長い一日の果て

今日は私服での潜入捜査ということで公安の皆さんとお仕事をしました。
現場に行ったら何故か公安の皆さんに喜ばれたのでやっぱり降谷さんの部下さんはいい人達ばかりです。
上司のお力なんでしょうか。
ですが、現場に来てから降谷さんはピリピリしています。
なんででしょうね。

「クロードさん、丁度頼みごとがあったんですよ
貴方の力を是非お借りしたくて」

『…と言いますと?』

「主にハッキングですね
此方で動いている間に、同時進行で情報処理をしていただきたいのです
日本語、おわかりですか?」

『はい、降谷さんに付きっ切りで教えていただいたので日本語、わかります!』

これなら部下さん達も納得だろう。

「ク、クロードさんが日本語を話している…!」

「おい、降谷さんが付きっ切りだって…」

「これで俺たちもクロードさんと話が出来る…!」

まあ、ハッキングならばお手の物なのでちゃちゃっとやってしまいましょう。
降谷さんの空気がピリピリッとしました。
なんでしょう、ちょっと怖いですね。
潜入先の方には降谷さんと部下さんが入り込むようで、俺は車内で降谷さんの部下さん達と機械を目の前にしております。

[クロードさん、聞こえますか?]

『はい、感度良好です』

ビルに潜入するそうですが、その清掃員の格好がまた降谷さんお似合いです。
イケメンは何でも似合ってしまうんですね。
流石です。

『次、左ですね』

建物内の従業員専用のルートを使い、図面を見ながら指示を出す。
目的地に辿り着いたのか、パソコンに情報がどっさり送られてきました。
それを振り分けて整理してまたそのパソコンにハッキングして情報を丸ごと取り出す。

「すげえ…なんて手際の良さだ…」

「速い…」

[お送りした書類、届きました?]

『はい、全部受け取りました
データのバックアップ取りました、ハッキング履歴を消去、オールグリーンです』

[流石ですね
ではこちらも撤収するとしましょうか]

降谷さんとお仕事だなんて、今日は色々ありましたが終わりよければ全て良しですね。
イケメンとのお仕事は捗ります。
最高です。
部下さん達ともお喋りが出来るようになりました。
公安との関係、良いのではないですかね。

『っ…!?』

咄嗟に右耳を押さえた。

ヤバい、ハウリングした…

これだけの機器に囲まれてマイクや音声が混じり合って音が合わさってしまったのだろうか。

「クロードさん…?」

ちょっと今話しかけないで、お願いします…
すみません、音立てないで…
ヤバい、ちょっと、これは五月蝿いかも…

外には出たいのだが、もう一つのチームが戻ってきていないのに今出るわけにも行かない。
それに俺が補聴器をつけているのを知ってるのは降谷さんだけ。

いくら聞こえないって言っても、ハウリングはキツいな…
早く戻ってきて、お願いします…

「クロードさん!」

だからやめてー!
お願いだから耳元で叫ばないでくれー!
部下さん優しいのわかるけどお願いしますー!

[何があった?]

「降谷さん、クロードさんが突然体調不良か何かで…
右耳を押さえて苦しそうなんですが…」

[右耳…?
クロードさんを機器から遠ざけろ、あとマイクとイヤホンも外せ]

合同捜査やったーとか思った矢先にこれですか、今日はなんて一日なんですか。
イジメですか。
部下さん達に車の後方へ引きずられて少しマシになったものの、右耳は完全に麻痺してしまったし多分音漏れもしてる。

「クロードさんは?」

「あちらです」

暫くして戻ってきた降谷さんに髪を耳に掛けられた。
かと思えば補聴器を外され、スイッチを切られてしまった。

「左は生きてますか?」

小さく頷く。
右耳の側で手を叩いてみたけど、ダメだった。
完全にやられた。

「…すぐに電源を落としますから、もう少しだけ辛抱していてください」

そっと補聴器をポケットに滑り込まされた。
何このさりげない小技。

『…あ、の…ご迷惑、すみません』

「いえ、貴方の状況を知っていながらこんな大量の機器に囲んだ僕にも非はあります
急な仕事で呼び出してしまってすみませんでした」

…なんか、普通に謝られた
降谷さんに謝られてしまった…
迷惑かけたの此方なんだけど…
なんか、泣きたいです

公安の皆様にみっともない所を見せた挙句に降谷さんには謝られ、ひたすら頭を下げた。
誰だ、終わりよければ全て良しだなんて言ったのは。
俺か。
最悪だ…

まあ、仕事に関しては何も問題がなかったらしい。
部下さんに心配されてしまってちょっと申し訳なくなった。
帰りはすっかり夜になってしまって、帰ろうとしたら降谷さんには車に乗ってくださいと命令されました。
怒られるんでしょうか。

…最悪だ
仕事してこんな醜態晒すなんて…

「蛍さん」

あああ、もう最悪だよ
仕事には支障ないって言われたって、仕事中にあんなところ…

「蛍さん」

ていうかそろそろ補聴器変えた方がいいのかな…
それとも今日のあの環境が原因?
右耳マジで麻痺してるよ、何も右側聞こえないや
物音すら拾わないよ…

「蛍さん!」

右肩を叩かれてビクッとした。
びっくりした。
赤信号で停まっていた車はもう工藤邸のすぐ近くの交差点だった。

『すみません、えっと…何のお話ですか…?』

運転席が右側だから全然聞こえてなかった。
何か言われてたらどうしよう。
もう心臓バクバクだよ、こんな状況。
お詫び申しあげたい。
ていうか泣きそう。
いや、マジで。

こんなんじゃ、諜報部員失格だ…

降谷さんは何か言っていたんだろうけど、生憎右側で喋っていたので何もわかりませんでした。
すみません。
工藤邸に着いてトボトボ歩いて玄関に入ったら、一気に虚しくなった。

「蛍さん、今日は…」

『すみませんでした!』

一言そう言って頭を下げて、急いで靴を脱いで部屋に逃げようとした。

え…?

