2人は1人、お惚気タイム。

あれから数日、ちゃんとお仕事をして普段通りの生活をしておりましたが困ったことが一つあります。

『…き、消えない、何故だ…』

先日肉食系イケメンに付けられたキスマークとやらが残っているのです。
うっすら色は以前より薄くなっているものの、まだ形がわかる。
今日は本部からの通達で公安と連絡を取って合同捜査をしてくれとのことで、警察庁に行かなければならなくなりました。

…まあ、ボタン全部閉めたらいけるよね

うん、と自分で納得してから警察庁にアポを取ってからワイシャツを着てスーツを装着、仕事モードオン。
ですが。

『…なんかすっごいギリギリのラインなんだけど大丈夫なのかな、これ』

苦笑。
一番上のボタンまで閉めてネクタイもしたのに、うっすら赤いのがギリギリラインで見え隠れしています。

『…でも、行くしかないよね
仕事、仕事だから誰もこんなとこ見ない、見ない…よし』

切り替えていこう。
タクシーを捕まえて警察庁まで向かい、ネクタイを詰め直していつもの部署へと向かった。

「クロードさん、ボンジュール!」

『み、皆さんこんにちは
とってもいいお日柄ですね、素敵です』

「きょ、今日は雨ですけど…」

『あ、そ、そうでしたね…』

俺が動揺してどうする。
早速ドジをやらかし、もう帰りそうになった。

『あの、一応お話はメールで連絡させていただいたのですが…』

「ええ、降谷さんが部屋でお待ちです」

『そうですか、ではお邪魔しますね』

部下さんはいつものように親しくしてくださいます。
本当に上司のご指導が行き届いた仕事場です。
いつものように部屋に向かいました。

「……クロードさん、なんか様子変でしたね」

「相変わらず綺麗な人だと思いましたけど…?」

「いや、何かいつもと違うといえば…スーツの着方か?」

「そういえばいつも襟開けてますよね…?
今日、確かボタン全部閉まってましたね」

「「……何事だ!?」」

いつもの部屋に到着して、ふうっと一息ついてから部屋のドアをノックした。

「どうぞ」

ん?

後ろから聞こえた気がして振り返ったら、降谷さんでした。
部屋にいらっしゃるんじゃなかったんですかね。
俺の後ろから部屋を開けた降谷さんにそっと背中を押されて部屋に押し込まれた。

な、なんかこうして仕事場で会うと変な感じする…
ていうか今日のおスーツ素敵です…
うわああ、素敵…改めて見ると安室さんと別人ですよねえ…
いや、これもこれで本当に素敵なんでとろけそうなんだけど…

「…さん、蛍さん」

肩を叩かれて我に返った。

『あ、はい、降谷さん、何でしょう?』

「何でしょうではなくて、お仕事を持ってこられたのは貴方ですよね?」

『あ、はい、そうでした
あのですね…えっと…その…』

ダ、ダメだー…!
なんか余計意識しちゃってなんか普段通りがわからなくなってる…
俺、今までどうやって降谷さんとお仕事してた?
俺、今までどうやって降谷さんとお話してたっけ?

「…此方も都合ってものがあるので手短にお願いしたいのですが」

『あ、はい、そうですね、て、て、手短に…』

「どうしたんですか、今日は」

『いえ、何も…
えっと先ほどメールでご連絡した時に添付した資料ですが…』

デスクに座った降谷さんにディスクをお渡ししました。

「…例の物ですね
資料には目を通しました、こちらで調べておきます
これは参考データとして活用させていただきます」

『……』

なんか、降谷さんてこんなドライだったっけ…

「何か?」

『い、いえ…よ、よろしくお願いします…!』

「よろしくお願いします
今日は襟の開いたシャツではないんですね」

『だ、誰かさんに指摘されたからです!』

「それだけですか?」

『え?』

ふっと不敵に笑った降谷さんはディスクを片手にじろりとこちらを上目使い。

うおおお、なんですか、貴方…!
ただでさえスーツで俺動揺しまくってるのに、そんなポージングします!?
雑誌に掲載されるレベルですよ!?
ねえ、貴方イケメンの安売りだってわかってらっしゃいます!?

