2人の埋め合わせ

今日は日曜日です。
熱も下がっていたのですが、まだ少しだけ皮膚の赤みが引かずちょっと痒いです。

…か、掻きたい
なんかムズムズするんだよね…ほんとに、なんかもう最悪…

我慢出来ずに左手で掻き毟ろうとした。

「何してるんですか」

左手を掴まれて足をバタつかせた。

『だって痒い、痒い、もう嫌ですこんなのー!』

「今掻き毟ったら一生痕になりますよ!」

『だってだってだって…!』

「だってじゃありません!
子供じゃないんですから、少しくらい我慢したらどうなんですか!
手錠でも掛けておきましょうか?」

『なんでこんな事で手錠なんて掛けられなきゃいけないんですか!』

ピタリと保冷剤を宛てられて、その冷たさに言葉を失ってソファーにそのまま倒れ込んだ。

つ、冷たい…冷たすぎる…
言葉が出ません…
こんな荒療治、本当に酷い…

仕事が一段落したそうなので、安室さんは昨日からいらっしゃいます。
俺はまだ外出禁止令が解除されていないしパソコンの前でのお仕事をしていたので仕事には困っていません。
しかしこの手のせいでイライラして仕方ありません。

「少しは落ち着きましたか?」

隣に座ったイケメンをキッと睨んで応戦しても頭を撫でられるだけです。
暫くしたら痒みも引いてきたので起き上がって保冷剤を剥がした。

『…こんなの一時しのぎに過ぎませんよ』

「一時しのぎでも貴方の肌に痕を残すよりマシです
市販の塗り薬も効かないようですし、触らないのが一番です
他の部位にも飛び火したらどうするんですか」

コトンと安室さんの肩に頭を乗せる。
すーっとそのまま頬を腕に擦り付けて下がっていき、膝の上に頭を乗せたら頭を撫でてもらえたので完全に甘えモードです。
というのもお仕事の間の埋め合わせですね。
久しぶりに2人でゆっくりしています。

「全く、貴方の猫ぶりには毎度毎度感心させられますね
僕は猫を飼っているんですか?」

『まだ猫扱いしてたんですか?』

「ええ」

『せめて躊躇ってくださいません?』

体位を変えたらまた頭を撫でられた。

なんか安室さんの撫で方って他の人と違うんだよなあ…
人間の頭を撫でるっていうよりも猫の撫で方なんだよねえ…
やっぱり猫扱いされてるだけ?
でも撫でられ心地は一番いいから文句は言えないんだけど

