1つ屋根の下に3人

「まあ、上手いことなんとかなったじゃないか」

『何がなんとかなっただよ、おかげで俺がこんな目に遭う羽目だよ
足だってなんとか歩けるけど左手が今使い物になんないの、仕事の効率だって落ちてる
本部には組織関連で怪我しましたとは言ったけど』

「ならいいじゃないか」

『何がいいわけ?そこで呑気にウイスキー飲んでるお兄さん』

ひょこひょこ歩いてキッチンからチーズを持ってきてリビングのソファーにボスンと座り込んだ。
向かいに座っているイケメンは実に呑気にしています。
はあっとため息を吐き出して右手でワインのコルクを開けた。

『それで、秀一は何か俺に報告でもあるわけ?』

「ない」

『じゃあなんでこんなとこでゆったり寛いでるわけ?』

「それはお前があの件が終わったらソワレでもしようと誘ってくれたからじゃないか、蛍」

もう忘れたのか、と付け加えられてワインを一気に飲み干した。
ジンに撃たれた左腕は重症には至らなかったものの、神経にでも障ったのか時々鎮痛剤を飲まないと痛み出す。
最近ジンに甘えまくってたバチが当たったんだろうか。

「それから彼は…」

『またすぐに俺のプライベート話に持ってくのね、わかりましたよ』

「まだ数日も経っていない、迂闊にお前に近づくとまた疑われ兼ねんだろう?」

『来てますよ、毎日』

「意外だな、あれだけの事があって
彼もマメじゃないか」

『それがまた過保護でね…ママンみたいに甲斐甲斐しくしてくれてますよ、有難いことに
自分のミスで俺を怪我させたって思ってるみたい
俺もちゃんと忠告してるんだけどね、まだあれから時間経ってないんだしベルモットと行動を共にしてくれって
ベルモットも少し勘ぐってたくらいだ、それで俺と接触してたことがわかったとなればジン様だって黙ってないよ
飼い猫に勝手に近付いてるとなれば…ジン様は俺に仕事をさせる前に勝手にクロだって決めつけて手を直接下すだろうし』

ブリ・ド・モーをナイフで切り分けて口に放りこみ、片手でワインボトルを開けようとして手を滑らせた。

『あ…』

「彼が甲斐甲斐しくするのも、そういう所を見ての事だろう」

秀一が素晴らしい反射神経でボトルを受け止めてくれました。
流石です。
そしてグラスにワインを注いでくれました。

『…ねえ、秀一
なんでこんなに世話してくれるんだろうね、全然わかんないや
確かに今回は俺が彼の偽装工作のために体を張ったとしてもさ、なーんか…やけに世話焼きなんだよ、本当にママンみたい
あ、俺のママンの事じゃなくて一般的なママンの話ね
完全に子供扱いされてるような気がして…』

ワインを飲んでソファーに横になった。

『仕事も3日は休みもらってこっちはハッキングも出来ないしつまんないのに…
警察病院に連れてかれそうになるわ三食分の料理を作り置きしておくわ、もうわけわかんないよ…
あ、秀一、パンあるからキッチンから持ってきて
勝手に食べていいよ、それとも何か作る?』

「今のお前に料理が出来るのか?」

『出来ないことはないよー?』

「安静にしてろと言われてるんだろう?」

ご丁寧にパンを持ってきてくれたこのイケメンに感謝しましょう。
ジーザス。
パンにチーズを乗せて食す。
ワインもあるので最高ですね、美味しいです。

「だがお前も軟禁宣告されたんだろう、暫く組織に集中していた方がいいんじゃないのか?」

『ねえ、俺のプライベート話だったよね?
急に仕事の話?貴方ってなんでそうマイペースなの?』

「俺よりも組織の内部情勢に詳しいのならそのくらいの事は…」

『ねえ、話聞いてた?』

体を起こしてワインに手を伸ばす。

『言っときますけどね、ジン様にちゃんと提示できるようなお仕事はしてきたしこれからもします!
今本部よりも優先度が高いのはわかってますし本部もそれをちゃんと理解しております!
つまりこういう話は秀一に言われなくてもわかってるの!
そうじゃなくて俺が話してるのは…』

「…来客みたいだな」

時計を見たけど夕食サービスのお兄さんの時間にしては早いので宅急便か何かだろう。

『なんだろ、荷物何か頼んでたっけ…』

「俺が出よう」

『え、いいよ、そんな』

「まだ俺にパンを取ってこいと言っているような奴には歩かせん」

『そんな大げさな…
まあ…じゃあ、ごめん、よろしく』

秀一は俺の頭を一撫でして玄関に向かって行きました。

…悔しいけどイケメンです
あれはなんでしょうね、年上の余裕ってやつですか

そろそろ包帯も取れそうだし、銃弾貫通しなくてよかったと思うよ。
多分それはジンなりの俺への忠告だったんだろうし、そこは飼い主の優しさというやつなんだろうか。
いや、そこまで優しかったか怪しいな。
まあ、意外と優しい所はあるようなないような。

『ん…?』

ワインを飲んでいたら、吹き出しかけました。
玄関の方でなにやら物音がします。
嫌な予感しかしません。
まさかこれは宅急便でもなく単なる来客でもなく、夕食サービスのお兄さんですか。

う、嘘…
ヤバい、秀一行かせちゃったよ、えー、どうしよう!

