仕事のオンとオフ

『……』

「……」

カウンター越しにイケメンと見つめ合っています。
午後4時、喫茶ポアロ。
お客さんもそこそこいるというのに、何をしているんでしょうか。

いや、俺は仕事していた筈だったんだけどな…

俺のパソコンは閉じられたまま。
カフェも飲みかけ。
カウンター向こうのイケメンはカフェを丁寧に淹れながら此方を見ています。

「安室さんと蛍さん、さっきからずっとあんな感じなんだけど…」

「梓姉ちゃん、それ何分前からなの?」

「さあ…2人で一緒にお店に来て、どこかで合流したみたいで…」

「(絶対一緒に来ただけだろ、何してんだ、あのバカップル…)」

仕事がしたいのに出来ません。
やはり1週間分の埋め合わせのつもりなんでしょうか。
安室さんの手が動いた。

「"仕事、しなくていいんですか?"」

『"誰のせいだと思ってるんですか?"』

「"さあ、わかりかねます"」

ふっと笑った安室さんに馬鹿、と伝えたら怒りますよと手を動かされた。

「…さん、雪白さん」

左肩を叩かれてビクッとした。
コナン君でした。
君、いつの間に来てたんですか、もう放課後ですか。

『ど、どうしたの?
今日は放課後皆と遊んだりしないの?』

「おじさん、フランス語わからないから雪白さんに手伝ってほしいって」

『え?通訳?』

「多分ね
探偵事務所に来てた依頼なんだけど、フランス語なら雪白さんがいるじゃんって言って探してこいって言われたから、多分タダ働きだと思うけど」

『タ、タダ働き…ですか』

いや、待てよ
ここで小五郎さんとお近付きになるチャンスでもある…
これでジン様に報告できる事があれば…

『しょうがないね、行こうか』

「本当?おじさん喜ぶよ、ありがとう!」

『梓さん、ちょっと探偵事務所に行ってくるのでカフェはそのままで大丈夫です』

「あ、はい…」

席を立ってコナン君とポアロを出て上の探偵事務所にお邪魔することになりました。

「おじさん、ルイさんポアロにいたよ」

「でかしたぞ、ボウズ!」

『こんにちは、毛利さん』

「いやぁ〜、助かりましたよ
どうもフランス語なんてサッパリでしてな」

『いえいえ、お安い御用です』

毛利さんのパソコン画面に映っていたのは確かにフランス語。

「何かの依頼だと思うんですけどね
なんて言ったってこの俺は名探偵毛利小五郎、グローバルに世界からも依頼が来たってことだな!」

しかし文書を読み進めていくと、どうも依頼ではなさそうだ。

『…機密文書、ですかね』

「え…?」

「な、何?」

『すみません、この文章の送り主と文章を解析させていただけませんか?』

パソコンを取り出して全く同じ文章を入力し、メールアドレスもコピー。
俺の情報網を駆使してアドレスの差出人と国を特定。
どうやらフランスからのメールではなさそうだったので一安心だ。
しかしフランス語圏の国、アフリカからのメールで内容は爆薬や武器の密輸ルートなどが記されているのでこれは一大事ではある。

「お、おい、何が書いてあるんだ?」

「ねえ、ルイさん、どうしたの?」

『…国際的な大問題でした
何故毛利さんの所に送られて来たのかは謎ですが…
毛利さん、パソコンのウイルス対策のセキュリティーを強化するのをお勧めします
それから面倒でなければメールアドレスの変更をお願いします
そのパソコン、ウイルス感染している可能性があります』

「な、なんだってー!?」

『麻薬取引の運び屋はいますよね?
そのメール版といった所でしょうか、相手に送信元を特定されないために毛利さんのメールアドレスをどこかで知って仲介役として利用されたと考えられます
恐らくはウイルスのせいでこのメールアドレスが漏えいしたのかと…』

これは厄介なことになったな…
うーん、とりあえず送信元の国の諜報機関には連絡を入れておくか
俺の名前も出せば信じてくれるだろうし…

とりあえず諜報機関には文章を添付してメールを送り、毛利さんのパソコンをお借りしてウイルス対策のフリーソフトもダウンロードしてあげて、ウイルスの拡大を防ぐためにパソコンのプログラムを改変。
その間にこっそりデータは抜き取っておき、俺のパソコンからも監視できる状態に設定しておいた。

『これで多分大丈夫なはずです
セキュリティーも強めのにしておきましたし、元のアドレスは発信元の国に対応してもらっています』

「おじさん、ルイさんがパソコンに強くて良かったね」

「お、俺の依頼は?」

「だーかーらー、依頼じゃなくて…」

探偵事務所のドアが開いて振り返ったら、蘭さんと安室さんでした。

「あ、ルイさん!
事務所にいらっしゃってると安室さんから下で伺って…」

『蘭さん、お久しぶりです
ちょっと今取り込み中なので…』

「何かあったんです?」

隣にやってきたイケメンはまだエプロンをしたままです。
素敵です。

『それが…』

毛利さんのパソコンを介して機密文書が送られてきたこと、その内容が内容だったため諜報機関に連絡した事を耳打ちしたら安室さんは小さく頷いた。

「毛利先生もホームページを開設されましたし、少しセキュリティーが甘かったのかもしれませんね」

安室さんは毛利さんのデスクに近付いた。

『それは先ほど更新しておきました
ウイルス対策もしておきましたので』

「流石ですね」

『あとこれを…』

USBを安室さんに放り、諜報機関からの返信を読んでキーボードを叩いた。

「何です?」

『先ほどの機密文書です』

「渡してどうすんだよ?
この機密文書とやらはフランス語で書かれてるんだぜ?」

「安室さんてフランス語出来るんですか?」

「クロードさんからたまに教わってる程度ですよ、基本的な会話とかそれくらいですよ」

とりあえず向こうの政府で対応はしてくれるみたいだ。
そして安室さんに渡したのは、その文書に書かれていたものの一部を抜粋したもの。
そこには日本の武器の密輸ルートも記されていたからだ。

『"日本語には訳しました、警察庁に提出してください"』

とりあえず手を動かして伝えたら、安室さんは小さく頷いたのでパソコンをパタンと閉じた。

「ルイさん、そういうのお詳しいんです?」

『え?ええ、まあ…一応情報処理をメインにしている仕事なので
えっと…SEでしたっけ、日本語では
いや、プログラミングをしてるからSEじゃないか…日本語もなかなか難しいのでちょっとわからないですが』

「そうだったんですか
良かったわね、お父さん、ルイさんがいてくれて」

「彼を呼んだのは俺の機転のおかげだな!」

しかしまあ、毛利さんのデータをコピーしてきたのはいいけれど、解析するのは明日になりそうだな…

「あ、クロードさん」

『はい?』

「梓さんに言われてたんですよ
コーヒー、冷めてるから淹れ直しましたって」

『え?あ、そうだったんですか
本当に梓さんはサービス精神の塊ですね、感心します
では下にいるのでまた何かあったら遠慮なく呼んでください』

失礼します、と探偵事務所を出て小さくガッツポーズ。
これで毛利さんのデータも手に入れた。
解析してジンに渡せるものを探そう。
ジンが目をつけてる探偵となればそれなりの物は出てくる筈だ。

…それにしても、またテロ未遂か
本当に日本は平和だなあ

ポアロに戻って梓さんに頭を下げた。

『カフェ、淹れ直してくださったようですみません…』

「いえ、随分冷え切っていましたし…
あの、何かあったんですか?」

『大した事じゃありませんよ
ちよっとしたトラブルでした、もう大丈夫です』

さて、仕事仕事。
あったかいカフェを一口いただいてから仕事を進めることにしたのだが、暫くして店にイケメンが戻ってきました。

やっぱり久しぶりのエプロン姿も最高ですね
本当に家庭的ですね、貴方…

暫く仕事をしていたら、そっと紙をテーブルに置かれて顔を上げた。

「今夜、一緒に来ていただけますか?」

『…ええ』

「ありがとうございます」

伝票を確認してパソコンを閉じ、身支度を整えた。
何処に行くのかはわかっている。
なのでこれから一旦帰ってオフィスカジュアルにお着替えです。
会計時、後で迎えに行きますと言われたので素直に頷いた。

厄介なことになったな…
一応本部にも連絡しとこうかな…

工藤邸に戻って報告書を書き、着替えも済ませた。
夜になって呼び鈴が鳴ったので仕事道具を持って玄関を開けたら白いRX-7が停まっているのを確認した。

『夜のお仕事なんて、なかなか珍しいですね』

「そうですね」

車に乗り込んでシートベルトを締める。
サイドブレーキを引く前のキスも忘れません。
どうも最近車内という密閉空間でドキドキ型のキスが多いです。
普通にのんびりしていたいものですが。

「資料は確認しました」

『あれは上にそのまま提出した方が良さそうですね
俺も向こうとはもう連絡が付きましたし対応はしてくださるそうなのであまり心配はしていませんが、毛利さんのパソコンを介しているとなればまた話は違ってきますからね、降谷さん達にとっては』

「ええ、故意的でしたら尚更」

『毛利さんの知名度も考慮するとその可能性も否めませんけどね』

警察庁に着いて緊急の会議です。
降谷さんのおスーツはもう最高でしたがお仕事モードなので前ほどキャーキャー喜べる状況ではありません。
決して見慣れたわけではありません。
俺は情報の提供と工藤邸で作成した日本語訳の資料を配布。
密輸ルートについては日本警察が動いてくださるようなのでちょっと安心しました。

やっと一息つけるね…

無事に会議も終わり、帰路に着いたのが0時半。
少しウトウトしていたら部下さんに大丈夫ですか、と心配されてしまった。
大丈夫です、そんなにヤワではありません。
再び車で工藤邸まで送っていただきましたが、全然記憶がなかったので多分寝ていたんでしょう。

「蛍さん、着きましたよ」

トン、と肩を叩かれて目をゆっくり開ける。
目の前のイケメンもちょっとお疲れ気味なのでこれは早急にお互いリラックスする必要があります。

『ん…ありがとうございます…』

車を降りてから、少し上がっていってくださいと言って降谷さんを家に上げました。
そうでもしないとまた多分仕事で行ってしまいそうだったからです。

「蛍さん、よく寝てくださいね」

とりあえずソファーに座り込み、隣に座ったイケメンの肩に凭れ掛かった。

うわあ、あったかい…
最高だよ、もう眠さマックス…
癒し、本当にマイナスイオン大量発生中だよ…

後ろから抱き込まれたので彼もリラックスモードに突入です。
久しぶりのこの感じに少し嬉しくなってニヤけてしまいました。

『カフェでも淹れてきましょうか?』

「寝る前なんですから遠慮しておいた方がいいんじゃないんですか?」

『パリでデカフェの紅茶も買ってきましたよ
お茶でも淹れましょうか?』

「貴方、離れたいんですか?」

『まさか
今離したらすぐお仕事に戻られるんでしょう?』

「残念ながら仕事ですね」

そっと手を重ねたら向こうから指を絡められた。
首筋の辺りに何度も口付けられて心臓がまた過活動を始めました。
体温も上がってくし、思わず絡まっていた手をキュッと握り締めた。

「蛍さん」

『は、い…?』

後ろを振り向いたら至近距離でイケメンの顔が近付いてきて、唇、額、頬、それから鎖骨にまでキスされてもうどうしていいかわかりません。
悶絶したい気持ちでいっぱいですが、大量発生しているマイナスイオンとイケメンパワーと仕事でだいぶ睡魔に襲われています。

「…眠そうですね」

『少し、疲れて…』

「寝てくださって構いません」

『今寝たら、降谷さん絶対いなくなるじゃないですか』

「貴方が寝ても30分はいますよ」

『嘘吐き』

「どこでそんな日本語覚えてきたんですか?」

『元々知ってます…!』

スマホが音を立ててメールをチェックする。

『…速報です、午前のメールの件の発信元の組織が割れました
日本への密輸ルートの特定も時間の問題でしょう
今日の会議で渡した資料で十分解決まで導けると思います
まあ、降谷さん達のお力でしたら十分に…』

あ…ダメだ…もう寝るかも…
電源落ちそう…

降谷さんにクタリと倒れ込んだら頭を撫でられた。

「今日はお疲れ様です
もう寝てください、今日の昼から疲労感丸出しでしたし」

『そんなでしたっけ…
道理で仕事が手につかなかったような…』

「ずっと僕のこと見てましたよ?」

『…そ、そうでしたっけ』

「はい」

いかん…ポアロでそんな事してたのか…
仕事が手につかなすぎてイケメンを目から摂取していたわけですか
エプロン姿も確かに目の保養でした…

「今日も発情期なのかと思って少し心配していました」

『いつでも発情してませんよ、馬鹿』

「…これから貴方が馬鹿という度に告白してもらうというのはどうでしょう?」

『え、あ、それは…こ、言葉の文というものでして決して本心では…』

「…いえ、貴方を甘やかしていたらいつまでも僕に馬鹿としか言わないので」

『そんなことありませんて!』

「今日はもう寝ましょう」

ベッドまで運ばれてしまったのでワイシャツを脱ぎ捨て、スラックスも床に落とした。

「せめて畳みません?」

『時間があればいつもしてますよ』

降谷さんは服を拾い上げただけ。
安室さんだともれなく畳んだりハンガーに掛けてくださいます。
降谷さんだとお仕事の時間の関係上俺に構ってくださる時間が少ないのもわかっています。
なのにここまでしてくださったのでそれだけで満足です。

『降谷さん』

「はい」

『仕事が一段落したら連絡してください
すみません、今日はもう寝ます』

「わかりました
たまには貴方と外に出掛けたいと思ってますのでこの案件が終わったら少し外に行きましょうか」

小さく頷いたら電気を消された。

「おやすみなさい、蛍さん」

そっと唇を塞がれたのでもう魂を抜かれたように体から力が抜けていきました。
もう幸せです。
今日も快眠、安眠ですね。
仕事の疲れなんて吹っ飛びます。
明日も報告書の提出やハッキングもありますし、仕事に終わりはありません。

いつ、埋め合わせをしていただけるんでしょうか…
まあいつかしてくれるよね…

そう信じて寝たのですが、朝起きたらメモとサンドイッチが置いてあったので俺が寝てから30分いたのは本当のことらしいです。
疑ってすみませんでした。
イケメンは仕事に追われててもイケメンでした。

…美味しい、今日も最高1日のスタートだね
そうだ、毛利さんのデータ解析してやろう
そろそろジン様にも久しぶりに構っていただきますかね…

『…き、昨日なんか降谷さんにめちゃめちゃ甘えられましたよね…?
安室さんじゃなかったよね?
あれ、降谷さんてもっとドライなんじゃなかったっけ…』

あれあれあれ…
仕事モードで甘えられたということは…相当お疲れなんですね
今日は俺がごはん作りましょうかね、久しぶりに

その旨をメールしておいたら返信はなかったのでお仕事中なんでしょう。
とりあえず俺もお仕事します。
と思ったら丁度返信が来ました。

[昨日の様子からして今日は疲れているでしょうし発情期のサインかと思いました
くれぐれも外出される際は気をつけてください]

え、なにそれ…そんな返信がありますか…

ちょっとショックでした。
午後、そんな忠告をすっかり忘れて夜ごはんの買い出しに出掛けたらなんだかメス猫に寄られて追い回されたのでとても苦労しました。
イケメンの忠告はきちんと聞いておくべきでした。






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