取り調べのサンドイッチ


「お待たせしました」

運ばれてきたのはバゲットのサンドイッチ。
野菜も肉も入ってる。
ソースはお手製なのだろうか、市販の物ではないのは確かだ。

イケメンの、手料理…

『い、いただきます…!』

向かいに座った安室さんはまたにっこり笑っている。
本当に読めない。
そして美味い。

『……!』

言葉も出ない。
美味い、毎日これ食べたい。
是非パリのパン屋にもこれを置くべきだ。

「お口に合ったんですね、良かったです」

『じゃあ明日も是非…』

「明日はポアロのシフトを入れています」

ということは、ポアロに行けば安室さんに会える…!
そういうことですね…!?

「じゃあ僕は報酬をいただくことにします
一応組織の人間とはいえ、昨日会ったばかりなんですから自己紹介でもと思いまして」

『ひこひょーかいでふか?』

「口に物が入ってる時に喋らないでください
では、まずお名前から」

『雪白・ルイ=クロード・蛍』

「年齢は?」

『25です』

「独身ですか?」

『はい』

「身長は?」

『160…えっと、167くらいでしたかね』

「体重は?」

『52だったような…』

「所属は?」

『DGSE 対外治安総局情報局及び技術局です』

「二局に所属ですか?」

『特例です
基本的には技術局に出勤していますが情報局からはいつでも仕事が入ります
デスクのない情報局員といったところでしょうか』

「そうですか、好きな食べ物は?」

『安室さんのサンドイッチですかね』

「光栄です、特技は?」

『特技…射撃ですかね、あとハッキング』

「情報局が欲しがるわけですね
ではここから裏情報に行きましょうか

まずはコードネームから」

『アンジュです
ワインのアンジュとスペルは違いますが、同じ発音でフランス語では天使という意味もあるんですよ
素敵ですね、俺には勿体無いくらいです』

「ワインですか」

『ちなみにカクテルもありますよ
そのベースとなるお酒、ご存知です?』

「アンジュというカクテルは初耳ですので存じ上げません」

『ジン…
つまり俺はコードネームの裏をかいてもジンの下にいるということになりますね
考えられたコードネームです』

「組織ではどういった立ち位置で?」

『ジンのペットです』

「面白い言い方をされる…」

『事実です』

「組織内では何を?」

『主にハッキング、情報の管理、処理、内部と外部の仲介役のようなものです』

「先ほど車内で首輪と仰いましたが?」

『言葉の通りです
ウォッカなら当時の状況をご存知かと思います
ジンに餌付けをされ、ジンに育てられた組織内をもウロつく猫です』

「ますます貴方がわからなくなってきました
組織の内部も外部も貴方が情報を一括管理しているということですか?」

『一括というわけではありませんが…
まあ、大体そんなところですかね、もちろんNOCリストも持ってますけど』

「怖い人ですね」

『貴方程ではありませんよ』

「それからベルモットとは面識がありそうでしたね
彼女とはどういう関係で?」

『さあ、一方的に嫌われているので…
理由はわかりませんが』

「そうですか」

『横流しにしても無駄ですよ
今日本にいるんでしょう?ベルモットも』

「気付いたらしたんですか」

『独身だと言った貴方の車、彼女の匂いが充満してましたよ』

「では今度消臭しておきます」

『お願いします』

大方これもベルモットが何処かで聞いているはずだ。
後でこの音声データも削除しておかないと。

『あの…』

「はい」

『そろそろサンドイッチ食べるの再開してもいいですか?』

「ええ、どうぞ」

サンドイッチを二人再び堪能していたら安室さんは小型の盗聴器を壊した。

「さて、ここからは二人の時間です」

『そうですね、やっと心置き無く話せます』

「首輪の件ですが…そんな貴方がまたどうしてDGSEに?」

『情報収集のためです
実際FBIやCIA、ヨーロッパの諜報機関ともコネがありますので』

「結局白なのか黒なのかわかりませんね」

『グレーってところですかね
組織に入ってすぐジンから調教されましたし、つまりは教育係ですね
DGSEでも意外とその仕事の取り組み方は役に立つので…まあ、一時的に軟禁されていた事もありましたがやっと外に出られるようになったので』

「軟禁?」

『はい、申したはずです、ジンのペットと』

「それは仕事関係でのペットではなく?」

『仕事関係ですが、絶対的な服従です
コードネームを持たない構成員に見せかけた、組織内の秩序を保つ構成員です
そしてそれをジンに報告、というわけです』

「ダブルスパイみたいな事をされますね」

『あれ、安室さんも同じようなものじゃないですか
ポアロでのお仕事、潜入捜査なんじゃないんですか?
公務員の副業は認められていませんよね』

それにしても美味い、このサンドイッチ。
ご馳走様でした、とティッシュで口を拭いた。

「そう思ってくださって構いません」

『あ、NOCのことはご心配なく
いつジンに報告するか、それともしないか、全部俺の一存なので』

「そしたら貴方もNOCの対象者になりますよね?」

『その時はDGSEを裏切りますからご心配なく』

「猫は気まぐれですね」

『そしてまたDGSEに戻ります、再びスパイとして』

「貴方にそんな器用な事が出来るんです?」

『できますよ
腐っても諜報機関の人間なので』

「僕は随分貴方のことを買い被っていたようですね」

『疑う、の間違いでは?』

「そうとも言います」

『そういえば安室さん、夕食は?』

「もう一仕事終えてからにします」

『え、すみません
仕事あるなら言ってくださいよ、手短に済ませましたのに…』

「いいんですよ、僕がいたくているんですから」

あー、イケメン
癒された
そんな事言ってると明日ポアロ行っちゃいますよ?

「それから明日の朝ご飯にサンドイッチをもう一つ作って冷蔵庫に入れておきました」

な、な、なんというイケメン…!
なんてこった…

『あ…ありがとう、ございます…』

なんて出来た人なんだ…
やばい、すごいぞ、この人…!
と、歳上って凄い…ていうか何者!?

『安室さん、あの…何かお礼を…』

「報酬は頂戴しましたよ
たまたまその情報量がサンドイッチ2つ分に相当すると判断したまでです」

やだ…何このイケメン…
わけわかんないけどこっちが照れるからやめて…

「あ、それからさっきの番号は登録させていただきますね」

『番号?』

「料理の邪魔をしてくれた電話番号ですよ
あれはプライベートですか?」

『ええ、雪白 蛍の電話番号です
それとも国際電話の出来るルイ=クロードのお仕事電話がいいですか?』

「どちらも」

『わかりました』

「先ほどの番号はプライベート用なので本当に必要な時にのみお願いします
サンドイッチ作りの邪魔をするようでしたらこちらに掛けてください
こちらは安室透名義なので盗聴される可能性もありますが…」

お互いにその場で番号を登録しておいた。
紙媒体ではリスクが大きい。

やったー…二つ目ゲットしちゃった…

『いっぱい電話しますね!』

「あの、話聞いてました?」

『今度どこか遊びに行きましょうね!
折角の休暇なので日本遊び尽くします!』

「僕は休暇じゃありませんよ」

『ポアロでバイトしてるのに…?』

「仕事です」

『ポアロ…」

「仕事です」

『じゃあポアロに遊びに行きます!』

「何度も言いますが僕は仕事ですからね」

『じゃあ…』

「わかりました、何か考えておきましょう」

た、頼んでみるものだ…!
安室さんとお出かけ…!
イケメンとお出かけができるみたいですよ、神様、ありがとうございます!

「ではそろそろ仕事に…」

『本当にご馳走様でした』

玄関まで行って、車の所まで見送りに行く。

「わざわざ見送りなんて…」

『此処まで送ってくださったんですし、今日は本当にお世話になりました
また連絡します』

「何かあったらこちらからも連絡しますので
おやすみなさい」

『おや、すみ…なさい…』

走り去っていくRX-7をぼけーっと眺めて呟く。
とりあえず組織の人間とお近づきになれたし日本の公安にもコネはできたし今日はまあまあいい日だ。

さてと、音声データを編集して削除して、それからジンにご報告でも入れときましょうかね
俺も、あと一仕事しないとね

工藤邸に戻って皿洗いをした後、すぐにパソコンを立ち上げて仕事に取り掛かった。







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