スーツにバゲット

オススメされたバーで飲み明かすことにした。
酔ったのを見計らってバーに入って30分後、服の袖に付けられていた小型の発信機を壊してやった。
そしたら俺が取り付けた盗聴器もいつの間にか壊されていたので、まあ、最初からわかられていたんだろう。

「おはようございます」

一夜明けて、この大きな屋敷で一人目覚めた。
寝心地よし。
広さよし。
誰もいないから使い勝手もよし。

まさに天国…!
なんて良いところなんだ、ここは!
いやー、コナン君、本当にありがとう!
いや、ここはコナン君に提案してくれた秀一に感謝すべきか…!
いずれにしろありがとう、世界…

いつもの癖でほぼ全裸で寝ていたので解放感抜群だし朝のシャワーを浴びながら鼻歌を歌っていた。
そこで大事なことに気付いた。

あれ…?
昨日スーパー行かなかったけれど、冷蔵庫に何か物あったかな…
それかパン屋さん開いてるところあったかな…
朝ごはんのことすっかり忘れてたな、折角警察庁にお邪魔するのに気合入れて行こうと思ったのに朝ごはん食べないで行くのもなあ…

シャワーの後で冷蔵庫を開けてみたらやっぱり何もなかった。
家主のいない空き家だったんだからそりゃそうか。

『…困った』

髪を乾かしてセットし、とりあえずスラックスを履いてワイシャツを羽織る。

昨日安室さんにパン屋さん情報も聞いとくべきだったな…
とりあえず何か買いに行くか…

ピシッとした皺一つないスーツを着ていつものアタッシュケースを持つ。
工藤家を出ると、そこは日本の街並みだった。
当たり前か。

いや、パリの街を見過ぎたな…
そういえば阿笠さんの家、近いんだな
てことは…

『哀ちゃんに相談すればいいんだ!』

「悪いけど、もう学校行くわよ」

『え?』

後ろを振り向いたら、呆れ顔の哀ちゃんがいた。

『哀ちゃーん、おはよう、いい朝だね
カフェの一杯でも…』

「学校って言ってるでしょ」

そう言って歩き出してしまったので慌てて追いかけて隣を歩く。

『哀ちゃーん』

「……何堂々と私の隣歩いてんのよ」

『いいじゃん
ねえ、この辺てパン屋さんないの?
朝ごはん食べてなくて…』

「パン屋くらいあるわよ」

『ほう、良い事を聞いた
で…それはどこに?』

「もう50m前に通り過ぎたわ」

『ちょっと…!』

「安心しなさい、246m先を右に曲がって58m進んだ所の交差点を渡って324m進んだ所にもう一軒あるわ」

『いや、今の説明全然わかんない…』

「じゃあこの通りの向かいにあるパン屋さんならどう?」

『近くにあるんじゃん!』

「貴方、そんな格好してどこ行く気?」

『今日は警察庁に挨拶に行くからな
昨日アポ取ったらあっさりOKしてくれてさ』

「貴方お得意のコネ作りなのね
それよりいつまでついてくる気なの?
そんな格好の貴方の隣を歩いてるとかなり目立つのよ」

「…あ、哀ちゃん、ボディーガードさん?」

「すっげー、灰原ってボディーガードがいたのか」

「灰原さんのボディーガードさん、外国人さんなんですね!」

…小学生にまで哀ちゃんモテモテじゃないか

「貴方たち、何か誤解しているようだから言っておくけどこの人はそんなんじゃなくて…」

『コンニチハー、ワタシ、灰原サンの…』

「貴方も調子乗らないで!」

「あれ、雪白の兄ちゃん?」

『あ、コナン君』

「コナン君、この外人さんと知り合いなの!?
哀ちゃんのボディーガードさん!」

「灰原の、ボディーガード…?」

「違うわよ、ただのスーツを着た半外国人よ」

半外国人て、あのね…哀ちゃん…

「雪白さん」

コナン君に袖を引かれたので目線を合わせてやった。

「あのさ、本当に今日行くの?」

『警察庁に行くんだ、ちゃんとしたスーツ着てるだろ?』

「アイツらにボディーガードって言われてたけど…」

『ああ、外人て言われたからカタコトで喋ってみた!
小学生には意外と通用するもんだな、いっそこのまま哀ちゃんのボディーガードになっちゃおうかな…』

「やめとけって…」

苦笑したコナン君は小学生三人を見た。

『朝ごはん食べたらすぐ出向くよ
楽しみでしょうがないね、カタコトの日本語も通用するみたいで楽しそうだし』

「本当に実践すんのかよ…」

『うん、してみる
俺、ちゃんとミドルネームあるし向こうではそっちの名前で通してあるからフランス人って信じてもらえるっしょ』

「お前、本当に楽観的な奴だな…」

「コナンくーん、遅れちゃうよー?」

「おう、今行く

あのさ、灰原のことそんなに好きなのか?
ロリコンじゃねーか」

『だから、俺はロリコンじゃない…!』

なんて生意気な小学生だ。
校門まで見送ってやってから、哀ちゃんに教えてもらったパン屋へ向かった。

