ヤバい喫茶店

「へえ、じゃあお兄さん、日本人とフランス人のハーフなの?」

『そう、母親が日本にいるからフランスとしょっちゅう行き来しててね
だけどここに来たのは初めてだよ』

「そうなんだー」

『それにしてもコナンて名前か…
余程のミステリー好きなんだな

あ、ここかー』

とあるビルの二階に毛利探偵事務所と書いてある。
一階は喫茶店。

『お腹空いたな…
ちょっと喫茶店寄ってからにしようか』

「え?」

『うん、なんか奢ってあげるから
ちょっと俺の話相手になってよ、江戸川コナン君?』

知ってるよ、全部
君のこともシェリーのことも、それから…色んなこともね

ニッコリ笑ってみせたのに、何か感じ取ったのか彼は表情を少し硬くした。

『さて、やっと食事の時間だ
毛利探偵事務所がこの上ってことは、この喫茶店にも詳しいんだろ?
おすすめとかあったら教えてよ』

「いいけど…」

彼は小学生には似つかわしくない大人の顔をして俺を見上げた。

「お兄さんのことも、教えてくれる?」

『……』

首を傾げてみる。

『名前、まだ教えてなかったっけ?」

「それはもう聞いたよ」

コナン君は喫茶店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

出迎えてくれたのは黒髪の女性。
やっぱり日本人はこうでなくっちゃ。

「あら、コナン君、お客さん?」

「うん、博士の所で会ったんだ」

「すごい綺麗な人…外国人?」

『あ、まあ、半分?
日本だとこういう反応されるからちょっと楽しいけどね
個人主義社会だから俺がどんな外見でもそれなりのところは雇ってくれるんだけど、日本じゃそうはいかないのかな…』

まあ、こんな髪でこんな目してると外国人に間違われて当然か…
黒髪に染めてくれば良かったかな…

コナン君と席に着いたらメニューを出された。

「ハーフ、ですか?
それにしては日本人らしくない顔立ちですね
その青色の瞳はアメリカや北欧など様々な地域で見られますが…アメリカでは年々青い瞳の人口は減っているそうですし、ヨーロッパ出身の方とお見受け致します
その青の強さと白い肌、ロシアや東欧諸国らしい特徴もありますが…個人主義という言葉とその洋服の手入れのマメさからして、僕の推理だとやはりヨーロッパ…フランスの方ですかね」

なんだ。
なんだこれは。
ポアロと言う名の喫茶店とだけあって店員まで探偵なのか。

「あれ、違いましたか?」

「安室の兄ちゃん、すごーい
お兄さん、フランス人と日本人のハーフなんだって…!」

「やはりフランスでしたか
しかし大人になってもこんなに青色の濃い瞳は珍しいですね
それになんだか…」

メニューを受け取りつつ顔を上げたら、褐色肌の男と目が合って互いに何かを察知した。

『……』

「……」

間違いない、組織の人間か…

目が合って数秒、沈黙が流れた。

「…どうかされました?」

『いえ…別に』

びっくりした。
まさかこんな所で組織の人間に出くわすとは思わなかった。
しかも、喫茶店で。

『あの、おすすめとかありますかね?
日本に着いてすぐ此処へ来たんでまだ食事をしていなくて…』

「そうですね…
でしたら軽食もございますし、サンドイッチでもいかがですか?」

『じゃあ、それで
ああ、あとカフェを
それから彼に…オレンジジュースでも』

「かしこまりました」

いやー…この歳になるとわかるもんだな
俺、いつの間に洞察力備わったんだろ
多分向こうにもバレたな、あれ、てことは俺なんとなく…ヤバくない?
って、まさかな…そんな早々組織の人間になんか見つかるわけ…

「雪白さん?」

おっと、いけない
彼を話相手に誘ったのは俺だった…

『ああ、ごめんね、コナン君』

「雪白さんさ、なんで日本に来たの?」

『休暇を取ったんだ、ママンに会うためにね
定期的に連絡してるんだけど、心配性だから顔出しに行かないといけなくて
纏まった仕事も終わったし、丁度上司から休暇の許可も下りたから』

「へえ…仕事って、休みは不定期なの?」

『まあね、なかなかハードな仕事してるから
あんまり定時であがったりとかそういう事がないんだ』

まあ、事件解決しないと働き詰めになるからな

「でもさー、フランスって日本よりお店閉まる時間早いよね?
それに閉店の時って閉店するからってお客さん追い出してお店閉めちゃうんでしょ?
雪白さん、ハードなお仕事って言ったよね?
それって…」

『大使館で働いてるんだ、在仏日本大使館』

「でも、それも嘘だよね?」

『あ、バレる?』

どんだけ洞察力鋭いんだ、この子は…
やはりデータ通りか、いや、それ以上か

「大使館はちゃんと、休暇も労働時間も決まってる筈だよね?」

『…そうだね、格好つけて悪かった
こう見えても俺、地元のレスキュー隊隊員なの
だから通報があれば仕事は突然入るし、仕事が何時に終わるかもわかんないってわけ』

「そうなんだー」

はー、レスキュー隊だなんてよくもサラリと出てきたもんだ
誰だ、俺をこんな嘘つきに育てたのは…

「でもなんで小五郎のおじさんに会いに行きたがってたの?」

『ああ…それはまあ、野次馬精神ってやつかな
有名人なんだし、会ってみたいじゃない』

ていうのはもちろん嘘だし君に会いたかっただけなんだよね、コナン君

『ママンからよく話は聞いてるんだ
日本には眠りの小五郎っていう難事件を次々と解決してしまう名探偵がいるって』

「ちなみに僕が弟子入りさせていただいてるんですよ」

ふと横を見ればさっきの店員さん。
オレンジジュースとカフェを持ってきてくれたのだが、気配すら感じなかった。

『あ、お兄さん』

「はい?」

『この辺り、詳しいですか?』

「そうですね…かなりとは言いませんがそこそこ知ってますよ」

『そうですか…
じゃあ…お酒の飲めそうなバーとか、ご存知だったりします?』

「…ええ、一応二軒くらいは知ってます
良かったら地図でもお描きしましょうか?」

『いいんですか?助かります』

お兄さんはお盆を持ってカウンターへと入って行った。

ていうか、なかなかのイケメン店員に可愛い店員て何なのこの喫茶店…

「お酒、飲むの?」

『まあね、それなりに』

「雪白さんはフランスだとワインとかいっぱい飲むの?」

『そうだね…
カクテルやウイスキーなんかよりは、ワインの方が好きだなあ…』

カフェを一口飲んでから続ける。

『ああ、でも日本の酒には興味あるよ
まだ飲んだ事がなくてね
それからアジアのものも少しずつ飲んでみようかと思ってるんだ

白乾児、とかね』

コナン君の目の奥底までじっと見る。
シェリーのデータにもハッキングをした。
一度彼が白乾児を飲んだ時に元の生体に一時的に戻った事もチェック済みである。

「お待たせしました」

運ばれてきたのはサンドイッチ。
まあ、サンドイッチを注文したのだから当たり前なのだが。

『サンドイッチ、そっか…』

「ああ、日本ではこういうのが定番なんですよ
すみませんね、バゲットのサンドイッチではなくて」

『いや、日本のサンドイッチも久しぶりだったからつい…』

「それとこちらが地図です
暫く日本にいらっしゃるんです?」

『ええ、その予定です』

なんだろう。
まあ、親切な店員さんである。
地図を広げようとしたら手首をそっと押さえられた。

「子供の前で酒場の地図など無粋でしょう?」

『…それもそうだ』

うん、コナン君の前で申し訳ないことをした。
ふとその掴まれた右腕に何かが触れた。

…発信機か
まあ、まだ付けたままにしといてあげよう

『いただきます』

手が離れて店員はまたカウンターの方へと行ってしまった。




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