巻き込まれ体質というものは厄介なものです。

早朝です。
先日の左腕の痛みで目が覚めました。
傷が塞がらないし治りも遅いので流石に病院に行こうかと考え始めました。
ふと隣を見ると、イケメンがいます。

おおお、今日は早朝だからでしょうか…!
初めての寝顔を見れ…

「寝られないんですか?」

『…あ、いや、はい、まあ、そうですね』

くそう…なんでこのイケメンの寝顔が見られないんだ…!
いつもそうだよね、俺が寝た後に寝てるんだろうし俺が起きる前に起きてるし
いつ寝てるんだよ、全く!

結局新聞配達の音を聞き、寝不足のまま起き上がってダイニングに向かった。
いまいち調子が悪い。

『安室さん』

「はい」

『此処から近くの病院てどこですかね?』

「あの、ご自分のタブレット端末に尋ねるようなこと聞かないでくださいます?」

『…すみません』

「米花中央病院ですかね…」

ちゃっかり答えるのか!
タブレット端末取りにいこうとしてたよ!
ちょっと!

「気分でも悪いんです?」

『い、いや…その、先日の傷がなかなか治りが悪いもので…』

「蛍さん、病院に行きましょうとあの時言いましたよね?」

はい…仰っていました…
後ろからゴゴゴ…とお怒りオーラが見えます…

『じゃあ…
保険証とか他国だと面倒なので一度フランスに帰ります…』

「怪我の治療のためだけにフランスに戻るんですか、貴方馬鹿ですか」

『では…』

「仕方ありませんね…」

はい?

気付けば助手席。
運転席には安室さん。
どうやらその米花中央病院とやらに連れて行かれるようです。

「蛍さん…いえ、クロードさん、一つお聞きしてもよろしいですか?」

エンジンを掛けながら降谷さんはそう聞いた。

『なんでしょう?』

「クロードさんを撃ったという情報屋について、何かご存知ですか?」

『…FN MINIMI』

それだけ答えてシートベルトを締めた。

「ベルギーのFNハースタル社ですか…」

『入手経路については全て謎です
相手も相当なハッカーだったようで、自分のパソコンのハッキング対策も入念に行っていました
入り込めたのはあの情報屋が組織に潜り込んでいることと俺の存在を知っていたことくらいです
ハードディスクを破壊したのは今更ながら後悔していますが、仕方ありません

まあ、MINIMIなんて可愛い物使ってくれちゃって大変でした
せいぜいアサルトライフルくらいでないと俺の身が持ちませんからね
おかげで飼い主にはマシンガンくらい対処しろと怒られましたよ
本部でも捜査してますよ、最近やけに謎の入手経路で武器が国内に流れ込んでるって
ベルギーの闇市なら何度も足を運んでいますが、今更あんなメジャーな代物をただの情報屋が手にしているなんて少し変な話だとは思いました

引っかかるんですよねえ、どうも色々と』

「それはDGSEとしてですか?それとも情報屋である貴方個人としてですか?」

『どちらもです』

車はゆっくりと発進した。
それから暫く沈黙が続いてふと横を見る。

『合同捜査でもします?
上に提案くらいできますけど』

「…悪くない話ですね
しかしこれは日本の話ですから」

『フランスにも流れ込んでると、言いませんでした?』

「確かに仰いましたね
ですが僕は許せないんですよ、貴方を傷付けた物を僕の手で始末しないと」

降谷さーん、お仕事ですよー
公私混同いけないと思いまーす…

『効率悪くなりますよー?』

「構いません」

『残念ですね、折角降谷さんとのお仕事だと思ったのに…』

やっぱり一筋縄じゃいかない人だ。
大きめの病院に着いて、はあっと溜め息を吐き出した。
病院なんて久しぶりだ。

「蛍さん、外来受付を…」

『保険効かなそうだなあ、嫌だなあ…
病院怖いなあ…』

「心の声漏れてますよ」

『……』

引きずられるようにして外来受付を済ませて整形外科の前で待つ。

『そういえば安室さん、お仕事はよろしいんですか?』

「仕事ですか?してますよ?」

『はい?』

にっこり笑ったイケメンは、何も言わなかった。
名前を呼ばれてしまったので入ったら安室さんまで一緒に入ってきたのでびっくりした。

『あの、保護者ですか…?
俺一応成人ですけど…』

「少し協力はしていただきたいんです、クロードさん」

あれ、まだ降谷さんモードでした。
目の前のお医者さんはおじさん。
ふむ。

「先生、こちらの方ですが一発まともに喰らってから数日経っているんですよ
治りが悪いというので連れてきたんですが、もう少し早く連れてくるべきでした」

え…?

先生は失礼します、と俺の包帯を解いて傷口を見た。

「クロードさん、貴方が被弾した時の弾丸は回収されました?」

『ええ、まあ、こっそり持って帰ってきてますけど』

ジンが俺の腕に刺さっていた弾を抜いた後、こっそりポリ袋に入れて持って帰ってきていた。
それを降谷さんに渡す。

「先生、いかがです?」

「間違いありませんね、先日いらした被害者の傷口とよく似ています」

「足にも何ヶ所か被弾したようですが、瘡蓋にもならずまだ血液が乾燥していません」

「そうでしたか…」

「よろしければ先日いらした被害者の方の写真も見せていただけます?」

待て待て待て、なんだこれは…
また何かに巻き込まれている気がするんですけど…

『あのー…降谷さん、何のお話でしょう?
この先生、どちら様です?』

「ここは警察病院ですよ
前に言いましたよね、僕に言ってくだされば入れられると
それから先ほどきちんと申し上げた筈です
貴方を傷付けた物を僕の手で始末すると
貴方は被害者です
巻き込まれてるんですよ、日本で起きている連続銃撃事件に」

…はい?
また事件ですか?
組織のお仕事だったのに?
あの情報屋はやっぱり只者じゃなかったんです?

どうやら日本警察は武器の密輸ルートの件で捜査していたらしいです。
そんな中、俺は組織のお仕事で情報屋を始末しました。
そしてその情報屋がなんとまさか、密輸ルートに関係していたようで、表向きには俺は武器の密売人に撃たれた被害者になったというわけです。

何それー…!?
そんなことってある?
俺の下調べも甘かったな…

「あくまで推論ですが、弾丸に塗ってあったのは血液抗凝固剤
あとでこの弾丸を調べればすぐにわかることです
クロードさんが持ち帰ってきてくださって感謝しています、とてもいい手掛かりになりましたよ
恐らく先日の被害者も同じものを被弾したようですね…」

もう何なのー?
ただの病院じゃないし、来てみれば被害者扱いされ、降谷さんはお仕事モード…
何ですか…これ…
もう巻き込まれるの散々なんですけど…

とりあえず処置をされて俺はポカンと、仕事の話をしている二人を眺めるだけ。
足の傷も念のためと処置をされてしまい、昼過ぎまで拘束されてしまった。

…何だったの?結局

車に戻ったら降谷さんはやっぱり凛々しかったです。
ですが状況がかなり複雑です。

『降谷さん…』

「ご心配なく、必ず取り締まりますから」

いや、そうじゃなくてですね…

「申し訳ありませんが今日はこのまま警察庁に戻ります
ご自宅には送りますので、言われた通り安静にしててくださいね」

日本の事件。
足を踏み入れるなと言われたようなものだ。

『…はい』

それからずっと窓の外を眺めていた。

「蛍さん」

『…はい』

「急に驚かせるようなことをしてしまってすみませんでした
ですが車内でのお話を聞いて確信したものですから、米花中央病院ではなく管轄の警察病院に向かいました
僕の勝手な判断です、我儘をすみません」

我儘、か…

『…もう、巻き込まれるのは嫌です』

「すみませんでした」

『杯戸公園まで送ってください、そこでいいです』

「…わかりました」

流石にムッとしたのに。
一線を引かれたのに。

なんで俺、この前の現場に戻ってるんでしょう…

廃ビルの地下、情報屋が潜伏していたというこの部屋のパソコンを立ち上げても何も映らなかった。
まあ、仕方ない。
ハードディスクも俺が撃ったし多分動かない。
一か八かでそれを持ち帰り、工藤邸で解析してみた。

…お、これまだ生きてるじゃん!
かろうじて生きてるし、ハッキングもこのくらいなら時間さえあればできそうだ
そしたら情報提供だって……

そこまで考えてハッとした。
手を出すなと言われてたんだっけ。
いや、降谷さんが勝手にそう言っただけ。
つまり降谷さんに会わなければいい話であって部下さんに引き渡せばいい話だ。
そうだ、そうしよう。

密輸ルートも洗い直しですね、しかしまあこれなら早期解決が目に見えてますよ
やっぱり日仏合同捜査にした方が効率良かったと思うんですけどねえ…

今日の夕食サービスは拒否。
来ないでください、とメールを入れてしまったけれど彼も忙しいに決まってる。
これでいいのだ。
夜ご飯を食べてる時間が勿体無い。
こんなに美味しい獲物が目の前にあるというのに。
徹夜で解析し、昼前には全て解析し終わり密輸ルートもだいぶ絞り込めた。

よしよし、これを降谷さんの部下さんに届けてこよう

警察庁へタクシーで急ぎ、いつもの部署に向かう。
昼間だから降谷さんだっていない筈だ。

『……』

「…どうしたんですか」

そして何故出会う?
お昼っていないんじゃなかったの?
ねえ、なんでこうタイミング悪いの?

『…ぶ、部下さんに会いに…』

「そうですか」

冷たい…
いつになく冷たいよ、この人…
いくら事件関わってるからってそんなピリピリしないでよ…

とりあえず部下さんを見つけて事情を説明し、USBを渡した。

「降谷さんにお渡しした方が良かったのでは…?」

『いえ…俺がこの事件に手を貸してると知ったら彼は満足しないでしょうし…
余計なことをって怒るかもしれません』

「そうですか…わかりました
お怪我の方は大丈夫なんですか?」

『ええ、ちゃんと日本の病院に連れて行っていただいたので大丈夫です
薬もあります』

「それは少し安心しました
ですが、クマが出来る程の事をしてくださってお疲れでしょう
此方に手を貸してくださったのは…やはり降谷さんにもお話すべきではないじゃないですか?」

『いえ、降谷さん怒りますから大丈夫です
では、また失礼しますね』

工藤邸までタクシーで戻って、そのままベッドイン。
目が覚めたら22時前。
電話を見てギョッとした。
そこには25件もの着信。
全部降谷さんからのものでした。

…夜ご飯サービス二日連続でお断りして怒っておられるんでしょうか?
このままだと日仏友好関係が危ういです…

折り返しの電話を恐る恐る掛けてみた。

『も、もしもし、降谷さん…?』

[何回電話したと思ってるんですか]

そ、それは降谷さんがご勝手になさったことでしょう…!
俺、寝てただけだからね!?

『あの、夕食サービスでしたら…今日はお受けします』

[僕にも都合があるんですが]

ですよね…はい、わかってます

『いえ、駄目元で言ってみただけなんで…』

すると呼び鈴が鳴ったので立ち上がる。

『すみません、来客なので失礼しますね
あの、明日はお会い出来たらなと…思います』

電話を切って、インターホンも覗かずにそっとドアを開けた。

「毎度毎度、随分勝手な事をしてくださいますね、貴方は」

え…?

門の所でイライラされていたのは降谷さんでした。
ちょっと待って、じゃあこの電話って今50mにも満たない場所でしてたのかな。

「雨、濡れるんですけど」

『あ…すみません』

気が付けば外は雨が降っていた。
慌てて門を開けてあげて玄関まで行ってドアを開けた。
そしたら後ろからまた抱き込まれました。
相当お疲れだったのでしょうか。
いつもよりも力が強い包容力です。

「…もう2日程で解決します
僕に黙ってこんな事をして、許しませんよ」

『…だから怒られるって部下さんに言った筈なんですけどね
ですが俺に出来ることをしたかっただけです、出来ることなんてハッキングとか、そんなことくらいですから…』

「僕に黙って部下にそうした事も許しがたい事です
蛍さん、もう勝手な事はしないでください
どうせ現場に行かれたのでしょう?
今日の午後、あの情報屋の潜伏していた廃ビルが放火されました
あと何分か、何時間か遅かったら貴方は巻き込まれてたかもしれないんですよ?」

え…放火…?
まさか、密売組織が全部口封じに…

『…すみません
でも、あのハードディスクがかろうじて生きてたんでハッキングも…』

「また仕事の話ですか
そういう事を言っているんじゃないんです
僕にとって貴方がどれどけ大事なのかわかってらっしゃらないんですね…」

…大事?
前に、大事な人が云々て話はしたけど…

『…俺には大事な人とか、そういう定義はわからないです
だけど、降谷さんとはお友達以上ですし少し他の人とは違うんです
貴方の力になりたいと思うのは、いけないことだったんでしょうか…?』

振り返ったら少し呆れた降谷さんがいらっしゃいました。
額がコツンとぶつかる。

「貴方って本当に馬鹿ですね」

あ、大事な所までぶつかりそうです…
この至近距離は何でしょう…

「蛍さん」

左耳を降谷さんの体に押し付けられて、はっきりと鼓動を聞いた。
あ、イケメンも同じ人間でした。
同じように心臓が音立ててます。
右耳は補聴器も外していたし、俺にはそれしか聞こえなかった。

「そういう馬鹿な所も好きです」

なんだろう、右耳の側で唇動いたよね?
何か言ったよね?

『降谷さん…?』

体が離れた。

「少し遅いですが夕食の時間にしましょう」

『あの、今何か仰ったんです…?』

「はい」

『それは…』

「貴方はまだ知らなくていいことです
いずれ、知ることになりますよ」

え、何?

『も、もしかして密輸ルートと密売人の潜伏先ですか!?
特定できたんです!?』

「…はい?
どの流れで事件の話に戻るんですか…」

『い、今いずれわかると…』

「とりあえず貴方は仕事から離れてください…!」

あ、行っちゃった…

しかしまあイケメンである。
今日は降谷さんモードなので凛々しかったけれど、キッチンに入ったらスイッチオフだな。
もう安室さんになってる。

『…あ、今日こそ安室さんの寝顔見るために徹夜でもしようかな』

ダイニングの椅子の上で、いつものようにキッチンを眺めながらご飯を待っていた。






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