頭痛の理由

朝一番に、メールで届いていた書類をチェックしました。
組織の構成員のデータベースや色々と物色し、確証をちゃんと得てから今日はネズミ駆除のお仕事です。

よし、USPも入れたし今日は場所が場所だからサイレンサーも装着済み
なんだか今日はちょっと体調が悪いのです、お仕事を済ませたらさっさと帰りましょう…
あ、でもジン様にちゃんと顔を出さないと…

スーツで出勤。
工藤邸を出てから洗い出したネズミの潜伏先へと向かう。
今日のネズミはかなり楽そうです。
ですが。

『……これは風邪ですか、昨日あれだけ遊んでおきながら』

バチが当たりそうです。
とりあえず現場に急ぎ潜伏先へと入り込んだ。
今日は足音の響かない靴を履いているので移動も楽だ。
パパッとお仕事をして脳天をぶち抜いて終わらせたのだが、やはりサイレンサーを付けていたとはいえ右手での発砲では銃声が聞こえなかった。

…やっぱダメか
まあいいや、ジン様に証拠写真を添付してっと…

掃除屋にも連絡してその場を去り、すぐに来たメールをチェックして待ち合わせ場所に来た。
漆黒のポルシェのロックが解除されたのて後部座席に乗り込んだ。

「餌だ」

『あ…ありがとうございます』

するとジンはスッと目を据え、運転席から離れて後部座席にやってきた。

「ウォッカ、外にいろ」

「わ、わかりやした」

ウォッカが出て行った後、ちょっと身構えていたらジンの手が伸びてきました。

「…熱か」

『あ、いえ…大したことでは…』

「甘えてこないと思ったらそういうことか
右耳はどうだ」

『…仕事には支障ないとは思いますが、自分の銃声は聞こえませんでした』

「そうか」

右耳をチェックされ、何か言われましたがわかりません。
そしたらいつものようにちょっと齧られて頭を撫でられたのでこれは何かあると思ってジンの服を掴みました。

『……ジン様』

「何を怖がる」

『ジン様に、捨てられることです』

それだけは絶対に避けたいことである。
今までの事が全て無駄になってしまうのだ。
潜入捜査も、組織の情報も。
俺はこの人に縋り付くことしかできない。

「…暫く外に出るな」

『え…?』

「外での仕事は俺がやる
前と同じだ、徘徊しろ
それで十分だ、まだお前にはやってもらうことがある
組織の中のネズミの炙り出しは徹底しておけ
お前が落ち着くまでは外の仕事はやらせねえ」

…軟禁生活再開ですか?
あ、でも部屋に隔離されてないだけマシだよね…?
ジン様、ありがとうございます…

『ジン様…』

そのまま膝によじ登ったらちょっとイライラオーラを出されましたが、銃も出てこなかったので甘えて良いと判断します。

うわー、飼い主って偉大です…
危うく捨て猫になるところでした…
本当にありがとうございます、ジン様大好き、お仕事頑張りますね

「餌も栄養価の高いものにするか…」

『…お仕事頑張ります』

「内部の情報管理は徹底しろ
檻にでも入れておけ、どっかの金庫より頑丈なものにしろ
お前をまた部屋に中の仕事に戻すことの意味はわかってる筈だ」

『…はい、今までよりも迅速な対応が求められます
より徹底した組織の管理と外部の情報が必要です
異常があればすぐにご報告します
それから勿論外部の情報も入手し次第報告を入れます』

「今日は布団の中で監視してろ
ネズミの住処だけ割り出せれば駆除はする
俺が許可するまでは外の仕事はお預けだ」

存分に頭を撫でられてちょっと目の色もチェックされ、今日は珍しく沢山遊んでもらいました。
というのも、きっとこれから中での仕事が多くなるので直接接触する機会が減るかもしれないからですね、はい、理解しました。
そして遠回しに今日は帰って寝ろと言われています。

「兄貴、買ってきやした」

後部座席のドアが開いてウォッカが何かを持ってきた。
ジンは中身を確認してから、俺に袋ごとそれを手渡すとその場で俺を下ろして行ってしまいました。

…おや、これは…!
これはとても素晴らしいです!
生魚ですー!ツナ缶から昇格しました!
ニュースですよ!

