結局どっちなの?

なんだかボーッとしています。
仕事が手につきません。

いかん…
これはマズい…イケメンとキスをした事により俺の心臓が大打撃を受けていて仕事が何も進まない…

昨日も一昨日も寝不足です。
今日はついに左耳がやられました。
幸せの頂点からのどん底のような感覚に陥っています。
デスクでボーッとパソコンの画面を開いては、更新されていくデータバンクを眺めるだけです。

…ハッキングする元気もないよ
なんか結局中途半端なまんまだし、あれからイケメンは何事も無かったかのように満足そうに家に来るけど俺はモヤモヤですよ…

スマホの画面が光ったのでとりあえず電話に出て、画面を二回叩いたら電話が切れた。
すぐにタブレット端末にテレビ電話が掛かってきたので出たら、人生の先輩イケメンは苦笑しました。

["どうした、全然元気そうじゃないな"]

『"…何も仕事ができないんだけど"』

["何かされたのか?
それとももうヤったか?"]

『"やるって何を…?
あの後自棄酒して、トイレに立てこもって寝てたらしい…
救助されたら大泣きしてたらしいよ、俺そんなこと全然覚えてないけど
朝、取引してみたんだよね
俺はちゃんと告白したから答待ってますって
そしたら、さ…まさかの、アレですよ"』

["ヤったのか?"]

『"だから何を!?
あのね、その、ほ、本当にキス…されまして…"』

["やっとそこまで行ったのか、長かったな
それで進展は?"]

『"進展?"』

["…お前、まさかキスするだけして終わったのか?"]

『"…その後椅子から転落したことしか覚えてない
何、どういう事なの?"』

["友達以上までいって、何故恋人まで行き着かないんだ?
付き合うとかそういう話はなかったのか?"]

『"…付き合う?
買い物とかそういうこと?"』

画面の前でイケメンは肩を落としました。

『"秀一は、何を求めてるの?
あの、そんなに知りたがってる朗報って何なんですか?"』

["つくづく呆れた奴だ…
すまん、忘れてくれ、この類の話は俺が奴に話しておこう
それより蛍、今日はずっと家にいるのか?"]

『"そのつもりなんだけど…仕事が手につかないからどうしようもなくて困ってたとこなんだよね…
なんか結局安室さんからキスされただけでちゃんとした答聞いてないような気がして…
キスが答になってるのかよくわからないし、なんか、よくわからない中途半端な感じがしてる"』

["気晴らしに外に出るか?"]

『"外って…?"』

["どこでも
そこにいても、気が滅入るだけだろう?"]

それはご尤もです。
考え事ばかりしてどんどん思考の底無し沼に嵌っているのでちょっと気分転換は必要かもしれません。
小さく頷いて答えたら、すぐ迎えに行くと言ってくれたのでとりあえず出掛ける準備をすることにしました。

こういう時はやっぱり先輩だよね…
先輩って尊いね、イケメンだし尚更尊い…
秀一、会いたいよー、なんかもう色々荒みきってるよー…

工藤邸を出て門の前に立っていたら、目の前をコナン君が通ったので目が合いました。
何か言われましたが何もわからないのでタブレット端末を出しました。

『"阿笠さんの所に行くの?"』

そしたら頷かれたのでちょっと書き足しておきました。

『"哀ちゃんには今度何か仕返しすると伝えておいて"』

よろしく、と付け加えたらシボレーがやってきたのが見えたので、タブレット端末をしまってコナン君に手を振って別れた。
運転席の窓を開けた秀一を見てなんだかホッとしたのはなんででしょうか。

「"コーヒーでも飲みに行くか"」

小さく頷いて助手席に乗り込みました。
煙草を咥えているこの国民的イケメンは、赤信号の時にそっと頭を撫でてくれました。
なんだろう、年上って偉大。
とある喫茶店でカフェを頼み、暫くぼんやりしてたら苦笑された。

「"ショックだったわけじゃないだろう?"」

『"まさか
寧ろ嬉しいような、でも不意打ちだったのとただキスされただけみたいで不完全燃焼感はあるかも…
すごく、嬉しかったけど…なんか一方的だったような気もして…"』

