろう
まだまだ子供だってことだ」

『…また子供扱いして
だから年上は嫌だねえ、全く、たまには年下でも相手にして俺のちゃんとした年上ぶりを見せてやらないと…』

没収されていたスピリタスのボトルを取り返して一気飲みしてやった。
ご馳走様です。
これでぐっすり寝たら明日とっても調子よくお仕事ができます。
愚痴も胃の中の物も吐き出したのでスッキリです。

…スッキリ?

『…ん?』

「蛍?」

『なんか、気持ち悪くなってきた
眠いんだけど…』

「吐くか寝るかのどちらかにしろ」

『吐きながら寝たら効率よくない?』

「窒息死したいのか」

『冗談ですよ…秀一、トイレ』

「子供扱いされたくないなら自分で行け」

マッチを吸って煙草に火をつけた秀一は俺を見捨てました。
この薄情者。
ソファーから降りてふらふらトイレに向かってそこで死んでいました。
もう夜ですし十分馬鹿飲みを楽しんだし愚痴もぶちまけたし、秀一も付き合ってくださったのでよしとしましょう。
なんとなく宥めてもらえたし。

…やっぱり数年来の友好関係も大事にしておくものだね

便器と睨めっこしながらぼけーっとそんな事を考えて胃液まで戻して息絶えました。

「蛍」

『……』

「蛍、起きろ、奴が帰ってきたぞ
俺が不倫相手にさせられるだけだ」

「蛍さーん、なんだか酒臭いですよ、この家…」

体を揺すられて目覚めました。
またトイレで寝ていたようです。
目の前にはイケメンがいます、年上のお兄さんです。

『おはよ、秀一』

「酔いは覚めたか?」

『ん…よく寝たよ、全くまたトイレで寝る羽目になるとは思わなかったけど
やっぱり吐きながら寝たら効率いいね、今からでもお仕事できるよ
秀一のおかげかな、俺の行動わかられてると酔っ払いやすいねー
安室さんに余計な愚痴を聞かせずに済んだし、おかげでとってもストレス発散に…』

「またトイレで熟睡ですか、呆れたものですね」

『え…?』

ギョッとしました。
俺を起こしにきた秀一の後ろに人影が見えます。
とても素敵な御御足ですね。

「言っただろう、奴が戻ってきたと」

『え?』

「酒を飲むのは貴方の勝手ですが、部屋が臭くなるまで飲むなんてどういうことですか?
僕のいない所でまた愚痴大会でもしていたんですか?
しかもこの男とやるような内容だったんです?
どれだけ鬱憤が溜まっていたんですか?」

『そ、そういうわけじゃ…』

「貴方がトイレで吐きながら寝る程飲んだということはそれほどの内容だったということですよね?」

嫌な予感しかしません。
この人を怒らせてしまいました。

「顔色もよくなってきたな、これなら後は彼に任せられそうだ」

いや、彼に任されたらお説教しかされないのでちょっと待ってください
俺を置いていかないでください…
お兄さん、また見捨てるおつもりなんです…?

「土産のズブロッカがまだ一本残っている
今度はちゃんと大人の飲み方を覚えるんだな」

『ちょ、ちょっと秀一、まさか帰るの…?』

「お前がそこで死んでる時に丁度仕事が入ってな
これから出ることになった」

『ま、待って、俺…』

「用事があるならさっさと帰ったらどうなんだ?」

「君に蛍が酔いつぶれてるのを教えてやったじゃないか」

「介抱せずに見捨てたくせに何を言ってるんだ」

「様子を見に行ったら寝ていたんだから仕方ないだろう」

「だったらベッドにでも運べば良かっただろう」

あのー…もういいですから…
どうして二人揃うとこうなってしまうんだろうか…

『秀一、お仕事あるのにごめん、今日はありがとうございました…』

「お前がもう少し大人になったらまた誘ってくれ」

まだ子供だって言いたいのね…貴方は…

『それから安室さんも、もう大丈夫なのでお仕事中でしたら戻られて大丈夫なので…』

「とりあえず仕事は終わりました
ですがあと一つだけ残っていますよ、貴方への事情聴取が」

うわ、この人本気だ…
目が本気です、これは取り調べのカツ丼が用意されてしまいます…

「まあ、上手くやるんだな
蛍、今日俺が言ったのは本当のことだ
今でもお前のことはそう思っているつもりだ」

…もしかして、隠れた相棒のお話ですか?
それはちょっと、嬉しいかもしれません…

『う、ん…』

「また連絡する
君も、あんまり蛍に説教ばかりしないことだ
蛍がまた置いていかれたと拗ねて馬鹿飲みしかねんぞ」

「赤井…貴様…!」

たまにはお兄さんとお話するのも大事です。
人生の先輩ですからね。
やはりイケメンはイケメンでした。

ほんと秀一とバディ組めて幸せ者だよねえ、俺も
まさかこんなに何年ものお付き合いになるなんて思わなかったし

「蛍さん」

ギクリとしてゆっくりと安室さんの方を向いたら、珍しく安室さんは視線を逸らせました。

え…どうしたの…
こんなの初めてですけど…

「僕の仕事が原因で自棄酒をしたのは本当ですか…?」

た、確かに秀一とぽつぽつ話しながら飲んでた時にそんな話はしましたけどね…
まさか秀一が口を滑らせるとは思いませんでしたよ

『え、ええ…まあ、要因の一つです』

「わかりました
今夜は責任を持って僕が朝までいます」

『え…そ、そんな、急なお仕事入ったらどうするんですか!』

「全て断ります」

『ええ!?』

「貴方が酒を飲む度にトイレで寝られては困りますから」

…この人、公私混同してます
公私混同反対です、仕事はちゃんとやってください

「それからあの男とは数年来の知人だということも勿論承知していますが、あまりベタベタしないでください
とても気に障ります」

『そ、そんなベタベタと言うほどでも…
今日は俺が一人で憂さ晴らししていただけで秀一はそれをBGMに酒を飲んでいただけなので…』

「貴方の髪からあの男の煙草の匂いがするんですよ
風のないあの空間で髪にまで匂いが付着するということは、それだけ至近距離であの男が煙草を吸っていた何よりの証拠ですから」

確かに隣でお酒飲んでましたけどやましいことなんて何にもありませんから…!

「…暫く禁酒しましょう」

『えっ』

「自棄酒も勿論禁止します
次トイレで寝ているようなことがあればすぐに監視カメラでも取り付けますから」

ちょっと待ってくれ、そんなオーバーな…
酷い…完全に怒らせました…

「僕に対する愚痴でしたら直接言っていただきたいものです」

そう言った安室さんに抱き上げられてしまった。
もう夜中です。
小さくため息を吐き出して洗面所で口を濯いだらベッドまで運ばれました。

『…今日は朝までいてくださるって本当ですか?』

「ええ」

まあ、それは本当だと思うので許します。
愚痴をぶちまけてすみませんでした。
明日からお仕事ちゃんと頑張りますから明日の朝までちゃんといてくださいね。
一晩ベッドで過ごした後に置いていかれるのはとても惨めです。

『……』

翌朝、起きたらメモが一枚落ちていました。
リビングは酒臭いし空の酒瓶が数本、俺が割った瓶の破片もそのままです。
朝ごはんは冷蔵庫にあるらしいのですが、イケメンは誰一人として存在しませんでした。

『朝までいるって約束したのは誰ですか!』

どうしても抜けられませんでした、と弁解の綴られたメモをグシャリと握りつぶしてゴミ箱へ葬り去ってやった。
もう俺も怒りました。
今日は仕事をしまくってやります。
ええ、働きますとも。





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