落ち込んだらとりあえずイケメンで。

今日はショッピングに来ました。
日本のショッピングモールは楽しいです。
まるでワンダーランドですね。

そろそろ一度でいいから着物が着てみたいと思うのです…
次の休暇では絶対に京都に行きたいし、その時なんか着付け体験が出来るとはサーチ済みなんだけどね

日本の洋服屋さんは楽しいです。
フランスではいつもファストファッションのお店でしか服を買ってなかったのですが、日本の洋服は少しジャンルが違うので見てて楽しいです。
エスカレーターを降りて、フラフラ歩いていたらなんと規制線の張られた現場に遭遇してしまいました。

…あれ、なんか嫌な予感がしてきた
なんだろう、見慣れた人たちが見える…
いや、ここは素通りでもして知らないふりを…

「あ、クロードさん…!」

う…捕まった…

『こ、こんにちは、高木さん
また事件か何かなんです?東京も案外物騒ですね…』

「ええ、まあ…殺人事件、ですかね」

『ご苦労様です、俺は帰りますね』

「あ、その…よろしければご協力いただけないかと…」

またかよ。
そうきたか。
まあ、いいけど。
今日は朝仕事も終わらせたし、夜ご飯サービスのお兄さん待つだけだったからいいんだけどね。

『お役に立てるのであれば…』

というわけで現場に侵入です。
そしたらなんと毛利さんとコナン君までいた。
蘭さんもちょっと離れた所にいたのを見つけたので会釈しておいた。

「またお前か」

『こんにちは、毛利さん』

「ルイさん、今日はショッピング?」

『あ、いや…所用で立ち寄っただけなんだけど…
高木さんに捕まっちゃった』

所用というのも本当だ。
以前からずっと忘れていた補聴器のメンテナンスのことだ。
補聴器を取り扱っている店のリストを安室さんから渡されたので行くことにしたのだ。

『へえ…これはまた斬新な殺人事件というか何というか…』

死体を象るテープの形は初めて見る体位だし、血痕は派手に飛散している。

「ルイさん、よろしければちょっと被害者と関係を持っていた人物を洗えたらと思いまして…
容疑者も一応いらっしゃるんですが、全員アリバイが成立しているんです」

被害者と容疑者の名前を渡され、鞄からパソコンを取り出した。
コナン君は念入りに何かを探していて、それを毛利さんに怒られていた。
あ、げんこつなんて痛そう。

『ああ…この方ですね…』

被害者の情報を洗っていき、それから容疑者の情報を収集。
現場に残っていた物をチラリと横目で見ながら、このショッピングモールの監視カメラにハッキングして映像も確かめた。

『…全員シロですね、アリバイが成立してます』

「ええっ?」

『これは仮説ですが…殺人事件じゃない気がしますよ』

パタンとパソコンを閉じる。
容疑者の一人はやけにそわそわしていた。

「し、しかし…」

『凶器は何です?』

「ないんですよ、凶器が…」

『まだ見つかってないんですね…
まあ、被害者の服装が分からないので何とも言えないのですが、恐らくまだ凶器を持ったままの状態だと思いますよ、犯人というか…事件を起こした張本人が』

アリバイが成立、全員シロ。
怪しい動きをする容疑者は恐らく関係者。
そして見つからない凶器はきっと、被害者のポケットどこかだ。

『死因は頸動脈を切られて出血多量ということろでしょうか…
あと、被害者は何処か負傷していましたか?』

「貴方の仰る通り、首筋を切られていますね」

間違いないね、自殺だよ、これ…
まあ、あの容疑者がそわそわしてるのか気になるけど

「ねえねえ、高木刑事
その人、他に何処か怪我してたの?」

「ええと…」

パラパラとメモをめくる高木さんを見てから答えた。

『ふくらはぎ辺りに長い一本の傷でもついてたんじゃないんですか?』

「…え、ええ、そうです
なぜご存知なんです…?」

『少し考えたらわかる事です
とりあえず殺人事件じゃないとは言っておきますよ

コナン君、あの人さっきからずっとそわそわしてるんだよね
なんでだろうね』

ふっと笑って聞いてみたら、意外にも真剣な顔をされたので上手く乗ってくれたみたいだ。
凶器は恐らく薄いカミソリ一枚。
どうしてこんな所でそんな事をしたのかはわからないが、そのカミソリが手を離れて落ちていった時にふくらはぎを裂いて靴の中にでも入ったんだろう。

「クロードさん」

まあ、こんな大っぴらに自殺するってことは何かこの店に恨みでもあったか、余程注目を集めたかったのどっちかだな。

「あのー、クロードさん」

こんな休日の午後からショッピングモールで自殺だなんて。
はあっと溜め息を吐き出したら右肩を叩かれたのでビクッとして振り返った。

『は、はい?』

「あの、クロードさん、聞いてました?」

『あ、すみません、なんでしょう?』

「その凶器というのは…」

『ああ…俺の推論ですが、靴は調べましたか?
恐らくはそこに眠っていると思いますよ、お探しのお宝が』

「わかりましたよ!警部殿!」

ん?