腕を引っ張られてよろめき、気が付けば降谷さんの胸板が目の前にありました。
これ、なんていう罠かな。

「今日は本当に助かりました
無茶を言ったのは僕の方です、それにあんな環境下に置いたのも僕の責任です」

『あんな所を、部下さんの前で…あんな失態…』

ヤバい、泣けてきた…

「泣くなら此処で、お願いします
一人で泣く貴方を放っておく程、僕が酷に見えますか?」

最悪だ…
こんな所見られて…

だけど降谷さんの胸板超落ち着きます。
ごめんなさい、不謹慎ですが最高の安定剤です。
そしてなんか抱き締められてるのは気のせいでしょうか。
頭を撫でられてるのも気のせいでしょうか。
包容力最高です。
荒んだ心も洗われていくようですね。

「…やっぱりこのサイズ感いいですね」

はい?

丁度いいです、と言われて顔を上げたら完全にもう安室さんになっていました。
最近降谷さんモードと安室さんの時とで見分けがつくようになってきた気がします。

「たくさん仕事を手伝っていただいたので、今日はご馳走作ります
今日はたくさん休んでくださいね」

ていうかこの距離でそれはずるいんじゃないですかね。

「あ、貴方から不意打ちされたので此方もお返ししておきますね」

『……』

い、今、額に何か触れました。
とても穏やかな気分になりました。
この位置から考えると、多分触れたのは唇です。

『……』

あ、あ、安室さんが…チューしてきました…
どうしよう、ど、どうしたら…
ちょっと待って、今仕返しって言われたってことは俺が何かしたってことですよね!?

「夕食、すぐ作りますから」

いや、あの、なんでそんな切り替え早いんですか?
何なんですか?
イケメンてそういう生き物なんです?

半分死にかけている俺を勝手にソファーに座らせると、安室さんはなんとなく機嫌が良さそうにキッチンへ向かって行きました。

ねえ、俺、今日何なの?
なんていう日なの?

パタリとソファーに倒れ込む。

安室さんが、安室さんが…
ヤバい、イケメンにチューされたんだけど、夢かな
夢!?
いや、あれは現実でした…
これって、友達以上ですよね…!?
これが友達以上ってやつですかね!?
じゃあ、これが…愛ってやつなんですか…?

『…愛って何?』

広辞苑を広げてもダメだ、今の俺の頭には全く入ってこない。
ダメだ、わからない。
キッチンに行ったら安室さんはご機嫌でした。
何故なんだ。

「もう少し待っていただけますか?」

『…愛って何でしょう?』

「…その議題は難しいので後日でもよろしいでしょうか?」

『…なんか、頭の中がわからないです』

作業をしている安室さんの足元に座り込む。
素敵な足ですね。
凭れかかっても全然大丈夫です。

「蛍さんは誰かを大切にしたいと思ったことはありますか?」

『…多分ないと思います』

「そうなんですか、意外でした」

そしたら安室さんは目の前にしゃがんで俺と目線を合わせると、顔が近付いてきました。
これはもう失神しそうです。
額が重なって超至近距離で目が合っています、死にそうです。

「でしたら僕にその役、譲っていただけませんか?
貴方が大切にしたいと思う人の役目を、させていただけませんか?」

『…あの、演劇の話ですか?』

「…はい?」

『いや、そういう予定は一切なくて…』

「…どの流れで演劇になってるんですか、馬鹿ですか」

至近距離の馬鹿!
きました、心にグサッと攻撃です!

『え、だって役とか何とかって…』

「馬鹿ですね」

『に、二回も馬鹿って…』

「何回でも言って差し上げますよ!
今日僕の事馬鹿呼ばわりしましたよね?
ちゃんと覚えてます?」

『それは、言葉が、その…』

確かにホテルでイケメンに対して馬鹿と言ってしまった。
しかも二度もである。

「貴方程の馬鹿でしたらさっきの話は通じてませんね
まあ、いいでしょう」

何も良くないんですけど…
俺、罵られて終わってるんですけど…

額を離した安室さんはにっこり笑っていました。

「馬鹿ですね」

待って…何この破壊力…
地味に、ていうかめっちゃ傷付くんですけど…!
笑顔で馬鹿って何ですか!?
どんな仕打ちなんです!?

「…愛おしいくらい馬鹿ですよ、愛し甲斐がありますね」

右耳の側で何か言われた。
直後、頬にまたチューされたのでちょっと流石に失神しかけました。
魂抜かれかけてます。

ていうか何て言ったの?
まさか悪口じゃないよね?

呆然と座り込んでいたら邪魔です、とか言われた。
ちょっと傷付いたのでダイニングの椅子に座っていました。

『…長い一日だったなあ』

「何仰ってるんですか、夜はこれからですよ?」

『ハイ?』

そして運ばれてきたのは旅館顔負けの懐石料理。
ちょっと待ってください。
なんでホテルのランチってだけで夕飯まで豪華になってるんですか。

「これでやっと、僕もリラックスできますから」

『……』

この人はとんでもない人だ。
イケメンの生態がますますわからない。
まあ、でも、いっか。
こんなに豪華な夜ご飯、今日の仕事の報酬だと思ってもいいのか。

『いただきます』

美味い…!
すごいです、イケメン…!
これで今日の荒んだ心はバッチリケアされました
ありがとうございます

「あ、車掃除、週末お願いします」

『…あ、ハイ』







[ 30/64 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -