組織の捜査命令

今夜はパリの郷土料理というか名物料理を振る舞いました。

『んーと、確かこれを入れて…お次はこれで…』

ご機嫌です。
仕事終わりのイケメンがもうすぐやってくるようです。
さっき連絡がありました。
もうすぐ出来上がりだし、フランスパンもいい具合にオニオンスープに染み込んでいるのでちょっとパセリで彩りを添えます。
それからフランス料理ではありませんがイル=ド=フランスではよく見るアフリカ料理のクスクスです。

『Mnn...c'est parfait! Je suis prêt!』
(んん…完璧!準備でーきた!)

ダイニングに皿を持って行って椅子に座って待っていました。
まだかなー、と時計を何度見ても全然時間が進みません。
時計が壊れて止まってるんじゃないかと疑ってしまいます。

『遅いー…お仕事だからって遅いと思うんだけどねえ…
これ冷えちゃうよ?
さっき連絡してきたのは何だったの?
それに合わせて作ったつもりだったんだけど…?』

ちょっとイラッとしました。
むーっしてそのままでいたら呼び鈴が鳴ったので、小走りで玄関に向かってドアを開けました。

『遅かったですね!』

「すみません、少し仕事で手間取ってしまいまして…」

相変わらずイケメンですね、いいことです。

「怒ってらっしゃいます?」

『いいえ!全然怒っていませんよ!』

「怒ってるんですね…」

『冷えたらどうするんですか
安室さんが来るっていう時間通りにちゃんと作ったんですけど!』

「すみませんでした
そろそろ機嫌を直してくださいませんか?
こうして話している間にも、折角の手料理が冷えてしまうのでは?」

『あっ、そうでした』

「だんだん貴方の扱い方がわかってきました…」

ダイニングに行ったら、安室さんは足を止めました。

「いい香りですね」

『一応本部のあるパリ、イル=ド=フランス地方の料理なんですが…』

「Soupe à l'oignon、ですね?」
(玉ねぎのスープ)

『え、ええ…』

「こちらはクスクスですか?
クスクスといえばアフリカ料理だと記憶していましたが…」

『フランスは多民族国家なので移民も多いですし、ほら、モロッコからの移民も多いです
そのためアフリカの食文化も楽しめます
フランスではクスクスは一般的ですし、今回は鶏肉のトマト煮込みと合わせてみました
クスクスは世界一小さなパスタとも称されますし、トマトとの相性もいいんですよ』

着席して目の前のイケメンにワイングラスを差し出す。

「あ…車で来ているのでアルコールは結構ですよ」

『ええ、知ってますけど?』

「…それは今日は帰さないというつもりですか」

『…そ、それは…』

「わかりましたよ」

おおお、今日の添い寝イケメンゲットです!
作戦成功ですね…
まさかこんなにあっさりと折れていただけるとは思いもしませんでした
もっと手強いかと…

「ではいただきましょうか
蛍さんの手料理は見た目も綺麗ですね、食欲をそそられます」

よいしょがお上手ですね、相変わらず…
しかし喜んでもらえるのは素直に嬉しいです

2人でいただきますをして、今日はボルドー産の赤ワインです。
ちゃんと輸入食品店で選んできたものです。

あ、もしかして安室さんがお酒飲んでることってないよね…?
珍しいよね?
こ、これはレアです…!
でも仕事柄飲まない方なのかもしれません…

「とても美味しいですね
フランスパンもスープの味が隅々まで染み込んでいます」

『…久しぶりに作ったのでちょっと心配だったんですが、そう言っていただけて安心しました』

「玉ねぎの甘みも十分に感じられます
素材の旨みが凝縮されたスープです」

『…そ、その、あんまりそうお世辞を言われても…』

「お世辞ではありませんよ?」

またまた…

お酒が進みます。
美味しいです。
久しぶりのオニオンスープもなかなか上手く出来たのではないでしょうか。
クスクスも今日は鶏肉を結構煮込んだので柔らかくなったかと思います。

『うん…悪くないかな…』

大丈夫そうです。
人にはお出しできます。
安室さんも食べてくださってます。
イケメンのお食事姿です。

「そういえば蛍さん、貴方、最初来日された際に母親に会いに行くとコナン君に説明されていましたよね?
会いに行かれたんです?」

『…えっと、それは…』

「まあ、無理もありませんよね
お母さん、パリにいらっしゃるんでしょう?
何故そんな嘘をつかれたんです?」

『…それは、ですね…』

「お父さんもフランスにいらっしゃるんでしょう?」

『そう、ですね…』

この人…また俺の端末覗き込んだな…?
いや、もしくはハッキングされたかのどっちかだな…
という事はデータが抜かれてるってことか
ちょっと困ったな…

「ああ、そう警戒しないでください」

『……』

「貴方の端末をハッキングしたかどうかで言えば、していません」

『…公安の端末ですか』

「というより僕の情報網です」

『…尚更不快です』

「いいじゃないですか、許してくださいよ
別に隠すことでもないじゃないですか
"ジャンダルムリ"
素敵なご両親じゃないですか、フランス国防省及び内務省の管轄下にある国家憲兵隊…
軍警察の2人の間に生まれた貴方がDGSEに入ったのも、その影響で?」

