ホームシックで原点回帰

よく休んだので元気です。
今日は朝からネズミ駆除のお仕事が入っていたので3匹程退治して、ご褒美に飼い主からツナ缶3つを与えられました。

いやー、朝から体動かすのもいいね
1対3の銃撃戦も悪くないよ、うん、まだまだ現役で頑張れるよ

今日は飼い主であるジンからもよしよしされたのでご機嫌です。
鼻歌を歌いそうなくらいです。
俺が甘えようとすると怒るっていうか銃口向けてくるくせに、俺を甘やかす時はジンの気分次第です。
気分屋ですよね、俺より気分屋なんじゃないのかな。

まあ、相変わらずウォッカは車の外で待機状態だったしジン様に可愛がられるのも悪くないですよ…!
寧ろ俺得、俺様飼い主からの貴重なご褒美タイム…!
サラッサラの髪も触り放題…!

ご機嫌です。
歩いていたらクラクションを鳴らされ、振り返ったらプジョーでした。

「ルイ!久しぶりね!」

路肩に寄せられた車の窓が開きました。

『マダム・ジョディ、また久しぶり発言ですか…』

「本当に久しぶりじゃない、私はルイに会えて嬉しいのに
それとも私じゃ不満なの?」

『全然、マダム・ジョディに不満なんてあるわけないでしょー?
やだなー、もう

あれ、今日一人なの?
ムッシュ・キャラメルとムッシュ・ジェイムズは…?』

「これから合流よ
良かったら乗ってく?送るわよ」

『え、いいの?』

ということでお邪魔することにしました。
やったね、ラッキー。
助手席にお邪魔したら、マダム・ジョディは俺がぶら下げていた袋を見て苦笑した。

「…ツナ缶なんて持ってどうしたのよ」

『…ああ、まあ、急に食べたくなったっていうか』

「一人でツナ缶3つも食べるの?」

「油分たっぷりだから、お前にはそれくらいが丁度いいんじゃないのか?」

ん?
今声が聞こえましたよ?

「あら、シュウ、起きたの?」

「もう少し寝ていても良かったんだが…
久しぶりの馬鹿猫だ、遊んでやろうと思ってな」

後部座席にはなんとイケメンがいました。
寝起きイケメンです。
思わずツナ缶の袋を落としました。

『秀一…?
な、なんで?なんで?なんで?』

「いたら悪いのか」

『や、全然、いや、いや、その、そうじゃなくてね
びっくりするでしょ!
マダム・ジョディもいるなら最初から言ってよ、びっくりしたじゃん!』

「ずっと寝てたからまだ起きてないと思って…」

いやいやいや、とりあえず秀一後ろにいるわよ、とか一言あるだけで大分心持ち変わりますよ…

「仕事帰りか?」

『まあね』

「三人か、名簿からデータは削除したのか?」

『これから
今からやって到着までに出来上がったデータ渡すっていうのでもいいよ?
最新データ、2割増し料金で』

「いいだろう」

了解です。
お仕事開始。
パソコンを開いて組織のデータベースにアクセスする。
今日処分した三人のデータをディスクに落とし、更新したデータベースの情報とNOCリストの改ざんもしておく。

