新しいリラックス方法

神様。
日本に出入りしてから幾度となくイケメンとの試練をお与えになったようですが、今回の試練はまた格段にレベルが高いですね。
何がどうしたらこんなことになるんでしょうか。
そしてどうしてこんな試練をお与えになったのでしょうか。
後ろが振り向けません。
自分でも顔を手で覆い隠す程です。
イケメンに…抱き込まれています、しかも後ろから。
完全に猫扱いされています。

「いつまでそうやってるんですか、折角きちんと誤解も解けたというのに」

ご丁寧に左耳の側で喋るんです。
脇の下から抱えられた体はイケメンの足の間にあります。
ベッドです。
なぜこんなことになったのでしょうか。
少し記憶を遡ってみたいと思います。

15分前。

仕事をして上機嫌で報告書を書いていた時だった。
不意に部屋のドアが開いたので、何事かと思ってバッと戸口を見たら安室さんが立っていました。

『…あの、何か?』

「お話があります」

『え?でも秀一は…』

「あの男ならとっくに帰りましたよ」

『ええっ!?』

何故だ…
あの二人を繋げる絶好のチャンスだったというのに、秀一が帰っただと…!?

『だ、だって、でも…』

パタンとドアが閉まり、ちょっとイライラを覗かせている安室さんはベッドを指差した。
仕方がないので素直にそこに行ったら座らされ、まず新聞紙で叩かれました。
どういうことだ。

『あの、お食事は…』

「あの男といて食事などできるわけがないでしょう!
貴方が作った物も不味くなります!」

『えっと…』

「言いましたよね?
僕には殺したい程憎んでいる男がいると」

『…はい』

「まさか情報屋でもある貴方が知らないわけがない」

『…まあ、その、多少の事情は知っておりますけど』

「でしたらどうしてあんな状況が作れるんです?」

『…秀一が、安室さんの事を…』

「笑わせないでください」

おっと、二度目の新聞紙。
地味に痛いです。
これが執念の塊というものなんでしょうか。

「貴方は何もかも誤解してるので全て指摘するのは本当にとてつもなく面倒臭いのですが、このまま誤解されていては話が何も進まないので僕が直々に誤解を解きにきました
昼間の続きでもあります」

ちょっと待て。
何もかも誤解って何だ。
しかも面倒臭いって言われたんだけど。

「あの男が僕をどう思っているかなんて知りませんし、知りたくもありません
知る気は元よりありませんから」

『…ですが今までの秀一の言動を見ているとそう捉えてもおかしくないところがたまにあります』

はい、三度目の新聞紙は流石に喰らいません。
避けました。
そしたら安室さんは更にイラッとしたらしく、俺の手首を掴まえて新聞紙で一発入れてきました、相当の執念です。

「あの男は少なくとも僕を敵に回したくないと、そう思っているだけで何の関わりもない男です
貴方が誤解しているような関係では全くありません
そして蛍さんと僕の事を高みの見物している奴でもあります」

俺と、安室さんの事…?
なんだか話が複雑になってきてないか?
秀一と安室さんは因縁の関係で、そこに俺が安室さんと何らかの関係があって、でも元々俺は秀一と仕事仲間というか友達というか先輩後輩関係にあって…
あれ、これってまさか…

『さ、三角関係ですか!?』

「違います!」

『じゃあ一体何だって言うんですか!』

「今はあの男が何の関係もないという話をしているんです!
切り離してください!」

とりあえず切り離しました。
残ったのは俺と安室さんの関係ですね、なんでしょうか。

『…切り離しました』

「では昼間の続きです」

『…あ、えっと…その、秀一に言われたんですが、どうやら猫に嫉妬というか…
恥ずかしいことをしてたようでして…その、まあ、忘れてください』

ヘラリと笑って答えたら、安室さんは新聞紙を握り締めた。
あああ、これは四発目が来ますね。
ていうかそれ昨日本屋の洋書コーナーで買ってきたLe Mondeの朝刊じゃないですか。
日本で買うと高いんですよ。

