ハードなお仕事

美味しい!
最高!
こんな生活久しぶりだしイケメンがいるって本当に素晴らしいことです!

久しぶりの美味しい夜ご飯を満喫しました。
食後はリビングでイケメンの肩に凭れてぼけーっとしていたのだけれど、ふと思い出した。

『安室さん、深夜に警察庁に戻ると部下さんからお聞きしましたが…よろしいんですか?』

「まだ深夜ではありませんよ?」

『あ…そう、ですね…』

本当に深夜ギリギリまで戻らないのか、この人は…
ていうかいつ寝てるの?
ちょっとでいいからイケメンの寝顔が見たいです、拝み倒したい…

『安室さんて、お忙しいですよね』

「…貴方程頭の中が仕事だらけというわけではありませんが、有難いことにそこそこ忙しいですよ」

俺の頭の中が仕事だらけって何だ。
ちょっと失礼だぞ。

『それなのにどうしてわざわざご飯作ってくださるんです?
負担じゃないんですか?』

「蛍さん、例え話でもしましょうか」

なんだろう、と思った矢先、携帯が鳴った。
画面を見なくても、この電話の鳴り方でわかる。
一瞬で背中がピンと伸びた。

『すみません、ちょっと失礼します!』

慌てて携帯を引っ掴んで部屋に入ってドアを閉めた。

『もしもし…』

[3コール掛かったな]

『データの処理中だったので…すみません』

[まあいい、次2コール以内に出なければ首輪でもつけてやる
仕事だ]

『…え、今からですか?』

折角のイケメンとまったりタイムだったのに。
仕事なら仕方ない。
指定された場所とターゲットはデータで確認済み。
しょうがない。
電話を切ってから大急ぎでフル装備。
USPをホルダーにセットして部屋を出た。

「仕事ですか?」

『緊急のネズミ駆除みたいで…
夜に仕事が入ることはあまりないんですがね』

「そしたら僕もお暇します
一度戻ることにするので送りますよ、場所はどこです?」

『杯戸町ですね…公園までで大丈夫ですので…
すみません』

「構いませんよ」

戸締りをしてから、安室さんの愛車に乗り込む。

「残念です、今夜貴方とゆっくり出来なくなってしまって」

『…あ、はい…そうですね
でもまた会えるようになったので嬉しいですよ…?
やっぱりご飯を一人で食べるのも寂しかったですし』

「出来れば仕事の話などせずにいたかったのですが、今回のターゲットは?」

『下っ端のドブネズミですよ
ジン様も少し目をつけていたようですが、最近動き出しましてね…
どうも相手も情報屋らしく組織の情報を掴み始めたのでNOCリストに追加しておきました』

「貴方がしょっちゅう改ざんされるので此方も対処が追いつかないんですよね」

『それはすみませんね』

「あまり申し訳ないと思っていませんね?」

『ええ』

俺が一番見たくない彼の顔。
バーボン。
あーやだやだ、俺は凛々しい降谷さんか優しい安室さんがいいのに。
この人はやはり食えない。

『あ、ここまでで大丈夫です、ありがとうございました』

「くれぐれも気をつけてくださいね」

それは、派手にやると日本警察が動き兼ねないという警告ですね、わかってますよ
ご親切にどうも

『ご心配、ありがとうございます』

「またワイシャツ汚して来たら、怒りますからね?」

『…はあ』

今のは、どういう意味だったんだろう?

とりあえず車を降りてRX-7が走り去るのを見てから、元来た道へと戻っていった。

すみませんね、安室さん
わざわざ送っていただいた所申し訳ないのですが、ターゲットの潜伏先は此処じゃないんですよ

杯戸町のとある交差点でガードレールに座っていたら、目の前に漆黒のポルシェが停まった。
後部座席に乗り込んで運転席の彼に手を伸ばした。

『ジン様ー』

「暴れるな」

はい、いつもの銃口が目の前にあります。
なので大人しくしました。
そしたら頭を撫でてくれたので満足です。
全く、ジン様までツンデレなんですか、もう。

『お仕事、まさかただのネズミ駆除じゃないですよね?』

「囮だ」

『…はい?』

「相手も相手だ、場所も条件が悪い
キャンティとコルンが待機しているからそこまで誘導しろ
手段は選ぶな」

渡されたルートを確認してちょっと落ち込みました。
狭い雑居ビルの中を、しかも廃ビルのような複雑な所から指定された広い場所に誘き出さなければならない。
まあ、仕方ない。
後部座席でルートを眺めながら色々と考えていたら、あっという間に到着してしまった。

