"コイ"違い

久しぶりに今日は小学生に会いました。
パン屋の帰り、学校帰りの5人組に出会いました。

「あー、哀ちゃんのボディーガードさん!」

「灰原さんのボディーガードさんです!
こんにちは!」

『こんにちは
学校の帰りか何かなの?』

「はい!そうなんです!
あれ、随分日本語お上手ですね、たくさん勉強されたんですね!」

「違うわよ
この人日本とフランスのハーフだから最初から日本語もフランス語もペラペラよ」

『哀ちゃん、懺悔もさせてくれないの?』

そしたら3人はちょっと残念がっていたので申し訳なくなった。
知っていたコナン君はいいとして、哀ちゃんも哀ちゃんである。
今日は5人と一緒に阿笠さんの所に行くことにした。

「おお、雪白さんも一緒でしたか」

『丁度下校中の彼らに会いまして
お邪魔でなければ久しぶりですし伺おうかと思いまして』

「構いませんぞ」

お邪魔します。
さあ、お仕事の時間です。
哀ちゃんのパソコンデータ抜き取りタイムです。

「…させないわよ」

『…何の話かな?』

「貴方がしそうなことくらいわかってるわよ」

おっと、見抜かれた様子です。
哀ちゃんはムッとして俺をパソコンから遠ざけました。
しかし無駄です、後でハッキングさせていただきますので。

『だいたい哀ちゃんだって組織の情報そろそろ欲しくないのー?』

「欲しそうにしてるのは、私よりも彼の方だと思うけど」

コナン君ねー…
彼の行動見てるとわかるけど、あんまりむやみに下手な行動にも出て欲しくないしなあ…

「それにしても酷いクマね、寝不足かしら?」

『そうだね、最近寝れなくて一晩中ハッキング祭りしてるよ』

「馬鹿ね」

プイッと哀ちゃんは行ってしまいました。
ツンデレ女王め。
後でハッキングしてデータごっそり抜き取ってやるからな。

「ねえ、雪白さん」

『はいはい』

「さっき言ってた組織の情報って、教えてもらえるの?」

『君ねえ…危ないことはしない方が身のためだよー?
この前みたいに見逃せる方がレアなんだから』

今度今度、と適当に話をつけて、淹れていただいた紅茶を飲む。
無垢な小学生3人の話を聞いていると、本当に年相応で可愛らしい。
いいことである。
久しぶりに子供と話して癒された。

小学生か…
小学生、ねえ…

家に帰ってからソファーに寝転んでうたた寝をしていた。
ハッと目が覚めた時には23時を回っていて、起きたら泣いてたので溜め息を吐き出した。

…嫌な夢見たな
久しぶりに寝れたかと思ったらあんな夢か、最悪だね

今日の夜ご飯サービスはどうしたんだっけ、と思って携帯を見たら不在着信が3件程入っていた。
悪いことをしたと思って電話を折り返しかけてみた。

[もしもし、蛍さん?
今日お訪ねしたんですが呼び鈴鳴らしても出られなかったので電話を…]

待て。
なんか遠い。
一度電話を離してから画面を見たけど音量はいつも通り。
とするとこれはヤバい。
寝不足が祟った。

『……あ、の、今日は大丈夫です』

[また仕事漬けなんですか?
昨日も一昨日もクマが出来てると思ってたところでした
最近まともに寝てないんじゃないんですか?]

ご名答です。

『なんだか最近、ちゃんと寝られないんです…』

[あまり心配させるような事を仰らないでください
明日は必ず参りますからね
仕事はくれぐれも程々にしてください]

イケメンに心配されてしまった。
はあ、と溜め息を一つ落としたら呼び鈴が鳴った。
今度は何だ。
連打されているので人物はわかるのだが、こんな夜に何の用だ。
玄関を出て門を開けてやった。

『何の用?』

「酒盛りだ」

『だからアポなしでウイスキー抱えて来ないでって言ったよね?
学習能力ないの?』

今晩泊めてくれ、と秀一は上がり込んできた。
まあ、今すぐ寝られるわけではなかったし話し相手には丁度いいかと思って家にあげた。

「ほう、彼と出掛けて以来寝不足なのか」

とりあえず事の次第を話してみたらまた面白そうな顔をされた。
何なんだ、このイケメンは。

『なんかヤバい気がする、明日辺り
今だって秀一の声、結構遠いんだよ?』

いつものリビングのソファーで向かい合ってる距離である。
寝不足が祟ったのだが、さっきの夢のこともあったので今日は寝られそうにない。

『…なんか、さっきうたた寝してたみたい
久しぶりに嫌な夢見た』

「…お前が嫌な夢って言うと小学生の頃か」

小さく頷く。
昔は散々だった。
イケメンやっほーいと毎日楽しんでる俺ですが、耳のことやハーフだということもあってか小学生の頃はそれなりに、ちょっとダークな体験をしたので未だにそれはちょっとトラウマでもある。
子供の頃の話と言ってしまえばそれで済むんだけどね。

