魔法のお酒、バーボン

『……』

何故ですかね。
体が、幼稚園児のままです。
一晩イケメンと共に過ごしましたがダメでした。
いつになったら直るんですか。
テレビ電話をしていたら、画面の向こうのイケメンは爆笑していた。
ひどい話である。

[傑作だな、可愛いじゃないか
流石、昔女子トイレに押し込まれただけのことはあるな]

『お前、俺の状況ナメてんだろ…』

[すまん、あまりにも可愛いからからかっただけだ]

何ですか、このイケメン
からかうくせにすぐちゃんと素直に謝るのってなんなの?

[面白そうだ、お前が元に戻るまでに会いに行くか]

『いや、それはちょっと…困るかな…』

「蛍さん、また仕事でも…」

あ…ヤバい…

ドアを開けた安室さんから一気に殺気が発せられました。

『ごめん、また連絡する!』

慌ててパソコンを閉じた。

「蛍さん」

『…は、はい』

「誰とお話されてたんです?」

『いや、その…』

「あの男と無闇に接触しないでください
しかも貴方今子供なんですから」

子供であることと貴方の恨みと何の関係があるんですか…

椅子から降りてリビングを通り過ぎる。

『お隣に文句行ってきます』

「一緒に行きましょうか?」

『結構です!』

ムカついたので阿笠邸に行った。
阿笠さんは苦笑。
哀ちゃんはすっごく面白がっていた。
最悪すぎる。

「貴方、本当に女の子だったのね」

『違うって言ってるだろ!
皆して馬鹿にして…早く元に戻せっての!』

「だから私にも貴方がいつ戻るかわからないのよ
被験体って言ったでしょ?」

『帰ったらお前の情報全部ジンにリークしてやる…』

「する気もないのに言わないでくれる?」

『すみませんでした』

「とにかく待つしかないわね
それに今回私からのプレゼントでもあるのよ?」

『…プレゼント?これのどこが?』

「まあ、そういうこと
鈍感な貴方にはわからないでしょうけど」

本当にムカついてきた。
何がプレゼントだ。

『…前にコナン君が白乾児飲んで一時的に体が戻ったのとは関係あるのか?』

「さあ、どうかしら」

『おい』

「試してみれば?
尤も、貴方が今一緒にいる保護者が許してくれればの話だけど」

…コーヒーすら禁止されたんだ
絶対ダメって言われる…
ていうか保護者なの?
安室さん、俺の保護者なんですか?

『他に何か方法は?』

「だから待つしかないわよ」

『それじゃ意味ないじゃん、なんで被験体になったわけ!?
ていうかAPTX-4869と同じもの作って何がしたいわけ!?
哀ちゃん、俺のこと陥れたいの!?
俺なんかそんな悪いことした!?』

「別に」

『あのさあ…一々哀ちゃんの気まぐれに付き合ってられないんだけど
こっちもお仕事あるの、いい?』

「だから息抜きよ、ただでさえ仕事しかしない人なんだから」

『これのどこが息抜きだよ!
仕事邪魔されただけだよ、なんて事してくれるんだ
報告書だってもう一枚書かなきゃいけないのに…』

「パソコン使うなら、流石に幼稚園児は戻し過ぎたかしら」

『論点そこじゃないんだけど』

哀ちゃんは結局待つだけとしか言わなかった。
酷いよね。
こんなことってあるのかな。
阿笠邸を出て歩いていたら黒いシボレーが隣に停まった。

…また一人、俺で遊びに来た人がいる

窓を開けた秀一は俺を見下ろした。

「…画面越しより女顔だな」

『開口一番何言ってんの?馬鹿にしてる?』

車を降りてきた秀一はやっぱり大きかったです。
目の前が足です。
酷いな。
これは酷い。
何がプレゼントだ、哀ちゃんめ。

「高い高いでもしてやろうか」

『ナメてんのか』

「いや、本気だ」

真顔で言うなよ!
せめて冗談とか言ってくんない!?

脇の下に手が入り込んで持ち上げられました。
イケメンに抱っこされるのは良いのですが、向こうが遊んでる気満々なので多少苛立ちます。

『秀一、酒買ってきてくんない?』

「…何がいい?」

『秀一の好きなのでいいよ』

「わかった」

この人なら文句は言わないだろう。
酒を飲んで試すのも悪くないな。
まあ、コナン君も二度くらいは白乾児でいけたみたいだし。
風邪を引いている状態ではないが俺にはまだ免疫がない。
ということはそれで戻れる可能性が高い。

『戻ってきたら電話して
インターホン使うとまたややこしいことになるから』

「了解」

『あの、下ろしてくれる?』

「お前、下着はどうした」

『セクハラしないでください』

ワンピースになってくれるのでTシャツ一枚で過ごしてます。
最悪です。
女装みたいなものです。
しかもこのイケメン、今さりげなくセクハラしてきました。

「…ちゃんと男だったな」

『いいから酒買ってこい!馬鹿!』

秀一に一発ビンタしたら頭を撫でられた。
どういう事だ。
超笑ってるしムカつく。

「すぐ戻る」

やっと下ろしてもらったし、すぐ戻ると言われたので門を開けて玄関との間で待っていた。
まあ、帰ってきませんね。
30分くらいいたけど戻って来なかった。

何してんだ、この野郎…!
もうすぐ日が暮れるぞ!