「スーツの時でさえ第1ボタンを開けている貴方が今日は全部閉めてネクタイもキッチリ上の方で硬く結ばれて…
何かございました?
何か隠すような物でも、あるんですか?」

『……』

こ、これは…わかられているようです
まあ、事の発端は貴方ですからね?

『で、では失礼します!』

「まだ話は終わってませんよ」

あああ…

部屋から出ようとしたら腰をぐっと引き寄せられて逃亡失敗。
しかも降谷さんです。
安室さんではありません。
降谷さんにこんな事されたの初めてだと思います。

ひえええ、スーツの破壊力ヤバい…!
なんでこんな心臓が、動いてるの…!?

「もう一つ、付けておきましようか?
今度はワイシャツを着ても隠せないような場所に」

『あの、降谷さん…俺…』

「冗談です
仕事中ですからそんな事はしませんよ」

じゃあなんで言ったんだよ…!
もうまた振り回してくれたな、なんかペース乱れる…!
もうややこしいんだよ、降谷さんて人は…!

「落ち着きがないですよ、今日の貴方は
それでも諜報部員の人間ですか」

そ、そんな…そこまで言われる筋合いある…!?
大体貴方が原因なのであって…

『誰のせいだと思って…!』

「大声を出さないでください」

『あのですね…』

「その口、塞がれたいんですか?」

くるっと体を反転させられ、ピトッとイケメンの人差し指が唇に触れました。
ふわあっと余分な力が抜けそうになりました。

イケメンです…
スーツ…あ、イケメンの指…

思わず舐めてしまいました。
しまった、オフモードになってしまった。
慌てて降谷さんの手を離して距離を取ったら、一歩近付かれた。

『と、と、ともかく、今回も合同のお仕事として捜査に協力していただけたらと思いますので、どうぞよろしくお願いします…!
か、帰ります、あの、はい、そういうことで…』

「はい、畏まりました
いつもお世話になってますのでこちらも合同捜査として真摯に取り組ませていただきます」

この切り替えの速さ…!
降谷さんは一枚も二枚も上手過ぎてどうしようもない…
手に負えない…
安室さんのあの優しさは何処に行ったのかな…

『……』

でも、カッコいいから何も言えない…
あ、激レアスーツ姿をしっかりと目に焼き付けておかないと…
はああ、ため息が出るほど素敵です…
よし、堪能したぞ、切り替えなければ…

『では、そういうことで!失礼します!』

もうお腹いっぱいです。
警察庁を後にして、今日は都内で最近噂のガレット屋さんでランチをすることにしました。
なかなか美味しいです。

全く、なんでこうなったかな…
なんか降谷さんのペースってよくわからないや
安室さんの時と大違いだよ…
とうせこれでまた夜何事もなかったかのようにやって来るんだよね?
わかってます、別人と思っておいた方が得策かと思います…

帰り道、いつものパン屋さんに寄ってバゲットとパン・オ・ショコラを買って歩いていたら、学校帰りの小学生達に出会いました。

「哀ちゃんのボディーガードさんだー!」

「クロードさん、こんにちは!
今日もお仕事だったんですか!?」

『そうだよ、ボディーガードに休日はないからね』

ジロッと哀ちゃんに睨まれました。
そしてコナン君にも何か見られました。
小学生達と途中まで一緒に帰っていたら、コナン君は家まで来ると言ってきました。
まあ、仕事と言ってしまったので組織の事でも気になっているんでしょう。
情報提供くらいはしてあげましょう。