厄介なお仕事もあるもんだなあ…
しかもキャンティとコルンもいることだし、あんまり顔合わせたくはないしな…

車から降りて廃ビルへと足を踏み入れた。
中は廃墟のようで、こんな所に人が潜んでいるのかと思った程だ。
地下へと降りていき、唯一電気の付いていた部屋に入った瞬間だった。

『っ…!?』

銃声と共に腕に一発喰らった。

「わかっていたさ、お前さん達が来ることを」

『あれ、初めましてじゃなかったですか?
清掃業者の者なんですけど』

「隠しても無駄だ、お前の事は知っている
組織の情報屋でもあり内情でさえ勘繰ってるジンの飼い猫…"アンジュ"
組織内でもコードネームを知ってる人数は少ない」

『流石情報屋、そこまで知られてるんだったらもう俺が取るべき行動くらいわかってるよね?』

口封じ。
それしかないけど、とりあえずこんなところでドンパチやるわけにもいかない。
USPを取り出したら、なんとマシンガンを装備されていた。

うっそおぉぉぉ、ちょっと待って、これ何の映画ですか!?
ただの情報屋がなんでこんなの持ってんの!?
やっぱ危険人物でマークしといて正解だったけど、これは…警視庁動き出すような事まで絡んでるんじゃないの!?

『っと、蜂の巣にしたいわけ?』

セーフティーを解除したら容赦なく弾丸がやって来たので間一髪で避けた。
壁は穴だらけ。
こういう時は作戦通りにいきますかね。

『逃げるが勝ち!』

「これを見せて逃すと思うか?」

きたきた、見事引っかかりましたよ、このお馬鹿さん

マシンガンに追っかけられるのは流石に怖いですが、俺も流石に組織で鍛えられてるので避けられない事はないです。
階段を一段飛ばしで上がり、上からUSPでわざと外しながら此方へ引き付ける。
ビルの三階、会議室跡の広い場所まで追わせるだけ。
俺の撃った弾は階段の柵に当たって金属音を響かせた。

「気をつけろよ、そこ、鉄腐ってるぜ」

『しまっ…』

階段の底が抜けた。
咄嗟に柵に捕まって宙吊り状態。

あーあ、これじゃあ恰好の餌食だよねー…

「形成逆転だな
俺を処分しに来たはずの情報屋が処分されるとはな」

男はマシンガンを構えた。

『なんて、ね』

男がマシンガンの引き金を弾くと同時に、腕力で体を階段の上に戻した。
身体能力だって悪いわけじゃないんだぞ。
伊達に猫と呼ばれちゃいない。
ナメられたものだ。
片足で踏み込んで手すりに登り、弾丸を避けながら上に上っていく。

『形成逆転だって?
笑わせんなよ、楽しいことしよ?
情報屋同士派手に殺ってケリつけようぜ
勝った方は負けた方のデータ全部貰うってのでどうだ?
お前が俺を殺ったら、俺のデータ全部お前にくれてやるよ』

「それはいい条件だ!」

おうおう、簡単に乗ってくれちゃって

と思ったら相手が本気を出して来ました。
物凄い勢いでマシンガンぶっ放してきました。
防弾チョッキがとても役に立ってますが、足も所々掠ってるよ。
そんなに俺のデータ欲しいのか、びっくりだね。
なんとか三階までは引きつけて左耳に手を伸ばした。

『三階まで来た、あとは部屋に追い込むだけだからそしたらお願い』

[生意気言ってんじゃないよ、アンジュ
時間食い過ぎだよ
アタイ、もう我慢できないよ
ジン、そろそろ殺っちゃっていいかい?
熱反応も二つ確認した]

『キャンティ、俺ごとぶっ放す気!?』

[当たり前!]