「遅くなって悪かった」

戻ってきたのは日没寸前。

『遅い』

「いや、途中で仕事に捕まってな
連絡したんだがお前の電話、全て切られた」

『…あ、それは申し訳ない』

そうだ、部屋に置いたままだった。
ということは今保護者になっているお父さんが恨みがましく電話を切ったに違いない。

「で、これでどうする気だ?」

『元に戻る』

「正気か?」

「蛍さん、いつまで外で遊んでるつもりですか
子供は帰る時間ですよ」

なんでこのタイミングで来るんだよ、お父さん!

「それは何ですか?」

『な、なんでもありません!』

サッと酒瓶を後ろに隠す。
そしたら秀一は頑張れ、と頭を撫でて帰って行きました。
危険を察知してくださったんですね、助かります。
秀一はご丁寧に、いつもの大瓶ではなく小さなリキュール並みのウイスキーを買ってきてくれた。
隠せるサイズだし今の体の大きさなら丁度いい量である。

…流石だな、やっぱ秀一に頼んで正解だった
セクハラしたのは見逃してやろう

部屋に戻って枕の下に隠しておく。

「それで、何かわかったんですか?
もう薬を飲んでから24時間過ぎましたよ」

リビングに戻ったらお父さんがソファーに座っていました。
隣に座ってみたら睨まれました。

「消臭しましょうか?」

『い、いえ、結構です…』

ちょっと距離を置いた。

『とりあえず待てと言われました』

「では待つしかありませんね」

『でも仕事が…』

「もう三日間禁止ワードにしましょうか?」

『い、いえ…あの、その…』

ねえ、お父さん…
ちょっと厳しいって言われませんか?

『安室さん』

「はい」

『あの、お仕事はいいんですか?』

「今の仕事は貴方の実験の薬の継続時間の測定係ですが」

『そうじゃなくて…』

「あ、夕食のことですか?」

『違います!』

「お腹が空いてるなら早く言ってください、作りますから」

ちょっとお父さん、話聞いてました!?
ええい、もう我慢ならん!
今すぐにでも酒飲んで元に戻ってやる…!

部屋に戻ろうとしたら抱き上げられた。

え…?

「すぐ作りますから」

いや、そうじゃなくてね…

ダイニングの椅子に座らされてしまった。
座布団3枚重ねです。
ていうか足が着いてないし一人で降りるには時間が掛かる。
なんてこった。

お父さん…お酒飲ませて…

『あの、お父さん…』

あ、間違えた。

「…はい」

『いや、あの、間違えただけなんで普通に答えないでください』

「いえ、娘を持った父のような気分だったのでつい…」

ちょっと待て。
なんで娘なんだ。
せめて息子にしてくれよ。

『勝手に性転換しないでいただけます!?』

「すみません、ですが…」

『言い訳は無用です!』

椅子から降りる。
また抱き上げられて座らされる。
また椅子から降りた。
また座らされた。
何だよこれ。

「どこ行くんですか」

『部屋です』

「何か忘れ物なら取ってきます」

『いえ、自分で行かないと意味がないので』

「お父さんに隠し事ですか」

『はい
じゃなくて勝手にお父さん役になりきらないでください』

部屋に戻れない。
なんてもどかしいんだろうか。
椅子からまた降りたら足をひっかけられた。

どんだけ意地悪なんですか、この人!

「お父さんに隠し事はいただけません」

『話聞いてました?
貴方、俺のことで遊んでますよね?
面白がってるでしょ、絶体楽しんでません?』

「多少は楽しんでますよ、非日常的で」

『…日常的な仕事してください、お父さん』

しまった、また口が滑った…

「子供の食事を作るというのもお父さんのお仕事かと思いますけど」

『だから言い間違えただけです!
勝手にお父さんにならないでください!』

「言い出しは貴方ですよ」

『…そうでした』

また椅子に連れ戻された。
もうやだ。
早くお酒飲みたい。
元に戻りたい。

「それで、部屋で何を取ってくればいいんですか?」

『内緒です』

「その年でお父さんに内緒はいけませんよ」

『あのですね、お父さん…』

「ご飯を食べてからにしてくださいね、蛍さん」

椅子に連れ戻されそうだったので、抵抗したら普通に抱っこされました。
ちょっと待って、なんでこの人楽しそうなの。

『下ろしてください!』

平手打ちしてやろうとしたら手首が捕まりました。
何をしても無駄でした。

「可愛いだけなので抵抗はやめましょう」

『……可愛いは禁句です』

「親の心子知らずというやつですね
反抗期ですか、早すぎません?」

『お父さん!』

しまった、毒された。
普通に間違えた。

「それにしても娘を持つと可愛がりたくなるものですね
父親の気持ちがなんとなくわかりました
これからは子供を持っている部下にも優しくすることにします」

だからなんで娘になってるのー…
ていうか部下さん大事にしてくださいよ!