「貴方、なんで今日そんなにキチッとスーツ着てるのよ」

コナン君と哀ちゃんと3人で歩いていたら、突然そんな事を聞かれたのでギクリとしてパンの入っている紙袋を抱え直した。

『し、仕事だって言ったじゃん、聞いてなかったの?』

「貴方のスーツ姿は何度も見てるわ
今更分かりきったこと言わせないでくれる?」

「雪白さんさ、何か隠し事でもしてる?」

『…やだな、そんなんじゃないって』

言ってくれるじゃないか、このマセガキ共め…

「まあ、貴方がどうしようと勝手だけど…この前の薬のお礼くらいしてほしいわね」

『あれ薬じゃなかったじゃん、すっかり騙されました
お礼なんかしません』

「残念だわ、折角貴方の性格を考えてしてあげた善意だったのに」

『余計なお世話です!』

哀ちゃんを阿笠邸まで送ってから、コナン君と工藤邸に戻りました。

『あー、もう、疲れた…
こんなキチキチのスーツなんか着てられるかっての…』

ネクタイを緩めて第1ボタンを開けた瞬間、ハッとした。

「やっぱりな、そんな事だろうと思ったぜ…」

『あああああのね、コナン君、これはね、虫に刺されただけなんだよ!?』

「それで?今日は何処行ってたんだよ?」

『警察庁です…』

「……」

『な、なんか動揺しまくってあんまりお仕事の話覚えてないんだけどね…ヤバいよね…
いや、だって、ねえ?』

「知るかよ、バカップル…」

『あ、あの、これでもだいぶ色薄くなったんだよ?
俺のせいじゃないからね?
ていうか寝てる時にされたから俺知らないし、勝手にされただけだから!』

「食事サービスだけじゃなくて添い寝サービスまでやってんのかよ…」

『あ…』

しまった、また口が滑った。

『と、とにかく家賃分の情報はお渡しするからね…』

はあ、とため息を吐き出してパソコンを立ち上げる。
コナン君に情報を提供している間に私服に着替え、カフェを淹れて一杯飲んだ。

今日はダメだ…
マズいな、平和ボケしてる証拠だ
そろそろ諜報部員としてちゃんと仕事してないと…

気合いを入れ直して部屋に戻る。
タブレット端末のロックを解除したら、いつものイケメンからのメッセージがふっと表れました。

[仕事のオンとオフはしっかりしてくださいね]

…完全にお小言でした
わかってますよ、もうちゃんといつも通りお仕事しますってば!

『コナン君、そろそろ仕事に戻るから…って何してんの』

「…これ、何?」

『え?』

パソコンの画面に映し出されていたのは、降谷さんのスーツ姿を盗撮した寄せ集めの写真フォルダ。

『ちょっと何してんだよ!
これ家賃以上だろ!?
安室さんは安売りしたらいけない貴重な人材なんだから!』

「いや、その前に何盗撮してんだって話だろ…」

『うわああ、見たらダメだってば!
これは希少価値の高い高貴な物なんだから!
プライバシーの侵害!』

パソコンを取り上げてパタンと閉じた。

「…お互いやる事変わんねーな」

『…お互い?
待って、それ、どういうこと?』

コナン君は苦笑しながら、とんでもない事を言い放ちました。

「安室さんの端末に盗撮された雪白さんの写真入ってるみたいだぜ」

『……はい?』

「お互い様だろ」

『ちょっと待った、何故それを君は知っているんだね、コナン君』

「この前ポアロで梓姉ちゃんと話してたよ、白猫どうしたかって話
そしたら安室さん、飼うことにしたって言ってたぜ
食事してる時とか膝の上でゴロゴロされると嬉しいから寝顔を撮影して癒されるってさ」

……完全に盗撮ですよね?
ていうか飼うことにしたってどういうこと!?
俺の飼い主はジン様だけど!?