だから嫌なんだよ、キャンティと仕事すんの…!
もう、早く部屋に追い込んでしまえ…!
こうなったら最後の手段です…

三階の会議室の前まで来て、USPを捨てた。

「なんだ、降参か」

『うん、流石に拳銃一個でマシンガンに敵うわけないし』

会議室のドアを蹴って開ける。

『俺と一緒に心中しよっか?
俺の足もお前のせいでそろそろガタがきてる、もう走れないし』

…腕の出血もそこそこだな
早く弾抜いて止血しないと…

部屋の中に入って、目を疑った。

「下がってろ、アンジュ」

な、なんでジン様いらっしゃるんですー!?
先回りですか!
それとも俺が信用できなくていらしたんです!?

呆然と固まっていたら、ジンにグイッと肩を後ろから引き寄せられてロングコートの中に収納されてしまいました。

あ、これは…ジン様の鉄壁コート…
久しぶりに匿って貰ったけど最高です、ジン様のコート…!

男が部屋に入った瞬間、ジンがやれと言ったのを聞き、ガラスが割れる音もしたのでキャンティとコルンでしょう。
それから最後にジンの腕が持ち上がったのを感じたので留めの一発ですね。
お仕事終了、一件落着。

しかしまあ、今夜はハードでしたね…

はあ、と溜め息を吐き出したらコートが開いた。

「大分手こずったな」

『…すみません』

「マシンガンくらい対処しろ」

久しぶりにジンからのお説教というかお小言です。
地味に凹みます。
そしたら左腕の傷口に指を思いっきり突っ込まれたので思わず声を上げてしまいました。
カラン、と床に落ちたのは銃弾。

…ジン様、俺が怪我したの知ってたの?

「行くぞ」

バサッとコートを翻し、死体を跨いでジンは先に部屋を出て行く。
慌てて追いかけていったらビルを出る直前で一度だけ、乱暴に頭を撫でられて廊下に落としてきた筈のUSPを渡されました。

…な、何これ!
ご褒美ですか!?
ていうかいつの間に回収してくださってたんですか…!

ポルシェに戻ったらジンからいつも通りツナ缶を放られ、杯戸町の交差点でポイッと降ろされました。

まあ、情報屋のパソコンのハードディスクも撃ち合った時に破壊しといたし…
報酬ももらえたからお仕事はオッケーということで…

悪くない。
うん、まずまずの成果だった。
多少予想外のことで足を引っ張ったとはいえ。
こんな姿で電車やタクシーに乗るわけにもいかないので、仕方なく徒歩で工藤邸まで戻ってきた。

今日も疲れた夜でした…

衣服を脱ぎ捨ててとりあえず傷口は消毒しておき、腕には包帯を巻いておいた。
ベッドにパタリと倒れ込んでそのまま爆睡。
起きたら昼前だし、本部から仕事が来ていて若干萎えた。

仕事ってほんとにいつでもやってくるもんだねえ…

溜め息を吐き出してげっそりしながら仕事を片付け、夕方呼び鈴が鳴るまでずっと秀一と電話をしていた。
電話を切ってから玄関のドアを開けたら、夜ご飯サービスのお兄さんが立っていました。

『…安室さん』

「随分お疲れのようですね」

『まあ、仕事は期限を待ってくれないので…』

ダメだ、イケメンに会ったのにあんまり回復してない。
これは相当疲れてたな、俺。
とりあえずキッチンに向かった安室さんを見てからソファーでゴロゴロしていたら、走ってくる足音がしたので目を向けた。
すると安室さんは黙って俺を捕まえてTシャツの袖をめくった。

