夜の車内であと一歩

馴染みのパン屋でパンを買って帰る途中、見覚えのある小学生を見つけたので捕まえた。

「あら、ちゃんと本当に元に戻ったのね」

『何がプレゼントだよ、散々な目に遭っただろ』

「何か進展はなかったの?」

『だから何の?』

「…ここまでしても貴方ってまだわからないのね
本当に同情するわ」

「おい、灰原…って雪白さん、元に戻ったの?」

『おかげさまで』

「で、どうやって戻れたわけ?」

三人で通学路を歩く。

『秀一に酒買ってきてもらったんだよね
ほら、コナン君の事は白乾児で実証済みだし酒でポンッと戻れるだろうと思って
安室さんなんてコーヒー禁止令出してたんだから俺に酒飲ませてくれるわけないじゃん?
ほんと秀一には感謝してます!』

「白乾児飲んで戻ったの?」

『いや、秀一に好きな酒頼んだ』

「で、何だったの?」

『バーボン』

「「……」」

『秀一、バーボン好きなんだね、初めて知った
ていうかさ、秀一ってなんだかんだ安室さんの事好きなのかなあ?
だって好きな酒って言って買ってきたのがバーボンって…ほら、二人の関係は組織の内部のデータベースで色々知ってるんだけど…
安室さんもなんだかんだ言って秀一のことにやたら敏感だし…』

コナン君は足を止めた。

「雪白さん」

『何?』

「なんでそうなるわけ?」

『何が?』

「付き合ってらんねー…
雪白さんてマジでこっち方面察しが悪いんだな…」

「同感ね、折角私が非日常的な演出をしてあげたっていうのに無駄にされた気がするわ」

ちょっと待ちなさい、生意気小学生達よ。
大人に向かってその態度はなんですか。

「雪白さん、一個教えといてあげるけど…
この前の雪白さん、安室さんが盗撮してたみたいだぜ
ポアロで梓さんと雪白さんの子供の頃の写真とか言って二人で見てたから」

『……はいいぃぃ!?
ちょっと、その写真てこの前の薬の時の!?え!?
盗撮って何!?ていうかどういうこと!?』

「俺が知るかよ、見てねーんだから
本人に直接聞けばいいだろ」

「貴方に仕掛けた盗聴器で聞いてたけど、貴方酔っ払って告白してたじゃない
ちゃんと言ってたわよ、大好きって」

『……えええぇぇぇ!?
哀ちゃん、何それ!?誰が言ったの!?
ていうか盗聴器って何!?』

「あら、組織の猫も堕ちたものね
ネズミ捕りがネズミの罠に引っかかってどうするのよ」

…やられた
小学生に完全にやられました
何ですか、大好きって何?
俺そんな事一言も発した記憶ないんですけど?

「じゃあ、探偵事務所来る?」

『えっ!?』

「今日おっちゃんに依頼あったから
多分安室さんもついてくると思うけど」

『…なんとなく顔合わせ辛いんだけど盗撮の件があるからね、写真全部焼いてこないと気が済まない
行ってみようかな…』

ということでコナン君と毛利探偵事務所にやってきました。
中に入るのは初めてです。
そしたらなんか中が騒がしかったのでコナン君を見たら、苦笑していました。

「…面倒なことになったかもしんねえ」

『え、なんで?』

コナン君は苦笑しながらドアを開けた。

「おおお、ほら帰ってきよったで!
おい工藤、何遍も連絡したっちゅうんになんで電話に出えへんのや
ちゅうかあのオッサンも俺ん事見て留守番頼むとか言って出て行きよったで!?

って、誰やねん?」

『……』

いや、こっちが聞きたいんですけど…

「知り合い、だけど…」

「工藤の知り合いにこんな美人おったんか!
めっちゃスタイルええけど貧相なまな板やな」

「バーロー、雪白さん、男だよ
お前どこ見て物言ってんだよ」

「男…?」

ていうかどなたですか?

『コナン君、この人、誰?』

「お前、俺ん事知らんちゅうことは余所モンやな
東の高校生探偵工藤新一に勝る西のスーパー高校生探偵、服部平次や」

『…雪白 蛍です』

「ちなみに雪白さん、半分フランス人だしフランスと行き来してるからお前のこと知らなくて当然だよ」

「フランス人…はー…道理で日本人離れした顔や思うたわ」

なんか、イラッとしたんだけど…
ガキは生意気で困るな…
あれ、さっき工藤って呼んでたし、コナン君もこの態度って事は…

『あ、コナン君と仲良しさんてわけか
コナン君、普通に俺のことバラさないでくれるかな?
蘭さんにも毛利さんにもハーフなんて言ってないんだけど、こんなガキにバレたら困るなあ…』

「ガ、ガキやと…!?」

「雪白さんのボーダーラインがわかんねーよ…」

『いや、まだ警視庁のあの警部さん達にだってハーフだってバレてないんだしさ…』

「自分、もっぺんガキとか言うてみい!俺は…」

『コナン君、毛利さんもいないなら用事なくなっちゃったね』

「話聞かんかい!」

『ガキは喧嘩っ早くてやだなー、ホント
探偵ならすぐ見抜いてよね
コナン君、ちゃんと俺の正体見抜けたけど?
ていうか俺のどこら辺が女だったのかな?』

流石に女扱いはカチンときた。
そうか、これがイラッとした原因か。

「雪白さん、マジになるなよ…」

『あ、ごめんね、つい』

自ら色々と露呈してしまうところだった。
危ない危ない。
この得体の知れない探偵を名乗るガキは放っておこう。

いや、待てよ…
大阪で服部と言ったら聞き覚えがあるな
以前の怒涛の出張の時に大阪府警で確かそんな人に会ったような気が…
すごく目の細いなんかちょっと強面の、でもいい人で…

勿論データも調査済み、一人息子がいることも知ってるし仕事のお礼って言ってなんかお屋敷でてっちりだっけ、ご飯振る舞ってもらったし。
まあ、でも俺のお目当の人もいないし帰るとするか。

『コナン君、俺、帰るね』

「おっちゃんには会わなくていいのかよ?
折角の潜入捜査だぜ」

『あー、いいや、また今度にする
なんか俺がいるとお邪魔みたいだから
ちょっとポアロに顔だして盗撮の被害届け出すって脅して帰るよ
じゃあね、大阪の服部君、府警の服部さんにもよろしく
てっちりご馳走様でした』

パタンとドアを閉めて探偵事務所を出た。

「…おい、工藤、アイツ何者や?
なんで俺の親父んこと知っとるんや?」

「知るかよ
あの人の情報網とコネはすげーから甘く見ると痛い目見るぜ」

なんかモヤモヤしたんだよな…
なんでだろう
まあ、とりあえず盗撮の話が先だ

階段を降りていたら蘭さんに会った。
あともう一人女の子がいた。
なかなか可愛い。

「あ、ルイさん…!こんにちは」

『蘭さん、コンニチハ、コナン君と、会いました
えっと…一緒に来ました』

「そうだったんですね!
ルイさん、日本語上達してますね、すごーい!」

「蘭ちゃん、この美人さん誰?
知り合いなん?」

「フランス人のルイさん
日本語勉強してて、よく下のポアロに来てるの」

「へえ、そうなん!めっちゃイケメンやん!
あたし、遠山和葉言います」

『ルイ=クロードです
よろしくお願い申し上げます』

ほう、この子、さっきのガキの連れだな?
この子は可愛い、何の罪もない
うん、いい子だ

「ルイさん、よかったらお茶でも飲んでいきます?」

流石にわからないフリをしてタブレット端末を取り出した。

『"ありがとうございます
ですが毛利さんもいらっしゃらなかった、なので今日は帰ります"』

「え、今日依頼人来るって言ってたのにお父さん出掛けちゃったの!?
もう…」

失礼します、と二人に頭を下げてからポアロのドアを思いっきり開けた。

「いらっしゃいませ」

にこやかにしていられるのも今のうちですよ、安室さん

『こんにちは、安室さん、お元気でした?』

「はい、元気ですよ
今日はまた一段とご丁寧な挨拶で、どうされたんです?」

『コナン君から聞きましたよ
一体どういう事ですかね、盗撮の被害届出しますよ?』

ふふっと笑って言ってやったら、安室さんはああ、と言った。

なぜ怯まない…!?

「これですね」

そして何故持ち歩いている!?