バゲット…バゲット…
あった、やっぱりこれはストックしとかないと
それからパン・オ・ショコラを…
これで当分朝ごはんには困らないだろう

「ありがとうございました」

店を出てから気付いた。

『…あ、直接警察庁行く予定だったんだ』

「貴方がバゲットを持っているだけで、日本がパリの街になったかのように見えますね」

この、声…

「お困りですか?」

『安室、さん…』

店の前に停まっていた白いRX-7の前に立っていたのは昨日出会った組織の人間の疑いのある人間。
しかもイケメン。
しかもわざわざ道案内までしてくれた優しそうな人。

『おはようございます、どうしたんです?』

「たまたま通りがかったんです
スーツ姿もお似合いですね、何処かへ行くところだったんです?」

『ええ、今日はちょっと社会科見学に出掛けようかと思っておりまして…
あ、それから昨日はありがとうございました
雰囲気のいいバーでついつい飲みすぎてしまいました』

「いえ、あれくらいのこと…
立ち話もなんですし、乗っていかれます?
送りますよ、それに社会科見学なのにそんな大量のパンを持っていかれるんです?」

苦笑。
毛利小五郎の弟子って言ってた気がする。
流石というか、ここまで見抜かれるとは。

『じゃあ、すみません、家にパンだけ置いて…』

「寄り道くらい構いませんよ、どこまで送りましょうか?」

『えっと…警視庁までお願いします』

なんて優しい人なんだろう。
なんてよく出来た人だ。
助手席に乗り込んでシートベルトを締める。

あ…女の人の匂い…

『えっと、今家を間借りしてまして…』

「ええ、存じ上げています、コナン君から聞いてます」

『あ…そうですか』

工藤邸まで戻ってきたので、すぐ戻りますとパンをキッチンに置いてから車に戻る。

「警視庁に用事なんですか?」

『ええ、昨日飲みすぎた客に絡まれてしまいまして…』

「それは災難でしたね…」

赤信号で停まった時にチラッと見てみると、正面を見据えている安室さんの横顔。

いや、イケメン…
イケメンすぎるよ、これは…フランス人もびっくりだよ

「着きましたよ」

『あ、ありがとうございます』

「これ、僕の連絡先です
私立探偵をやっているので日本でお困りの際にはこちらにご連絡ください」

『あ、ありがとうございます…』

隙がない…
なんというイケメンなんだ…

アタッシュケースを持って車を降りる。
これが警視庁か。
ビルを見上げてから振り返った時にはもうRX-7はいなくなっていた。
しかし今日行くのは公安である。
警視庁と安室さんに嘘を言ってしまったのは申し訳ないが、隣の警察庁まで歩いて行く。

あ、どうせならバゲットでサンドイッチ作って欲しかったなあ…
今度そういうのやってくれないかきいてみようかな
連絡先、ゲットしちゃったし…

やったー…と静かに喜んでからそれを胸ポケットにしまい、警察庁のビルへと足を踏み込んだ。
事情も説明してDGSEの登録証も提示したらあっさり入れた。
チョロいもんだ。
それからアポを取っていると説明して連れてこられたのは警察庁警備局警備企画課。

『Thank you for your guide.』
(案内ありがとうございます)

案内された部屋の前で再度スーツを払い、埃を落として身だしなみも整える。
日本の公安の方は俺が頷いたのを見てドアをノックした。

「降谷さん、昨日お話があった通り、フランスからDGSEの情報局の方がいらっしゃいました」

「通してくれ」

ん…?
なんか、聞き覚えが…

『あの、コンニチハ…DGSEから来マシタ、ルイ=クロードです』

ドアが開いたので、さっきのカタコト日本語作戦で攻めてみたのだが。

だが。

「これはこれはフランスからわざわざご足労を…
Enchanté, M.Louis-claude. Je m'appelle Rei Furuya.
Je suis braiment heureux de vous connaître.」
(初めまして、ルイ=クロードさん。
降谷零と申します、お会いできて光栄です。)

えっと、これは…

『…Enchanté?』
(…初めまして?)

にっこり笑っていたのは、さっき警視庁まで車で送ってくれた筈の安室さんだった。
バタンとドアが閉まる。

『…あの、テレポーテーションですかね…』

「何を仰ってるんです?」

『…じゃあ、とりあえず、サンドイッチとカフェを』

「ここは喫茶店じゃありませんよ、雪白さん」

で、で、ですよねー…







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