デートの誘い方

喫茶ポアロ。
実にいい休日です。
休日とはいえノマドワーカーなのでお仕事してますけどね。
やっとパソコン作業も工藤邸だけでなくポアロでも出来るようになったのでウキウキです。
やっぱりお散歩ができるとなると心持ちが全然違いますね。

「蛍さん、おかわりいります?」

『あ、お願いします』

梓さんのいつものカフェもいただけて最高です。
外出禁止令が出されていた時にネット通販で買っていたNuméro hommeを鞄から取り出してパラパラとめくる。

今日は肌寒いのであったかいカフェは助かりますし、そろそろカーディガンも新調しにファストファッションの店舗にでも行こうかな…
この秋冬はやっぱりネイビーのニットかなあ…
あ、でも日本はパリほど寒くないんだっけ、それにパリじゃないから黒い服も少ないのかな…

「お待たせしました」

『Merci.』
(どうも)

答えてからハッとして顔を上げた。
運ばれてきたのはカフェのおかわりではなくてサンドイッチでした。
おっと、イケメンでした。
本当にエプロンがお似合いで素晴らしいことです。

「本当にお昼にいらっしゃったんですね」

『お昼食べに来たらいけませんか?』

「いえ、大歓迎ですけど?」

思わず雑誌で口元を隠す。
この人に雑誌の中身を見られるとまた色々後で言われそうなのでパタリと閉じた。
この前みたいにサンドイッチなら作ってもらえそうなのでいいのですが、俺の服となると香水の時みたいに似合う似合わないと口を挟まれそうなのでやめておきます。

「蛍さん、コーヒーです」

『あ、ありがとうございます』

「それ、もしかしてフランスの雑誌ですか!?」

『ええ、そうですけど…あんまり大型の書店に行っても英語雑誌ばかりなので流石にネットで買っちゃいました
フランス語の書籍ってどうも手に入れにくくて…』

「フランスの雑誌なんて初めて見ました
少し見てもいいですか?」

『え、ええまあ、構いませんけどメンズ雑誌ですから梓さんにはあまり面白くないかと…』

雑誌を差し出したら梓さんはパラパラとめくって固まった。

「フ、フランス語ってこんななんですか…全然わからないです…」

そう言ってすぐに返されてしまった。
だから面白くないだろうって言ったのに。
受け取ったらそれをスッと抜かれてしまった。

「蛍さん、こういうの読まれるんです?」

うわああ、なんで見てるの!?
勝手にみないでくださいってば!

『お、俺の勝手ですよね!?
安室さんにまた何か言われる筋合いないと思いますけど?』

「何か言いましたっけ?」

『パルファムの話です』

「ああ、香水のことですね
あれは僕の個人的な感想を述べたまでです」

「安室さん、蛍さんの香水選んだんです?」

「あ、いえ…彼がデパートの場所を知りたがっていましたし、どこで買えるか知らなかったようなので同行しただけです
多少の助言はしましたが最終的に選んだのは蛍さん自身ですから僕が選んだわけではありません」

『あんなに文句言ったくせに…』

フン、と不貞腐れてサンドイッチをいただいた。
それでも美味しいのでちょっと機嫌が直りました。

「安室さん、よく蛍さんと出掛けてらっしゃるんです?」

「そんなしょっちゅう出掛けていませんよ
彼、一人行動の方がお好きなようですし」

キッと睨み上げて足を思いっきり踏んづけてやりました。
それでも動じない彼は鋼の足でも持っているんでしょうか。

『…何時までですか?』

「はい?」

『今日のシフトは何時までかって聞いてるんです』

「16時までですけど…」

『車出してください、買い物に行きます
俺は別に一人行動が好きなわけじゃありませんから
冬物買いに行くんで付き合ってください、また文句を言われても嫌ですからね』

「どうせ貴方のことですからパリジャンらしく黒かネイビーの服でも買いに行かれるんでしょう?」

『なっ、そ、そんなわけないじゃないですか!』

クソ、何故わかる…この人なんでそうなの…?
洞察力の無駄遣いってやつですよ…!