「ならば、お前が眠くなるまで話相手くらいはしてやろう」

そうなりますよね、ありがとうございます。
ていうか本当に寝に来たんですね、寛いでますけど。

「お前の事を妬んでただけだ」

と彼はいつも慰めてくれます。
女子トイレに隔離されたり、俺が聞こえないとでも思って暴言、罵声は当たり前だったし、左耳聞こえてんだから全部わかってるっての。
俺が口悪くなったのもそのせいでしょうかね。
反動なのかな。
あ、フランスでの話です。

『でもね、安室さん、俺の睡眠導入方法把握してんだよ?
すごくない?
俺、全然理解してないんだけど』

「今日は珍しくいないんだな」

『あー…寝てたから
電話来てたから折り返したんだけど、なんか電話の声遠くて怖くなって断っちゃった
本当は夜ご飯もまだだったんだけど食べる気失せちゃって…』

「彼とはどのくらいの頻度で会ってるんだ?」

『今は契約期間だから毎日ご飯作ってもらってるよ?』

「毎日か」

『だけどなんか最近やたら近いんだよね、距離が
とにかく近いの
この前出掛けてから、なんか…心臓がめっちゃ働いてるっていうか…
それで全然寝られなくなっちゃって』

おかしな話だよねえ、と付け加えて溜め息を吐き出した。
そしたらこのイケメン、また笑いました。
ウイスキーを一口飲むと、少し楽しそうな顔をしました。
イケメンです。

「それはお前、恋というやつだ」

…はい?

「今度はちゃんとした相手で安心した
お前の恋愛遍歴はロクなものじゃないからな」

いや、あの、待って
コイってなんです?
魚ですかね…

「そうか、お前が恋煩いか」

魚煩いですか、意味がわかりません。
ポカンとしてたら眠気が吹っ飛んでしまいました。
ちょっと、寝たかったのに。

「蛍、俺と寝るか?」

『…今寝られる気がしないんだけど』

「なら丁度いい
今度彼が来た時にも同じことをしてもらえばわかる、俺と彼とではお前の中では違うということだ」

最早秀一の言っている意味がわかりません。
先生、理解が追いつきません。
コイってなんですか。
愛ってなんですか。

『よくわかんないけど秀一が誘ってくれてるなら寝る』

というわけで本日の添い寝イケメンゲットです。
部屋を暗くしても目が冴えてます。
彼はお酒が入ってるのでもう寝ています。
寝顔すらイケメンてどういう事なんだ、世の中不平等だな、全く。

あー…新聞配達来てる、朝じゃん

そこから先の記憶がないので、とりあえず寝たんだと思います。
起きたら昼前で、イケメンはいなくなっていました。
そして心配していた通りの事が起きてしまい、世界から音が消えました。

最悪だ…
何もする気が起きない…

ベッドでうだうだしていたけれど、二度寝も出来ないしもう本当に嫌気がさしたので何かストレス発散方法を探そうとキッチンに行ってひたすら野菜の皮剥きをしていました。
原始的なストレス発散方法です。

…そういえば今日安室さん来るって言ってたな
何時に来るんだろ?

携帯を確認してもまだ連絡が入っていなかったので、タブレット端末から何時にいらっしゃるんですかとメールを出しておいた。
門は開けておいたし玄関の鍵も開けておいた。
視界に入る場所に携帯を置いておいて、来たら勝手に入ってもらうようにしておいた。

凹む…
ひたすら凹む一日だよ、仕事する気にもならないよ…

皮剥きもしてしまったのでリビングでゴロゴロしていたら携帯が光った。
手を伸ばして画面を見たら仕事の話だったので、黙って画面を消して今日はもうソファーに倒れこんだ。

…最悪だ
なんでこんなウジウジしてるわけ?
自分でもイラつくよ、流石に…

目を閉じてしまえば世界はいつだって自分のものだった。
何も見ず、何も聞かず、黒い世界でふと思い出したように幻想を見ていればいいだけ。
少し、寂しい。

つくづく不器用な人間なんだと思う…

なんとなく人の気配がしたような気がしてゆっくりと目を開ける。
テレビからドアの方へ目をやると、視界の端に足が見えて思わず体を起こした。
そこにいたのは安室さんでした。
今日もイケメンでいい事ですね、ちょっと回復したよ。

「蛍さん、今日も寝不足なんです?」

『…あうろしゃん、あいあったえす』

超凹んでいたところにイケメンがやって来たとなれば俺も回復する筈、と信じて安室さんの貴重な胸板をお借りすることにして飛び込んだ。

うわあああ、イケメンの匂いいぃぃぃ…
いい匂いだよ
もう最高だよ、ねえ、泣きたい
ていうかもう泣いてたよ、俺…

イケメンの胸板最高です。
とりあえず頭を撫でられたので大泣きしました。

「"とりあえず、コーヒー淹れますね"」

俺が泣いてる間にタブレット端末に書いた文字を見せられた。
しまった。
またイケメンを困らせてしまった。
慌てて離れて右往左往してソファーに逆戻り。
しかもいきなりイケメンに抱きついてしまった、なんということだろう。

俺、ヤバい…
あまりにダメージ喰らったとはいえ、いきなり抱きついて大泣きしてしまった、恥ずかしい…
マジで嫌だ、もう消えてしまいたい…

自己嫌悪していた所に、またタブレット端末を差し出された。

「"大変聞きにくいのですが、キッチンの野菜達は何なんですか?"」

顔を上げたら、安室さんは苦笑していました。
ハッとして慌ててキッチンに行ったら、皮を剥いたまま放置していた野菜達が綺麗に並べられていた。

しまった、こんな所を見られてしまった…
恥ずかしい…
なんて恥ずかしいんだ…

『うとえす、あっさんえす…』

ペンを渡された。
あ、思わず答えてしまった。
最近調子が良かったような気がして、こんな事も久しぶりに感じられるくらいだった。
咄嗟に答えてしまったのが、理解してもらえなかったんだろう。

『"ストレス発散です"』

その画面を見せてから、また新しい画面にして文字を書き、少し戸惑ってから見せた。

『"昨日は、ごめんなさい
少し調子が悪かっただけです
それから…日本語、変でしたか…?"』

ペンを置いて言い逃げしようとしたら、それも阻止されて腕が捕まった。
もう嫌だ、逃げたい。

ていうかいつも俺って言い逃げ出来ない中途半端野郎じゃない?
恥ずかしいやつじゃん!
ダサいやつじゃん!

グッと腕を引かれてまた後ろから抱き込まれました。
あ、安室さんのリラックスタイムとやらですかね。
この至近距離すごいんですよ、すごく安心するんですよ。

「"少し聞き取りにくかったですが、理解できます"」

安室さんはページを変えた。

「"それよりも貴方が大泣きしてきた方が驚きました
最近寝不足なんですし、少し休み足りてないのでは?"」

『"…色々あったんです"』

「"色々ですか"」

『"先生、こいわずらいって何ですか?"』

安室さんの手が止まった。
あれ、魚の話じゃないのか。
そっと後ろを振り返ったら、安室さんはまた困っていました。
あ、またイケメンを困らせてしまった。

『"すみません!なんでもありません!"』

ほら、心臓が大忙しですよ。
頑張って働いてますよ。
逃げたい。

「"その類の話は後日しましょうね…"」

細々と画面に書かれた字は明らかに困惑した感情が丸出しだった。
とにかく野菜達を片付けることにして、ダイニングで夜ご飯を待つことにした。
その間、タブレット端末の画面に色々落書きをしたりしてずっと待っていた。

「"魚、ですか?"」

びっくりした。
不意に画面に書き込まれたかと思ったら、隣に安室さんがいた。
画面に落書きしていたのは確かに魚。

『"鯉です"』

「"鯉?"」

『"昨日秀一が夜中にやって来て、寝られなかったので話し相手になってもらっていたら、鯉だと言われました
鯉煩いってなんですかね?
魚に何かそんなものありましたっけ?"』

安室さんはまた固まってしまった。
また困らせたようだ。

え、何、何がいけなかったの?
ていうか、今何かいけないこと書いた!?

呆れて苦笑しながらペンを取った安室さんは、何か書き込んでからスタスタとキッチンへ戻ってしまった。
しかもちゃっかり、秀一の名前は塗り潰されて例の如くSの一文字に置き換わっています。

"恋煩いです!"

恋…

鯉…

恋…

ええええ!?
コイって、そういうコイですか!
そういうことって、え、ちょっと待って、また理解が追いつきません!

軽く人差し指を曲げた両手をそっと右胸の前で交差させる。

『"恋、ですか…"』

じゃあ、この心臓が頑張って仕事してるのも、寝られなかったのも、これが原因ってことですか!?

そっとキッチンを覗いてみる。
そこで調理をしているイケメンを見て、いやいやいやと首を横に振った。

まさかまさか、そんなまさかだよね
秀一も何を言い出すのかな、変なの…

ハハ…と苦笑してペンを手に取る。

『"恋ってなんですかね…"』

それだけ書き残してテーブルで項垂れていた。
暫くしてテーブルに置かれた夕食。
安室さんの手を、そっと捕まえてみた。

わ…もしかして俺より大きいのかな…

イケメンの手です。
手を重ねてみたらやっぱり安室さんの手の方が少し大きかった。
すると、安室さんはそっと俺の手から自分のを外すと人差し指を立てた。
それを二回横に振った。

え…?
なん、で…?

「"どうしました?"」

驚いた。
右手の人差し指を立てて、左手の下に滑り込ませる。
それから両人差し指を回して右手を撫で下ろして手のひらを向けた。

『"どうして手話、ご存知なんです?"』

驚いて早く手を動かしてしまった。
それなのに、安室さんはペンを取って画面に何か書き始めた。

「"貴方と話す時は此方の方が書く手間が省けます
ですがまだ少ししか知らないので、蛍さんに少しずつ教えてもらいたいですね"」

…イ、イケメンすぎる…
何それ、何この状況、安室さんとこんな風にお話できる日が来るなんて夢ですか?
秀一、心臓が頑張って働いてるよ、やっぱり秀一は間違っていなかったのかもしれない…

自分を指差してから安室さんを指差して、顎の下から人差し指と親指をくっつけながら引き下ろす。
それから慌ててはてなマークの上の部分を描くように手を動かした。

"…俺、安室さんのこと…好き、かもしれないです…"

「"すみません、書いていただけますか?
今のは流石にわからなかったので…"」

すみません、と苦笑した安室さんはイケメンでした。
もう、知らなくていいよ、俺のことなんて。
というか咄嗟にこんなことを口走るというか、手話で言ってしまった自分も恥ずかしい。
やっぱりよそう。
言わないでおこう。
こんなの、言わなくていい。

『あ…あうろさん、おいしいえすね』

「"…まだ食べてませんよね?
食べてないのに感想が言えるんですか?
話を晒さないでください、今度から嘘つき呼ばわりしますよ?"」

恐ろしい。
なんて人だ。

『"その類の話は後日、でしたよね?"』

これならどうだ。
自分で言ったことだ、文句ないだろう。
安室さんも観念したようだったので箸を手に取った。

『いたあきます!』

おいしいです!
今日も最高の夜ご飯です!
今日の凹みが嘘のように消えていきます、魔法の料理か何かですか、これは…!
すごい、すごすぎる…!

「貴方、やっぱり馬鹿で単純ですね…」

そんな呟きも知らず、夜ご飯を美味しくいただきました。
今日はなんだか寝られる気がします。
少し吹っ切れた気がします。

「"そういえば、昨日の電話であまり元気がなかったようですが何かあったんですか?
その目の下のクマも取ってほしいのでちゃんと寝ていただきたいのですが…"」

タブレット端末に、嫌な夢を見てちょっと凹んでましたと答えてから少しつまらない身の上話をしたら、なんと今日の添い寝イケメンゲットしてしまいました。
なんとラッキーなことでしょうか。
しかし喜んでいたのも束の間で、俺の部屋に入った瞬間に安室さんは血相を変えて家を出て行ってしまった。

えー…?何事…?

すごい勢いで戻ってきた安室さんは手に消臭スプレーを持っていて、俺のベッドを重点的に消臭してしまいました。
あ、秀一の痕跡でしたか。
そういうことですか。

「"これで今日は安眠ですね!"」

いや、そういう問題ではない気がしますよ…

ものすごいドヤ顔でタブレット端末を差し出されたのだが、苦笑してしっとりと濡れたシーツに触れた。






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