『安室さん』

「何ですか?」

『…何か楽しいことしましょうよ』

「蛍さんを外に連れ出すわけにはいきませんし、室内で楽しいことと言われましても…」

『外に出掛けたいです』

「まだ許可が出ていないのでしたら下手に僕も動けないので…」

『外行きたい、行きたい、家の中ウロウロするの飽きました!
書斎の梯子を登っても、もう景色も見飽きました』

「高い所に行きたがる所まで猫と一緒ですか…」

お外お外、と足をバタつかせたらまた保冷剤を押し当てられたので意気消沈。

「埃が立ちます」

『じゃあ何をしろって…』

「今日は時間もありますし…何か作ります?」

『今あるのは白米、パン、お酢、人参と…あ、そういえば穴子が安売りをしていたので入手していた気がします
卵と…きのこも少しあったような…』

「穴子があるんです?珍しいですね」

『ええ、なかなか手に入らないと思って買ってしまったんですけど』

「でしたら今日はちらし寿司で決まりですね」

『チラシ寿司……ん、チラシ?なんの広告です?』

「…ちらし寿司、食べたことないんです?」

『食べ物ですか!?』

「寿司の一種です
食べたことがないのでしたら丁度いいですね、あとイクラもあったら少しは豪華になるんですけどね」

『あ、それならありますけど』

「え?」

『なんか初めて見たので買ってみました
イクラって書いてありました』

「貴方、無意識にちらし寿司を作らせようとして買ったわけじゃないんですよね?」

『あの、現物を見たことがないのでよくわかりませんが…寿司の一種ということは酢飯ですか?』

「はい」

『おお、酢飯も滅多に食べないので嬉しいですね!』

というわけで今日はクッキングです。
なんだかわからないけどお寿司を作るみたいです。
立ち上がった安室さんは冷蔵庫を覗きにキッチンへと行ったので追いかけてみた。

「…レンコンに絹さやまで揃ってますね
貴方、本当にちらし寿司を作らせるために用意したわけではないんですよね?」

『それ、絹さやって言うんです?
なんか目に優しい緑色だったので思わず…』

「知らずに買ってたんですか…」

『それからそのレンコン?でしたっけ、なんか穴が空いてて珍しいなと思ったので…』

「こんなに完璧にちらし寿司の具材が揃っているのも奇跡に近いと思いますよ…」

『いや、安室さんなら使い方をご存知かと…冷蔵庫に入れておいたら勝手に使ってくださるだろうと思いまして…
まさかこんな所で役に立つとは思いませんでした』

材料を取り出した安室さんはテキパキと用意し始めた。

『あの、レンコンてなんです?美味しいんですか?』

「"Rhizome de lotus"です」

『えっ、根っこですか!
蓮の根っこなんて食べるんです?』

「レンコンも初めてでしたか…」

『いや、こんなもの売ってませんし日本に来て初めて見ましたよ』

「そうなんですか?
フランスでは手に入らないんですね
日本ではよく煮物に使います、食感もシャクシャクとしていますから歯応えがよく、食物繊維が豊富な食べ物です」

『あ、そうですか…』

なんだかよくわからないけれど食べたらわかるだろうと思って話を流した。
炊飯器でお米を炊いている間に安室さんはそのレンコンを酢に漬けたり、卵焼きみたいなのを作り始めたり、具材を切り揃えたりして、その手際の良さに驚かされるばかりです。

「それはそうと蛍さん、本部のお仕事はどうされてるんです?
今外出禁止ですよね?」

『組織関連で外出が禁止されていることをお伝えしてるので報告書やパソコン作業しかないので大丈夫です
まあ、あと一件潜入予定の場所があるのでそれは外出許可が出たらやってくれと言われました』

「今度はどこへ?」

『聞きたいんです?』

「ええ」

ふふん、と笑って反対側にまわる。

『そんなに知りたいんです?』

「…言いたくないのでしたら構いませんよ、諜報機関のお仕事ですから」

『…もう少し聞きたいって粘るのかと思いました』

ムッとして安室さんから離れてリビングに戻る。
そしたらキッチンから声が飛んできた。

「…話したかったら話してくださって構いませんよ?」

『もういいですよ!
コスプレっぽいことするから楽しそうだと思って教えてあげようと思ったのに…』

「どんな格好するんです?」

『さっきまで興味なさそうにしてたくせに…』

リビングに置いておいたタブレット端末を見て本部からのメールを確認する。

「それで、何の潜入捜査なんです?」

目の前を横切って左側にやってきたイケメンは頬に口付けてきたのでタブレット端末を床に落とした。

『っ…急になんですか!』

「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」

『心臓に悪いんです!』

端末を拾い上げて安室さんに押し付けた。

「…この仕事、本当にするんですか?」

『本部からの御達しですよ?楽しそうだと思いません?』

なんとなんと、飛行機パイロットです。
こんな制服着られる機会なんて滅多にありません。
もうこのお仕事が来た時はベッドで小躍りしたくらいです。
実際飛ぶわけではありません。
ただの情報収集員ですから。

「成田ですか?羽田ですか?」

『羽田勤務です
本当はグランドスタッフの方が情報収集には都合が良かったんですけど、局長が俺のパイロットの制服姿が見たいからって…』

「その写真、後で僕の端末に送ってください
必ずですよ?」

『え?』

肩を掴まれてあまりに真剣な表情で言われたのではいと言わざるを得ませんでした。

ど、どうしたんだろう…
確かに俺も着られるの楽しみだけど、安室さんがあんなに真剣に迫る程のことかなあ?

『まあ、たったの3日間ですし勤務中に指定された時間に都合よく移動して、航空会社や社員と顧客の情報を抜き取ってくるだけなので長居はしないんですけどね』

「絶対に写真を撮ってきてください」

『わ、わかりましたよ…』

それからまた安室さんはキッチンにスタスタと戻っていってしまいました。

…な、何だったの?
なんであんなに写真欲しがってるの?

