自動販売機の攻略法

毛利探偵事務所。

「ったく…今日も騒がしくて仕事にならねーじゃねーか」

「仕事って、競馬新聞見ながらラジオ聞いてるのが仕事なわけ?」

「あ、よせ、蘭…!」

『こんにちは…』

ドアを開けたら、そこはなんだか不思議なことになっていました。
完全に来るタイミングを間違えたようです。

『あ、お取り込み中ですかね、また来ます…』

「いえ、全然、仕事がなくて父も暇してたところですので気にしないでください」

蘭さん、笑顔で言いますね、貴方も…

「フランス野郎が何の用だ?」

『そうですね、久しぶりなので毛利さんにご挨拶と…それから依頼を…』

「え?お父さんに?」

「どうせろくな依頼じゃねーんだろ?俺は忙しいんだ、帰った帰った」

「ちょっとお父さん…!」

毛利さん…貴方、今競馬が大事なんですね、わかりました
やっぱり出直してきます…

『蘭さん、いいんです
毛利さんがお忙しいのはわかっているのでまた後日出直しますね』

「えっ、でもルイさん…」

お邪魔しました、と一礼してから探偵事務所のドアを開けた瞬間だった。

「あれ」

『あ…』

「クロードさんじゃないですか、一体どうされたんです?」

『あー…その、名探偵の毛利さんに依頼をしようと思って来たのですがお忙しいようだったので出直すことにしました』

「依頼、ですか」

こくっと頷いてから、エプロン姿のまま探偵事務所に上がってきたらしい安室さんに一礼した。

「依頼ってなんです?」

『……』

少し考えてから手を動かした。

『"ただの潜入捜査なのでお気になさらず"』

「おい、俺に依頼するならちょっと自販機でコーヒー買ってこい
そしたら依頼を引き受けてやってもいい」

事務所からそんな声が聞こえてきたのですが、蘭さんが怒っていました。
まあ、いいでしょう。
カフェくらい買えます。
事務所を出て階段を降り、それから近くの自動販売機にやってきた。
以前街中に並ぶ自動販売機を写真に収めて本部に日本の滞在報告書に添付したら局長がなぜか興奮して楽しそうなメールを寄越してきた。

まあ、自動販売機の形はフランスとは違うし日本は街中に平気で置いてあるからな…

しかし目の前にあったのは見慣れない自動販売機だった。

『……なんだこれは』

画面だ。
画面が埋め込まれている。
そして商品のサンプルすらないし購入する時のボタンもない。

え…え?
これ、何、自動販売機ですよね?

しかも前に立っていたら、貴方にオススメ!なんていう吹き出しが栄養ドリンクのところに表示された。

な、なんだこれは…俺の昨日の仕事状況を知っているのか…!?
なぜ把握している…!?
いや、カフェが欲しいんだけど…カフェの購入ボタンがないじゃないか!
呑気に画面横に天気予報とか表示してる場合じゃないですよね!?

