得体の知れない薬の被験体

今日は雨です。
とても仕事日和です。
先日はお騒がせ致しまして、結局安室さんは俺と謎の約束をして帰っていきました。
翌日コナン君が家に来て壁のヒビを見られました。
もう修復完了しています。

「お前、安室さんと何したんだよ」

と聞かれてしまったので、秀一に酒を飲まされたことから説明しました。
コナン君曰く、ポアロで会った時に安室さんが珍しく左手を痛めてたから聞いたら猫と遊んでたと答えたそうです。

「引っ掻かれはしませんでしたが、踏み台にされたり酒瓶をひっくり返されたり肘に猫パンチされました」

と笑顔で答えたそうです。
とても怖いですね。
まあ、それでもやっと仕事をさせてもらえるようにもなったし秀一とも連絡が取れるようになったので大丈夫でしょう。
何とかなる筈。
秀一も酒を飲ませて悪かったと反省していたので許します。
貴重なイケメンの謝罪です。

…お仕事捗るー!
仕事禁止令出された反動かな、やっぱり心が荒むと仕事が進んで仕方ないね
雨だから外出たくないし

『お仕事、濃いめのカフェ、パン・オ・ショコラ…!
充実してる…充実しまくりだよ、ハッキング楽しい、機密情報バンバン入って来ますね、楽しいー!』

いやー、組織の内部と外部の諜報機関の心理戦を高みの見物してるのは本当に楽しいです

報告書を書いていたら呼び鈴が鳴った。
雨の日なのに一体誰だ。
仕方がないのでドアを開けたら、不機嫌そうな哀ちゃんがいた。

『哀ちゃん…』

「開けて」

『入ってきていいよ』

「門を開けなさいって言ってるの」

『えー、濡れたくないから自力で門登ってきなよ』

「貴方ねえ…」

『今日は仕事してんの』

「じゃあこれだけ渡しとくわ、被験体になって」

『媚薬はお断りです』

「違うわよ!
誰も貴方の変なとこ見たくないわよ!」

小さなビニール袋を放られた。

…APTX-4869とは少し違うな
えっと…一時的に幼児化…って待ってこれAPTX-4869とほぼ同じじゃない!?
なんでこんな物作ってるの?
ていうか哀ちゃんもういないし!

受け取ってしまった薬を部屋で眺める。
一時的とはいえ幼児化するらしい。

散々文句言ってる俺に自分の気持ちを知れとでも言いたいのか?
擬似体験をしろとでも言うつもりですか?
やだね、絶対飲まない
誰が飲むか、こんなの
報告書の続き書きますかね…

お仕事再開。
フランス語の書類を纏めて報告書を一気に書き上げてメールで送信。
そしたら丁度呼び鈴が鳴ったのでまたドアを開けた。

『……』

「何驚いてるんですか」

『いや、えっと…もう、いらっしゃらないのかと…』

「どういう事ですか?」

とりあえず門を開けて安室さんをリビングに通した。
カフェを出して向かい側のソファーに座り、ちょっと身構えた。
なんとなく気まずい。
だってあんな醜態を晒したのだ。
怒るのも当然だし、呆れられたに違いない。

「先日の件で…」

『本当にすみませんでした、もう本当に申し訳ございません、切腹します』

「いや、そうではなくて…あれは全てあの男が悪いのでいいんですが…」

また強調されましたね、"あの男"
とても殺気が籠っています

カフェを飲んだ安室さんはふと俺を見てから、不意に立ち上がって部屋の中を眺めた。

「仕事三昧ですか」

『はい、今日は絶好のお仕事日和でしたから』

安室さんは部屋に入っていき、暫くして戻ってきた。

「蛍さん」

『はい』

「これ、何です?」

『……あ』

安室さんが持ってきたのは、デスクの上に放りっぱなしにしておいたAPTX-4869的な、さっき哀ちゃんから受け取ってしまった試験薬だった。

『これは…ですね、その、APTX-4869的な…一時的にそうなってしまうものですね
被験体になれと言われたのですが強制ではなさそうだったのでしまうのをすっかり忘れていました
捨てるつもりだったので…』

「…一時的な幼児化ですか」

あ。
背筋がゾクリとした。
嫌な予感がする。

「面白そうですね」

なんでノリノリなの!?

「じゃあ、飲んでください」

『えっ、嫌ですよ!
捨てるって言ったじゃないですか!』

「蛍さん、先日のお詫びの件は覚えていらっしゃいますか?
貴方、何でもしますと仰いましたよね?」

『それは…』

「何でも、と」

『……はい』

「いいじゃないですか、これもお仕事だと思えば
貴方お仕事好きなんですから」

『仕事は好きですけど別種です!』

「何でも、するんですよね?」

これは…逃げられないぞ…

というわけで何故か目の前にその薬と水が置かれています。
なんでこうなったんだ。

「薬の持続性を調べたいようですね…
時間なら測っておきますのでご心配なく
どうぞ」

いや、笑顔でどうぞって言われても…

「組織のお仕事ですよ?」

恐ろしい。
こうなったら自棄だ。
薬を掴んで水で流し込んでやった。

『…これでいいんですね…?』

はあっと溜め息を吐き出した。
何も起こらないじゃないかと油断した瞬間だった。

ドクン。

な、に…?
体が、熱い…なんか、これ…ヤバい薬なんじゃ…

心臓が脈打って、体が異様に熱い。
なんてものを渡してくれたんだ、哀ちゃんは。
ていうかよくこんな物見つけましたね、安室さんも。
デスク見て一瞬でこんなの見つけますかね。
暫くしたら熱が下がっていって、とりあえず深呼吸した。

『……』

「……」

手を持ち上げたら、Tシャツの袖が長袖になっていました。
ズボンが大きいです。

え…

ソファーを降りてみたら、Tシャツがワンピース状態でした。
何ですか、これ。
しかもテーブルの位置が高いです。
ソファーも高いです。

え、ほんとに、ほんとに幼児化しちゃったの…!?
ヤバいヤバい…待って、鏡、鏡は…?

全身が映る鏡を見て絶句。
これ何年前の姿だよ、昔家にあった写真と同じなんだけど。

えー、どうしよう
一時的っていつ戻れるの?
何時間とか書いてなかったよね?
あれ、なんか何時間持続するのかを調べたいって言ってた気がする…
てことは…何時間で元に戻れるかわからないってこと!?

「…貴方、いつ性転換したんです?」

ハッとして振り向いたら安室さんの足が見えました。
いつもの素敵な足です。
しかし、目の前に足ですか。

『…性転換?』

「どう見ても貴方…少女にしか見えませんけど」

やめてー!
勝手に性別変えないでー!
俺生まれた時からずっと男だから!

『失礼ですね!セクハラ発言ですか!?』

しゃがんだ安室さんがマジで大人過ぎる。
ちょっと待って、なんかお父さん思い出した。

「確認してもいいですか?」

『何のですか!』

「性別です」

『疑ってるんですか!?
俺は生まれた時からずっと男です!』

「どう見ても少女ですよ…?」

確かに小さい頃はフランスで散々女顔だの何だの言われましたけどね…

『しつこいですね、そんなに言うなら脱がせるなり触るなら何でもすればいいじゃないですか!』

「…いや、そんな趣味はないので遠慮しときます」

『一体何なんですか!』

「いや、確認はしたかっただけですが別にそういう趣味は持ち合わせていないので…」

『ややこしい!』

安室さんの足を蹴った。

「あ、全然痛くないです」

『…なんかムカつきますね』

この野郎、と思って助走をつけて飛び蹴りしたら受け止められた。
悔しかったからついでに殴ったらただただイケメンの筋肉にペチンとぶつかっただけだった。

「…貴方、何がしたいんです?」

うわー、最低だ、すごいムカつく!
何これ、最悪すぎる…

「非力ですね…」

『うるさいですね、本当に
何なんですか!』

「それはこっちのセリフですよ、いきなり蹴りかかったりして…
今の蛍さんでは絶対僕に手を出さないので安心ですね
先日は一発喰らいましたから」

やっぱり根に持たれてたー!
安室さん、貴方、秀一の件もそうですけど意外とっていうか結構根に持つタイプですよね?

「可愛いものですね、このくらいのパンチだと」

悔しい。
非常に悔しい。
なんとかしてこのイライラを解消したい。

そうだ、仕事…!

部屋に入ったら全てがドールハウスのようでした。
なんてことだ。
椅子によじ登ってパソコンを開いたがキーボードがデカく感じる。

なんだ、これは…

「子供が仕事するなんて聞いたことないですよ」

ひょいっと椅子から降ろされた。
ちょっと待て。
俺のイライラ解消をどうしてくれる。

『ストレス解消です!』

再び椅子によじ登ったら、すぐに降ろされた。
え、ムカつくんだけど。

この人、絶対俺で遊んでるよね?
ねえ、俺、完全に弄ばれてません?

「ストレス解消でしたら…殴ってくださって構いませんよ?」

年上だからって余裕こきやがって…

『いい加減にしてください、こっちは本気です』

「子供が遊んでるようにしか見えませんけど」

『…安室さんとはもう口利きませんから!』

ふん、とふてくされて部屋を出た。
最悪だ。
もうカフェでも淹れよう。
戸棚に手を伸ばしたら、いつも使ってるマグカップに届かない。

え、ちょっと…

椅子を持ってくるしかないのか。
ダイニングの椅子を持ってこようとしたら重たくて運べない。

この野郎…哀ちゃん、なんて事をしてくれたんだ…

戸棚の前で項垂れていたら、後ろからマグカップを取られた。

「どうぞ」

『……』

流石イケメン、と思ってお礼を言いかけたのだが、さっき口を利かないと言ったことを思い出して黙ってキッチンに向かった。

…届きません!
うわー、もう全てがムカつく!
何この世界、イライラするんだけど!

「子供はコーヒー禁止ですよ」

なんだ、この追い討ち。
ソファーに座っていた安室さんは、さっき俺が淹れたカフェを飲んでいた。

何ですか、見せびらかしですか
ムカつく!
とってもムカつくけどコーヒー似合っちゃうなんてイケメン…でもムカつく…

自棄です。
ソファーに走って行って、座っていた安室さんの足にタックルした。

「…ストレス解消ですか?」

全然効いてないし…

もうイライラもマックスである。
我慢できない。
哀ちゃんに連絡して何か対処法を教えてもらおう。

って携帯、部屋のデスクの上じゃん
届かないやつ…
もう、最悪だ…絶望的…

安室さんの足元に座り込んで項垂れた。

「…遊んでるんです?」

もう泣きそうだ。
安室さんのズボンを掴んで半泣きしていたら抱き上げられた。
こうもいとも簡単に持ち上げられると屈辱的だ。
膝の上に乗せられた。

悔しい…何これ…

「…いや、これはこれで可愛いですね」

『…うるさい』

「あれ、僕とは口を利かないんじゃなかったんですか?」

『あっ、そうでした…』

「もう遅いですよ」

ねえ、イケメンの膝の座り心地いいんですけど…
完全に子供扱いされてます、屈辱的なのになんか許せてしまうの、なんで…?

頭を撫でられました。
もう泣きそうです。
泣いていいですかね。
複雑な気持ちになってきました。

『安室さん…』

「はい」

『…泣きそうです
いつまで続くんですか、これ』

「それを調べるための被験体なんじゃないんですか?」

それはそうなんですけど!
もう嫌だー!

溜め息を吐き出して安室さんのTシャツを引っ張ったら抱き締められました。
ちょっと待ってくれ。
いくら子供扱いでもこれはすごいことされてるんじゃないですかね。

「いいサイズ感ですね」

『……』

イケメンの胸筋が目の前にあるので喜んでいいのか、何をしていいのかわかりません。
状況がわからなくなってきました。
パニックを起こしそうです。

近すぎませんか…?
すごいことになってしまいました…

呆然としてたら呼び鈴が鳴ったのでハッとして安室さんから離れた。
逃げた。
そうだ、この家にはインターホンがあったんだった。
なんでさっきインターホンに出ないでドアを開けてしまったんだろうか。

あれ、届かないんだけど…

インターホンのモニターも見れないし受話器に届かない。
そしたら後ろから受話器を奪われた。

「コナン君、僕です、安室です
今蛍さん、ちょっと状況が状況でして代わりに出ました」

え、コナン君だと?

「ああ、それから今ならとっても面白い蛍さんが見れますよ」

ちょっと待て、何を言い出すんだ…!

安室さんを蹴ったけど全然効いてないしイライラ復活。

「今開けますね」

『何してくれてるんですか!』

「いや、今日の蛍さんは可愛らしいので是非コナン君にも自慢しておこうかと…」

『ハイ?』

待って、自慢て何?
俺は所有物ではありませんけど

「それに蹴られても全然痛くも痒くもないですし、多少機嫌を損ねて殴られても幼稚園児のお遊び並みですから」

ちょっと待ってくれ、幼稚園児って酷くない?
コナン君ですら小学生だよ?

安室さんは玄関に行ってしまったので、慌てて部屋の中に隠れようとした。
ヤバい。
見つかったらコナン君にかなり馬鹿にされる。
というか絶対からかわれるに決まってる。

どっか、どっか隠れられるとこ…
何処だよ!?
ベッド?
デスクの下とか?

ベッドに潜り込んだものの、絶対バレると思ってベッドの下に入り込んだ。

「蛍さーん、どこに隠れたんです?」

「ねえ、安室さん、隠れたって…」

「見たらわかるよ
蛍さん、あんまりしたくないんですが補聴器ハウリングさせますよ?」

『どんな嫌がらせですか!』

「ベッドの方ですね…」

しまった…思わず答えてしまった

「蛍さん、もう抵抗しても無駄ですよ」

ベッドの下に手が入り込んできた。
なんて失態だ。
手首を掴まれてずるずると引きずり出されてしまった。

『……』

「かくれんぼは僕の勝ちですね」

「…雪白さん、いつから女になったの?」

『だから俺は男だって言ってんだろ!』

「あ、やっぱりコナン君もそう見えます?」

『何なんだ、全く、ムカつく…
あのなあ、コナン君だって同じようなものじゃ…』

立ち上がって、気付いた。

『え…?』

「…灰原、楽しそうにしてたけどこういう事だったんだ」

『な、な、なんでコナン君の方が大きいの…!?』

哀ちゃん…やってくれたな…

「幼稚園児ですね、いや、可愛いと思いますよ」

「安室さん、この雪白さんどうするの…?」

「とりあえず今回被験体ということなので成体に戻るまでは遊んであげようかと…」

『あの、帰ってください』

「時間測ってるの、僕ですよ?」

『……』

「それに椅子も運べずキッチンで何もできなかったのにご飯作れるんですか?」

『……』

「インターホン見れないくせに来客時どうするんです?」

『……』

「雪白さん、諦めたら?」

今の君には一番言われたくない。
イラッとして安室さんの素晴らしい胸筋を殴ってやった。

「全然痛くないのでどうぞ続けてください」

『ムカつく…』

「なんだよ、これ…」

『コナン君、哀ちゃんに今度とんでもない仕返ししてやるって言っておいてね
マジで殺しに行くから』

「いや、今の姿で言われても全然怖くないんだけど…」

『もう知るか…!どうにでもなれよ!』

安室さんの胸板に泣きに行ったら抱き上げられました。
ヤバい、すごい安定感です。

「コナン君より小さいので収まりがいいですね」

「安室さん、結構楽しんでる…?」

「意外と」

「…雪白さん、灰原に色々と報告しとくからね」

『待って!何を!?』

「だから、色々だよ」

怖いー…!
色々って何なの!?

安室さんに抱き上げられたままコナン君を玄関まで見送ったのだが、もう泣きたい。
君は一体何をしに来たんだ。
というか安室さんに唆されて何て事になってしまったんだ。
いや、まず哀ちゃんが原因だよね。

『絶体許さない…』

「滅多にない機会なので楽しみましょう」

『いや、楽しみ方がありません』

流石に明日になったら戻ってるよね。
じゃないと仕事もできないし。
しかし、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれるのであった。




阿笠邸。

「灰原、雪白さん、俺より小さかったぜ…」

「なかなか可愛かったでしょ?
昔散々女顔って言われてからかわれてたくらいよ?
親戚からも女の子だって何度も間違われてたらしいわ
それでどうだったの?例の彼は?」

「完全に父親と娘状態だったぜ」

「そう、早く解決するといいわね
たまにはああいうハプニングがあると二人の距離も縮まりそうじゃない、特にあの鈍感には」

「雪白さん、いつ元に戻るんだよ?」

「さあ」

「は?」

「いつ戻るかの試験兼ねてるのよ
何日かかるか、何時間で戻るか、私にもわからないわ」

「おいおい…」







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