ポカンとしてたらなんかいい匂いがしたのでキッチンにそろりと近付いた。

「ご飯が炊けたので手伝っていただけますか?」

『別に構いませんけど…』

はい、と渡されたのはうちわ。
首を傾げていたら、炊飯器の蓋を開けられてむわっと湯気が顔に直撃した。

『わ…』

「扇いでご飯を冷ましてください」

『えー?折角炊いたご飯冷ましちゃうんですか?』

「酢飯ですから」

お酢を入れた安室さんはご飯を掻き混ぜ始めたので仕方なくパタパタとうちわで扇ぐことにした。
そしたらまた湯気が腕に当たって痒くなってきた。

『……』

か、痒い…めっちゃ掻きたい…

もう、とうずうずしていたらパシッと左手首を掴まれてしまった。

「禁止ですよ」

『だって…!』

「だってじゃありません!」

また保冷剤を押し付けられてしまい、抑えながらパタパタうちわを扇ぐ。
何分パタパタしていただろうか。
腕が疲れてきたので動きがゆっくりになってきた。

「そろそろ具材を入れましょうか
その前に酢飯、味見します?」

『味見!します!』

やった、と思っていたら、一掴みした酢飯を差し出されたので口で受け取った。
指に残っていた米粒を舌で舐め取る。

「あの、ご飯の味見をしてくださいね?」

そっと指から口を離し、安室さんの服を掴んで引き寄せて口付けた。
そのまま舌を絡めて静かな空間にちょっと大人の空気が流れた。

ほわー、幸せ…
ご飯美味しいよ、酢飯も完璧だったけどこういうのも久しぶりだし悪くないよね…?
わー、俺も大人の仲間入りだよ、すごいね

そっと唇を離したら至近距離のイケメンはもう一度だけ唇を押し付けてきました。
この追いキスをよく不意打ちでされるのでまだ対処できません。
腰が抜けかけています。

「酢の具合も丁度良さそうでしたね」

引っ張っていた安室さんの服をもっと引っ張って体を寄せる。

「邪魔です」

『久しぶりで、俺から折角したのに何も言って下さらないんですか…』

「後でもっと遊ぶつもりですから
久しぶりなんですし、夜遊ぶ方が楽しいでしょう?」

あ、やっぱり相手の方が一枚上手でした。
流石年上イケメンです。
そしてこれがきっとこの前の夜の埋め合わせなんですね、理解しました。
今日は大人になれる気がします。

『…はい』

「そういうことで、今は貴方にちらし寿司を食べさせる方が先なので作業をさせてくださいね」

負けました。
その代わり見学はし放題なので隣でじっと見ていた。
真っ白だった酢飯の中に、人参とレンコンと穴子が投入された。

『人参が鮮やかですね』

「これからもっと綺麗になりますよ」

少し嬉しそうな安室さんを見てると俺もわくわくします。
お皿にご飯を盛ると、安室さんは錦糸卵を乗せて絹さやを盛る。
オレンジが垣間見える酢飯に黄色と緑がよく映える。
それから冷蔵庫から取り出したイクラを盛られた。

『わ、綺麗です…!
イクラってなんだかキラキラしてますね、これも美味しいんです?
お刺身とかお魚売り場にありましたけど何かの卵ですか?』

「イクラは鮭の卵ですよ」

『…え?』

さ、鮭の卵でしたか…
こんなに綺麗なんですね…

本当にさっきよりも綺麗になりました。

『これが、ちらし寿司ですか…』

すごい…
色鮮やかだし絹さやの緑色がとても印象的ですね…
これは写真を撮って局長に自慢しなければ…!

タブレット端末で綺麗に写真を撮って局長宛にメールを出した。
ダイニングに皿を運ばれたので椅子に飛び乗ってスプーンを握り締める。

「どうぞ」

『いただきま……ん?』

呼び鈴が鳴ったので暫しお預けです。
インターホンに出たらなんと蘭さんでした。
玄関のドアを開けて出てみたら、コナン君までいました。
ちょっと苦笑しました。
今安室さんがいらっしゃるのをコナン君に見られたら後でまた何か言われることでしょう。

『蘭さんにコナン君…どうしたんです?』

「コナン君が新一から頼まれごとがあったそうで物を取りに来たんですけど…」

『ああ、そうだったんですね
別に構いませんけど…今来客中なんですよね
まあ、彼も気にしないのでどうぞ』

「え、来客中ならまた出直しますよ」

『でも大事な用事なんじゃ…
あ、もう夜ごはん食べました?』

「え?いえ、まだですけど…」

『じゃあ丁度いいですね!
これからごはん食べるところでしたし、人数分ありそうなのでよかったら食べていきません?
今日はもう素晴らしいごはんなんです!』

「素晴らしい、ごはん…?」

そうだよ!
あんな素晴らしいごはんを1人で食べるのは勿体無いよね!