慌ててワイングラスを置いて立ち上がり、片足を引き摺って玄関に向かったらそこでは既に戦闘が繰り広げられていました。

『タイム!ほら、何してるの、いい大人が!』

間に入ったら二人ともぴたりと動きを止めました。
恐らく以前玄関で俺を吹っ飛ばした事をちゃんと学習している模様です。

「蛍さん、安静にと言いましたよね?
あれほど歩かないようにと…」

「蛍、来客の相手を俺に任せたのはお前じゃないか」

『…とりあえず、玄関荒らすのやめて』

ため息です。
再びリビングに戻り、俺の前には秀一、隣には安室さんがいらっしゃいます。

「また午後からワインですか…」

『いいじゃないですか、仕事もお休みなんですし
明日からやっとお仕事できるんですから休日に酒飲んで何が悪いんですか』

「そうだ、蛍、例の事件の情報の報酬を昨日振り込んでいた筈だ
確認しておいてくれないか?」

『ええ?
そういう事は先に言ってよ、呑気にウイスキー飲んでないで…』

タブレット端末を取りに行こうとしたら隣から手が伸びてきました。

「安静にしてください」

『あの、十分安静にしてません?』

「貴方は目を離すとすぐに無茶な事をし兼ねませんから
端末なら僕が取ってきます、その間にその男を追い出しておいてくださいね」

「期待に添えなくて申し訳ないのだが、酒を飲んでいてな
帰る手段がなくなったから今日は此処で過ごすつもりだ」

「なら飲酒運転で逮捕されるといい」

貴方、なんでたまにそうムキになるんですか…
大人気ない…

安室さんが部屋に向かうのを見て、秀一はマッチを擦った。

「やれやれ、相変わらずだな」

『それで…今日泊まるっていうのは本当なの?』

「ああ」

やりました!
今日の添い寝イケメンをゲットしました!
しかし心中穏やかではありません…
イケメンに囲まれるということは世間的にとても恵まれた素晴らしいことだと思いますが、よりによって因縁の仲の二人を同じ屋根の下に入れるということはかなり厄介な展開になってしまいました…

「蛍さん、いつの間にタブレット端末直したんです?
あの時確か画面まで割れて、損傷も激しかったような気がしましたけど」

『ああ、simカードは抜き取っておいたんで新しいタブレット端末を買いました』

「貴方、まさか出歩いたんですか?」

『貴方が甲斐甲斐しくするから一歩も出られないのご存知でしょう!?
ネットで買いましたよ!
仕事道具なんで有料会員の当日配達ですよ!』

「そうですか
貴方のことですからまた無茶して外出したのかと思いましたよ、猫はすぐに家から抜け出しますからね」

タブレット端末を押し付けられ、ちょっとムッとして受け取った。
そのまま安室さんはキッチンへ向かって行ったのだが、途中で足を止めて振り返った。

「最初に言っておきますけど、貴方の夕食はありませんから」

「ああ、構わん
俺は蛍の手料理でもいただくとしよう」

え…さっきの話、本気にしてたんですか?
俺、酒飲んでたから調子付いて言っただけですけど…

「蛍さんに料理をさせる気か?」

「蛍がさっき何か作ろうかと自分で言っていたぞ」

『え、あ、いや、その…だから冗談ですってば!』

安室さんがジローッと見てきたので慌てて弁解。
全く、過保護な人がもし飼い主になったらと思うとちょっと先が思いやられる。
ジン様に捨てられた後は甘えさせてもらえそうだけど、なんか監視されそう。

『秀一も余計な事言わないでよね…』

「俺は楽しみにしていたんだが?」

『え…』

フッと笑った秀一は煙を吐き出して灰皿に煙草を置いた。

「蛍さん」

『はい?』

「料理したら、わかってますよね?」

『は、はい…』

「わかってらっしゃるならいいんです」

安室さんは満足そうにキッチンに入って行きました。
先が思いやられます。

「蛍」

『パンとチーズなら食べ放題だよ
それからキッチンにピスタチオと冷蔵庫に燻製チーズならあるけど…』

「そうじゃない」

『じゃあ何?』

「夕食、作ってくれないか?」

『ねえ、俺の状況わかってる?』

どこまでもマイペースなこのお兄さんをどうしていいのかもう俺にはわからない。
ため息を吐き出して立ち上がり、キッチンに入ろうとしたら何かに衝突した。

『おっと…』

「蛍さん?」

イケメンの壁でした。

『…えっと、冷蔵庫覗くだけです』

「キッチンには入らせませんよ」

『…じゃあ冷蔵庫の中の物取ってください』

とりあえずオイルサーディンの缶とチーズを要求して出してもらった。
それから野菜も取ってもらって仕方なくリビングでサラダを作ってやり、缶も開けてチーズも皿に開けてどうぞとテーブルに置いて差し出した。

「ほとんどつまみじゃないか」

『文句言うなら食べないでよね、今キッチン入れないんだから…』

「いや、十分だ」

『ならなんで文句言ったんだよ…』

もうイケメンの思考回路が本当にわからない。
まあ、お酒でお腹いっぱいになってくださるならいいですよ。
ボケーッとイケメンを眺めていました。

『秀一ってさ、なんで女運悪いんだろうねー…
つくづく不思議に思うよ、まあ、彼女に関しては何も言わないでおいてあげるけど』

「お前ほど悪くはないさ」

『おい』

「お前は話を聞いていて飽きないくらい男運が悪い
またどんな男に引っかかったのかと思うと可笑しくて仕方ない」

『もういいじゃん、今は安定してるんだし』

「ちゃんと行く所までは行ったんだろうな?」

『え?どこまで?』

「まだキス止まりだなんて言ってくれるなよ」

『そこまでだけど、何か?
至って順調かと思ってますけど…何か?』

「大問題だな
そこまで奥手だったのか、それともお前がただ馬鹿なだけなのか…」

「すみませんねえ、貴方が所望しているような進捗報告もなくて」

コトリとテーブルにドリアを置かれて思わずギョッとして顔を上げた。
家庭的イケメンの登場です。

「ということは、やはり蛍がただの馬鹿猫なだけか
どうせ君もそこそこ手は出しているんだろうし、空回ってるだけだろう
それかこの馬鹿猫のペースに振り回されて思い通りに事が進んでいないか…」

「これ以上口を開くなよ」

「図星だったか」

「黙れ、赤井秀一!」

「ほう、今日は一段と威勢がいいじゃないか」

あ、あれ…ちょっと待って、なんでまたこの流れになるの…

秀一も煙草を灰皿に押し付けて立ち上がりました。
安室さんも戦闘態勢です。
ちょっと待ってくれ。
これじゃあ落ち着いて食事もできないじゃないか。

『あの、食事中にそういうことやめてくださいね』

いただきます、とスプーンに手を伸ばした瞬間だった。

『ちょっとおおお!
やめてくださいって言いましたよね!?』

制裁のお時間です。
スプーンを投げて二人の関節にそれぞれ一発ずつ入れて、お酒が入っていたのでちょっと手荒になってしまいましたがある程度動けないくらいにはしておきました。

「蛍…」

「飲み過ぎです…」

床に崩れ落ちたイケメン達は放っておいてご飯を食べましょう。

『いただきます!』

美味しいです。
今日はポルチーニ茸とチーズがたっぷり入ったドリアです。
いいですね。

『なんかお酒入ってるからかな、足の調子もいいし…支障なさそうだな』

撃たれた足がいつもの軸足だったのですが、これだけ動いてもなんともなかったということはもうほぼ完治ですね。
ご機嫌でドリアを食し、皿をキッチンに戻しに行こうとしてハッとした。

あれ…足、動かないんだけど…

『あれ、おかしいな…』

「蛍、俺達にあれくらいのことをする程体力が有り余ってるのはわかったが…」

「相変わらず無茶をしてくださいますね、貴方って人は…」

ため息を吐き出した安室さんは立ち上がって俺を抱き上げた。

えっ、何、秀一の前でやめてくださいよ
こういうじゃれあいって人に見せるものじゃないですよね?

「蛍さん、鎮痛剤で痛みを抑えているからといってどうしてあんなことが出来るんですか!」

鎮痛剤…

嫌な予感がする。
足は動かないしなんとなくズボンが濡れているような気がする。
そっと手を宛ててみて、顔が引き攣った。

『こ、これは…ま、まさか血なのでは…』

「傷口が開いたんでしょうね
そしてそれに気づかず優雅に食事をなさるから…」

見下ろしたソファーには赤い染み。

『うわあああ、嘘、これ…』

「業者のクリーニングに出さないといけなさそうですね」

『嘘でしょ…これ、幾らするの…』

二人のせいで発生する修繕費やクリーニング代を事前に阻止した結果、自分がクリーニング代を払う羽目になりました。

「悪いが蛍、今回は俺も彼もクリーニング代を請求される権利はないからな」

「今回は流石に僕も払う義務はないですよね?」

『……』

た、確かにこれは俺の失態だ…
だけどさ、一つ言わせてよ
この事の発端はやっぱり貴方達ですよね!?
俺にそうまでさせたのは絶対貴方達が原因ですよね!?

「早く業者に連絡しましょう、血液なので時間が経てば経つ程落としにくくなりますし」

「なら君が連絡してくれ
俺は蛍の足でも診てやろう」

「余計な事をするな」

「効率がいいと思って提案したんだが」

もう、どうでもいいから業者に連絡して…
お金も全部払うよ…

『…やってらんない』

この二人には付き合いきれません。
やはり別々に会う方がいいのかもしれません。
イケメン二人に囲まれて最高とか言ってるとこういう事があるんですね。
もう十分わかりました、身に染みましたよ。

ところで安室さん、貴方はいつまで俺を抱き上げたままにしておくつもりですか?
業者の連絡ならもう慣れたので俺がしますからお皿洗いだけお願いしたいんですけど…





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