寝言の謎

昨晩のドタバタ騒動をなんとか対処し、シミ汚れも応急処置だけしてあとは業者に任せました。
足も傷口が開いたものの、そこまで重傷でもなかったのでなんとかなりました。

まあ、仕事が今日から再開できるけど…外出するにはまだ時間かかりそうだな…

はあっと溜め息を吐き出してから、ゆっくりと体を起こす。
隣にいたイケメンにそっと手を伸ばしてみる。

「起きたか」

『起きてたの…?』

「ああ、お前が寝言を言ってる時からな」

『…俺、寝言なんて言いませんよ』

「いや、確かに聞いた」

何それ…
めっちゃ恥ずかしいんですけど…

『な、何か変なこと言ってた?』

「さあ、どうだろうな」

『ちょっと…!なんで教えてくれないの?
そんな変なこと言ってたってこと!?』

秀一の肩を掴んだら手首を握られました。

「お前もそろそろ、物足りなくなってるんじゃないのか?」

『…え?』

「正直になることだ」

いや、全然わかんないんですけど…

すると部屋のドアが開いてビクリとした。
あれ、もう1人のイケメンもお泊まりしてくださってたんでしたっけ。

「おはようございます、蛍さん
朝ごはんは此方にお持ちしました、何をなさってるんですか?」

『お、はようございます…
いや、別に、何も…』

「何もしてなくて、何故そんな至近距離で2人が手を握り合っているんですか?
大体からして何故2人が同じベッドで寝てるんです?
理解が追いつかないのですが」

「君ほどの者でも何故こうなったかわからないのか?」

『朝からやめてください、全く…
別に大した事でもなんでもありませんてば
安室さんこそ、何処でお休みになられたんです?』

「貴方の隣にずっと居ましたよ…!」

ということは。

『…あの、何か変なこと言ってませんでした?』

「変なこと、ですか?」

『その…ね、寝言とか…』

「ああ、蛍さんはいつも寝言を言ってますよね…」

『えっ、いつも…!?』

どういう事だ…
俺は知らないぞ、自覚ないしそんなもの知らないよ…?

秀一から手を離し、布団を頭から被って一旦現実逃避。
俺は何を言っているんだろうか。
それに秀一からは物足りないと言われた。

物足りないもの…?
俺が今物足りないと思ってるものって…正直になれって言われても思い当たるものって言ったら…

布団から抜け出した。

『わかりました!
お仕事の話ですね、それなら一安心です
まさか寝言で仕事の話をするなんて自分でも思いもしませんでした』

「「……」」

よし、一件落着だ。
安室さんの朝ごはんをいただくことにしよう。
ベッドに座ったまま朝のサンドイッチとカフェです。
美味しいですね。

「仮眠を取って酒が抜けたのならさっさと帰ってくれませんか?」

「そう急かされなくても休んだら行くさ」

『そうだ、秀一、ちょっと3日間分のブランクはあるけどすぐ情報提供はするからもうちょっと待ってて
FBIに渡そうと思ってたのが確か…』

ベッドを降りてパソコンを立ち上げる。
なんだかイライラしているイケメンに画面を覗かれました。

『なんですか』

「食事中でしたよね…」

『あの、3日間も仕事取り上げられた俺の気持ちがわかりますか?
ハッキングも何も出来ずに組織の仕事も本部の報告書も放ったまま、情報収集も3日間怠ってるんですよ!?』

「それはわかりますが食事中に仕事をしないでいただきたいものです」

「蛍、そう急がなくても幾らでも待ってやる」

「僕は待ちませんよ
今すぐに帰っていただきます」

そうなんだよね…
だからさっさとやって秀一に情報渡してから帰そうと思ったのに…
もう、どうしてこうなんでしょう…

すぐにデータバンクをチェックしてから独自のルートで入手したデータをディスクにポイポイ投げ込んで行く。
同時進行で3日分の情報収集を開始。
カフェを一口啜ってから、コピーしたディスクを取り出してケースに入れた。