嬉しい。
素直に嬉しいです。
早く帰って冷蔵庫で保管してすぐに布団に入りましょう。
帰りましょう、魚も冷蔵庫に入りたがってる筈です。

命拾いしたうえに餌も昇格…
いつも以上に仕事の精度が求められることになったけど、それはまあいいや
各諜報機関の情報も握ってるし、そこまで苦ではない
いや、寧ろハッキングがしやすくなったしネズミ散策だけでいいし、たまには部屋での仕事でもいいかもしれません…!

『…頭痛い』

とりあえず風邪が悪化する前にと、ご機嫌ですがふらふらしながら帰っていたらシボレーがやってきました。

「乗っていけ、馬鹿猫」

しかし日本は左車線、右側から話しかけられたので声に気付けませんでした。

「蛍」

歩いていたら肩を叩かれたので振り向いたら、人生の先輩イケメンがいらっしゃいました。

『秀一…どうしたの?』

「それは俺のセリフだ
クラクション鳴らしても話しかけても反応がないから追いかけてきたんだが…」

少し後ろには、路肩に停められたシボレー。

『あー…なんかごめん』

「仕事帰りか?」

『まあね、色々と事情がありまして…
これから暫く外に出るなって言われたからまた組織内をウロウロすることになったよ』

「とりあえず乗ってくれ、話は中で聞く」

『あ…もう一個、お話が…』

助手席に座って秀一を見る。
彼の車が外車だったことをすっかり忘れていました。
助手席でも彼の声は左側から入ってくるので助かります。
車が発進したので前を見ながらぽろりと言葉を落とした。

「…右耳が全聾?」

『はい…秀一の車ならいいんだけど、日本車だと困るし日本の車線は左
道路側から話しかけられても対応できないっていうか…』

「道理で反応がなかったわけだ
結局それでまた檻に戻されたというところか…」

『まあ、完全にジン様の監視下にあるわけじゃないから前よりは緩いし…完全な軟禁生活に戻ったわけじゃないから』

煙を吐き出したイケメンは俺をチラッと見てから、灰皿に煙草を置いて頭を撫でてくれました。
なんだろう、今日はイケメンのよしよし祭りなんでしょうか。
嬉しいです。

「やけにフラついてたから気になったんだ」

『風邪気味で…
ジン様に一発で見抜かれた、いつもと様子が違うって』

「どう違ったんだ?」

『甘えてこないって』

「お前、いつも甘えてるのか」

『だって媚び売っとかないと、ねえ?
一応俺の飼い主様なんだし捨て猫にでもされたら今度は俺がネズミになるよ
ネズミ捕りがネズミになるってね
それに見てよ、ほら、栄養価の高いものにするって言って餌が生魚に昇格しました!』

じゃーん、と見せてやったら苦笑されました。
嬉しいニュースじゃないか。
何故苦笑するんだ。

「流石猫だな…」

工藤邸まで送ってくださったこの国民的イケメンにカフェを出してあげて、とりあえず俺は工藤邸にあった体温計をお借りしてソファーに横になっていた。

「それでこれからは内情を探っていくのがメインになるのか」

『それと外部の情報もね
とりあえずネズミ駆除というよりは炙り出しの方に回れって感じかな
捨て猫にならなかっただけマシ
なので今まで以上に組織の情報はあげられるかも』

「それは助かるな」

体温計が音を立てたので見てみたら、38℃近くありました。
フラついてたという秀一の証言は嘘ではなかったようですね。

「それで、例の彼は…」

『ねえ、今仕事の話だったよね?』

「朗報は持ってきてくれたのか?」

『話聞いてた?』

「で、ちゃんと言ったんだろうな?」

『もういいよ、わかりました、そんなに聞きたいんですね…』

この人ってなんでこう…
仕事の話の途中だったじゃん、どんだけマイペースなんですか…

『昨日、お出かけしてきました』

「デートか、何処行ったんだ?」

『まあ、午前は都内を色々連れ回されたんだけど結局それは仕事だったみたいで…
ちゃんとしたお出かけは夕方からかなあ…?
初めて東都ベルツリータワー行ったよ
夕焼けとか夜景すごい綺麗だったなあ…東京ってすごいね
あとディナーして帰ってきた』

「…言ったのか?」

『何を?』

「…ちゃんと告白したのかと聞いているんだ」

『……あ!忘れてた!』

あー!
そっか、そういう事だったのか!