『いーえ、反面教師です』

「反面教師?
それはまた意外な答ですね」

『もういいじゃないですか、そんな話
そこまでわかってるならもう調べたんでしょう?
両親のことも俺のことも』

「ええ、まあ、調べはしましたけど」

『じゃあいいじゃないですか、ご飯が不味くなります
金輪際俺の前で2人の話はしないでください』

「餌のくれないご両親を飼い主とは認めないんですね」

『飼い主はジン様だけですから』

「随分と従順なんですね」

『俺の勝手ですよね?』

「そうですね」

『…ママンは優しかったので餌くれましたけどね』

そう言ってクスクスを頬張ってワインを飲み干した。
安室さんは珍しくワインを注いでくれて、自棄酒に加担してくださっています。
悪くないです、イケメンとの自宅ディナー。

『…っ』

「蛍さん?」

あれ、お酒の回りが速いです…
ちょっとダウン寸前です、頭がぐるぐるしてるのは…

「蛍さん、どうしたんですか!?」

『そういえば、薬を飲んでいました…』

「ええっ…」

『最近耳鼻科で処方されたもので…』

「貴方、何かまた問題あったんです?」

『いえ…気休め程度に処方されたものですけど…
まあ、試しに飲んでみただけってやつですかね
ちょっと…すみません、少し休みます』

普段薬なんか飲まないからすっかり忘れてたよ…
全く…
何やってんだか

立ち上がってからふらりとしてその場に座り込んだ。
酔いが回ってぐるぐるしてる。
これは一大事だ。

「蛍さん、ベッドまで運びます」

ヒョイッと抱き上げられたので、思わずイケメンの胸板に縋り付いてしまいました。
うっかりミスとはいえこれはラッキーです。
棚からぼたもちというやつでしょうか。
最近慣用句も覚えたんですよ。

イケメンに抱っこ…
ちょっと幸せです、不謹慎でごめんなさい

ベッドに降ろされた時におでこにチューされました。
もう、なんなんですかね、最近。
スキンシップばかりじゃないですか。
もう猫じゃないんだからって言ったの貴方ですよね。

じゃれあい…ですかね
ねえ、安室さんて本当に俺の事猫扱いしてるの?
俺、ジン様以外に猫扱いされるのもちょっと嫌なんだけどなあ…

「おや、電話ですね」

『え?』

「確かこの着信音、貴方の飼い主ですよね?」

『ご、ごめんなさい、取ってください!
2コール以内に出ないと…!』

携帯を放られたので慌てて通話ボタンをタップした。

『も、もしもし、ジン様…!?』

[アンジュ、仕事だ]

『え…?夜に、ですか?』

[この前ベルモットと話した時にお前の耳が死んでたから聞いていなかった筈だ
ネズミ駆除の前に洗っておけ]

『…はい、わかりました
それで、どなたについてですか?』

[最近コソコソしているらしいな
お前が一度接触したことはベルモットから聞いている
コードネームも知ってる筈だろ]

コードネーム…?
ということはわりとそこそこの人物ということですね…

『珍しいですね、コードネーム級の構成員の炙り出しなんて久しぶりな気がしますけど…
ジン様の目に留まるような方、俺が接触した中にいらっしゃいましたっけ?
それともあの方からのご指名ですか?』

[いや、俺の独断だ]

でました、独断…!
流石俺様です!

っと感心してる場合じゃなかった。
急いでタブレット端末を片手で引き寄せ、ロックを解除。
組織の構成員リストを開いてみるが思い当たる節がない。

誰だ…?
ジン様が目をつけるような奴なんて今の所コードネーム級の構成員には…

[バーボン]

『……え?』

ちょっと待て。
思わず横目でイケメンを見てしまいました。

[お前の睡眠時間は確保してやる
12時間以内だ
奴がクロだとわかればすぐに始末する
白状させる猶予くらいは与えてやるつもりだ]

『……わかり、ました』

電話が切れて、頭を抱えた。

「蛍さん…?」

困ったことになりました。

『…安室さん』

「はい」

『…近日中にジン様から呼び出しがあると思います
それなりに覚悟しておいてください』

安室さんは何かスイッチが切り替わったようです。
安室さんモードが完全に解除されました。

「…わかりました
貴方も恐らくジンの言いつけで僕には事情が話せないのだと解釈します
わざわざご忠告をありがとうございます」

『…すみません、俺もそれなりにデータは改ざんする予定ではありますがジン様のことですから警戒して損はありません
暫くベルモットと行動してください
きっと彼女は俺より明確な事を言ってくださる筈ですから
…気をつけてください』

「ええ、そうした方が良さそうですね
次に会う時は、貴方はきっと猫としてジンの側に控えらているんでしょうね
少しでいいので寝てください、諸々あるとは思いますが」

『そうですね…仮眠は取っておきます
お皿はそのままて構いません、フランスでは客が皿を洗うのはホストに取って失礼な行為に値しますので』

「わかりました」

そっと端末を抜き取られてテーブルに置かれた。

「では失礼します、おやすみなさい」

『……』

本当に、気をつけてくださいね…
俺も出来るだけの事は致しますので

添い寝イケメンを逃してしまいましたが仕事なので仕方ありません。
それに帰られたということは、安室さんはワインに手をつけなかったということですね。
本当に用意周到な方ですね。
俺に酒を勧めるだけ勧めておいて、自分は飲まないだなんて。

貴方、ちょっと狡いですよ…






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