先日の哀ちゃんのせいで散々な目に遭った時の写真である。
まさかとは思ったが本当にやってくれたな。

『梓さんと見ていたそうですね』

「ええ、それが何か」

『だから被害届出しますよ?』

「今晩のご夕食は?」

『未定です』

「一週間でどうです?」

『その写真を燃やしていただけるんですね?』

「いえ、これは永久保存版ですけど」

『でしたら…』

「二週間でどうです?」

『……』

二週間の安室さんのご飯を取るか、盗撮の被害届を取るか…
いや、他国での面倒ごとは嫌だな
しかし実際盗撮には遭った

『……』

だけど二週間だそ、二週間…!
一週間じゃないんだ、こんなスペシャルご飯てあるんですかね
イケメンの手料理ですよ…?
二週間…二週間…

『…わかり、ました』

はい、負けました。
実質俺の写真が出回ったわけではないし、安室さんが個人的に管理しているものだろうしまだ被害という被害はない。
仕方ない。

え、本当に仕方ないかな…?
写真をとりあえず燃やすことが先なような気がしてきた

『安室さん、やっぱり…』

「蛍さん、写真見ましたよ
とても可愛らしくて…」

梓さんの言葉で決めた。
安室さんの腕を掴み、さっき写真を入れていたポケットに手を伸ばす。
そしたらその手を掴まれた。

「無駄ですよ、データは別にありますから」

『…データを引き渡してください』

「今バイト中なので」

『逃げようったって無駄ですよ
だったら貴方ごと丸焼きにしますよ』

「梓さん、消火器ありますか?
どうやら僕と焼身心中したいと…」

『そんなこと言ってません!』

「相変わらず仲が良くていいですね」

違うんです、梓さん!
俺は写真を燃やすことだけが…

「ということなので、後でゆっくりお話しましょう
示談交渉ですよ
いつものコーヒーでいいですよね?」

『……はい』

何やってんの俺ー!
ていうか哀ちゃんの大好き発言についてもちょっと真相を確かめないといけないしマジでこれは何なの…

ソファー席で項垂れていたらカフェが運ばれてきた。
もう、帰ろうかな。
なんで勝手にカフェ頼まれてたんだろう。
で、結局RX-7ですよ、何ですかこのお決まりの帰路。
ダッシュボードで項垂れてたら酔いました。
初めてです。

「ずっと下なんか向いてるからですよ」

『大体貴方が写真なんか持ってるのが事の発端で…』

「シートベルトも外して下さい、少しは楽になりますから」

路肩に停められた車内でシートベルトを外された。

「水でも買ってきますから…」

『いいです、そんな事するなら此処にいてください』

「心中でもするんですか」

『だからなんでそうなるんですか
写真燃やしてください』

「あの、なんでそこまで嫌がるんです?
たかが写真2枚ですよ?」

『散々な目に遭ったからです
女扱いまでされて…』

「可愛いと思いますよ
別にいいじゃないですか、これくらい」

『じゃあ貴方の子供の頃の写真とか俺が持ってても良いってことですよね?
ください』

「…それはちょっと」

『ほら!同じですよ!お分かりです!?』

ねえ、と身を乗り出して胸倉を掴んだら凄い近い事に気付いた。

あ…やばいです、めっちゃ近かった…
夜の車ってなんでこう…ずるい、密室…

『…う』

心臓が、止まりそうですね
この街灯に照らされるイケメンの破壊力が凄いです…

「吐くなら外でお願いします」

『吐きませんよ!』

「少々、熱がありそうですね…」

ペタリと頬に手が触れた。

何…この、至近距離お触り攻撃…

「それとも、赤信号のせいですか…?
少し紅潮しているようにも見えますよ」

『…俺、あの、その、一つ確認したいことが…』

「奇遇ですね、僕も一つ確認したいことがありました」

え?

手がそっと離れる。

「先日貴方が酔っ払った時の話です」

『あの…俺、なんか変な事を言ったようなんですけど…それは本当ですかね?』

「変な事とは何でしょうか?」

『だから、その…俺が…だ、大好きと言ったのは本当なんですかね…』

思い切って言ったのに、殺気を感じた。

「僕もその件についてお聞きしたいことがありましたよ」

ちょっと待って、なんで怒ってるの…?
状況知りたいの俺なんだけどなんで?

「貴方、酔っ払うと色々普段言わない事を喋る傾向があるようですね」

『そ、そうでしたかね…?』

「先日貴方のせいでFBIと過ごす羽目になった夜、あの男と話しましたよ、実に不愉快でした
貴方、酔っ払ってあの男に散々大好きだと公言していたそうですね、ジャーマンスープレックスをかますのは大変感心しましたが
そのままあの男がどうにかなってしまえばとも思ったのですが、貴方、暴れたあの夜に寝ながらあの男と僕に対して大好きだと口説いてましたが一体どういうことですかね?
以前仰いましたよね?

ナンパはあまりしないと」

えっと、それは…

「あの男も貴方は酔っ払った時じゃないとそういう事を口にしないと言っていたので、あの男は何度も口説かれてると思っていいんですね?
先日貴方は酔っ払って僕に軽々しくそんな言葉を口にしましたが、あれは本心じゃないという解釈をしてよろしいんですか?
ただの酔っ払いの戯言だと、聞き流して構わないんですか?」

うわー、相当お怒りです…!
ていうか俺そんな事言ってるんですか!
何を…ていうか秀一にもそんな事言ったの…!?

「だから変な男に引っかかるんですよ」

『…そ、それはですね…あまり覚えていなくて…
えっと、でもそれは真実なので…
その、お酒飲むと本音が出てしまうようなので仕事の飲み会でも上司の愚痴をぶちまけて怒られたことがあります…』

「あの男に軽々しくそんな言葉を言ったことも事実ですか?」

『…恐らくは…
でも秀一はよくしてくれる先輩なので…
それに米仏合同捜査をした時の仕事仲間でもありますので…』

「では僕の立ち位置は何ですか?」

『……オトモダチ、ですか?』

あ、殺気が…
しかしこんな密室でイケメンと二人きりなんて美味しい状況ないですよね
これは、その、勝負に出ていいですか?

『あ、安室さん、俺…』

「わかりました」

はい?

「友達という認識でしたら結構です
一応仕事仲間と言われないだけマシですから」

『……』

「水でも買ってきます」

ちょっと待ってくれ。
言いたいこと言わせてくれ。

『…あの、俺、安室さんとは一応お友達以上にお近付きになりたいと思っ……』

引き止めたつもりでいたら、運転席には誰もいなかった。
なんでこうなる。

『ねえ、哀ちゃん
俺ってこういうとこがダメってこと?
これだから男逃してんの?
ていうか酒が原因?
年上すごい、包容力ヤバい、日本人すごいとか思ってた罰ですか…
嫌だ、もう死にたい、安室さんの腕最高です、胸筋腹筋最高です
死ぬ前にもう一回だけ味わいたかったです、神様助けてください、何の試練ですか…』

だから、俺ってダメなの…?

『……』

運転席にパタリと倒れ込む。

「邪魔です」

戻ってきた安室さんに助手席に押し戻された。
もうやだ。
消えてしまいたい。

「…あの、この車、今盗聴器つけてるので全部聞いてました」

『…はい!?』

ちょっと待て。

『……』

「また僕の前で死にたいって言いましたね?」

『いや、目の前ではないからノーカウントかと…』

「それから多少は貴方の酒癖の悪さが原因だとは思いますよ」

『…もう消えてしまいたい』

ポイッと水のペットボトルを放られた。
冷たい。

「それでよく頭を冷やして考えてくださいね」

『……はい』

なんでこうなるんだろう…
…って、あれ?さっきの全部聞いてたって言ったよね?
じゃあ筋肉の話も聞かれてたってこと…?
うわああぁぁぁ、恥ずかしい!
何!?
何なの!?
俺…あの、もう、はい、ダメです…

「…蛍さん」

『……』

「聞いてます?」

『今死にかけてます』

「聞いてます?」

『ちょっとお経唱えてもいいですか?』

「やめてください」

左側を向いて魂が抜けかけた。
エンジンも掛かった。
そんなに早く帰りたいんですね、わかりました。

「蛍さん
さっきの発言の事ですが、お友達以上にお近付きになりたいと言うのは事実と思ってもいいんでしょうか?
今はお酒も入っていませんし」

左耳は座席でシャットアウトしてたので、右耳が物音を拾うだけだった。

「失礼しますよ」

あれ、何か取られた
補聴器…

バッと体を起こす。

「家でゆっくり示談交渉しましょう」

『…あの、何の交渉でしょう』

「何も聞いてなかったんですか」

『すみません、魂が抜けかけていたもので…』

「今日は一晩かけてゆっくりお話しましょう」

ちょっと待ってください、一晩とはどういうことでしょうか。
示談交渉って何ですか、写真の事は解決済なのでは。

「今後のお話です」

こ、今後って…何ですか…?
お仕事の話でしょうか…

『……ちょっと一回死ん』

「禁句です」

『すみませんでした』

運転中に平手飛んできましたよ。
ちょっと。
工藤邸に着くと俺のポケットから鍵を取られ、ずるずると引き摺られながら家に連行された。

俺、何されるんですか…






[ 26/64 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -