ダブルフェイス

結局笑顔で夜やってきたイケメンに次の日病院に連行されて数日また安静に仕事をする日々が続きました。
やっとイケメンの許可も下りたので、今日は久しぶりにお出掛けです。

『デパート行きたかったんだよねー
いやー、やっと解放された気分だよ』

いやはや軟禁生活未遂でしたね…
あ、もしかしたらこれはジン様が軟禁にすると言っていたのを実践していたのかもしれないな…
ジン様が俺に内緒でバーボンに監視するように仕向けたとか?
ちゃんと俺を軟禁させて、その任務を遂行させたわけですかね…やられた…
監視されてたのは俺だったのか…

頑なに安室さんが俺に過保護にしていた理由を理解しました。

なるほどね…
ジン様、そんなに俺の事疑ってたのか…

定期報告はしていたし問題ないし、それを多分バーボンに確認させた。
だから俺が仕事をする時に画面も覗かれたし、それはきっと証拠写真でも撮るためだったんだろう。
そしてバーボンも彼なりに俺がちゃんと組織関連の仕事をしている時の画面を盗撮してくれたんだろう。

「あー!
灰原のボディーガードじゃねーか!」

「あ、本当です!クロードさん、お久しぶりですね!」

ハッとして顔を上げた。
前方に見えるのは小学生と阿笠さん。

『Salut、皆久しぶりだね』

「クロードさん、今日はどうされたんですか?
デパートに1人でお買い物ですか?」

『ああ、そうだね
散歩も兼ねて買い物に来たってところかな』

「だったらよ、俺達が付き合ってやるよ!
1人で買い物するより大勢の方が楽しいだろ?」

「元太君、無茶を言ってはいけませんよ
クロードさんだってご都合があるんでしょうし…」

「えー、だっていっつも1人じゃねーか」

な、何それ…
俺小学生に1人でいる人だと思われてるわけ?
ま、まあ、別にいいけど…

『いいよ、一緒に行こうか』

「えー!いいんですか?」

『うん、丁度暇だったし』

この子達に買い物に誘われても、多分買い物に付き合わされる事は目に見えているのだがそれはそれで良かった。
久しぶりの散歩だし、阿笠さんもいるから問題ないか。

「ちょっと、嫌ならちゃんと断りなさいよ?」

『哀ちゃん…別に小学生とお買い物もたまにはいいかと思っただけだけど』

デパートの中を歩きながら、先を歩く小学生3人を眺める。
なんと平和な風景だろうか。

「工藤君から聞いたわよ
貴方、仕事をわざと手抜きしてジンに撃たれたそうね」

『え?ああ…わざと手抜きって言い方はやめてくれないかな…
一応ちゃんとした仕事はしてるつもりなんだけど』

「貴方がジンに撃たれるなんて相当機嫌損ねたって事よ」

『だろうね
軟禁生活宣告されて、結局今日まで実質軟禁生活だったから…相当ジン様に警戒されてたって事だね』

「今日やっと外に出たの?」

哀ちゃんはちょっと驚いていました。
なのでやはりこれは組織の差し金の軟禁だったんだと思われます。
まあ、安室さんに確かめれば一発なんだけどね。

「けどよ、雪白さん、あれから病院には行ったんだろ?」

『ああ、強制連行された
多分それもジン様なりの心遣いで病院だけは認めてくれたんじゃないかな
バーボンもジン様にそれは連絡してるだろうし
監視されてたのはバーボンもそうだけど、俺も対象だったみたいだね』

「貴方もジンには相変わらずね」

『まあね』

あの人がいなければ有力な情報網も消えてしまう。

『情報屋としては重要なコネですから』

「けどわかんねーな…
ジンは雪白さんをあれだけ信用してたのに、この一件で随分と疑われるような内容だったか?
この前見せてもらったリスト、フェイクはフェイクでもそう簡単にバレそうな物でもなかったと思うけど…」