さあ、どうする。
自動販売機の前に立って早10分。

「ねえねえ、あれって哀ちゃんのボディーガードさんじゃない?」

「あ、本当ですね
自動販売機の前で立ち尽くしていますが、何かあったんでしょうか…?」

5分後。

「動きませんね…」

「何してるのかなあ?
もしかして欲しい商品がわからないのかなあ?」

「それはないと思うわ、あの人日本語ちゃんと読めるんだし」

「じゃあ…」

「お?なんか横見てるぞ?」

「自販機を観察しているんでしょうか…?」

「あ、また正面を眺めてるよ」

「財布は手にしてるみたいだし、何か買おうとしてるのは確かみたいだな」

「コナン君、買い方教えてあげたほうがいいんじゃないかなあ?」

「つっても…ルイさん、何に戸惑ってんだ?」

10分後。

「もうずっとあのままですよ?
さすがに助けてあげましょう、少年探偵団の名にかけて…!」

「あ、おい、ちょっと待て」

「え?」

「あー、安室の兄ちゃん…!」

「クロードさんに近づいていますね…
でも安室さんがいらしたなら安心ですね、クロードさんも欲しいものが買えると思います!」



「やけに遅いと思ったら…何してるんですか、こんな所で
蘭さんも心配してたので探しにきてみたら…」

左側から声をかけられて顔を向けたら安室さんでした。

『安室さん…』

「コーヒーでも買うつもりだったんですか?」

『ええ、毛利さんはカフェと仰っていたので』

「でしたらさっさと買って帰ればよかったじゃないですか」

『あのー、安室さん』

「はい?」

『これ、自動販売機ですよね?』

「…それ以外の何かに見えますか?」

『どこをどうしたら物が買えるんでしょうね…
天気予報の情報なんてどうでもいいですし、俺が前に立ったらドリンク剤をオススメされました
俺の仕事のスケジュールをどうして知られてるんでしょうか…
購入ボタンとかありませんよね?
でも下には商品の取り出し口もありますし…』

安室さんは長いため息を吐き出したのでムッとした。

『なんですか』

「確かにフランスでは見慣れないかもしれませんが…情報端末を使いこなしている貴方がどうしてこんな単純な機械を扱えないのかたまに疑問に思いますよ」

安室さんは財布から120円を取り出すと、硬貨の投入口に入れるなり画面に映し出されているコーヒーの画像をタップした。

『え?』

すると下のほうからガシャンと音がして、目を向けてみたら取り出し口にカフェの缶が落ちていた。

「いつもの自動販売機よりも簡単だと思いますけど」

カフェを取り出した安室さんはそれを俺に渡した。
あったかい。

『え、あったかい…!』

「ええ、もう冬ですから自動販売機もあったかい飲み物を提供しますよ」

『???』

なぜ?
Pourquoi?

『なんで1つの販売機であったかいのとつめたいのが出てくるんですか!?
え、意味わかんないです!
日本てどんな技術持ってるんですか!?
全然意味がわからないんですけど…!?』

「僕は自動販売機の会社の者ではないので詳しいことは知りませんが…
冷たい飲料を冷やす際に発生する熱を利用してあたたかい飲料を温めているという話は聞いたことがありますよ」

『…なんかよくわかんないですけどすごいことなんですね
あ、早く探偵事務所に持っていかないと冷えちゃいますね…』

「温かいまま探偵事務所まで持っていく方法があるんですけど、ご存知ですか?」

『温かいまま?』

「ポケットですよ」

言われてコートのポケットにカフェを入れる。
確かにこれだと保温性があって素手で持って帰るよりはいい。

『手を入れると手もあったまりますね、あったかいですー』

「では探偵事務所に戻りましょうか」

『安室さんは用事があって通りがかったんじゃないんですか?』

「貴方が戻ってこないから探しに来ただけですよ」

あれ、そうだったのか…

じゃあ、と探偵事務所に足を向けて歩いていたら、少しした所で不意に体が近付いた。

ち、近い…!
あれ、なんかポケットに…何かが…

安室さんを見てからポケットへ目線を落とす。

『……』

「すみません、少し手がかじかんでいたので」

ポケットの中で指が絡んだ。

『あ、あ、あったかいです…』

「僕もあったかいですよ」

やだ、なんでナチュラルにイケメンとおんなじポケットの中に手があって、手を繋いでいるんでしょうか…
恥ずかしいというか、これは、普通に照れる…

荷物を取ってくるので先に行っててくださいと言われたので安室さんとはポアロの前で一旦別れ、探偵事務所へ向かう階段を上っていた。

「相変わらずのバカップルぶりだね、ルイさん」

『えっ!?』

ビクッとして振り返る。
そこには呆れ顔の小学生がいました。

『…な、何盗み見てんだよ、ストーカーなの?』

「行き先が同じなんだから仕方ねーだろ」

『そ、それもそうでした…』

「本当に自動販売機での買い方がわからなかったとは…」

『う、うるさいな、あんな画面の自動販売機なんて初めて見たんだよ!』

「安室さんが来なかったら30分以上突っ立てるつもりだったの?」

『う…そ、それは…』

「先に光彦達帰らせて正解だったな…」

子供の教育上悪いとでも言いたいんですか?
このマセガキめ…

もう、とコナン君を放って探偵事務所のドアを開けた。

『毛利さん、あったかいカフェです…!』

「…自販機で買ってきたにしては遅かったじゃねーか」

はい、と渡したのでこれで依頼を受けてもらえるだろう。

「うわっち!あっつ!あちー!」

「…どんだけあったまってんだよ、あのコーヒー」





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