「貴方のことくらいすぐわかります」

ペシッと雑誌で頭を叩かれて返された。

「ご所望の場所へお連れしますよ」

『Poseur…』
(気障野郎…)

「そんな事言うなら車出しませんよ」

『…じゃあ一人で行きます!』

「そんな事言って、どうせ16時まで居座るつもりですよね?」

『…じゃあ今帰ります!』

「今雨降ってきましたよ」

『えっ…』

「雨宿りですね、16時まで」

『……』

悔しい。
この人に何も言い返せません。

『もうご飯食べるからあっち行ってください
あ、梓さんはいてくださって構いませんよ』

「は、はあ…」

久しぶりのポアロのサンドイッチは美味しいです。
昼からイケメンご飯が食べられるのは嬉しいですが、俺なりにショッピングに誘ったつもりが完全にまた空回ったので本当にモヤモヤしています。
毎度毎度一枚上手なので悔しいです。

「安室さん、どうして今雨も降っていないのにあんな事を…?」

「そうでも言わないと、蛍さん、拗ねて帰っちゃいますから
折角誘ってくださったショッピングですからたまには付き合ってあげようと思いまして、多少強引な手段をとらせていただきました」

サンドイッチを食べ終わってカフェをいただいていたら端末のテレビ電話が鳴ったのでイヤホンを左耳につけて画面の通話ボタンをタップした。

『Allô?』
(もしもし?)

同僚から早朝の酔っ払い電話でした。
なんて迷惑なテレビ電話だろうと思いながら話していたら、早朝まで馬鹿騒ぎしているソワレの様子をまざまざと見せつけられたのでそろそろ俺もお酒飲み放題パーティーがしたくなってきた。
ずるい。
俺も酒飲みたい。

こんな時はお兄さん召喚するしかないね

プツッと電話を切ってからお兄さんに電話をすることにしました。

[どうした、今運転中なんだが]

『ソワレ』

[珍しいじゃないか、お前から誘ってくるなんて
嬉しい誘いだ、今夜か?]

『いつでも』

[その声と顔じゃ、相当鬱憤溜まってるんだな
夜通しやるのか?]

『勿論』

[奴はいいのか?また不倫相手にさせられるのも…]

『同僚から馬鹿騒ぎのソワレ真っ最中のテレビ電話されて我慢できると思う!?
それにその彼が原因でこんな機嫌悪くなってるんですけど?』

[愚痴なら楽しそうだ、今夜向かおう
何か買っておくものはあるか?]

『酒』

[それはわかってる]

『秀一の好きな酒、それからボルドーの赤ワインと…適当にウイスキー何本か買っといて』

[あまり羽目を外すなよ?]

『大丈夫ですー、とりあえず馬鹿飲みして吐いて死んでリセットすれば仕事できますから』

よろしく、と電話を切ったらすぐ隣に気配を感じた。
イヤホンを外して左側を見上げたらイケメンが笑って立っていました。

「この店ではあの男と会話禁止と言いましたよね?」

『今日は酒盛りするのでご一緒したければどうぞ』

「貴方、僕と出掛ける予定でしたよね?」

『…安室さんが連れてってくださる気があるならの話です』

「…ありますよ
そんな男と遊んでる暇があるなら僕が連れ回しますから」

おっと。
無意識でダブルブッキングしてしまいました。
いや、デートしたらでいいよね。
そのあと自棄酒したらいいよ。
秀一に年上イケメンの対処法教えてもらおう。
そうしよ、うん。

なんだ、結局デートしてくれる気あるんじゃん

『だったら最初からそう言ってくださいよね、馬鹿』

「何度馬鹿と言えば気が済むんですか、貴方は」

『何回でも言ってやりますよ!安室さんの馬鹿馬鹿馬鹿!』

「計4回ということで後でちゃんと清算していただきますからね」

はい?

サーッと背筋が凍っていきました。
清算。
イケメンはそのままカウンターへ戻って行きましたが、俺は心中穏やかではありません。
俺が馬鹿と言ってしまったということは、また告白しなきゃいけないということです。
計4回馬鹿と罵ってしまったので、つまりは4回好きだと言う羽目になりました。

…やってしまった
この口か、そろそろ口が悪いのも考えものになってきた…

「それから雨が降っているというのは嘘です」

『え!?』

窓の外を見たら晴れていました。
快晴です。

や、やられた…

『この馬…』

ギリギリで思いとどまって口を塞ぎ、カフェを一口啜る。
結局16時まで居座っていましたよ。
全く。
資料を作ったり報告書を纏めて16時まで待って、それからまた気分転換に雑誌をめくっていたらお皿を下げに来た安室さんに雑誌を覗き込まれてしまった。

「さすがパリジャンですね、冬は黒一色ですか」

『着慣れてるんです、口出しされる筋合いありませんよね?』

「別に口出ししているつもりはありませんよ」

『してるじゃないですか
だったら俺は何着ろって言うんですか!』

「別に蛍さんの話をしているわけではなく一般的なパリジャンの話をしているだけです」

『どうせ一般的なパリジャンですよ、すみませんねえ、冬は真っ黒で』

カラン、とドアが開いた。

「あ、コナン君」

「梓姉ちゃん…」

「今日は一人なの?」

「あ、うん、外で大尉が待ってるから教えてあげようと思ったんだけど…
雪白さん、来てたんだ…」

「そうなんだけど…今日あの二人、なんだかずっとあんな感じで…」

「(喫茶店で痴話喧嘩すんなよ…)」

「でも蛍さん、安室さんにシフトの時間聞いてたし終わったら一緒に出掛けるみたいだから仲良いと思ってたんだけど…」

「ちなみになんであんな言い争ってるのか知ってる…?」

「多分洋服のことだと思うの
さっきも香水のことで文句言った言わないって話してたし、蛍さん、フランスの雑誌眺めてたんだけど、また安室さんに口出しされるのが嫌とかなんとかって…」

「もしかしてそれで一緒に買いにいくとか…?」

「うん、安室さんもカウンターで蛍さんを見てる時少し楽しみにしてたみたいだし…
まあ、その前に行く行かないで色々また二人で言い争っていたんだけどね」

パタンと雑誌を閉じて鞄にしまい込み、仕事道具もお片づけ。
スッとエプロンを外した安室さんに伝票を渡されたので、奪い取ってお勘定。
荷物を持って立ち上がったらドア付近にコナン君が立っていたのでギョッとしました。

「…バカップル」

『君ねえ、あんまり大人を馬鹿にするもんじゃないよ』

ジロリとコナン君を見て文句を言っていたら、後ろから頭を小突かれて振り返った。

「ほら、行きますよ
車を出せとお願いしたのは貴方なんですからね?」

『言われなくたって行きますよ
貴方のシフトが終わるまで何時間待ったと思ってるんですか!』

「子供相手に大人の愚痴を言うのも大人気ないですよ」

何あれ…

盛大に拗ねてからコナン君にまたね、と言って、今日は絶っ対に自棄酒してやることを決めました。
雨天決行です。
ポアロを出て近くの駐車場まで行って助手席に乗り込んだらため息をつかれた。

「デートがしたいなら素直にそう言ってください」

『あんな状況で言えると思ってるんですか?』

「僕は嬉しかったですよ、蛍さんから誘っていただけて」

『……』

な、なんでだろう…一気になんかイライラなくなっちゃったよ…
ああ、もう、本当に年上でイケメンっていうのは罪な生き物ですね…

「それはそうと、覚えていらっしゃいますよね?
また僕に4回も馬鹿と言ったことは」

『あ…』

「厳密に言えば5回としても良かったのですが、貴方が踏みとどまってコーヒーを飲んだのであれは数えないでおきました」

シートベルトを締めてから、安室さんの腕を掴んで引っ張った。

イケメンは罪です
俺にこんなことをさせるなんて本当に摩訶不思議な生き物です

出発前のキスですが、今日は俺からするなんて自分でも理解が追いついていません。
だけどやっと2人でお出掛けできるので嬉しいのが本音です。
あんなに店では言ってしまいましたが、連れてってくれると言われた時は本当に嬉しかったです。

『…あと3回のキスじゃ、清算できませんか?』

「…構いませんよ
貴方からそうしてくださるのはとても珍しいので」

とてもホカホカです。
自棄酒もしたいけれど今はどうでもよくなってきました。
まあ、人生の先輩イケメンには全部報告します。
ちゃんと4回キスをしたら、今度は向こうからおまけとばかりに額に口付けられたので怯みました。
この追いキス、いつも怯みます。

「行きましょうか、今夜は貴方にとことん付き合いますから」

し、幸せです…
明日はもっとお仕事頑張るので今日はこの幸せを噛み締めていたいと思います。
神様、ありがとうございます




.

[ 13/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -