美術館での強襲

今週はお仕事に埋もれていました。
ちょっと忙しすぎてイケメンの夜ごはんサービスも申し訳なくお断りした程です。
やはり組織からの仕事が増えました。

んー…このイギリスの方はどうも潜入捜査の構成員ですねー…
俺の事も勘ぐってるようだし面倒なので削除しましょう!
はい、俺の一存で組織が動きます!

NOCリストを更新して、個人のデータも添付。
ジンに報告して、きっとあの方へのご報告もしてくださるでしょうしすぐに処分してくださる筈です。
さて、徹夜だったのですが目が冴えてしまったので朝ごはんを食べることにします。

はあ…やっと片付いてきたな
目処も立ったし、やっと安心してパン齧れるよ
嬉しい…ヌテラ塗りたくってやろう

今日はヌテラだらけのパンを食べてカフェを一杯。
良い朝です。
眠気はありますが仕事の代償なので仕方ありません。
するとスマホの画面が光ったので手を伸ばした。

『もひもひ…』

[おはようございます、蛍さん]

『あ、あ、安室さん…!』

うわー!
モーニングコールってやつですか!?
朝からイケメンのおはようございますです!
うーれーしーいー!
お仕事頑張ってよかった…!

[朝ごはんでも食べてらっしゃるんですか?]

『ええ、丁度仕事もキリが良くなったので朝食を…』

[貴方、昨日寝ました?]

『仕事だったので…』

[一昨日は寝ましたか?]

『仕事…でしたので…』

[まさかこの48時間寝てらっしゃらないんですか!?]

『まあ、お仕事でしたので…』

電話の向こう側で長いため息が落ちた。
あ、またなんか呆れられています。

『でも目処は立ちましたよ?
あと少し残ってますが…後回しにしても大丈夫なものなので…』

[貴方、僕との約束忘れてませんか?]

『約束ですか?』

[…今日、何曜日だと思ってるんですか]

『今日ですか?
今日って何日ですか?
すみません、曜日感覚がなくなってしまって…』

[金曜日ですよ!
前もってお話して空けておくと仰いましたよね?
今日は出掛ける約束でしたよね?]

『金曜日は出掛けるっていうことは覚えてますよ、当たり前じゃないですかー
えっと、今日は……えー!本当に金曜日だ!』

[全く貴方って人は仕事仕事と言ってまた徹夜ばかりして曜日も忘れますし、体調も省みませんし、本当にどうしようもない人ですね!]

ちょっと…地味に傷付くんですけど…
ねえ、貴方だって仕事人でしょう…?

『や、約束は覚えてるって言ったじゃないですか…!』

[とにかく今日の午前は仮眠を取ってください!
どうせ僕も午前急に仕事が入ってしまったので、出掛けるのは午後からにしましょう
いいですね?寝てくださいよ?]

『ええっ、仕事って…安室さん、空けてくださるって言ってたのに…?』

[ついさっきの事なので仕方ありません
後で迎えに参りますから絶対に寝ていてください
出掛けている最中に居眠りでもされたら困りますので
ではそういう事で]

プツンと電話が切れました。
若干お怒りでしたがあれは降谷さんモードでしたね。

…なんか最近安室さんて俺のママンみたいじゃない?
寝ろ寝ろ言うんだけど、なんで…?
もう大人だよ…?

ムッとしながらも朝食を終えて、ベッドに座ってから気付いた。

…朝のカフェ、いただいてしまいました
これ、寝れなくない?

仕方ないので朝のハッキング祭り開始です。
それからまたベッドに横になってみましたが一向に寝られる気配がありません。
これは、怒られますね。

『しょうがないじゃないか!仕事だったんだから!』

文句をぶちまけてからベッドでゴロゴロしていた。
苦痛である。
眠いのに寝られないし寝ないと怒られるし、なんだかもう踏んだり蹴ったりですね。
どうも納得がいかない。
ようやく眠れそうだな、と思ってウトウトしていた矢先に呼び鈴が鳴った。

え…

よっこらせとベッドから降りて玄関に向かい、ドアを開けたらキリッとしたイケメンが立っていました。

『降谷さん…ちょっと今寝かけてたとこなんですけど…』

「寝かけていた?
あんなに時間があったのにまだ寝てなかったんですか?」

『朝カフェ飲んでたのでちょっと寝付けなくて…』

あれ?

今更気付きました。
降谷さんです。
あの、超激レアスーツです。

ふーるーやーさーん!
貴方本当に、本当に今日は何なんですか!
モーニングコールにスーツですか!
え、何これ、夢じゃないよね?
スーツだよ、スーツだよー…!

「話聞いてます?」

『あ、すみません、つい興奮してしまって』

「今の話のどこに興奮する要素があるんですか」

ほら、安室さんの時とは違う凛々しさ…!
スーツ!
完璧です!
目の保養!

「仕方ありませんね…
元々出掛ける予定でしたし今から行きましょう
ただ、僕も終わってすぐ来たので中で着替えさせていただいてもよろしいですか?」

『え、着替えちゃうんですか?』

「…誰がスーツで美術館に行くんですか」

『…はい』

非常に残念ですが正論です。
お出かけなのにスーツで美術館はないですよね、刑事さんでもあるまいし。
少しでも拝めただけレアです。
部屋に上がった安室さんはネクタイを緩めてスーツを脱ぎました。

ひえええ、イケメンです!
イケメンの生着替えですか!
ワイシャツ姿もいいです、非常に良いですよ!
このネクタイ緩めるの、王道とはいえグッときます、最高です…!
降谷さん、貴方すごい人ですよ!

いつの間にかワイシャツのボタンまで外していた降谷さんに完全にノックアウト状態です。
これ以上イケメンを直視すると俺の心臓がAEDを欲するので俺も着替えることにしました。
クローゼットを眺めて、お気に入りの襟付きシャツといつものスキニーパンツを合わせて、サンローランのクラッチバッグです。
これもお給料貯めて買いました。

イケメンとのお出かけですから気合い入れて行きますよ…!
靴も今日はオールデンで決まりだね
USPも…今日はお留守番させとこうかな…

部屋を出たら、もう安室さんが出来上がっていました。
いや、素晴らしいです。

「…またそのシャツですか」

『え?何か問題ありました?
一応…お気に入りなんですけど』

「あれだけ襟の開いたシャツは着ないでくださいとお願いしましたよね?」

『あれは警察庁に伺う際のお話では…?』

「…貴方は自分がどれだけ無駄なフェロモンを振りまいてるのかわかっていらっしゃらないんですね」

『それを言うなら安室さんこそ、ご自分のフェロモンが垂れ流しなのに気付いていらっしゃらないんですね』

「蛍さん、もう少し露出を控えましょう」

『えー、お気に入りの洋服でお出かけして何が悪いんですか!』

「それに貴方、体のラインが丸出しなので気をつけてください
だからナンパだのレイプ未遂だのされるんですよ」

『普段着じゃないですか!』

「…わかりましたよ」

『あ、今日は丸腰なので』

「そうですか」

『靴も磨いておいたんです、仕事の合間に
ピッカピカですよ!』

「そんな時間があるなら仮眠でも取ってください!」

怒られてしまった。
何故だ。
わからん。
ちょっと拗ねながらオールデンのローファーに足を入れる。

「蛍さん」

『またお小言ですか』

「違いますよ…」

『だったら何ですか
折角のお出かけだからってちゃんと気合入れてきたっていうのに、なんでこんな事言われなきゃいけな……』

「貴方が大事だからですよ、わかってください」

玄関でイケメンにギュッとされました。
目の前は大好きな胸板です。
とてもいい匂いがします。
イケメンの香りです。

……もう、なんでもいいよ
俺が悪うございました、それでいいよ、もう

「今日は一段と素敵ですよ」

『……』

殺し文句ですか。
頭まで撫でられてなんかもう幸せです。
なんかもう、言葉になりません。
今日は朝からイケメンの威力が凄まじいです。

だ、だ、抱き着きたい…
ていうかもう至近距離すぎてヤバいよ、心臓もたないよ、誰かAED持ってきて…

「行きましょうか」

正直ほっとしました。
これ以上されると俺の魂が抜けるところでした。
なんだかいつもよりも綺麗なRX-7がいらっしゃいます。
これはお掃除された模様です。
助手席にお邪魔して、上機嫌でシートベルトを締めた。

「蛍さん」

今日も首都高です。
いいですね、首都高は。

「蛍さん」

右肩を叩かれて運転席を向いた。

『はい』

「今日は、僕から離れないでください」

『…は、はい…』

な、なんだろう、この意味深だけど口説かれてるような感じ…
何なの…?

右耳のせいで前よりも安室さんと運転中に喋る事が少なくなってしまいました。
ちよっと悲しいです。
美術館に到着したら、安室さんの言っていたことがちょっとだけわかったような気がしました。
車を降りてから少し歩いて美術館に向かう。

『なんでしょう、すごい人ですね』

「そうですね…
今日特にこの美術館でギャラリトークやイベントはなかった筈なんですが…」

『金曜日で平日なのに皆さんどうされたんでしょうね』

そんな事をポツポツ話しながらチケットを買って入館。
安室さんが連れてきてくれたのは、国内屈指の美術館で、まあ、なかなかの所だった。
オルセーと互角だろうか。

『日本とフランスとではまず美術館の建築様式からして違うと思うのでそれも美術館巡りの醍醐味ですね』

「貴方がオルセー美術館にこだわっているのにはそれも関係してるんですか?」

『ええ、ルーヴルは勿論ですがメジャーですし何せ広過ぎます
俺はオルセー派ですね、ルーヴルは本当に時間のある時じゃないと見られませんし…
オルセーは面白いですよ
是非あの時計も本物を見ていただきたいですね

美術館の基本はホワイトキューブですが…此処は基本に忠実な展示様式ですね
いいと思いますよ』

「気に入ってくださってよかったです
展示品も国内国外問わず、名品ばかり展示されていますから楽しんでいただけると思うのですが…」

それにしても人が多い。
ていうか、あれ、ポリスじゃないかな。

『…安室さん』

「はい」

『あの、日本の美術館にはポリスが常駐されているんですか?』

「いえ、そんな事はない筈ですよ」

「あ!安室さんにルイさん!」

とある展示室で声を掛けられ、ちょっと驚いて振り返ったら毛利家御一行でした。
あと園子さん。

『あ…どうも、お世話になっております』

「ルイさんと安室さんも今日見に来られたんですか?」

「ええ、クロードさんも美術館がお好きなようでしたしまだ日本の美術館には行った事がないと仰っていたので…」

「そうじゃなくて、怪盗キッドですよ!」

『怪盗…キッド…?』

首を傾げたら、園子さんが熱弁してくださいました。
様付けで呼んでるけど、貴方、真さんはよろしいんですかね。

あれ、待てよ?
怪盗キッド…いや、あれはファントムレディか、パリで18年前に起きたのは…
当時の資料は本部で見たような気がするし怪盗キッドに関する何かあったようななかったような…なんか曖昧だからまあいいや

「それで、その予告状がこの美術館に送られてきたというわけですか」

『安室さん、なんだかポリスも増えてきましたし落ち着いて鑑賞というわけにはいかなくなってしまいましたね
また後日にしますか?』

「クロードさんがそう仰るのでしたら…
わざわざ入館料を二度払いさせるのは申し訳ないと思ったのですが、貴方はこういうの苦手そうですしね」

『ええ、とても』

「ねえ、ルイさん」

コナン君に話しかけられたので少し下を向いた。

「気をつけてね」

『え…?』

よくわからないけど、また"何か"の忠告なんだろう。
展示室の中央に置かれた宝石は何か特別なのか、ガラスケースに入って周りも誰も近付けないようになっていた。

『安室さん、ちょっと冷えたんでトイレ行ってきますね』

「着いて行きましょうか?」

『結構です!子供じゃないんですから…』

ナメられたものだ。
冗談ですよ、と笑って言われたけれど絶対楽しんでたぞ、あれは。
トイレに行って用を足した後、手を洗っていたら鏡に何かが映った。

ん…?

右からの音に反応できず、気付いた時にはスタンガンのような物を押し当てられていた。




『すみません、お待たせしました』

「いえ」

『…あの、何か?』

「…クロードさん、やっぱり少し見学していきませんか?」

『はい?』

「その怪盗とやらですよ」

『でもさっき警察も集まってきたから後日ってお話しましたよね…?』

「ええ
クロードさん、今朝僕が貴方に電話した時、貴方は朝食を食べていましたよね?
チョコレートでも食べていたんですか?」

『…はい、パンにチョコレートを塗って食べていました
なんでそんな事聞かれるんです?』

「今確信できました、この怪盗があの展示物にどうやって近付き怪しまれずにこの場に存在しているのかが
コナン君、一緒にクイズでもしませんか?
勿論クロードさん、貴方も強制参加です」





…どこですかね、此処
なんかやっと久しぶりに寝たと思ったら停電ですか

腕が拘束されているのですが、恐らくこれはガムテープか何かです。
鎖じゃないだけマシだと思いましょう。
後ろ手になっているのでちょっと痛いのですが、この暗い場所でも俺の目は冴えています。
ジンが俺を甘やかしてくれる二つ目の理由でもあります。
夜行性である猫は暗い所でもよく見えます。
人より若干俺は暗い所での暗視能力が高いのです。
ジンが毎度俺の目をチェックするのもそのためですね。

『トイレの個室ねえ…』

後ろ手で鍵を外し、なんとか個室からは出た。
それから廊下を進んで声のする方へ向かう。

あ、さっきの展示室…
とすると俺の事をこんな目に遭わせた張本人もここにいらっしゃいそうですね
誰だったんだ、あれは

騒つく展示室の中で、コナン君の姿を見つけた。
蘭さんと園子さんも目視。
毛利さんもいらっしゃるし、安室さんも近くにいるはずだけど。

…あれ?
いないじゃん、まさか、帰っちゃったの!?

大変なことになった。
よくよく見たら俺は靴もないしお気に入りのシャツも着てない。
盗られたわけだ。
そっと別の展示品の陰に隠れて様子を伺っていたのだが、電気がついて怪盗キッドに物が盗まれたと日本のポリスが部屋から出ていきました。

…えっ、安室さんいるじゃん!
ていうか隣にいるの、誰?
俺なの?

なんで自分がもう一人いるんですかね。
アイツか。
俺のお気に入りのとっておきのシャツも靴も返せ。

「凄い騒ぎでしたね…」

「それで、安室さん、このトリックわかったの?」

「いや、僕はこういうのを見るのは初めてだから全然わからなかったよ
コナン君は、わかってるのかもしれないけどね」

「うん、そうだね…
そのポケットに入ってるもの見せてよ、ルイさん
いや、怪盗キッド…!」

安室さんの隣に立つ自分の頚椎に足先を宛てた。

『Ce sont mes chaussures et ma chemise favorites...
Rends les moi, conard.』
(それ、俺のお気に入りの靴とシャツなんだけど
返せよ、この野郎)

「っと…いつの間に?
停電してた筈だけど…」

『生まれつき人より暗い所で目が利くんだよ
俺がキレる前にさっさと返してもらえるかな、靴とシャツ』

「両手が塞がってるのに何が…」

続きを言われる前に、左腕の関節に一発入れてやった。
するとぼふんと煙が立ち、煙幕のようにして目の前が一瞬白くなった。

「今回は俺の人選ミスだったみたいだな…
コイツも偽物だったし、お前から返しといてくれ
じゃあな」

真っ白のスーツにマント、モノクル。

…間違いない
ファントムレディーの資料に載っていた奴の情報と一致する
だけどあれは18年前の話
それにしては…若すぎるんじゃ…

手首のテープを剥がされパサッと肩に何かを掛けられたので、顔を上げたら安室さんでした。
床に置かれた俺のシャツを拾い上げて、靴もチェックしてくださいました。
肩に掛けられたのは安室さんのジャケットでした。

『……』

「だから言ったでしょう、今日は僕から離れないでくださいと」

『…はい』

「さっさと着てください
貴方がトイレから戻ってきた時点で貴方本人ではないことはわかっていました」

「だから此処に残ろうって言ったの?
安室さん、トイレから戻った後、何か話してたよね?」

「ああ、蛍さんがいつもと違う匂いだったからカマをかけてみたんだよ、君が言った通り此処に残ろうって」

「キッドが雪白さんに変装してるって確信したきっかけって何だったの?」

「言葉だよ
ほら、蛍さんはいつも癖で時々フランス語を混ぜて話す時があるからね
普段の蛍さんなら警備に当たっていた彼らを警察とは言わない、ポリスと呼ぶ
それから念のため朝食のパンに塗ったというチョコレートの話をしたら、ショコラと答えずにチョコレートと言ったからすぐにわかったよ
コナン君こそ、よくわかったね」

「ま、まあね」

…なんだ、安室さん、最初から俺が変装されてたの気付いてたの?