「来た時に言いましたよね?
青目の白猫と遊びにきましたと」

『…そういえばなんだかそんなような事を言っていたような気がしますね』

「単刀直入に言わせていただきますね」

安室さんは隣に座ると俺の後頭部に手を回してグイッと目を合わせるようにしてきた。

ひええ、イケメンとまた真正面ですよ…!
しかも後頭部グイッて、何ですか!
しかもちょっといつもより近い…

「青い目の白猫は、貴方の事ですよ
外ではいつ誰に盗聴されているかもわからないので比喩表現にしたつもりでした
とてもわかりやすい、比喩にもならない比喩表現でしたけどね
コナン君ですら気付いてましたよ?
小学生が気付いていて、どうして貴方が気付かないんです?」

いや、あの小学生は別格なだけで…
ていうか、白猫が俺で…俺は白猫に嫉妬したわけで…
安室さんは最初から俺と遊ぶつもりで…

『俺は…自分に嫉妬してたんですか…?』

「そういうことになりますね」

『…恥ずかしい誤解ですね』

「ですから誤解を解きに来たと言いましたよね?」

『で、ですけどわかりにくい言い方なんて…』

「貴方は馬鹿ですか…
まさかこんな言い方に気付かない程鈍感だとは僕が想像できませんでしたよ、こんなに馬鹿だとは…」

あ、心が痛い…
そんなに馬鹿とか鈍感とか言うのやめて…
最近皆して俺にそういうこと言うのなんで?
傷付くんだけど…

『あ、あの…泣いてもいいですかね…』

「どうぞ、ご勝手に」

うわああ、冷たい…
安室さんイライラしてますね…
でも真正面イケメン美味しいです、どうしたらいいんですか…!?

「泣いたらティッシュの一枚でも取ってきてあげますよ
それとも、このまま抱き寄せた方がいいですか?」

『……』

ごめんなさい、びっくりしすぎて言葉が出ませんでした。

「お友達以上の関係になるんでしたよね?
でしたらこのくらいはできるようにならないと…」

えっと…?

『ちょ、ちょっと待ってください…?
確かにお友達以上の関係を築きましょうと言いましたし、実践しているつもりです
ですが、あの、それは…』

イケメンの胸板がすぐにやってくるのはどうなんでしょう…!?
安室さん、自分の胸板の価値わかってますか!?
安売りするもんじゃありません!
そんなのいけません!

『安室さんは、ご自分の価値をわかってらっしゃらないんですか!?』

「…は、はい?」

『そうやってすぐに口説こうとしたりして、イケメンが勿体無いです!
イケメンの無駄遣いなんですよ!
そうやって一体何人の輩が不必要な感情を抱いて迫ったと思ってるんです!?
俺は知りませんけど、すぐにそうやってナンパするのはどうかと思いますよ!』

「あの、話が随分ズレましたよ…?」

『全然ズレていません!
貴方はそうやってまた…』

「……」

ちょっと待て。
何か俺、変なこと言った。
目の前にいたのは少し困惑したイケメン。

『ご、ごめんなさい!』

とりあえず謝って、逃げようとベッドから降りた瞬間だった。
逃げきれずに腹部から引き寄せられてベッドに逆戻り。
しかもなんかいい感じの枕にぶつかった。
超安定感のある座椅子みたいな。

『……あ、れ?』

苦笑して、恐る恐る振り向いた。
にっこり笑っていた安室さんの手が俺の体をがっちりホールド。

「大事なお話の途中なのに逃げるなんて酷いですね」

『いえ、あの、その…』

「あの男のせいでもうダイニングで僕がリラックスする時間が取れなくなりました」

はい!?
一緒にいただけでですか!?
同じ空間にいただけでもうその空間がリラックスタイムできなくなっちゃうんです!?

「なので新しいリラックスする方法を考えました」

『…と、いうのは…』

「猫と遊ぶことです」

『…その、猫は…』

「今僕が捕まえていますよ?」

いやいやいや、何本気で言ってるんですか
確かにジン様の飼い猫だけれど、一応人間だよ!?
わかってます!?

「ポアロでもお話しましたでしょう、餌付けはしていると
それに昨日もテレビ見ながら寝落ちしてしまいましたし、頭撫でると、蛍さんてすぐ眠くなってしまうみたいですね」

た、確かに梓さんとそんなような会話してたような気がするけどそれ、全部、まさか…

『お、俺の話だったんですか!?』

「そうですよ」

『いや、あの、それは…』

「あと此処も撫でてあげるとすぐダメになるじゃないですか」

あろうことか、後ろを取られているため第七頸椎を集中攻撃されて悶えた。
イケメンに完全に遊ばれています。
もうダメです、なす術がありません。
どう会話を返していいのかもわかりません。
確かにイケメンは俺が吐き捨てたセリフ通り、青い目の白猫と遊びに来たようです。

神様、貴方は残酷ですね…
どうしてこんな試練ばかりお与えになるんでしょうか…

そして今に至るわけであります。
完全におもちゃです。
ペット状態です。

「蛍さん」

ちょっと待ってください、これなんて試練ですかね。
イケメンに後ろから抱き込まれて本当にこの安定感がたまらんのです。

『…安室さん』

「はい、なんでしょうか」

『…他にリラックスする方法ってあるんじゃないんですか?』

せ、背中に胸板触れてますよ!?
お腹に腕触れてますけど!?
肩に顎が乗っかってるんですけど!?
なんなんですか!この距離感!
1cm?いや、1mmも隙間ないんじゃないんですか!?
まさかこれが、お、お、お友達以上ってやつですか!?

「あるにはありますが…」

『あるんですか!?』

「猫じゃらしとか、蛍さん嫌いそうですし…」

『…あの、本気で俺で遊んでますよね?』

「……それは、どうでしょう」

『いや、なんでそこ躊躇ったんですか!
事実ですよね!?』

まあまあ、となぜか頭を撫でられて宥められてしまったので項垂れた。

『これで、本当にお友達以上になれるんですか…?』

「なれると思いますよ」

『…そうですか、でしたら少しは構いませんよ
それで安室さんのお仕事の疲れが取れるというのでしたらちょっとくらい、お手伝いしますね』

そうだよね、ご飯だって作ってもらってるんだしこれくらいのご奉仕はしないといけない気がする…
それにイケメンに後ろから抱き込まれるなんて俺得でもある…
なんだ、このおいしい状況は…!
素晴らしい…実に素晴らしいです!

『明日からもお仕事頑張れますね…!
もう最高です、このまま寝てしまいたいです…』

「…明日は土曜日ですよ?」

『だから何だって言うんですか
情報屋に休みなどありませんよ!』

「…週末に車掃除、お願いしましたよね?」

『…あ』

そうでした。
先日の仕事の件で急遽駆け付けてくれた安室さんの車の天井に着地してしまったのだ。
安室さんの愛車は綺麗な白いRX-7。
そこに俺の足跡を付けてしまったのだから仕方がない。

「貴方とのお約束のドライブも、綺麗な車で行った方が気分がいいでしょう?」

え…!
まさか、あのドライブの件も覚えててくださったんですか…!

『…ドライブ…!』

「なので明日は車掃除お願いしますね
そしたら出掛けましょう」

安室さんと、お出かけ…!
何ということでしょうか…!
イケメンとドライブが決定しました!
最高です…!
お仕事捗ります!

『今日は徹夜で全部終わらせます!』

「いや、あの、寝てください」

『そうと決まればお仕事を…っ』

キュッと第七頸椎を摘まれてくたりとする。
酷い。
人の弱みと知っていながらこんな事をするのか。

「寝てくださいね」

『…はい』

「まあ、蛍さんの場合、頭を撫でていればじきに寝始めることを最近知ったので…」

『どんな睡眠導入方法ですか!』

あ、でもイケメンに頭撫でられるの悪くない…
ていうか寧ろ贅沢?
そう、贅沢だよ、こんなの
そうすると気持ちがこう落ち着いてきてね、まったりしてきてね…

『……』

「…今日も寝落ちですね、これはすごい効き目です」

安定感抜群の安室さんに凭れかかったまま、今日は安眠です。
その後ベッドに寝かされてぐっすり眠りました。






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