「ねえねえ、ルイさん、来客って誰?」

『ああ、それは…』

「僕ですよ」

あ、また来てしまったな、この人…
来客中に待っててって言っても絶対この人出て来ちゃうよね…

「安室さん…!」

「連絡を取ってみたら先日熱を出したというので心配になって来たんですよ
まあ、もうほとんど治ってますし家にずっといたそうなので退屈だろうと思って話し相手に居座っていたんです」

「そうだったんですね
あの、ルイさんが素晴らしいごはんと仰ってたんですけど…」

「貴方、そんな事言ったんです?」

安室さんからジロリと見られた。
あれ、なんかご機嫌が斜めになりかけているぞ。

『え、素晴らしいごはんじゃないですか
あんなの滅多に食べられませんよ?
もう本当に素晴らしく綺麗なごはんじゃないですか!
あれを独り占めするなんてちょっと勿体無いので自慢したかっただけです!
自慢して何が悪いんですか?』

「自慢する程の物でもないと思いますよ
確かに量は多めに作ってあるのでそれは構わないのですが、お二人が思ってるようなすごい料理ではないかと…」

え、あんなすごいの、見せびらかしたいに決まってるじゃないか!
しかも安室さんお手製だぞ!?
こんな豪華なものってないと思うんですけど!

『でも1人で食べきれる量じゃないので良かったら皆でごはんにしません?
うん、それがいい、そうしましょう!』

2人を家に上げたら蘭さんはパッと顔を明るくしました。
素晴らしいごはん見ると人間そうなりますよね。
ほらほら、イケメンごはんですよ。

「ちらし寿司じゃないですか…!
今日何かあったんですか?すごい、美味しそう…!」

「いえ、特に何かあったわけではないんですが、クロードさんがちらし寿司を食べたことがないと仰ったので…
レンコンやイクラも初めてらしいですよ」

「そうだったんですね!」

「あれ?
ルイさん、右手どうしたの?」

『え?』

コナン君に右手首を掴まれた。

『あー…ネズミに噛まれちゃって…
炎症起こしちゃったんだ、治りかけなんだけど痒くてね』

苦笑したら察してくれたんだろう。
少しコナン君の目付きが変わりました。
それから袖を引っ張られたのでしゃがんでやった。

「今月の家賃として、お願いできる?」

『了解、今また外出禁止令出されてるから今度来てくれると助かる』

コナン君は小さく頷いた。
今日はダイニングに4人分のごはんが並びました。
珍しくイケメンとはお向かいではなくお隣で、イケメンもごはんを食べています。

『おいしい…!
酢飯最高…なんかイクラのぷちぷち感がすごい、弾けてトロッてしてる…
これが鮭の卵なんですか!
レンコンてこんななんですね、なんだか表現するのは難しいですが確かにシャキシャキ系ですね
確かにお寿司です…』

「お酢の具合も丁度良くておいしいです…!
ちらし寿司なんて私も久しぶりだったんです
なんだかご馳走になってしまってすみません…」

「いえ、気にしないでください、どうせ余ってたんですし」

「おいしいね、コナン君」

「う、うん、すごく美味しい!」

うん、これは美味しい。
握り寿司とはまた違うお寿司の美味しさです。
美味しくいただいて紅茶でも淹れようと思ったら安室さんがキッチンに行ってしまいました。

「そういえばルイさん、最近どうなんです?
ほら、以前仰ってたお相手…ルイさんも忙しかったみたいですけど、メールが来なかったんであれからどうされたかと思って…」

『あ…はい、その、おかげさまで順調です』

「えー!そうなんですか!
良かったじゃないですか、それで連絡とか取ってるんです?」

『え、ええ、そうですね
でもなんか過保護っていうか、気にかけてくださるのはいいんですけどちょっと甘やかされてる気がします…』

「愛されてる証拠ですよ…!
優しい方なんですね、いいなあ…」

『まあ、年上なので俺より何枚も上手で…空回ってます…
それくらいですかね、なんか自分で悲しくなる時もあります』

苦笑したら安室さんが紅茶を4人分持って戻って来てしまった。

『こ、この話はまた今度ゆっくりしましょうか…!
2人でちょっと作戦会議でもしましょう』

「そうですね、またお話聞かせてくださいね」

蘭さん、ごめんなさい…
本人が戻ってきてしまったので話は切り上げますね…

いただきます、とあったかい紅茶を飲んで口を閉ざしました。
なんだか空気が微妙です。
美味しいのに何故でしょうか。
そっと隣を見たら、テーブルの下で安室さんに足を踏まれました。

えー、何?
俺何かしたっけ?

なんかちょっと怖くなった。
明らかに空気がピリピリし始めています。
お向かいを見たら、コナン君も何か察しているようです。

「ら、蘭姉ちゃん、そろそろ帰ろ?」

「そうね、荷物を取りに来るだけだったのに夜ごはんもいただいてゆっくりしちゃったし
安室さんもルイさんも、本当にありがとうございました」

「クロードさんもここの所ずっと寝てらしたようなので久しぶりに蘭さんやコナン君と話せて気も紛れたと思いますし
僕ばっかりが話し相手ではつまらないでしょうから」

え…そんな事ないですよ?
ていうか貴方とお話するのだって久しぶりだったじゃないですか!
貴方ばかりではない筈ですよ…?