「ねえ、ルイ」

『んー?』

「折角だから一緒にランチでもどう?
勿論貴方の都合次第だけど」

『マダム・ジョディとデート?』

「デートと言うより、ビジネストークかしら
私とじゃなくて、私達とよ」

ほう、FBIとお食事会ですね。
なかなか有益な情報が得られるかもしれない。
乗った。

『いいね、行こう』

即決。
すると後ろから目を塞がれて驚き、大事なパソコンをダッシュボードにぶつける所でした。

『ちょっと!秀一!』

「お前、俺に話すことがあるだろう?」

『…ハイ?』

パッと手を離されて視界を取り戻し、後ろを向いてイケメンに頭突きしてやった。

「楽しそうな顔をしていると思ってな
仕事の話より俺はお前のプライベートの方が興味あって…」

『だから仕事の後にしてくれるかな!?』

何故このイケメンはやたら俺のプライベートを楽しんでいるんでしょうか。

「最近、いい事あっただろう?」

『えっ』

ギクリとした。

「図星か、順調そうだな
それでどこまでいったんだ?
添い寝してるくらいだし流石にキ…」

『仕事の後にしてって言ったよね!?
話聞いてた!?
情報料5割増しにしますよ!?』

「それは勘弁してくれ」

『それはこっちのセリフです!』

はあっと溜め息を吐き出してマイペースイケメンを後部座席に追いやる。
データの移行も完了したので、それをマダム・ジョディに渡した。

「いつも悪いわね」

『いやいや、仕事だし
それよりランチはとこで?』

「米花町のほら、あそこのデパートの駐車場よ
そこでキャメルとジェイムズと落ち合うことになってるの」

デパートですか。
そういえば米花町のデパートって来たことあったかな。
なかったかな。
いや、一回あったような気がする。

『ねえ、マダム・ジョディ
米花町に輸入食料品店とかある?
ザクロジュース、フランスで飲んでたのに日本じゃ全然見かけなくてさ…
あ、あとヌテラ食べたくてしょうがないんだよね
もうヌテラ食べたい、食べまくりたい、そろそろヌテラ大会したい…』

「デパートの中に確かあった筈だ
食事の後にでも連れてってやる、情報提供のお礼だと思ってくれ」

『お、それは助かる』

そう。
最近のパン食で何かが物足りなかったのだが、それはヘーゼルナッツのチョコレートでした。
とにかくあの甘ったるいヌテラが食べたい。
フランスにいた頃も月一で局の皆とヌテラ食べまくり大会したくらい好きなのに。
日本のスーパーをはしごしても見つからなかったのだ。

久しぶりにヌテラが食べられるなんて…!
あー、恋しいヌテラ…!
ヨーロッパ内の出張先でさえヌテラ買ってたのに日本には何故ないんだ!
おかしいぞ!

そんなこんなでデパートの駐車場に辿り着き、車から降りてマダム・ジョディと秀一と地下駐車場を歩いていた。

「ご機嫌だな」

『そりゃあ、ムッシュ・ジェイムズにも会えるんだしヌテラ買えるんだしザクロジュースも手に入るとなれば最高でしょ!
朝一の体力仕事もこなしたし…!』

パーフェクトですね。
やってきた所にはメルセデスが一台停まっていた。

「キャメル、私よ」

窓が開いて、久しぶりにムッシュ・キャラメルを見た。
相変わらずガタイがいいです。
この人に壁になってもらえたら心強そうなくらいです。

「あ、ルイさんもご一緒でしたか!」

『'Lut、ムッシュ・キャラメル、元気?』

「え、ええ、自分は元気です…」

「今ルイから車内で更新してもらった新しいデータをもらったわ」

「そうですか!
とりあえず後ろにでも…」

後部座席にはムッシュ・ジェイムズがいらっしゃいました。

『ムッシュ・ジェイムズー!
お元気でした!?会いたかったです!』

「元気だよ
ルイこそ元気そうで何より…」

イケオジです。
今日は朝から最高ですね、イケメン祭りです。
とりあえず車内に収納された俺たち五人は情報提供し合って、サンドイッチを食べていました。

…ねえ、もしかしてランチってこれのことだったの?
俺、勝手にレストランとかフードコートみたいなの想像してたよ…
まさか車内ピクニックになるとは思ってなかったよ
まあ、いいんだけどね、イケメンとイケオジのサンドイッチですのでいいです!
満足です!

『あ、PAULのサンドイッチじゃない?これ?』

「あら、よくわかったわね
ルイはパリでたくさん食べてて味を覚えてたの?」

『多分…
なんだ、日本にもPAULあるのか、安心したよ』

「でも店舗数は少なかったわよ」

『あ、そうなの…』

地方に出張に行く時、パリの駅ではいつもPAULのパンを買ってTGVに乗り込んで車内で食べた。
懐かしい味だなあ、と思いながらサンドイッチを食べていたらなんだか泣けてきた。

うわ、これが俗に言うホームシック…?
え、初めてだよー…俺ってそんなにパリ恋しかったっけ…

「どうした、いい歳してホームシックか」

『…なのかなあ?』

「さっきもやたらヌテラ食べたいとか言ってたわよね
もうルイったら、やっぱりまだまだ子供ね」

あらあら、とマダム・ジョディに宥められたけれど子供扱いは酷くないか。
確かに貴方達よりは年下ですけどね。

『わー、初めてだよ、こんなの…
自分が一番びっくりしてる』

「長期で日本に滞在するのも初めてだから無理もないさ」

そういうものなのか。
そうなのか。
日本にかなり慣れてたと思うんだけど、ふとした時にこうやって久しぶりの物を与えられると思い出しちゃうものなのかね。

「ルイさん、良かったら他のパンもあるんで持って行きますか?
クロワッサンとバゲットがまだ余ってます」

『え、でもムッシュ・キャラメルというかFBIの皆様がお求めになったパンでしょう?』

「情報料の上乗せという事で構わないよ、パンの少しくらい」

ムッシュ・ジェイムズまでそんな事を言ってくださって、有り難くいただくことにした。
今日はパンにツナにと貰い物がたくさんだ。

「じゃあ、俺はコイツを店に連れてってそのまま送って戻る
泣き虫の子供にはチョコレートでも買ってやらんと気が済まないだろう」

いやいや、子供って貴方ねえ…

ジロリとイケメンを睨むと頭を撫でられました。
はい、許しましょう。
ムッシュ・ジェイムズにも、寂しくなったらいつでも連絡してくれと言われてしまった。
いや、嬉しいですけどそんなご迷惑おかけするわけにもいかないしホームシックなんてすぐ直るでしょ。
秀一と車を降りて、三人とは此処でお別れ。

いや、頂き物だけでツナサンドイッチ作れちゃうよ…
あとはレタスか何か買えば完成じゃない?
夜ご飯これで決まりじゃない?

「で、俺に話すことがあるんだろう?」

駐車場からデパートの中にエレベーターで上がり、面白そうにしてるイケメンに連れられて輸入食料品店にやってきた。

『まあ、なくはないけど…』

というかここは何なんだ。
輸入品のパラダイスじゃないか。

『そんな事よりこの店の凄さにやられてるよ
そんな話後にしよ!
ヌテラ探そ、ヌテラ!
そしたらヌテラパーティーでもしようよ、久しぶりにどう?
あ、甘いものあんまり食べないんだっけ?』

「俺は遠慮しておくが…一人でパーティーしているお前を見てるのも悪くないな」

『…あのさ、なんで皆俺の食事場面見るのが好きなのかな?』

安室さんもそうだけど、なんで秀一までこんな事を言い出すんだろうか。
苦笑しながらアジア系のエリアを抜けてヨーロッパの食品が並んでいる棚を見つけた。

『おー、あった、あった!ヌテラー!
ていうか高っ!
日本で買うとこんなに高いの…?』

「輸入品なんだから仕方ないだろう」

『そうだけど…
しかもこのサイズしかないんだ…
こんなの一瞬で無くなっちゃうよ』

「それは食べ過ぎだな」

『あのね、これを塗りたくって食べるの!
これくらいじゃ全然足りないわけ!』

「太るぞ」

『ちゃんとその分運動してます!』

全く、と思いながらまずカゴに1個入れて、それから2個目を買うか迷っていたら勝手にアメリカのショコラの袋や飲み物、コーヒーまで入れられた。

『ちょっと…』

「いいじゃないか、これくらい」

『誰が金出すと思ってんの?
俺はあとザクロジュースとワインでも買って…それからチーズ買わなきゃ
秀一、帰る前にちょっと寄って行きなよ
パンとクラッカーとチーズくらい食べてかない?』

「じゃあそこで色々お前の話を聞くとするか」

『そんなに聞きたいんだね…』

もう降参です。
こんなに俺のプライベートに興味ある人初めてだよ。
結局ヌテラは2つ買うことにしてレジに並んで会計をしようとしたら、横からカードが出てきて思わず振り返った。

「カード一括で」

『…え?』

「何だ?」

『何だ、じゃないでしょ
ちょっと計算ややこしくなるから…いくら払えばいいの?
レシート後で見せてよね』

はあっと溜め息を吐き出して荷物を受け取り、レシートを受け取ろうとしたら秀一が店員から受け取った。

『秀一…!』

「なに、構わん
お前のプライベートの情報料だ」

なんですか、それ。
送迎サービス付きなのに高い輸入品をご馳走してくれるんですか。
何なの、この人。
イケメン オブ イケメンです。
この人、理想のイケメンです。

「荷物は持ってもらうぞ」

『それくらいわかってるって、当然でしょ?』

店を出てデパートの中を歩いていたら、コナン君に遭遇しました。

『おお、コナン君じゃないか』

「久しぶりだな、ボウヤ」

「あ、赤井さんに雪白さん…?
二人が一緒なのって珍しいね」

「そうでもないさ」

『…そうだね、別に珍しくはないよ
一緒にお仕事してた仲だし、秀一なんて俺のこと知りたがってしょうがないし…
連絡は頻繁にしてるし今は丁度日本にもいるんだし会える時に会っとかないと、また秀一がいつアメリカに戻るかもわからないから…』

ね、とイケメンを見たらフッと笑われました。
何それ。
気障だよ、気障すぎますよ、貴方。

「暫くはお前の事がほっとけないからアメリカには戻らん」

『…ま、またまたそんな事を…』

ごめん、普通に照れました。
この人無意識イケメンマシーンなんですかね。
年上のイケメンは偉大です。

「雪白さん、気をつけてね」

『え?何が?』

「だから、そういう所」

コナン君はいきなり何を言いだすんだ。
そしたらイケメンまで笑い始めました。
この野郎、わかってないのは俺だけなのか。

「心配するな、俺はいい牽制役になってると思うんだが…
ボウヤはそうは思っていないようだな」

「赤井さんの事だから大丈夫だとは思ってるけど…」

『あのさ、本人の知らないところで勝手に話を進めないでくれるかな…』

「お前が心配する事じゃない」

『な、何それ…当事者俺なんですけど!』

小学生にまで呆れられたよ、何だよそれ。
溜め息を吐き出したら頭を撫でられました。
まあ、いいでしょう、許してやりましょう。

「コナンくーん?どこ行っちゃったのー?」

『あ、蘭さんいるの?
蘭さんとまた話したいから何か誘うって言っといてよ』

「い、いいけど…
またご飯なしとかじゃないよね…?」

『事件で誰かさんが出かけなきゃね』

「(俺達が出掛けたの結構気にしてたんだ…)」

『じゃあ、俺らも行こっか
今日は貰い物ばっかりで暫く食べ物に困らなさそう
じゃあね』

コナン君にバイバイ、と手を振って秀一とその場を離れた。

「あ、コナン君、やっと見つけた!
すぐどっか行っちゃうんだから……あ、あの人…」

「蘭さん、どうかしました?」

「あ、いえ、見覚えのあるような人を見て…
ルイさんも一緒だったのでちょっと気になってしまって」

「…クロードさん、いらしたんです?」

「ええ…安室さん以外に日本人のご友人もいらしたんだなあと思って」

「日本人…ですか?」

「はい、ニット帽を被った…長身の方でしたけど…」

「そうですか、クロードさんもご友人と一緒に過ごしたいでしょうし声を掛けなくて良かったかと思いますよ」

「(だから気をつけろって言ったのに…
安室さん、かなり怒ってるぜー…雪白さん)」






デパートを出て袋を持ち直す。

『秀一、車は?』

「近くの駐車場に停めてある
重いか?」

『まさか、これでも鍛えられてますから
ナメてもらっちゃ困りますよー』

シボレーにお邪魔して、後部座席に荷物を置いた。
その間に秀一はマッチを擦ってもう煙草を咥えていた。
うん、イケメン。
国民的イケメンですね。

「それで、どこまでいった?」

『それ今聞く?もう聞きたいの?
家まで我慢しようとは思わなかったの?』

「お前の事だ、知りたいに決まってる
それにお前こそ話したくてたまらんような顔をしてたじゃないか」

『そんなことありません!』

とりあえず工藤邸まで言う言わないの言い争いをするだけで終わってしまった。
まあ、ワインでも入れながら話すとしよう。
リビングにカッティングボードを持って来て、チーズとパンとワインを広げる。
俺はヌテラも忘れずに持って来た。

『ねえ、友達以上にはなったのは確実です、先輩』

「ほう、確実ってことはそれ相応の事をしたというわけか」

『いや、大したことはしてないんだけどね』

いや、ハグやらベッタリ甘えたりしたのは相応の事か
大したことでした、訂正しようか…

秀一は買ってきたコーヒー、俺はワインを開けてそれぞれパンにチーズを乗っけたりヌテラを塗りたくったりした。

『ほんとに毎度毎度距離は近いし…その、向こうも甘えてくれましてね
それから…一線を超えたような気がします』

「…超えたのか?」

『ほ、本物はまだしてないけど…その、この前すごい甘えてこられて…お互いちょっとお疲れモードだったから、その…ね
マウストゥーマウスではまだしたことないから、キスしませんかって言おうとして、その時手話で話してたんだけど…そしたら、その…手でキスしました』

恥ずかしい。
これは意外と口にするのが恥ずかしいのでワインを流し込みました。

「まだ実践してないなら一線を超えたとは言わん」

『や、やっぱりそうなるんですかね…
でも俺が教えてないのに手話の意味知ってたよ?
すごく、お友達以上ではあると思うんだけど…それ以上って何ですか?』

「友達以上を知らないのか」

『ほ、他に何があるの?
なんて言うの?え、答知ってるの?』

「お前って奴は…鈍感なのか馬鹿なのか本当にわからないな」

『えっ…』

呆れられました。
バッサリ斬られました。
ちょっとイラッとしたのでパンにヌテラを塗りたくっていたら苦笑された。

「まずは実践しろ」

『それがねー、俺がちゃんと告白しないと実践しません宣言されちゃったんだよね
ほら、もう分かられちゃってるわけ
あの人何でもお見通しなんだけど何なのかな?
絶対俺のことわかってるもん
ちゃんと相応の答を用意しておきますとか言われちゃったんだけど、どうしたらいいの?』

「簡単な事だ」

コーヒーを飲む飄々としたこのイケメンはバゲットを一口食べてから満足そうに言い放ちました。

「ちゃんと告白しろ」

『……』

まさかこんな風に言われるとは思いませんでした。

「今までの男とは違うんだろう?」

『うん、違うね…』

「レイプも詐欺もなかったんだろう?」

『うん、無かったね…
寧ろ慎重すぎるっていうか、こうやって進めていくのかと勉強になることばかりだね』

「もう奴もお前の気持ちを知ってるんだから言えばいい話じゃないか」

『あのねえ、そうやって簡単に言ってくれるけど…』

「ただ二文字ちゃんと伝えればいいだけだ
簡単だろう?
お前がいつも書いている長ったらしい報告書より」

『報告書書いてる方がマシだよ!
ていうか秀一のその考え方がわからない…なんで簡単なわけ?
難しいから言えてないんでしょ!
今度3回目の告白大会が開催されちゃうよ!
俺、ちゃんと言えるか自分でも自信ないんだからね?』

「もう答はわかってるんだから怖がることでもないだろう」

『答?』

いや、知りませんけど…
相応の答を用意するって言われただけで、何を言われるのかなんてわかりませんけど…

「蛍」

『な、何…?』

「…馬鹿だな」

な、なんなんですか…
イケメンてなんですぐ俺に馬鹿って言うの?
そういう頭の構造なんですか?

「俺はお前から早く朗報が聞きたいだけだ」

いや、朗報って何ですかね…
どういう事?
どんないい事が待ってるんですかね?

「結局お前はどうなんだ?
奴を好きなのか?」

『…好きか嫌いかって聞かれたらそりゃ好きだよー…』

ワインが進みます。
美味しいです。
パンもチーズも美味しいです。
ヌテラもあるので最高です。

『だけどあの人ずるいんだもん、俺のパソコン勝手にハッキングしたり色々小細工してくるし…
そのくせ俺の好物とか知ってるし、なんかもう手の上で転がされてるかもしれない…
いや、きっとそうだ、うん、そうだよ

あ、この前仕事の後に水族館行ったの!
本当は一人で行ってたんだけど仕事で呼ばれちゃって、仕事の後に、俺何も言ってないのに連れてってくれて…それでなんか一緒に見て回ったの!
魚いっぱいで綺麗だったしなんかはしゃいでしまいました、いい歳して』

「二人でか?」

『そうです!
仕事は?て聞いたら部下に任せるって言って付き合ってくれたんです…!』

もう最高のイケメンでした。
無敵です。

『もう、最高でした…
夜の水族館て凄いね、感動しちゃった』

「それは良かったな」

『…これは朗報じゃないの?』

「俺が言っている朗報じゃない」

『あ、そうですか…』

もうわかんないよ、イケメンの思考回路なんて

しかし久しぶりのヌテラは最高です。
パンが進みます。
ワインも何故か進みます。

『もういいよ
男運最悪な俺がどれだけ頑張ってるかなんてイケメンにはわからないでしょうしね
とにかくね、好きか嫌いかで言ったら好きです!』

ワイングラスをドンと置いて言い切ってやりました。
そしたら呼び鈴が鳴ったので時計を見たら、あっという間に時間が過ぎていました。
という事はこの呼び鈴はきっと夜ご飯サービスの呼び鈴ですね。

…あれ、マズイぞ
また玄関壊されたら困る…!

『秀一、とりあえず進捗報告はしました』

「もう少し深い話が聞きたいんだが…」

『あのね、貴方の命を狙ってる人が来たみたいだから気を付けて帰ってね』

ヌテラを塗りたくったバゲットを齧りながら、インターホンを確認しないでドアを開けたらやっぱり夜ご飯サービスのイケメンでした。
今日は朝から本当にイケメン祭りです。

『待ってましたー』

「…蛍さん、貴方酔っ払ってません?」

『いやいや、まだ酔っ払ってませんよ
ちょっと今来客中なんですけど帰らせますんで…』

イケメンの手が唇のすぐ側に伸びてきたので思わず固まりました。
指で何かを拭われたらしく、イケメンはそのままその指を舐めました。

ええええ、これなんてシチュエーションですか…

「チョコ、付いてましたよ?」

『あ…はい…』

「昼間から何してたんですか」

『いや、ちょっと、その、話し合いを…』

安室さんは部屋に上がろうとしたので慌てて止める。

『あの、お客さん帰らせますんで…』

「構いませんよ、誰かはわかってますので」

え…

部屋に上がってしまった安室さんを慌てて追いかける。
リビングではコーヒーを飲みきった秀一がちょっと面白そうにしていたので完全に見放したくなりました。
彼はきっとこの状況を楽しんでます。

「やあ、君か」

「こんばんは、また貴方にお会いするとは思いませんでした」

いや、誰がいるかわかってるって仰いましたよね?

「心配しなくてもそろそろ俺は帰るさ
蛍、ホームシックは治りそうか?」

『え?あ…うん、多分』

イケメンのおかげでホームシックのことちょっと忘れてました。
流石です、偉大ですね。

「寂しくなったらいつでも連絡してくれ」

頭を撫でられました。
しかもいつもより長いです。

「邪魔です、さっさと帰っていただけませんか?」

「もう帰ると言っただろう」

「今すぐに帰れと言ってるんですよ」

「わかってるさ、だからもう帰ると言った筈だ」

まだイケメンは俺から手を離しません。
どういう事だ。

ていうか秀一、貴方、絶対楽しんでますね?
楽しそうな顔してますけど?
ねえ、ちょっと修羅場だけは避けたいんだけど?

『秀一、あの、また連絡します』

「その時は朗報待ってるからな」

『…が、頑張ります』

「さっき俺の前で断言してたんだからもう言えるだろう」

『そ、それは…わかんないけど…』

「ならば賭けでもしようか」

『ダメ!絶対負けるから!』

「そうとも限らん、俺は…」

「今すぐ帰れと言ってるんだ!赤井秀一!」

あー…
見事に吹っ飛びましたね、久しぶりにイケメンが吹っ飛ぶところ見ました…

右ストレートで秀一をリビングの外へ強硬手段で追いやった安室さんは、パタンとドアを閉じてニッコリ笑っていました。

「これで心置きなく過ごせますね!
あ、その前に消臭しますね」

…あの、貴方はどうしてそう切り替えが早いんですか?

「ワインももう今日は控えた方がよろしいのでは…?
一人で半分空けるなんて…貴方、自分が酒癖悪いのわかってるんですから程々にしといてくださいね」

『はい…』

まだ全然酔っ払ってないけど…

部屋を消臭しながら、安室さんはテーブルの上を見た。

『あ、安室さんも食べます?
今日輸入食料品売ってるお店教えてもらったんです
なんか今日は久しぶりにパリにあるパン屋のパンを食べたらちょっと恋しくなってしまって…
お恥ずかしい話ですが今更ながらホームシックというものに初めてなってしまいました…』

「…でしたら今日はフランス料理にします?」

『あ、いえ、そういうつもりで言ったんじゃなくて…
それにフランス料理なら自分で作れるので…』

「僕のフランス料理は嫌というわけですね、わかりました
でしたらご享受ください」

『へ?いや、そうじゃなくて…』

「プラス2週間でどうですか?」

こ、この人…本気だ…
そうだ、前もなんかこんなようなことがあったような…
ホテルでランチしたって言ったらすごい豪勢な懐石料理出してきたり…
なんで無駄に張り合ってくるんですか…

「でしたら3週間で」

『いや、あの…何週間でもいいです
それほど大した事じゃないですから…報酬とかには相当しないかと…』

「貴方から教わる事が第一条件です
そうですね…報酬は貴方の時間と言っても過言ではないかと」

…あの、それはどういう意味なんでしょう?
俺の時間て…

「ご多忙な貴方の貴重なお時間を頂戴してまでご享受くださる事に僕は価値を見出しています
そして蛍さんと一緒にその時間を過ごすことが報酬ということです」

う…イケメンてなんでこんなにサラリと気障な事が言えるんですか…
何度俺の心臓を止めれば気が済むんですかね…

ソファーにパタリと倒れた。

「蛍さん…?酔いでも回りましたか?」

ええ、貴方に陶酔してしまったようです…
ちょっと酔っ払ってるのかもしれませんね、飲み過ぎは良くありません
ということはイケメンとの接触のしすぎも良くないという事になるんでしょうか…
ですが、ごめんなさい、あの、トキメキました…

「蛍さーん」

『あの、今日は報酬のツナ缶が3個あります…
頂き物のパンもあります…
食材も冷蔵庫にあります…
お好きな物作ってください、安室さんのご飯が食べたいです…』

「…ですが僕は貴方が教えてくださるまでフランス料理は作りませんよ?」

『そういうの関係なしに貴方の作った料理が食べたいと言っているんです!
わかってください!
何度も言わせないでください!馬鹿!』

「わかりました」

あ…イケメンにまた馬鹿と言ってしまった…

『あ、あの、今のはその…』

「貴方がホームシックから解放されるような夕食をご用意させていただきます」

『もういいです!
安室さんの得意料理を作ってください!
パンもありますから!』

「…貴方、また僕にサンドイッチを作るように誘導してますね?」

あれ…
どこでそうなったんだろう…

「構いませんよ
蛍さんが初めて美味しいと絶賛してくださったサンドイッチでも作ります
どうせお酒も飲んでらっしゃいますし、軽食程度の方がよろしいかと思います
水、持ってきますね」

…イケメンはイケメンでした
しかし一番最初に食べたサンドイッチってポアロのだよね…?
それを再現してくださるってことなんです!?

ガバッと体を起こしたら、ちょっと眩暈がしてまた横になってしまった。

「ホームシックって、突然なるものなんですか?」

『…どうなんでしょうね
長期の出張も今まではフランス国内でしたし、日本にはちょくちょく来ましたが長期滞在は初めてだったので…
初めてホームシックみたいな感じになって自分で驚きました』

テーブルに水を置かれたので今度はゆっくりと体を起こして少しだけ水をいただいた。

『でも…これだけいたのできっとフランスに戻ったら安室さんのサンドイッチが恋しくなるかもしれませんね』

ヘラリと笑って言ったらイケメンは少し固まってしまいました。

「…それは、光栄です」

あ、照れた。
イケメンが照れました。
これはチャンスかもしれません。

『す…』

「す?」

『す……す、すき焼きって美味しいですかね?』

「…え、ええ、美味しいと思いますが…
食べたことはございませんか?」

『え、ええ…』

「でしたら今度の週末はすき焼きにしましょう」

…なんか、ダメでした
秀一の前であんなに断言してしまったのに、本人を目の前にすると言えなくなりました
そういう病気なんでしょうか…
言いたい事が言えなくなる病気とかってあるんですか?

『た、楽しみにしてますね…』

なんで言えないんだろう。
もう少しお酒が入ったら言えるんだろうか。
そう思ってワインに手を伸ばしたら、目ざといイケメンにワインを没収されました。

「程々にと言いましたよね?」

『…はい』

冷蔵庫にそのまま持っていかれてしまいました。
イケメンはとってもご機嫌です。

ま、いっか…
安室さんのサンドイッチだもんね、それにすき焼きも食べれるのか…
俺のすき焼きバージンは安室さんに捧げますね…







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