イケメンの寝顔が見たい。

AM2:00。
書類を片付けながら、ベッドに座っているイケメンを横目で見る。

「蛍さん、仕事も程々にしないとまた寝不足で倒れますよ?」

『安室さんが寝たらどうなんです?』

「貴方が仕事をやめるのを確認しないといけませんから」

あれから数日、どう頑張ってみても毎日毎日こうやって躱されてしまい、イケメンの寝顔を見る事ができません。
そして朝起きた時には大抵イケメンはキッチンに立っています。

なんで安室さんの寝てるとこ見れないの!?
なんで!?
これイジメか何かですか!?
それともイケメンの寝顔を拝める程、そんなご褒美をもらえる程の仕事をしていないというお告げでしょうか…
なんという試練でしょう…

「もう5日も連続で2時過ぎに寝てらっしゃるんですから…」

『そういう安室さんだって同じじゃないんですか?
それに俺より早い時間に起きてますし、安室さんの方がどう考えても寝不足ですよね?』

「いえ、僕は寝不足ではありませんよ」

どういう事だ。
この野郎、また年上の余裕ってやつなのか。

『わかりましたよ!
仕事やめればいいんでしょう!』

書類を保存してパタンとパソコンを閉じ、ムッとして歯磨きをしてきた。
このイケメンより遅く寝るにはどうしたらいいんだろうか。
ムーッとしたまま部屋に戻ってベッドに座ったら頭を撫でられました。

…イケメンの手です!
お仕事の疲れも寝不足のイライラも吹っ飛びます!

「…今日はまだ寝ないんですか?」

『はい、安室さんが寝るまで寝ません』

「でしたら僕も寝ますよ
蛍さんの寝不足がたたるといけませんからね」

え?
こんなにもあっさりと寝ます宣言ですか…

補聴器を取ってパタリと横になる。
安室さんは電気を消して隣にやってきました。
イケメンが隣にいる幸せを噛み締めています。
とてもあったかいんですよ、そしてこのイケメンは何より安眠抱き枕としても最適です。

『……』

しかしいつになったら寝るんだ、このイケメンは…

「寝られませんか?」

『いえ…眠いは眠いんですけどね…』

ていうかわりと本気で眠いんだけど、このイケメンは全然寝る気配が見られません。

『あのー…』

「はい?まだ起きてらしたんです?」

それはこっちのセリフです!

『安室さん、寝ないんですか?』

「貴方がきちんと寝ているか確認しないと安心出来ませんので」

いや、なんかそれは過保護な気がする…
いくらなんでも俺はもう成人だ
ちゃんと寝てるか確認されるような年ではない

『安室さんが寝たら寝ます』

「それは多分ないと思いますよ」

『言い切れるんですか?』

「はい」

何故だ…
何故こんな強気なんだ…

すると腰をグイッと引き寄せられて体が超密着しています。
これは至近距離以上の至近距離。
そっと頭を撫でられて背中も一定のリズムでポンポンとされた。

ヤバい…
眠いところにこれはちょっとダメですね、反則です…
イケメンに頭撫でられて背中ポンポンはちょっとこれは、爆睡ルートです…

勝者、安室透。
熟睡したので今日こそ徹夜にまた勤しもうと思います。
なので今日は人生の先輩であるイケメンに相談をしてみようと思いました。

「どうした、馬鹿猫」

イケメンとドライブです。
シボレーの助手席で、ポツポツと不満を零したらこのイケメンはまた笑い始めました。
本当失礼だよな。

『あのねえ…秀一の寝顔くらい何度も見てるからいいんだよ
どうせイケメンなんだから
俺はまだ見ぬイケメンの寝顔が見たいだけ
わかる?アンダースタンド?』

「余程彼が気になってるんだな
こんな蛍も見たことがない、面白いじゃないか」

この人、なんでも面白がります。

『秀一ってちゃんと寝てるの?
ていうかこういう仕事柄睡眠時間て不定期になりがちじゃない?』

「…寝るときは寝るだろうし仕事の時は起きているさ
お前はどうなんだ?」

『俺?
とりあえず仕事片付くまで寝ないけど…』

「俺なら空き時間でも寝ることはある」

『…空き時間、ですか』

空き時間…
そうだよ!
きっとそうだ、空き時間に寝てるんだ!
だから寝不足じゃないんだよ!
あれ?
でもあの人って空き時間あったっけ…?
ポアロでバイトだってしてるし表仕事もしてるし…組織の仕事だってあるはずだし…
夜は俺のご飯作ってるよね?
たまに…ていうかよく泊まるよね?

『…空き時間なんてなくない?』

「じゃあ本当に寝てないのかもしれんな」

『そんなわけないでしょ…
最近イケメンだって俺と同じ人間という生き物だということがわかった
つまりイケメンでも眠くなるし、イケメンでも睡眠が必要だということだよ
わかる?』

「猫の考えることはよくわからんな
なら奴に盗聴器でもなんでも取り付けて一日の動向くらい観察したらどうなんだ?」

『えー…なんか犯罪者相手にしてるみたいでやだー…』

「我儘な奴だな…」

『それにプライベート覗くなんて秀一も変態だね』

「人のパソコンをハッキングしまくって中身を見て興奮しているお前の方が余程変態だと思うがな」

『余程って何?
その枕詞いりますかね?え?』

煙草の煙を吐き出した秀一はふっと笑った。

「そんなに見たいなら本人に直接言えばいいだろう」

『言ってどうするわけ?
寝顔見たいんで寝てくださいとか言うの?
馬鹿じゃない?変態じゃない?』

「心配しなくても多少なりともお前は変態だ」

『秀一だって変態だろ!』

「そうか?」

『Putain de merde...』
(クソ野郎…)

「今日は口が悪いな」

結局何の収穫も得られなかった。

「まあ、彼も人間だ
睡眠くらい取るだろう、上手く狙うんだな」

『スナイパーだからって聞こえが良いような言い方しないでよ、ムカつくな…』

「お前、可愛くなったな」

『可愛いって言ったらぶっ殺…』

身を乗り出して言い返そうとした瞬間だった。
急ブレーキをかけられ、体だけはシートベルトで固定されたので頭だけガンッとダッシュボードにぶつけた。
痛い。
地味に痛いです。
なんだか目が覚めた気がします。

『…なんかもう、どうでもいいや』

「ならいいじゃないか」

全部貴方のせいですよ!

「頭は大丈夫か?
また一段と馬鹿になったんじゃないか?
診てやろう」

『うるさいな、大丈夫だっての!』

バッと顔を上げたらふらりとしました。
シートベルトで体だけ固定されてますが頭がふらっふらです。
最悪です。

「軽い脳震盪でも起こしたか…?」

『大丈夫だし…もう帰れるし…
もういいよ、帰る、秀一の馬鹿…』

「悪かった」

シートベルトを外そうとしたら頭を撫でられました。
何だよこのイケメン。
くそう。

「俺のせいだ、ちゃんと家まで送ってやるさ」

工藤邸に着いてからもふらっとした所をちょっと助けてもらいました。
憎めない。
どこまでも憎めないイケメンです。

「ソファーにでも寝てろ」

素直に横になっていたら頭に氷枕を乗せられました。
イケメンの介抱です。
向かいのソファーに座った秀一は煙草を吸いながら考え事をしているようでした。
イケメンですね。

『もう、いいや…
なんか意地になって見るようなもんじゃないんだろうね
見れたらラッキーくらいに思っとくようにするよ
だって空き時間もなさそうだし、俺より睡眠時間短いんだし隙がないんだよ、きっと』

「まあ、それくらいの心構えの方がいいのかもしれないな
お前みたいな奴は特にな」

『え?俺?』

「単純で馬鹿なお前のことだ、躍起になっても仕方がない
仕事と同じだ
目先の欲に駆られていては何も得られん」

『……地味に今馬鹿って悪口言ったよね?』

「最終的なゴールを決めておかないと…」

『ねえ、聞いてた?
俺の悪口言ってたよね?
何平然と続けてんの、持論展開しないで?』

「…確かに言った」

『認められるとそれはそれで傷付くね…』

「仕事においてはお前は相当頭がキレる、策士だし手際も良い
だがプライベートは本当に馬鹿だ
だから男に振り回される」

『ねえ、あんまりボロクソ言わないで、傷付くから』

「たかだか寝顔一つのためにお前の睡眠時間を割く方が馬鹿だと言ってるんだ
仕事にも支障が出るだろう、少し考えればわかることだ」

はい、正論でした。
もう氷のおかげでだいぶ頭冷えたよ。
もうイケメンと寝られるだけで幸せだからこれ以上欲は言わないよ。
わかった、わかりましたよ。

『秀一』

「何だ」

『…ありがと』

「…礼を言われるような事を言った覚えはない」

いや、色々ですよ、先輩。
相変わらずイケメンですね。
もういいです、こんなイケメンな先輩がいるだけで満足です。
呼び鈴が鳴り響いたので玄関に目を向ける。

…あれ、何か嫌な予感がしてきた

時計を見れば17時過ぎ。
秀一は立ち上がったので慌ててそれを止めようと手を伸ばした。

『いい、自分で出るから!』

「ふらふらしてるくせに何を言ってるんだ」

『だ、大丈夫だから、あのそれより…』

「蛍さん、また鍵が開きっぱなしでしたよ
不用心だと前にも…」

ああああ…
何故入ってきたんだ、イケメンよ…
もうなす術がない、俺、今二人を止める程元気ないよ…

「やあ、元気そうじゃないか」

「相変わらず死相が見えませんね」

ちょっとやめてくれ…
お願いだ、後生だ…

「馬鹿猫を車に乗せていたら怪我をさせた
軽い脳震盪でも起こしているようだから大人しくさせといてくれ」

秀一、その自白が安室さんの事煽ってるのわかって言ってるんですか!?

「怪我をさせた?
聞き捨てなりませんね、その上よくもまあ、させといてくれだなんて口の利き方が出来ますね」

あああ…敬語で殺気3割増してますよ…!
ちょっと本当に何か始めないでくださいね、お願いします…

「帰るとするか」

秀一がそう言ったのでホッとしたのも束の間、なんと安室さんは玄関まで秀一を見送ったのか帰るのを確認しに行ったのか、一緒にいなくなってしまいました。
案の定、玄関の方で何か物音がします。

…コナン君に怒られるの、俺なんだけど
ねえ、お二人さん、いい年してちょっとやめてください…

ソファーで沈黙していたら、30分くらいして安室さんがリビングに戻ってきました。
また消臭スプレー攻撃でしょうか。

「蛍さん」

『は、はい…!』

「貴方、相変わらずドジなんですね
シートベルトしてなんで頭ぶつけるんですか…」

馬鹿ですよね、と言って安室さんはキッチンに入って行きました。

…馬鹿だそうです
どうしてイケメン二人に一日に何度も馬鹿と言われなければいけないのでしょうか…

『…たまたま身を乗り出しただけですよー』

「身を乗り出す必要あります?運転中に?」

『馬鹿だの変態だの言われたら誰だって言い返します!』

ムッとして言い返したら安室さんはキッチンから戻ってきました。
何か言われるのかと思ってゆっくり体を起こしたら、安室さんは隣に座ってチラッとこちらを見てきました。
イケメンです。

「貴方、馬鹿なのは知ってますけど変態なんですか?」

『ハッキングして他人のパソコン覗いて興奮してるような変態と言われましたよ!
仕事柄そうなるのは当たり前です!』

「あ、そういう意味でしたか
変態だと仰るから変な意味かと思いました
まあ確かに情報に対しては変態並みですよね、解析とか
余程好きじゃないとあそこまで情報解析もできませんしテクニックも身につきませんしね」

背中にもぞもぞと何かが入り込んできました。
チラッと横目で見たら安室さんの腕でした。
そのまま横腹をゆっくりと引き寄せられていつもの安室さんのリラックスタイムに突入してしまいました。
これはいつもいつ来るかわからないので本当に心臓に悪いです。

ほわー、ドキドキする…
なんか今日の安室さんちょっとお疲れ気味?
いつもより抱き込み方がソフトというか、寧ろ俺が枕にされてるみたいな…
あ、あ、安室さんから甘えてこられたの!?

『…お、お疲れなんですね』

「…ええ、あの男のせいで更に体力を使う羽目になったので」

ちょっと待て。
体力を使ったということはやっぱり何か玄関でやらかされたんじゃないか。

『…で、でも珍しいですね、安室さんがそんな…』

コツンと左肩に何かぶつかりました。
おや。
これは、これはもしかして。

…安室さんが甘えています!
重大事件です!
報道局!ニュースです、速報ですよ!
あの隙のない安室さんが俺に甘えています!

ゆっくりと、ドキドキしながら左側に顔を向けてみたら安室さんのおでこが完全に肩に乗っかっていました。

こ、これは類い稀なる安室さんのマジで完全に沈黙リラックスタイムです…!
超、貴重…!

『あ、あの、安室さーん…?』

完全に沈黙しています。
ということは。
ということはですよ。

チャンスです!
今世紀最大のチャンス到来!

そっとイケメンの顎を肩から外して下から覗き込んでみました。

『……!』

これは…!
相当の破壊力ですー!
イケメンの寝顔です!
寝てます!
イケメンが力尽きています!
ちょっと可愛いとか思っちゃって不謹慎ですよね、ごめんなさい、でもイケメンの寝顔が、寝顔が…!

「なんですか、起きてますよ」

『ええっ!?』

イケメンの目はパチッと開いた。
なんてことだ。

「どうしたんですか、変な体勢をして」

『い、いえ、あの、別に…何も…』

ていうか下から覗き込むイケメンとかもいい。
いとをかし。
これはヤバいです。
そっと体を反転させて安室さんの胸板に潜り込み、迷ってから首筋に唇を押し当ててしまいました。
俺にこんな事をさせるなんて、イケメンは本当に偉大です。

『し、仕事してきます!』

「逃がしませんよ、またやり逃げですか」

ぎゃあぁぁぁ…
心拍数が跳ね上がっております…!
速報です、このままだと生命維持が困難な状況に陥ります…!

イケメンのホールドに捕まってしまいました。
逃げられません。
今日は疲れてるんです、と安室さんにホールドされたまま魂が抜けかけた状態で一晩明かしてしまいました。
相変わらずイケメンは俺よりも早く目覚めていて、機嫌が良さそうに朝ごはんを作っています。

…結局あれは寝顔が見られたのか見損ねたのかよくわからないな

うーん、と考えていたら呼び鈴が鳴った。
インターホンを見て受話器を取る。

『あ、コナン君、おはよ
いつもなら勝手にあがってくるのにどうしたの?』

[門に鎖がかかってんだよ、入れねーんだけど]

『え!?』

どういうことだ。
部屋の窓から飛び降りて庭に着地。
そこから門の所へ急いだら、あろうことか鎖がかかっていました。

『な、な、何これ!?』

「雪白さんじゃねーの?」

『違うよ!
俺、昨日脳震盪起こして死んでたっての!』

急いで鎖を解いて門を開ける。
コナン君と一緒に玄関のドアを開けて、呆然としました。

『ちょっと待ってよ…』

「雪白さん…何したらこうなるんだよ」

そこは変わり果てた玄関でした。
記憶を巻き戻してみて絶望し、その場に膝をついた。

絶対あの二人だー…
何やってんだよー…!
昨日俺、無理やりにでも止めに行けばよかったんだ…!

「蛍さん、どなたでした?」

『あの…安室さん…
一体どういう事ですかねえ…』

「ああ、鎖の件ですか?」

そっちじゃなくて!
いや、それもそうなんだけど!

『これですよ!これ!
どうしてくれるんですか!
コナン君に怒られるの俺なんですけど!』

「ああ…すみません
昨日はちょっとゴキブリ退治に手間取ってしまいまして…
鎖も一生ゴキブリが家に出入りしないようにとの対策だったんですが、コナン君にご迷惑をかけてしまいましたね」

ゴ、ゴキブリですか…
もう、なんか、なんでもいいよ…

「後で僕が掃除しておきますからお二人はリビングで寛いでいてくださいね」

すっごくにこやかに言われましたけど心中穏やかではありませんよ。
どうしてくれるんですか。
この家の修繕費を出してるの俺なんですからね。
貴方達の因縁に他人の家を巻き込まないでください。

「雪白さん…」

『ねえ、コナン君、今回ばかりは修繕費請求していいと思う?
そう思わない?思うよね!?』

「…とにかく直しといてくれればそれでいいんだけど」

『…なんでこうなるんだ』

「蛍さーん、朝ごはんできたので食べてください
その間に掃除しておきますから」

くそう、こうなったら修繕費の請求書を後で送りつけてやる!
イケメンだからってなんでも許されるわけじゃないんだぞ!
それか秀一と割り勘でもしてくれ!

『…修繕費の割り勘なんて、しないか』

途方にくれていたら、コナン君も流石に状況を何か察してくれたようで、慰められました。
小学生に慰められました。
なんでしょう。
とても、複雑な気持ちです。







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