『玄関まで送ります
今日は話し相手になってくださってありがとうございました』

「いえ、またメールしますね!」

『はい、待ってます!
蘭さんもファイトです、応援してますから!』

「あ、ありがとうございます…」

玄関で蘭さんとコナン君を見送って、鍵を掛けたらすぐ後ろに気配を感じて動きを止めた。
ピリピリしています。

『…俺が何をしたって言うんですか』

「蛍さん、今日は2人で過ごす予定でしたよね?」

『ごはんくらい、いいじゃないですか
あんな豪華なの滅多に食べられないんですし』

振り返ったら目の前で安室さんが仁王立ちしていました。

『…そんなに、ダメだったんです?』

「僕は蛍さんにそんなに過保護でした?
貴方がそうさせているというのがまだわかりませんか?」

えっ…あれ聞かれてたの…?
キッチンに行ってたんじゃないんですか…!?

ため息を吐き出した安室さんはまだご機嫌斜めです。
どうしようか。

『…あの、その…』

「今日の夜は貴方とゆっくりする予定でした
それは先ほど約束しましたよね?
蘭さん達と食事をするのは構いませんが、久しぶりに2人で過ごす時間が出来たというのに僕が貴方の食事姿を楽しめませんでした」

『…はい』

「今夜は覚悟しておいてください」

か、覚悟…?
お説教でしょうか…?
なんだろう、なんか怖いんですけど…

『……』

この人、たまに怖いです。
というか最近思うんですが、結構独占欲もあるみたいです。
執念深いのは知っていますが嫉妬深いんじゃないかと思っています。
俺が秀一と話してても、多分秀一だから尚更なんだと思いますが後ですごく機嫌が悪くなります。

「蛍さん?」

手首を掴まれてビクッとした。

「手が震えていますよ、また熱でもぶり返したんです?」

首を横に振る。
そしたら頬に手が触れてハッとした。

「どうして泣くんですか…」

『あ、安室さん、怒って…』

「怒ってはいません」

何も言い返せなかった自分が悔しくもあった。
だけど喧嘩になりそうになるとやっぱり何も言えなくなってしまうのでなんだか不甲斐ないです。

「すみません、言葉の選択ミスです」

そのままグイッと引き込まれて抱き締められた。
頭を撫でられたのでなんかもうどうにでもなってしまいそうです。

「一応確認しておきますが、さっきの言葉は理解していましたか?
今夜の話です」

『…お説教、ですか?』

「はい?」

『覚悟してくださいって、腹据えてくださいってことですよね…?
俺が蘭さんと話してたの聞いてらしたんですよね、それで気分を害されて…』

はあっと長いため息が聞こえた。

「それで僕が怒ってると思ってそんなに警戒されたんですね…
どうしようもない誤解ですね…」

『誤解…ですか?』

「今夜は寝かせませんという意味です」

それは…つまり…

『夜通し説教ですか!?』

「怒ってないと言ってますよね!?」

『でしたら寝かせてくださらないなんてどんな拷問ですか!』

「ここまで鈍感だと直接手を出さないとわかっていただけないようですね…
貴方には本当に呆れますよ」

え…え、え?

抱き上げられました。
ちょっと待ってくれ。
何もわからないのに部屋に連行されているぞ。

『ちょっと、あの、何を…』

「前々からの埋め合わせです!」

ドサッとベッドに放られて、イケメンが覆い被さってきました。

ま、まさか…これは…

「夜は長いですから、久しぶりに2人でゆっくり過ごしましょうね」

大人の世界です。
お説教ではありませんでした。
突然の大人モードでちょっと理解が追い付きませんがこれはきっとアレです。
今夜、二度目の大人の世界がやってきます。

イケメンを彼氏にすると至近距離だったり不意打ちのキスや大人の世界に順応できませんね…
ちょっと心臓に悪いこともあります…
今日はもうどうにでもなれそうです、なんてったって大人の世界ですからね…

『…あの、気絶する可能性があることを先に言っておきます』

「その時は叩き起こしますね」

やめてー!
絶対この人俺が意識飛んでも遊ぶ気だよ、だってすごい楽しそうだもん

『…や、優しくしてください』

それだけ伝えてちょっと顔を逸らせ、軽く唇を噛み締めた。
イケメンとこういう事をするのはなかなか勇気がいりますし、まだ俺には耐性がありません。
でも流石に付き合って1ヶ月以上経つので流石に1回しか寝てないのも寂しい話だと思います。
覚悟、します。






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