椅子に下されたので仕方なく夜ご飯を食べて、安室さんが皿洗いをしている間にそっと椅子を降りてリビングを横切った。

「どこ行くんですか?」

えっ…

振り返ったら笑顔でリビングの入り口に安室さんが立っていた。
ホラーですか。
あ、言い過ぎました、ごめんなさい。

『へ、部屋に…』

「例の隠し事ですね」

逃げた。
部屋まで走って、といってもこの体なので歩幅が小さいしいつもより遅くて凄くイライラしたのだが、部屋に入ってドアを閉めてからベッドにダイブ。
枕の下に入れておいたウイスキーを取り出したら部屋のドアが開いた。

「蛍さん
って、貴方またお酒ですか、未成年の飲酒は…」

あ、ヤバい、栓が開かない…!
ヤバい、安室さんめっちゃお怒りです、お酒没収の危機です…!

『あ、開いた…!』

よし、これで…

安室さんの手が伸びてくる前にウイスキーを一気に流し込んだ。

うわ、キツい…ストレートはやっぱりだめですね…

『……』

ベッドにウイスキーの瓶が落ちる。
目が回ってバタリと倒れた。

ドクン。

うわ、きた、これ…
熱い…

骨が溶けていくような感覚と酷い熱。
やっぱりこの感覚は気味が悪い。
組織もよくこんな物を作ったものだ。
暫くして息を整え、ゆっくりと目を開けたら腕の長さが伸びていた。

お…
これは、もしかして…

『も、戻ったー!?』

え、うそ、やった!
嬉しい!

Tシャツもちゃんと半袖のシャツだ。
ワンピースではない。
足も元の長さだ。

『おおお、戻った…!
安室さん!戻りました!』

「……下着を履いてください」

パンツとズボンを投げ付けられた。
下も履いたらサイズはピッタリ、元通りである。
立ち上がったらいつも通り。

『最っ高ー!』

なんて清々しい気分なんだろう。
ほら、安室さんとの身長差もいつも通りだし。

「27時間21分15秒ですね…」

『え?』

「薬の持続時間です」

え、律儀に測ってたんですか…

皿洗いを再開しに行ってしまった安室さんの後ろ姿を眺めてから、哀ちゃんにはウイスキーで元に戻したことと時間をメールで連絡しておいた。
ベッドに落ちていたウイスキーの瓶を拾い上げる。

"BOURBON WHISKEY"

『…秀一って、バーボン好きだったの?』

覚えておこう。
今度何かのお返しというかお礼をしてやろう。
というか今はとても気分がいい。

『安室さーん』

「今度は何ですか」

『お皿洗いやっとくんでゆっくりしててください
カフェ淹れますねー』

「貴方、酔っ払ってますよね?」

『そんなことないですよー』

さあさあ、と安室さんをソファーに座らせてカフェを淹れて出してやる。
それから皿洗いをして、上機嫌で安室さんの隣に座ったらちょっと呆れられた。

『安室さんがいつもの大きさです、素敵です
やっぱりこれじゃないとダメですね』

「もう一度聞きますけど、酔っ払ってますよね?」

『酔っ払ってませんよー、酷いですね
今日は一晩帰しません!
いっぱいお礼しないといけないんで、ご奉仕でも何でもしますね!』

「今の言い方は語弊があるかと…」

『じゃあ何がいいですか?
何でもしますよ?』

「すぐに何でもすると言うのはやめた方がいいと思います…」

『気をつけます』

嬉しい、イケメンが普通サイズです。
いや、異常だったのは俺の方なんですがやっぱりいつも通りが一番ですね。
素敵です。

「蛍さん、ちょっと近いです」

『いいじゃないですか、安室さんもう大好きなんで今日は絶対帰しません』

今日はなんて最高なんだ。
いい日だ。
ウイスキーを流し込んだが意識がしっかりしているぞ。
ていうかこの抱き枕最高。
もう寝よ寝よ。

『おやすみなさい』

「……また抱き枕ですか」

『……』

「蛍さん、もう寝たんです?」

しかしまた疲れた一日だった。
すぐに寝てしまい、酒も入って爆睡状態だったのでベッドに運ばれたのも知らなかった。

「…バーボン、ですか
今回の茶番は僕の名前に免じて許してあげましょうか…」







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