「"今日も奴は来るのか?"」

『"そうだね…"』

「"ならちゃんと頼んでみたらどうだ?
合意の上でしてほしいとか
一方的にされたから自分で納得できていないんだろう?"」

『"そうなのかなあ…?
ただ、状況に自分が追いつけていないだけなのかも…
こんな風に上手くいったことなかったからどうしていいのかもよくわからないし…"』

「"蛍、何事も経験だ"]

『"うーん…わからなくはないけど…"』

カフェを一口飲んでから小さく溜め息を吐き出した。
マッチを擦って煙草を咥えた秀一はどこまてもイケメンでした。

「"それと、お前の場合今日耳が不調で苛立っているのかもしれないな"」

あ、それは言えてるかもしれません。
モヤモヤしている所にこんな事態となっちゃ俺も流石に堪えます。

『"…なんか、こんなに仕事出来なくなっちゃったの初めてだからどうしよう…
不安っていうか…なんかよくわかんないよ…"』

秀一は煙をふっと吐き出してから灰皿に煙草を置くと、俺の頭を優しく撫でてくれました。

「"可愛い奴"」

先輩イケメンとちょっとお話をしたので少しだけ回復しました。
これなら帰っても組織のお仕事くらいは出来そうです。
表仕事の報告書ですら進んでいない状況なので少し自分でもヤバさは自覚しています。
これが、イケメンの破壊力だったんですね。
イケメンというのは他人の仕事にまで支障をきたしてしまいます。
やはり用法容量を守って正しく接するべきです。

「"じゃあ、また連絡する
お前も何かあったらいつでも連絡してくれ
くれぐれも無理だけはするなよ"」

『"うん…ありがとう
やっと少し仕事が出来そう"』

工藤邸の前で先輩イケメンと別れを告げ、もう家でゆっくりすることにしました。
勿論仕事も兼ねてです。
紅茶を淹れて部屋で落ち着きを取り戻して仕事をしていたら、夜ごはんサービスのお兄さんがやってきました。

「蛍さん…?
今日は元気がないというか、調子が悪そうな顔をされてますね」

玄関でイケメンが何か喋っています。
秀一の言う通り、やはり何か言ってやらないと気が済まないです。
安室さんの服を握り締めて、ギュッと引っ張りました。

『つき?きあい?』

「"…今日は調子が悪かったんですね"」

そうだけど、俺の質問に答えてないよね?
ねえ、ちゃんと言ってよ

『"安室さんは、俺の事好きなんですか?嫌いなんですか?
貴方からの答、まだ聞いていません"』

「"お答えした筈ですが…"」

『"言葉として聞いていません、納得できません
一方的にされるだけされて、あれはどういう意図での事だったのかと聞いているんです
それに、ちゃんとするなら俺だって…同意の上でしたいです…!
安室さんだけがしたい事じゃなくて、同時に俺のしたい事でもあってほしいです!

こんなに仕事が出来なかったことなんてないんです…
貴方にあんな事されて、平気でいられたとでも思ってるんですか?
無責任ですよね?
あれは一体なんだったんですか?"』

あれ、ちょっと速く話し過ぎたかな…
イケメン固まっちゃったよ…
うわー、もう逃げたい、逃げていいかな、なんで動かないの…!?
俺の立場、何!?

一歩後ずさってしまった。
そしたらイケメンの手が俺の手首を掴んできました。
そのままリビングまで連れていかれてソファーに座らされ、すぐ隣に座られました。

「"蛍さん、僕がキスやハグを誰とでもするような男だと思ってるんですか?"」

『"…そういうわけではなくて、貴方にキスされてから仕事が何も出来なくなったんです!
貴方のせいですよね?
無駄な考え事も増えました!
一方的にされるだけ、掌の上で転がされてるだけなんて嫌なんです!"』

「"…いつ僕が貴方を掌の上で転がしたんです?"」

おや、なんだか話が食い違ってきたぞ。

「"それに、一方的にされるだけというのでしたら…僕は蛍さんの方から来ていただくのは全然構いませんし寧ろ嬉しいのですが…"」

ちょっと唇を噛んだ。
これは気障です。
そしてなんとなく自意識過剰になってしまいそうです。

「"貴方だけが不安を感じているだなんて思わないでください
この数日間、僕だって蛍さんが戸惑ったりしていないか、怒ったりされているのではないかと不安でしたよ
こうして貴方から言ってくださった事がどんなに嬉しかったか…どれだけ安堵したか、貴方にはわかりますか?"」

『"……"』

何、この人…
結局またそうやって大事な事言わないで気持ちだけ表現して、ハッキリ大事なことは言ってくれないのかな…

「"好きです"」

前言撤回します。
ちゃんと言ってくださいました。
心拍数が跳ね上がってます、これは危険区域です。
すみません、誰か救急車をお願いします。

「"僕はちゃんと、貴方とキスがしたいとは思っていますよ
この前のような不意打ちではなく"」

『"…で、でしたら、この前ちゃんとそう言ってくだされば良かったものを…"』

「"あの後椅子から転落してそのまま気絶していたのは貴方ですよ?"」

そうでした。
説明してくださる時間がなかったんですね、わかりました。

『"……"』

もぞもぞと手を動かした。

『"キス、していいですか…?"』

そっと顔を上げたら、イケメンはにこやかでした。

「"ええ、お好きなだけどうぞ!"」

なんたるサービス精神…!
いや、その前にそんなに自分を大安売りされたら困る…!
この人は自分の凄さを本当にわかっていらっしゃらない…!

ですが許可が下りたので、そっと身を乗り出して服を掴み、生まれて初めてちゃんとしたキスというものをしました。
なんだかあったかくて幸せです。
今までのレイプなんかとかと全然違います。
いや、比較してはいけませんでした。

…大人って、こんな事してるの?
俺、大人になれましたか?
リラックスタイムと同じくらいの癒し効果があるんですけど…
し、し、幸せです、ありがとうございます、俺、生きてて良かった…!

もう一度だけこっちから仕掛けたら、逆に唇を舐められて返り討ちに遭いました。
これはちょっとレベルが高いです。
ひええぇ、失神寸前です。

「"蛍さん、これでお友達以上の条件もキスもクリアしました
次の段階へ行きたいと思います"」

はい?なんですか?
俺、なんかもう幸せいっぱいで眠くなってきたので話がよく理解できていませんよ
ていうかもう寝るよ?
寝ちゃうよ、こんなあったかくてほわっとして幸せで、モヤモヤも薄れてきてスッキリしたし…
おやすみなさい…

「"僕とお付き合いをしていただけませんか?"」

『"……"』

「"蛍さん?"」

ねえ、イケメンの包容力って本当に素晴らしいよね
寝不足だったのにすぐ寝られちゃうし
俺のモヤモヤも解消されるし
明日から仕事を頑張ろうという活力をいただけます
神様、今日は本当にありがとうございます、全てが解決したような気がします…
こんなに幸せだと思ったのは初めてかもしれません…

「僕は貴方の夜ごはんを作りに来たんですが、どうして食べる前に寝落ちされるんです?
それにどうして大事な話の最中で寝られるんですかね、この人は…」

今日も良い日でした。
翌朝、隣どころか抱き締められた状態でイケメンに拘束されていて、目覚めて悲鳴を上げそうになったのは言うまでもありません。
ベッドでの安室さんは少しだけ、いつもよりもイラッとしていました。

俺、何かやらかしたのかな…でも手は今回服を握り締めてないし…
…あれ、何か安室さん話途中だったよね?
何の話だったんだろう…

『…おはようございます』

「もう正午です!」

『昨日のお話、何でしたっけ?』

「後日します!」

『あのー…何かありました?』

「貴方にお話するような事ではありません
ブランチを用意しますので、シャワーでも浴びて来てください」

スタスタと部屋を出て行ってしまった安室さんを見送ってから、端末に手を伸ばした。

…あ、昼まで寝てたから流石に電話入ってるじゃん
って秀一ですか!
え、5回も!?
待って、じゃあ、安室さんがイライラしてたのってまさか…

『…秀一の電話が原因なんですかね』

本当に懲りない二人ですね。
あ、そういえば先日のリビングの修繕費の請求書が届いたので請求することにします。
ちょっとイケメンと更にお近付きになれたようなので、軽やかな気分で朝のシャワーを浴びました。
今日はお仕事たくさん頑張ります。







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