『ごめん、秀一、お待た…せ…?』

ベッドに横になっている秀一と、それを追い出そうとする安室さん。
何をやっているんだか。

『秀一、はい、これ』

ディスクを放ってから報告書を仕上げようとソフトを立ち上げる。
左腕は本調子ではないし速さも通常よりは劣るけれど、タイプは出来る。

「蛍」

『んー?』

「くれぐれも無茶だけはするなよ
確かに受け取った」

『んー、お仕事頑張ってね、また連絡する
飲みに来てもいいけどまた酒持ってアポ無しはやめてね?』

イケメンはわざわざ俺のとこまでやってきて頭を撫でてから帰って行きました。

…狡い、イケメンだ
年上の余裕ってすごい、偉大です…

そう思って報告書を書いていたら、何やらスプレー音がしたので見てみたらもう1人のイケメンが消臭スプレー祭りを開催していました。

…匂いの痕跡も残したくないのね
あんまりされると布団ぐっしょりだからちょっと困るんですけど…

『あの、安室さん…あんまりやり過ぎても…
匂いは取れるんですからそこまでしなくても大丈夫だと思いますよ…?』

「消臭は勿論ですが、除菌です」

『え?』

「それから臭い予防の意味もありますので念入りにしておく必要があります」

除菌てなんですか…
臭い予防って…本当に貴方も徹底してますよね…

『あの、何かお仕事でお手伝い出来ることあります?』

「ありません」

『えっと…』

「貴方はまず怪我を治すことに専念してください
話はそれからです」

それはそうだけど…
そんなに仕事はないってスッパリ言われるとそれはそれでなんだかなあ…
ていうか安室さん、昨日の夜からずっとイライラしてるよね?

『あの、安室さん?』

「はい、なんでしょう?」

立ち上がったらまた止められそうになったけれど、その手を捕まえて胸元にダイブした。

「蛍さん…?」

俺が全体重を掛けてしまったので、安室さんにタックルする形になりベッドに2人で倒れ込んだ。

『昨日からずっとイライラしてますよ
リラックス出来てないんですよね…?』

「…と言うより貴方があの男とベタベタしているからですよ
僕の気持ちを知っていながらそうやって他の男と、ましてやあの男と必要以上に親しくされるとイライラするのは当たり前です
あの男と蛍さんが旧知の仲とはいえ、くっつき過ぎです」

そっと髪を撫でつけられ、なんだかこんな空気になったのが久しぶり過ぎてリラックスするどころか心臓が元気に働き始めました。
あ、なんかとてもすごい体温が上がってきました。

『安室さん…』

「やっと2人きりですね
これで僕も少しは休めそうです」

わしゃわしゃと髪を撫でられて、久しぶりにそっとキスもしました。
幸せです。
ドキドキします。
完全に体温上昇しています。

それはいいんですけど…

『あの…ベッドが濡れててなんか気持ち悪いです』

「…暫くすれば乾くと思いますよ」

ベッドがさっきの消臭スプレーのせいで、肌に触れると布団がペタペタ張り付いてきます。

「蛍さん」

『はい』

「以前からお伝えしておりますが、僕は蛍さんと真剣にお付き合いをしたいと考えていますので」

『…お酒の話ではなくてですか?』

「違います」

そっと安室さんに手を伸ばしてみる。
恐れ多いですがイケメンは骨格まで美しいですね。
たまに安室さんは俺に唇以外にもキスすることがありますが、少し気持ちがわかりました。
これは、ちょっと堪りません。

「…珍しいですね、蛍さんからしてくださるとは」

『…久しぶりなんですからいいじゃないですか』

「ダメとは言ってませんよ」

イケメンは偉大です。
そっと髪に手を伸ばす。

あ…癖毛ですかね

「それで、あのー…答は…?」

『はい?何の答ですか?』

「僕の話、聞いてました?」

『聞いていた筈ですけど…』

何の話でしたっけ…
正直そんな話よりも今貴方を目の前にしてることの方が大事なので堪能させていただいてるのですが…

『安室さん、今日はポアロでバイトですよね?
もうすぐ出なければいけないということで俺は今のこの状況を存分に味わいます
そしたら俺も仕事に集中できますので
ということでお話はまた今度にしましょう』

胸元に潜り込むだけでこれだけの幸福感を感じられます。
本当にイケメンは素晴らしいです。

「貴方こそ、僕のスケジュールをご存知だったとは…」

『それくらいわかります』

「別に休んでも構わないのですが…」

『貴方、バイトを何だと思ってるんですか』

パワーチャージされたのでお仕事頑張れる気がしてきました。
そういえば最近ポアロにも行けてないしこの所バタバタしてたから梓さんにも会えずじまいだし。
エプロン姿の安室さんもご無沙汰してるし。

『そろそろポアロに遊びに行きますね』

「ちゃんと怪我を治してからにしてください」

『なら言わせてもらいますけど、ちゃんとベルモットと連携して組織にも集中してください
俺がどれだけデータを改ざんしたと思ってるんですか』

「わかってますよ
ですがその分貴方と過ごす時間を減らすのはスケジュール管理が出来ていないということになります」

『ですがまだ日にちが経っていないので盗聴器や発信器の類は警戒に警戒を重ねても足りませんよ
今だって盗聴されている可能性はありますから』

「その時は貴方が音声データを改ざんしてくださるでしょう?」

『…そりゃしますけど俺の余計な仕事を増やさないでいただきたいですね』

「大丈夫ですよ、その辺りもちゃんと計算していますから」

体を起こしてちょっとしっとり濡れた部屋着をパタパタとして乾かす。
そしたら後ろから顎を掴まれてちょっと強引に口を塞がれました。
やっぱり貴方もだいぶ動物的ですよ。