声がしてそちらを見れば、自信たっぷりの毛利さんが目暮さんに話しかけていた。

「この容疑者の中に殺人事件の犯人がいました」

ええっ?

「犯人は…」

毛利さんが指を容疑者に向けようとした、その時だった。

「はにゃ…」

え?

毛利さんは千鳥足でふらりふらりとすると、ポスンと展示用のソファーに座り込んでしまった。

も、もしや…
もしやこれが噂の眠りの小五郎ですか!?
まさかこんな所で推理ショーが見られるなんて思いもしませんでした!

「…と言いたいところですが、警部殿、この中に犯人は存在しません」

「何ィ!?
たった今君は犯人がわかったと言ったじゃないか!」

「ええ、わかりましたよ
しかし彼らはクロードさんの言う通り全員アリバイが成立しています」

なんと毛利さんはスラスラと事件を解明していくではありませんか。
俺の推論通りの事を喋っています。
飛散した血痕やふくらはぎの傷跡、凶器の在り処。
そして俺が提供した容疑者の情報を元に関係図まで説明してくださった。
俺より前に現場にいたからか、順序立っている綺麗な推理ショーをされています。

いやー、まさかの展開だよね
ていうかコナン君はどこ行っちゃったのかな?
まあ、いいか
眠りの小五郎見れたらラッキーなんて思ってたくらいだし

無事に自殺で解決し、遺書も後で自宅から発見されたらしい。
そしてそわそわしていた容疑者というのはその被害者というか亡くなった方の元交際相手で自分と別れた事で相手を死に追いやったのではないかと恐れて落ち着きがなかったようです。

何はともあれ一見落着…
毛利さんの推理ショーも見れたし、また事件に巻き込まれたのは正直面倒でしたが、終わり良ければ全て良しですね

高木さんと目暮さんにまたご挨拶をして、帰りにスーパーで食材を少し買い足してから工藤邸に戻りました。

…恋愛って人を死なせてしまうこともあるんだね
なんだか恐ろしいね、人間関係って

ソファーに横になってテレビをただ眺めていた。
そっと左耳に蓋をしてみる。

あー…何も聞こえないや

今日行ったお店で補聴器を見てもらったのだが、ちょっと型落ちなのでそろそろ新しいのにしてもいいと言われた。
しかしそれ以前に、聴力検査もしたのだが結果は散々でかなり落ち込みました。

ニュース見てもなあ…
ラジオでも流しとくかな
あ、でももう面倒臭いや…

ぼけーっとしているうちに呼び鈴が鳴ったので、インターホンを見ずに開けたら夜ご飯サービスのお兄さんでした。

「蛍さん、なんだか元気がありませんね」

会った瞬間にそう言われてしまった。

『そ、そうですかね…
今日は出先でちょっと警視庁の方に捜査のお手伝いを要請されたので…』

部屋に上げながらそんな話をして、それから思い出したように毛利さんの話を持ちかけた。

『そういえば初めて生で眠りの小五郎見ましたよ!
見れたらラッキーくらいにしか思っていなかったのですが、まさか今日見られるとは思いませんでした』

「毛利先生もいらしたんです?」

『あとコナン君と蘭さんもいらっしゃいました』

「そうでしたか」

『それにしても恋愛も恐ろしいものですね…
感情の一つや二つで命を落としてしまう方もいらっしゃるようですし、東京も物騒ですね
あ、今日ちょっと食材買い足したので好きに使ってください』

「…わかりました」

キッチンに入ろうとした安室さんをちょっと追いかけてみる。
安室さんは振り返ったかと思うと、俺の手首を掴んで引き寄せて、なんと背中ごと抱き込まれてしまいました。

な、な、なになに?
今何が起こった?

「蛍さん、ショッピングモールへ行ったということはちゃんと補聴器のメンテナンスされたんですよね?
どうして今されてないんですか?」

髪の上から右耳に手が触れる。
え、なんでわかられたんだろう。
この人、本当にお見通しすぎて怖いです。

「それに貴方が元気のない理由、事件のことではありませんよね?」

『じ、事件はまあ…こういうのは慣れてますから…』

「何があったんです?」

『い、いえ、特にこれと言って何も…
朝一で仕事を片付けたので少し疲れただけなんじゃないでしょうかね
安室さんも考え過ぎですよ』

「いえ、こういう時だけ蛍さんは嘘をつくのが下手ですよ
本当に諜報機関の人間か疑わしいくらいです」

酷い言われようじゃないか。
あ、なんか右耳に何か触れてます。
これは位置的にもアレですね。
最近多いスキンシップの方法です。

あ、何か言ってるよ…
お願いだから左側でお願いします…

気配が左側に移動した。

「やはり聞こえていなかったようですね」

『あの、わかってるなら最初から左側で言っていただけませんかね?』

「いえ、今のはちょっとしたテストでしたのでもう一度は言いません」

えっ、何を言ったの!?