『ま、まさか昨日の期待してますっていうのは…告白するのを期待してるって事だったのか…
そうなのかな、ねえ、そうなるよね!?
うわ、そうか…!
だから帰りあんな呆れられたのか!

ど、とうしよう…
なんか話す機会も与えたつもりだったのに何も話してくださらないんですねみたいな事言われたような気がしてきた…』

「馬鹿としか言えん…」

そうか、だからあんなだったのか…!
世紀の大告白第3弾の場を設けてくださってたんですね…!
うわー、だから無駄とかいわれたのか!
わかった!今わかりましたよ!

『どうしよう…
あ、でもね、俺ってやっぱり人間だったみたいだよ
なんか…初めて独占欲という事を理解しました
それはまあ、言い逃げみたいになっちゃったんだけどね…』

「そこまで言って何故二文字が言えないんだ…」

『な、なんか病気なのかな…
言おうと思っても言えないんだよね…
言いたい事が言えなくなっちゃう病気ってある?』

「それはお前が奴を意識してるからだろう」

『そ、そんなに意識してるわけじゃないと思うんだけどな…

あ、ちよっと隣に行って風邪薬もらってくるから留守番しててもらっていい?
すぐ戻るから』

そうだ、こういう時は哀ちゃんだ。
前に風邪薬くれたし、ちょっとした解熱剤か何かくれるだろう。
秀一はカフェを飲みながら片手を上げたので了解と解釈し、お隣の阿笠さんの所へふらふら出掛けました。

「おお、ルイさん、どうしました?」

『阿笠さん、哀ちゃんいらっしゃいます?
ちょっと所用で…』

「哀君なら地下に…
どうぞあがってください」

『ありがとうございます、お邪魔します』

阿笠邸のソファーに腰掛けて待っていたら、地下へ繋がる階段から哀ちゃんが現れた。
すっごい不機嫌そうだったけど。

「何よ、ロリコン」

『ねえ、ロリコンじゃないんだけど…』

「今忙しいのよ」

『今日ジン様に会ってきたよー?』

データのディスクをチラつかせたら、ちょっと食いついた。
よし、釣れた。
ソファーに座った哀ちゃんにディスクを渡した。

『ごめん、左側に座ってくれないかな…』

「貴方も我儘ね、自分が移動しなさいよ」

とか言いながらちゃっかり移動してくれる哀ちゃん。
貴方、やっぱりツンデレの女王ですね。
可愛いよ、いいと思うよ。

「何が欲しいのよ」

『風邪薬』

「市販の薬買いなさいよ」

『薬局行く体力がないから隣に来たの…!』

「…熱は?」

『37.8℃』

「本当に仕方ない人ね」

ムスッとしながらも、哀ちゃんは3日分の風邪薬をくれました。
いい子です。

『暫く外の仕事無くなったから情報収集に専念することになったよ』

「あら、また軟禁未遂ってことは何かやらかしたの?」

『違うよ、右耳が機能停止したの
今日はネズミ駆除行ってきたけど…ジン様もなかなか鋭いお方だからね…
外に出るなって言われた
その代わり内部をまたウロウロするように言われたよ』

「本当に…?
貴方、左側しか聞こえてないの?」

『補聴器しても意味ないってさー…
まあ、お金掛からなくなったのはいいんだけどね
クラクション聞こえないのは意外と不便だなって今日思った』

秀一の呼びかけも分からなかった。
なんとなくもどかしい。

「貴方、ジンにまさか…」

『うん、そのせいで軟禁未遂になった
捨て猫になるかと思ってちょっと不安だったんだよね…
まあ、片耳死んでも情報収集は出来るし、俺に関してジン様の基準は仕事ができるかできないかの二択って感じだったし…
駆除はジン様が引き受けてくれるみたいだから完全にまた飼い猫状態に戻った
なんか餌も昇格して生魚になったよ』

「…相変わらず魚なのね」

薬も受け取ったし、哀ちゃんに風邪をうつしても悪いと思ったのでお暇することにした。

『ありがとうね、助かった』

「せいぜい自分の体には気をつけなさいよ」

ツンデレです!
哀ちゃん素敵ですよ!

ふらりとまた工藤邸に戻ってきたのだが、家の前に車が二台停まっているのを見てハッとした。
待て。
この白いお車はなんでしょうかね。
完全にシボレーにスレッスレで停めてありますよ。

…なんか、嫌な予感がしてきた
ドア開けるの物凄く気が重いんですけど…

しかし玄関のドアを開けなければいけない。
仕方なくドアを開けてみたら、意外にも部屋の中は静かでした。

『秀一、留守番ありがと
ちゃんと薬もらってきたから…』

リビングを見て絶句しました。
部屋の対角線上にイケメンが二人います。
リビングの机がひっくり返っていたので時既に遅しというやつでしょうか。

「蛍、待ちくたびれたじゃないか
どこで油を売っていたんだ?」

『ご、ごめん、ちょっと薬と情報を引き換えに…』

「余りにも暇だったんだが彼が来てな、まあ、そういう事だ」

『あのさ、そういう事じゃなくてね…』

「蛍さん、ソファーで安静にしていてくださいね
薬も頂いてきたのなら飲んでください」

『いや、あの、その前にソファーが横転してるので安静にするのは無理があるかと…』

「すぐに直しますので」

いや、ちょっと…頭痛くなってきちゃったよ…

『あの、とりあえず元に戻してくださいね
ちょっと頭痛がしてきたので部屋に戻ります』

部屋に入ってドアを閉めて溜め息をついたら、案の定また言い争ってる声がしたのでバッとドアを開けてみたらその瞬間に二人は止まりました。

『壊したら弁償代要求しますね』

それだけ言ってまたドアを閉める。
また声がしたのでドアを開けたらさっきとは違う体勢で二人がピタリと止まりました。

…だるまさんがころんだか何かですか?

『あの、本当に休ませてください』

ドアを閉めて、哀ちゃんから貰った風邪薬を飲んでベッドに横たわる。

…なんだかこうして横になるとやっぱり風邪っぽいな
寒気がするし、なんだか頭が…
いや、頭痛の原因は風邪じゃないな
ほら、なんか聞こえてるんだけど

『頼むから間借りしてる所でやるのやめてくれないのかな、あの二人…』

副作用でなんだか眠くなってきたので布団に包まって眠っていたのだが、目覚めた時に部屋のドアを開けたらとんでもないことになっていたのでもうこれは修繕費を必ず要求します。

『…どうしてこうなるのかな、毎回毎回…』

今日はお湯を沸かしてインスタントのスープを作り、物が散在して家具がめちゃくちゃになっているリビングで一人テレビを眺めていました。

財布が寒くなっていきますね…
絶対修繕費取ってやる…

今日も布団に包まってベッドでお仕事をして、夜ごはんサービスのお兄さんが来るのを待っていました。
絶対にお説教してやる。
ムカムカしながらタブレット端末のパスコードロックを解除する。

[お粥が冷蔵庫にあるのでレンジで温めて食べてくださいね]

…え!?

メッセージが消えた後、慌てて冷蔵庫を開けたらお粥がちょこんと置いてありました。

えー!
こ、このメッセージサービスってリアルタイムで更新されてるんですか!?
順応性高くないですか!?
え、嘘、ちょっと…ちょっと、許しちゃうじゃん…!

レンジで温めたお粥はとても美味しかったです。
ですがリビングに戻るとやっぱり許す気にはなれません。
なのでお粥は美味しく頂きましたが二人からまた修繕費を請求することにします。

…頭が、痛いです







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