『リストは問題じゃない』

「じゃあ…」

「バーボンが自分の飼い猫に手を出したこと
それ、ジンに嗅ぎつけられてたんじゃない?」

『やっぱり哀ちゃんもそう思う?
だんだんその線が濃くなってきたんだよね
俺がバーボンと接触して、それをベルモットに見られて連絡がいったか…
けど、そしたら俺の情報網をすり抜ける情報ルートがあるってことになる
そのルートは1つ
恐らくあの方が管理してる、俺でも手を出せない領域にあるデータ…
組織に潜入してからほぼ全てのルートは掴んでるんだけど、あの方の領域にだけは踏み込めない
ジン様にもそれにだけは手を出すなと言われたルートだ

恐らく別ルートを通じて俺の知らない所で情報が動いてるってこと…
早くそのルートを掴まないと、俺もヤバそうだね』

「蛍」

『何、怖い顔しちゃって』

「気をつけなさいよ」

出ました、哀ちゃんのツンデレの珍しいデレ気味なところ…!
可愛いです、哀ちゃん…!
でも心配ご無用です、俺もそう簡単にしくじったりはしないので

哀ちゃんの頭をそっと一撫でした。

『Ne t'inquiète pas.』
(心配ご無用)

「クロードさーん、博士達も遅いですよー!」

「早く早くー!」

先を行く3人に近付く。
今日はもうお仕事も終わらせたし後でのんびりカフェでも飲もう。

『皆、何か飲む?
そろそろ3時だし…何かケーキでも食べる?』

「ケーキ!?」

「ええっ、いいんですか!?」

「ケーキ食べたーい!」

純粋でいいねえ、君たちは…
今日くらい奢っちゃうよ、太っ腹ですよ

「ルイさん、そんな…」

『ああ、気にしないでください、阿笠さん
丁度お給料も入ったんで』

「すみません…
これ、皆、ルイさんにお礼を言うんじゃ」

デパートの中にあるカフェで皆にケーキをご馳走。
俺はカフェだけにしておいた。

久しぶりのお外はいいですねえ
やっぱり散歩出来ないとなると結構しんどいものがあるな…

カフェを一口飲んでそっと周りを見渡してみる。
日本て、平和だな。

「…さん、クロードさん」

肩を叩かれて右側を向いた。

『え、ごめん、何かな?』

「クロードさん、ケーキ嫌いなんですか?
僕達だけケーキをご馳走になって…」

『ケーキは好きだよ
だけど…今の気分じゃないっていうか、カフェで十分だったから』

正直ここのケーキがあんな高かったなんて思わなかったよ…
ちょっと日本のカフェ舐めてました、すみません

「ちょっと、電話鳴ってるわよ」

「え?」

右隣に座っていた哀ちゃんに指摘されてポケットからスマホを取り出す。
あれ。

『ありがとう、ごめん』

一言断ってから電話に出てテーブルから離れる。

『Allô, c'est Louis.
Qu'est-ce qui se passe?』
(もしもし、ルイです
どうされたんですか?)

[Louis, c'est le temps de travail. ]
(ルイ、仕事だ)

本部からの仕事だった。
この前降谷さんからいただいた情報を本部に送り、勿論俺も中身を確認したのだが、なかなかの案件でした。
更に情報網を駆使してもう少し有力な情報を洗っておけとのお達しでした。
確かに降谷さんからいただいたデータは、日本が提示してくれる最大限の情報ではあったけれど明らかにこれ以上教えられませんと言われたような情報だった。

まあ、俺のルートで探っていけばなんとかなるだろうけど…

電話を切ってから席に戻って鞄を持ち上げた。

『皆ごめんね、仕事入っちゃったからまた今度ね
阿笠さん、これを…』

そっと阿笠さんのポケットに5000円札を滑り込ませる。

「えー、帰っちゃうんですか?」

「折角ご馳走になったのに…」

「貴方、コーヒーまだ残ってるわよ?」

『飲みたかったら飲んでいいよ』

「嫌よ、貴方と間接キスなんて」

『言ってくれるね、哀ちゃん…』

じゃ、とカフェを出てデパートから歩いていたらふと気配を感じて途中で足を止めた。

「貴方が外に出たってことは、もう軟禁はおしまい?
バーボンも疑いを晴らしたようね」

『やっぱり、俺の監視を命じられてたんだね
ねえ、ベルモット、俺が知らないルートって知ってる?』

「ルート?一体何の話?」

『わかってるから嘘つくのやめたら?
俺の監視下にない情報ルート、新しく開通させたのは誰?
まさかあの方直々だなんて言わないよね?』

「…ジンよ」

わかってたよ、それくらい…

『それで俺がバーボンと頻繁に接触してたこともジン様には筒抜け…
結果俺はまた調教室に入れられたってわけか、それは納得したよ
悪いけど、もうそのルートも監視下に置いたから』

「…馬鹿ね、アンジュ、貴方今日外に出たばかりでしょう?
念のため貴方を尾行してたのよ?
いつそんな事が可能だって言うの?」

『尾行されてたのは知ってるよ
じゃあ、軟禁中に何してたと思ってるの?
俺がジン様に調教されてるんだったらする事は1つしかないよね?』

「まさか…」

『内部のネズミ調査だよ、それから未確認ルートも調査対象
この軟禁中にあの情報ルートを見つけられなかったらそれこそジン様は俺が職務怠慢だって言うだろうね
そしてそれを昨日監視下に置いてジン様はもうそれを今朝のメールで承認済み

ベルモットにはルートを監視下に置いた事も、ジン様からのミッションをクリアした事も知られてなかったみたいだね
だから今日ずっと駅から尾行してたんでしょ?
今日ベルモットが尾行するってジン様にわざわざ連絡入れてた事もわかってたよ
俺のこと、ただの猫だと思ってない?
悪いけどジン様だけの猫だから
それが、俺の仕事だから』

じゃあね、とベルモットに別れを告げ、袖口に取り付けられていた発信器を潰してその場に捨てた。
工藤邸に戻ってカフェを淹れ直し、それからゆっくりと味わいながらパソコンを立ち上げた。

さて、お仕事ですね…
俺が握れていない組織の情報網はあの方直々のものだけ…
それはジン様も承知の上
どうやって入り込んでやろうかね…

スマホの画面が光って電話に出た。

『もしもし、ジン様?

ええ、ベルモットと会話してしまいました
すみません、でも話しかけてきたのはあっちですよ?

どうやら本当に知らなかったみたいですよ、昨日の時点でルートを掴んでた事
ねえ、ジン様、貴方しかいないのわかってるのにどうして俺を試すような真似なさるんです?
…大好きです、ジン様』

俺が今どんな顔をしてるかわかる?ジン様…
貴方に近付きたくて仕方ないよ
組織の裏を掻くのがどれだけ快感か…おかげでこっちは楽しくて仕方ないよ、仕事するのが
本当に感謝してますって

そっと電話を切ってベッドに放る。
パソコンに向かってデータバンクを整理する。
やっぱり仕事は楽しいです。
情報屋やってて良かったです。

捧げる心が1つでなければ忠誠心と呼べないのなら、生憎俺はそんなもの持ち合わせちゃいない…
常にどちらの立場にもシロでいること…
どちらにも忠誠を誓うこと、これが俺のやり方だからね
悪く思わないでくださいね…

本部から送られてきたメールを開封して資料を確認し、早速お仕事開始です。
タブレット端末で組織に送られてくるデータを監視。
パソコンで本部から指定された案件を調査。
そして聞き慣れたエンジン音が聞こえてきたので先回りして玄関を開けたら少し驚かれました。

『いらっしゃいませ』

「お早いお出迎えですね」

『俺の監視お疲れ様でした
猫は飼い主の足音くらい覚えてますよ、例え2人目でも』

「それは、光栄ですね」

『ごはん楽しみにしてますね、安室さん
それまで仕事するんで』

「本当に、仕事熱心ですね」

今日もイケメンをおうちに上げて餌を待っていました。
心なしか安室さんもこの数日間と比べて肩の荷が下りたような雰囲気を滲み出していたので状況は理解しているつもりです。
忠誠心が3つに分断されようとしています。
こんな事を知ったら皆どんな反応をするのかがちょっと楽しみです。

あ、なんか俺って性悪なのかな…
こういうの楽しんじゃうの、良くないね
善処します…

「今日は生魚ですよ」

『えっ!まさかお寿司…』

「はい、大正解です」

やったー!
最高のご褒美ですね!
もう大好き!

「貴方にとってどれだけ魚が大事なのかもよくわかりました…」

暫く仕事に集中できそうです。
これでやっと落ち着きを取り戻せそうです。
日常って大事。




第一部 完

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