『あ、安室さん?』

包帯は見られた。
それからズボンの裾を捲り上げられた。

『あ、あの、何事ですか…』

「昨日、またワイシャツを汚さないようにと言いましたよね?」

『あ、はあ…そんな話もしましたね…』

「どういうことですか」

ちょっと怒っておられます。
詰め寄られたのでソファーの上で後ずさりしたら肘掛けに背中がぶつかりました。
もう逃げられません。

「スーツにも大分穴が開いていましたね
何ですか、あれは」

俺を跨いで腕をがっちり捕まえてきた安室さんは、ちょっと降谷さんモードに入っていた気がします。
日本警察が動かれるんでしょうか。
怖いです。

『だからお仕事ですって…
久しぶりにハードなお仕事だったんです
マシンガン相手に囮ですよ、そんな事してたら一発や二発くらい喰らいますって』

ていうかね、よくよく考えてごらん。
この状況はちょっと恥ずかしいんだよね。
美味しいといえば美味しい。

『あの…恥ずかしいんですけど…』

ソファーで押し倒されてます。
怒ってるイケメンに押し倒されてます。

「スーツやシャツの穴の開き方から考えて、その左腕は掠っただけとは思えません
まともに一発喰らってますよね?ちゃんと治療はされたんですか?」

いや、あの、俺の話聞いてました?
今、俺押し倒されてるんですよ?

『え、適当に消毒して…まあ、寝たら治りますし…
ていうかこの体勢どうにかなりませんかね…』

「僕に連絡してくだされば警察病院にでも入れましたよ!
貴方馬鹿なんですか?
病院行きますよ!」

『え、嫌ですよ!大袈裟です!
それにこの体勢どうにかちょっと…』

「怪我を診てもらってください!」

『だからあの…!』

「なんだって言うんですか」

『…近い、です』

誤解を招くくらいの近さと体勢。
お友達以上のパーソナルスペース侵してるどころか、これは俗に言うカップル並みのパーソナルスペースです。

「……」

『……』

「…すみません、つい」

『ついっていう言葉で済む距離で…』

ぎゃああぁぁぁ、イケメンに抱きつかれました…!
誰か!
誰か助けてください、救援要請します…!
心臓が頑張りすぎちゃって辛いです、最早これは過活動通り越して心臓止まっちゃうかもしれません…!

「貴方が傷付いたとわかったら、つい必死になってしまいました」

どんな殺し文句ですかー!

『…近いです、あの、そして心臓止まっちゃう…』

「心臓が止まる…?
この家にAEDはありますか!?」

『え?いや、知りませんけど…』

「でしたら心臓マッサージを…」

ちょっと待って、なんかおかしい…

『だから、あの、心臓止まっちゃうから離れてくださいー!』

思わず思いっきり肩を押し返して部屋に逃げて、ベッドに包まっていました。
ダメだ。
イケメンの思考回路が謎すぎる。
ていうか、押し倒されてしまった。
そしてそこからのハグ。

…こ、これは、お友達以上の何よりの証拠ですよね…
ほんとに心臓止まっちゃうかも…

「蛍さん!救急車呼びましたから!」

『え!?』

「さっき心臓が止まっているどころかかなりの速さで動いていたので過活動の可能性もあります
一応念のため病院で検査してもらいましょう」

『いや、あの、ちょっと…』

部屋に入ってきた安室さんは布団をめくってきた。

「というのは冗談です」

『はい!?』

「ですが不整脈ともなれば少し心配ですね…」

ベッドに座った安室さんにまた後ろから抱き込まれてしまって、素直に胸板に寄っ掛かる。
すると左胸に手が触れた。

『……』

あ、やばい。
心臓頑張ってる。

「少し脈、速くないですか?」

『誰のせいだと思ってるんですか!』

「ご病気ではないんですか?」

『違います!』

「…その原因が僕でしたら、少し嬉しかったんですけどね」

ゴングが鳴り響き渡ります。
一発K.O.です。
こんな気障な台詞を平然と吐くイケメンがどこにいるのでしょうか。
やはり、このイケメンは一筋縄ではいきません。

『…貴方のせいですよ』

小さく答えて体勢を変え、安室さんの胸元に潜り込んで抱き着いた。
もう、どうにでもなれ。

「貴方、甘え方まで猫ですよね…」





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