『ねえ、コナン君』

「何だよ」

『それってさ、盗撮被害だから警察に行ってもいいってことだよね?』

「雪白さんだって同じことやってるだろ」

『…い、いや、これは俺の仕事の合間の癒しであってね?』

「流石にもう付き合ってんだろ?
安室さんだって飼う宣言したんだから…」

『え?お付き合いしてないよ?』

「え?そうなの…?」

『うん、まだお酒飲みに行ってないし』

「お酒?」

『居酒屋行ってないもん
日本人のお付き合い、してないから』

「雪白さん、付き合うっていうのは…」

呼び鈴が鳴ったので時計を見てからパッと立ち上がった。

『お食事サービス、早めだね
出てくるからちょっと待ってて』

玄関のドアを開けたら、今日は門の外で待っていたイケメンに近付いた。

『お疲れ様です、早かったですね』

「貴方が早く来て欲しそうな顔してましたから」

『あ、お話があります
コナン君から聞きましたよ、最近盗撮されているようですね
そんな事して楽しいですか?』

ちょっとイラッとしてるのでニコニコして言ってやったら、イケメンもニコニコしていました。

「ええ、楽しいですよ
蛍さんこそ、何やら警察庁でいつも楽しそうに端末のカメラを起動させているようですね
楽しいですか?」

『…ええ、まあ、楽しいですよ?』

「そうですか」

『盗撮ってことで立件していいですかね?』

「でしたら僕も立件させていただきますけど、どうします?」

『…やめときます』

超レアなスーツの降谷さんが端末からいなくなるのはダメです。
断固阻止。
癒しがなくなりますので。

「同じことですよ、僕も貴方のデータがなくなると困りますから」

『それはどうなんでしょう…
あの、猫の寝顔というのは誰得にもなりませんから早く消去した方がよろしいかと思います』

門を開けてから一人で玄関に向かったら、ドアが閉まった瞬間に抱き締められました。

わ、わ、イケメンの包容力…!
やっぱり今朝の降谷さんとは別人ですね
どっちも素敵ですー…

顎をそっと持ち上げられて目が合ったので、何をされるかは大体わかりました。
どうぞ、受け入れ態勢は万全です。
きてください。

「雪白さん、そろそろ帰…」

『うわああっ、そうだね!そろそろご飯だよね!?
コナン君、蘭さん心配するから帰りな!
帰った方がいいよ!うん!そうしよう!』

咄嗟にイケメンを思いっきり押して突き飛ばしてしまいました。
コナン君がいたことをすっかり忘れておりました。

『今月の家賃分はお支払いしたので!ではまた!』

コナン君を半強制的に追い出してドアを閉め、ふうと一息ついた。

『これでゆっくりできますね、安室さん、さっきの続きを……』

「…お客さんがいらっしゃったなら先に言ってください」

玄関に寄っかかっていたイケメンを救出。

『あの…大丈夫ですか…?』

「そう見えますか?」

『いえ…重症かと…』

「貴方、僕への扱いが雑になっていません?」

『何を仰いますか!
安室さんには最大限の愛情で接しているつもりです!』

「さっきのどこが最大限の愛情ですか!
完全に僕のこと突き飛ばしましたよね?」

『それを仰るなら以前安室さんに吹っ飛ばされた記憶がありますけど…』

「…それもそうでした
わかりました、両成敗ということにしましょう
それでいいですね?」

『とりあえず安室さんのごはん食べたいんですけど、まだですか?』

「貴方って人はどうしてそうなんですか…」

呆れた安室さんはキッチンに入っていってしまいました。
ちょっと悪いことしたとは思っていたので、素直にダイニングで座って待っていたら目の前でカメラを向けられました。

ん…?
もしやこれは…

『と、盗撮…!』

「目の前で堂々と撮ったので盗撮には当たらないと思いますけど」

『撮影許可を得ていません!』

「僕の仕事の報酬だと思ってください
貴方だって、僕のこと盗撮してるんですから
これも両成敗ですね」

…負けました
もういいです、なんでそんなに俺の写真を撮りたがるのかよくわからないのです
俺が降谷さんモードの安室さんを撮るのは、レアだからという理由で成立しますが安室さんが撮る理由が何一つわかりません

『…何がいいんだろう』

「今日は鮎の塩焼きなんですけど、カボス付けます?」

『鮎…!塩焼き…!カボス…!
最高です!今すぐ食べます!ください!』

「あの、椅子から落ちないでくださいね」

『あ…』

遅かったです。
身を乗り出してねだろうとして椅子から落ちました。
何度椅子から落ちれば気が済むんでしょうかね、俺は。

「蛍さん」

『…はい』

「貴方って本当に猫をそのまま人間にしたような人ですね」

脇の下に手を入れられて助け起こされました。
そしたら頭を撫でられました。
完全に猫扱いされています。

『…ごはん、お魚…』

「今お出しします」

今日はとても美味しい鮎でした。
綺麗に骨を残して食べたら、漫画みたいな骨の残し方ですねと苦笑された。
とても綺麗に食べられたのに。

『ご馳走さまでした!』

「これもお気に入りメニューに追加しておきます」

『抜かりないですね…』

「勿論です
貴方の好き嫌いはきちんと把握しておきたいので」

徹底した人です。
仕事人だと思います。
安室さんも降谷さんも仕事人ですが、安室さんはもう少し庶民的ですね。
降谷さんはエリートなお高い感じがあります。
どちらも素敵です。







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