ていうか右側から仕掛けてくるのは反則ですよ

「貴方、寝言でいつも言ってるじゃないですか」

『はい?すみません、何か言いました?』

「貴方、寝てる間はきちんと告白してくださるのに、どうして起きている時は何も言ってくださらないんですかね…」

『あの、左側から喋っていただけません?』

体が離れ、安室さんはベッドから降りた。

『今何のお話を…』

「内緒にしておきましょうか」

ニッコリされたけどこっちはモヤモヤですよ。

「話はまた今度にしましょうと仰ったのは、貴方なんですから」

た、確かに言いましたけどね…?

「では、僕は貴方の言った通りバイトに行ってきます
ちゃんと安静にしていてくださいね?」

『しますよ』

「それから以前貴方から依頼されていた件ですが、日本での捜査協力はここまでということでデータだけお渡ししておきます」

あ、そういえば公安に捜査協力要請してたんだっけ…
もう組織の事で手一杯過ぎてちょっと忘れてたよ、すみませんね

『ありがとうございます…』

ディスクを受け取ってから見送ろうと立ち上がったら椅子に座らされた。

「行ってきます」

『あ、はい、頑張ってください…』

「何かあったらすぐに連絡してください」

『は、はあ…』

その場で送り出してから報告書に取り掛かろうとしたのだが、入れ替わりに部屋にやってきたのはコナン君だった。

『…あれ、どしたの』

「今安室さんとすれ違って雪白さんの状況は聞いたけど…
ソファー、何処行ったんだよ?」

『あ、えっとですね…』

「それにベッド、濡れてんじゃねーか
何してんだよ」

『それは、ですね…』

「それから家賃分の情報、貰いに来たんだけど」

『はい、ちゃんと払います…』

なんで俺小学生相手にペコペコしてるんだよ…
いや、家主だから仕方ない…
それに昨日の事を話すわけにもいかないし…

「で、ソファーは?」

『も、もうすぐ帰って来ます…』

「ベッドは?」

『もうすぐ乾燥します…』

「家賃は?」

『すぐに用意します…』

タブレット端末に手を伸ばしてロックを解除。

「雪白さん、もう怪我良くなったって聞いたけど…なんでまだ包帯巻いてんだよ」

『それは…傷が開いてしまいまして』

「何をしたらそうなるんだよ」

『昨日色々あったの!大変だったんだから!』

「テーブルに灰皿置いてあったけど、赤井さん?」

『え、あ、うん…
あれ、秀一、いつも掃除して帰るんだけど…昨日そのまんまにしてたのか
俺に掃除までさせるなんて…浮かれて損したな』

溜め息を吐き出して最新のデータファイルを開いてコナン君にタブレット端末を渡す。

『ちょっと掃除してくる』

「あ、さっき安室さんから雪白さんが一歩でも歩いたら連絡してって言われたよ」

『えっ…!』

手厳しい…
一歩も歩かせてくれないのか!
酷い話じゃないか

「もう病院行けば?」

『いや、警察病院に連れていかれそうにはなったよ…』

「なら行けばよかったじゃねーか…」

『安室さんも大袈裟なんだよ、過保護なの…!
これくらいの怪我普通だってのに…』

「それ、ちゃんと伝えとく」

『えええっ、怒られるだけだからやめて…!』

スマホを取り出したコナン君は長めのメールを書いていて、完全に告発されています。
今夜合わせる顔がありません。
絶対彼、笑顔で怒りながら来るよ。
わかってます。

「ねえ、雪白さん、何か言ったの?」

『え?何が?』

「今度録音した寝言聞かせてあげますって返信来たけど…」

『な、何だって…!?』

いや、確か寝言は仕事の話だと思う
聞かされるも何も別に恥ずかしいことはない筈…
だけどわざわざ安室さんが録音したってことは何か不穏な予感がするぞ…
何だろう、嫌な予感がする…

「それから本当に病院に連れて行くってさ」

『…朝の幸せを返してくれ』

久しぶりに甘えられたかと思ったらこれですか。
はあ、と溜め息を吐き出して報告書に着手することにしました。
今日は久しぶりの仕事です。
仕事で忘れましょう。

[コナン君
蛍さんにはいつも言っている寝言を録音した旨を伝えておいてくれるかな
聞かせると言えば脅しのネタくらいにはなると思うから
それから病院には強制連行するよ、連絡ありがとう
安室透]







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