とりあえず靴を履いてシャツも着る。
安室さんのジャケットはいつものイケメンの匂いがします。
怪盗に襲われた事などどうでも良くなるくらいの癒し効果があります。
しかし奴は許せません。
俺のお気に入りのオールデンを履かれました。
誰にも履かせたことないのに。

「折角のお出かけがまさかこんな形になるとは思いもしませんでしたね」

『…わかってたなら助けに来てくれれば良かったじゃないですか』

「すみません
ですがあそこで僕が抜け出したら逆に怪しまれるかと…」

『……』

「ですが僕が一緒にトイレに行っていればこんな事にはならなかった筈ですよね?」

『なんで一緒にトイレ行くことまで話を戻すんですか!
そうじゃなくて!』

「貴方なら、大丈夫だと思ったからです
信じていたからですよ」

この野郎。
今日は本当に都合がいいな。
ジャケットをバサッと安室さんに投げ付けて、一人で展示室を出ていきました。

「安室さん、本当に良かったの?あんな言い方して」

「いいんじゃないかな」

「雪白さん、相当怒ってたと思うけど…」

「それでも此処に連れてきたのにはちゃんと理由があるし、多分今頃見つけて機嫌直ってると思うよ
蛍さんは気分屋だからね」

東京は本当に何なんだ、全く
落ち着いて美術鑑賞すらできないのか

別の展示室に入ったら、真正面に大きな絵画を見つけて思わず足を止めました。

これは…!
オルセーにあった、ルノワールのムーラン・ド・ラ・ギャレット…!
うわー!まさか今日本に来てたなんて…!
オルセー行きたくなっちゃうじゃないか!
久しぶりだね、ルノワール…!

どうぞごゆっくりご鑑賞くださいとばかりに絵画の前にあったソファーに座って、ボケーッと眺めていた。
まさか日本でルノワールを見られるとは思っていなかった。
久しぶり過ぎてまたホームシックになりそうだよ。
ちょっと感動してしまったじゃないか。

「久しぶりのルノワールはいかがですか?」

左隣にイケメンがやってきました。

『…最高です』

「先程はすみませんでした」

『…いえ、わかっているつもりです
俺には安室さんを責める権利などありません
今日は連れてきてくださってありがとうございました』

ちょっとだけ、ソファーに乗っていた安室さんの手に自分のを重ねた。
あ、癒しです。
マイナスイオンが発生しています。

「警察も撤退したようですし、今日はこのまま見てからディナーにしますか?」

『そうですね…』

いつの間にか俺の手が下になっていて、指の間には安室さんの指があった。

『でも…夜ごはんは安室さんのご飯がいいです
ここのところ仕事でご無沙汰でしたので』

「わかりました」

久しぶりのイケメンご飯です。
静けさを取り戻した美術館を二人でゆっくり巡ってから、車で工藤邸に戻ってきました。
安室さんはキッチンに立っています。
この光景がなんだかとても落ち着きます。

…似合うよね、なんでだろ

「あ、蛍さん」

『はい』

「今日は帰りません」

『…あ、はい』

わ、お泊まりですか…!?
嬉しいです!
イケメンがお泊まり!

「わかってますよね?
僕が帰らないという事は、貴方がまだ何も話してくださらないからですよ
今日は貴方が話してくださるまで帰りませんからね」

『……』

あの、寧ろ泊まって欲しいのですが…
ですが言わないと納得してくださいませんよね…?
言ったら帰ってしまうんですか?
泊まってほしい場合はどういう選択肢を選んだら良いのでしょうか…

『…ちょっと、考えさせてください』

「今更考えることなんてあるんですか」

『色々シュミレーションしているところです』

「何をシュミレーションするんですか…」

『安室さんをいかに上手く自然な流れで引き止めるかという方法です』

「…あの、素直に泊まってくださいと言われれば泊まりますけど」

『…じゃあ泊まってください』

「はい」

案外簡単なことでした。
しかし大事な試練がまだ一つ残っているのです。
神様、どうか何事もなく言いたいことが言えますように。
言いたいことが言えない病気が治っていますように。
お願いします。






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