「それで…補聴器はどうなりました?」

核心を突かれました。
安室さんの手にそっと触れたら、優しくキュッと握り返されました。
嗚呼、少し荒んだ心がケアされていきます。

『…補聴器を新調するのはやめました』

「え?」

『聴力検査もきてきたんです…
えっと、その…右耳に関してはもう、元々重度の難聴でしたがもう完全に聴力は…ゼロになってしまいました
右耳が全聾状態になりました…
なので補聴器があってもクラクションの音が拾えませんし、意味のない状態になりました
えっと…そうですね、完全に機能停止って感じですかね』

ハハ…ともう投げやりになって答えたら笑みまで落ちてきました。
完全にあれですね、荒んでます。
ちょっとこれ以上深掘りされるとやりきれません。
現実というのは残酷です。
イケメンのおかげで今まだ自我を保てていますが。

『ま、まあ、補聴器代も掛からなくなりましたし…
左はまだそこまで悪化してないので基準値ちょっとだけ上回りましたし
結果としてはまあ、その、そういう事なんですが…仕方ないですね』

ヘラリと笑ってから、なんか自分が虚しくなって撃沈。
そしたらイケメンの胸板に押し付けられました。

んんん、いい匂いです…
心が浄化されていくようです、イケメンの胸板の安心感最高ですね
あ、泣きそう

「どうしてまた意地を張るんですか…」

少し呆れた声が降ってきた。

「僕が来た時、自分でどんな顔をされていたかなんてご存知ないでしょう?
貴方、魂抜かれたような顔してましたよ
そんなにショックだったのに、どうしてまた無理して笑おうとされるんですか…」

意地を張る…ですか
でもね、安室さん、意地は張らないとやってられない時もあるんですよ?
じゃないと自分を甘やかしてしまいますから

『ま、まあ、左耳は生きてますしちゃんとこうしてお話もできますし、前向きに考えれば…全聾になったのは片耳だけだと思えば…』

「蛍さん」

イケメンは偉大です。
頭を撫でられたので、いつものようにふわあっと何か邪念を取り除かれていくような気分になりました。
そしたら勝手になんか涙が出てました。
え、感情コントロールできないのって久しぶりかもしれない。

うわああ、安室さんあったかい
本当に癒されます
荒んだ心に薬を塗られてる気分です…

「本当に仕方のない人ですね」

リビングのソファーに腰を下ろした安室さんは、俺を膝に乗せて涙を拭いてくれました。
イケメンは正義です。
もう好きです、こんな至れり尽くせりなイケメン初めてですよ。
これも日本人のおもてなし精神というやつなのですしょうか。

『あ、あの、もう…大丈夫です…』

「あまり無理されても困りますから…」

『無理してません…!
その、本当にちゃんと落ち着きました…
少しずつ受け入れるしかないので…仕方ありません』

うん、大丈夫だ。
イケメンパワーで乗り切れそうです。
今晩ちゃんと寝られそうです。
もしイケメンいなかったら俺多分一晩中泣いてたと思うよ。

それにしても落ち着きます…
イケメンて偉大です、さっきまでのやさぐれた感情も慰められています…

『…あの』

「はい」

『…あの、ちゃんとですね、お話したいことがございまして…』

「何でしょうか」

イケメンの服を握ったまま、そっと腰に手を回してみて背筋を堪能させていただきました。

『安室さん…あの、ですね…』

うん、やっぱり緊張してしまうよ。
今日はこれをちゃんとお伝えしようと思ったんです。
ほら、イケメンもなんだか受け入れ態勢じゃないですか。
いいんですか、言ってしまいますよ。
言いますね。

『端末のお小言ですが、たまには褒めてもらえたりしないんでしょうか…?』

「ハイ?」

『あ、その、タブレット端末を開く度にメッセージを頂けるのは本当に嬉しいのですが、欲を言えばもう少しお褒めの言葉をいただきたく思います…』

「…てっきり重要なお話でもされるのかと思いましたよ」

『え、重要じゃないですか
俺のその日のやる気に繋がります』

「また仕事至上主義ですか…」

『いや、お仕事大事ですって』

「僕はそんな事よりも、もっと大事なお話を貴方からお聞きしたいです」

ひょいと膝から降ろされて、ソファーに座らされてしまった。
安室さんは溜め息を吐き出してキッチンへ行ってしまいました。

…か、完全にあれですね
呆れられましたね…もっと大事なお話って何だったんでしょうか…

『…どうしよう、何がいけなかったの?』

パタリとソファーで横になっていたら、キッチンからやって来たイケメンに一度だけ頭を撫でられました。
なのでキッチンへ行ってずっとイケメンの料理姿を拝見していました。

…イケメンとしか言いようがない
安室さん、貴方って本当にキッチンがお似合いですね…

「あの、あまり足回りをウロウロされると歩きにくいのでダイニングで待ってていただけますか…?」

『安室さんのこういうとこ見てたいんです』

「…わかりましたよ、もう勝手にしてください」

許可が下りたのでぼーっとイケメンを眺めていました。
それだけで幸せになれます。

…素敵です、うん、素敵だよ
こんな安室さん誰にも見せたくないもんね、好きです!
天然記念物レベルですよ…!

そこまで考えてからふと首を傾げた。

……あれ、これって、俗に言う独占欲ってやつですか?
俺にも、そんな感情あったんですか?

『…俺って人間なのか』

「今更何を仰ってるんですか」







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