仕事も程々に

阿笠邸。

『だーかーらー、俺は情報提供しただけだし、その情報も今哀ちゃんに渡したデータだけだって』

「大丈夫よ、江戸川君
このロリコン、ちゃんとデータの改ざんもしてくれてるみたいだし各諜報機関の動向も最新のものね
本当よ」

日を改めて説明すると約束したのは俺なのだが、先日のお仕事場面を見られてしまったコナン君にはとても疑われた。

「セーフティーまで外したくせによく言うぜ」

『こっちだって仕事でやってんの』

「雪白さん、表裏激しすぎだろ…」

『組織でも哀ちゃんに対する態度は裏表ないけど?』

「そうね…相変わらずロリコンてとこかしら
それからろくでもない男に振り回されてるところも相変わらずね」

『哀ちゃん、その話は他言無用だよ?』

結局哀ちゃんにはスペイン人とロシア人とアメリカ人の話をバラされてしまい、コナン君からは同情というか蔑むような目で見られた。
惨めだ。

「あ、それからフランス人に女かと思ってホテルに連れ込まれたら脱がされてなんで付いてるんだよって怒鳴られて帰られた事もあったかしら」

『もうその話やめて、立ち直れない』

「いっそ切り落とせば良かったじゃない」

『怖いこと言わないでくれる?』

組織の人間怖い。
何これ。

「それで、今回の報酬は何だったの?」

『変わんないよ』

「またツナ缶一個?」

「ツナ缶?」

「言ったでしょ
このロリコン、ジンの飼い猫なんだから餌よ、餌」

「ツナ缶ねえ…」

『うるさいな、いいんだよ
ちゃーんと美味しく調理してもらったんだから』

「してもらったって、まさか…」

コナン君は本当に察しが良くて困る。
哀ちゃんにもジロリと見られた。

「まさか、今ナンパされて振り回されてる男?」

『その通りです、ていうか友達だよ』

「今回は大丈夫なの?」

『だと思うけど、友達だし』

「ちゃんと仲直り出来たんでしょうね?」

『したよ、ていうか泥酔してたとこ拾われた
日本人て優しいね』

「貴方、今回はちゃんとしなさいよ!?
こんな機会滅多にないんだから!
ちゃんと掴んどきなさいよ、男運ほんっっっっとうにないんだから!」

『わ、わかってるけどそんなに言われると傷付く…』

哀ちゃんのあまりの剣幕に何も言い返せなかった。
ていうかそれは俺の心配してくれてるってことでいいのかな。
やっぱりツンデレですか。

『…ねえ、ナンパはされたんだけどさ
それってどういう事かなあ?』

「え?」

「貴方、もしかしてまた無意識の鈍感発動してるの?」

『何が?
だって今までは普通に口説かれたり、いきなりホテル行こうぜって言われたり、押し倒されたり…車に連れ込まれたりもしたね
いくらナンパって言われても今回は何もされてないし…ほら、料理作ってくれるくらいだし、あと送り迎えとか?』

「貴方に恋愛なんて無理ね
だから変な男に引っかかるのよ」

『…話の流れが変わってない?』

「変わってないわよ!」

「雪白さん、鈍感にも程があるだろ…
流石に気付いてやれよ…なんか可哀想になってきた」

『コナン君まで…!?
俺にそんな人いませんけど!
ていうか俺に好意持ってる人いる!?』

「「…話にならない」」

何でだ。
この二人の言ってることが全然理解できないんだけど。
確かに男運はない。
警察庁でナンパされたと安室さんも言ってたから用心するに越した事はない。

『あ、電話だ、ごめんね』

珍しく降谷さんからの電話だった。
お仕事かな。

「報われねーな…
あんなにわかりやすいのに…」

「工藤君、相手のこと知ってるの?」

「よーく知ってるぜ」

「この前嫉妬してるって面と向かって言われたらしいわよ」

「それでなんで雪白さんは友達って言い張ってんだよ…
今だって通い妻みたいなもんだし、雪白さんのとこ泊まってたぜ?」

「なんであの人気付かないのかしら…
口にしないとわからないのかしらね…
ちゃんと告白されないとあの人何も理解できないの?」

「すっげー世話焼きのいい友達って認識なんだろうな…」

「流石に同情するわ…」

やっぱりお仕事だった。
久しぶりに公安と合同捜査です。
会議もあります。
ということは降谷さんモードですね、凛々しいイケメンが見られます。
最高です。

『仕事入ったから行くね』

「組織?」

『違う、表仕事なんだけど合同捜査なんだよねー』

「それって警視庁と?」

『Non, non.』
(いやいや)

ふふんとドヤ顔してやった。

『公安警察です!』

「……」

コナン君が固まった。
あれ、どうしたんだろう。
ま、いっか。

『行ってきまーす』

お邪魔しました、と阿笠邸を出た。
これからスーツに着替えてお仕事です。

「…工藤君、まさかその公安の人?」

「…そのまさかだよ」

阿笠邸では小学生が二人で溜め息を吐き出した。



警察庁にやって来ました。
お久しぶりです。
しかし何度事情を説明しても入れてもらえません。
何故だ。

呼び出したのそっちだろ!
なんで入れてくれないんだ!
入れろよ!
ていうか降谷さんどこ!?
訴えますよ!?

電話をかけたら謝られた。
そしたら警備員は何か内線が入ったらしく、何か話した後にやっと俺を入れてくれた。
全く手際の悪い。
ちょっとイラッとしながら案内された部屋に向かっていたら、降谷さんの部下さんにフランス語で話しかけられた。

「Bonjour, M.Claude. Ça va?」
(クロードさん、こんにちは、お元気ですか?)

びっくりした。
まさか部下さんがフランス語で話しかけてくれたなんて。

『Bonjour monsieur. Moi, ça va bien merci.
C'est vraiment surpris que vous avez appris le français...!』
(こんにちは、私は元気ですよ
フランス語勉強されたなんて驚きましたよ)

ちょっと機嫌直った。
まあ、簡単な挨拶程度だけ覚えてみましたと部下さんに言われたのだがちょっと嬉しい。
あれ、これって公安といい関係の構築に繋がってませんか。
よいです。
非常によいお仕事してます。

「M.Claude, je suis désolé de vous appeler.」
(クロードさん、お呼び出ししてしまってすみません)

おっと降谷さんまでフランス語ですか!
今日はどうしたんですか!
さっきまでイラッとしてたけどもういいよ、許す!
イケメンのフランス語許す!
ていうか確実に今部下さんとのフランス語のレベルの差を見せつけましたね?
貴方、策士ですか?

「On y va, on a beaucoup de chose à discuter.」
(行きましょう、話し合う事はたくさんありますから)

今日は会議室に行くらしい。
その途中、まさかの降谷さんのエスコートです。

「すみません、貴方を出禁にしていた事を完全に忘れてました」

『らしくないですね、そんな凡ミスなんて』

「はい、お詫びに今日は仕事の後ドライブでもしましょうか」

『…ドライブ、ですか?』

一応部下さんにはまだハーフだとバレていないので、日本語で話してる時は小声だ。

「…おい、なんか今日降谷さん、クロードさんと近くないか?」

「道案内にては物凄く近いような…」

「降谷さん、フランス語出来たんですね…」

「それにしてもクロードさん、今日も綺麗だな…」

今日の会議でフランス側の情報は提供したし、公安側からも情報はもらえた。
これを後は本部に送って解析してもらえればいいだけ。
成果はまずまず。
日本の長期任務も悪くない。
ありがとうございます、局長、改めて感謝します。

それにお仕事終わったし、降谷さんとドライブですか!
どこ行くのかよくわかんないけどドライブって何でしょうか、ドキドキですね
イケメンと密室ドライブですよ!

部下さんもいい人達ばかりなので本当に仕事がしやすいです。
助かります。

「下まで送ってくる」

部下さん達にもでは、と一応日本なので一礼をして別れを告げる。

『……』

警察庁の階段を下りながらちょっと違和感がして足を止めた。

「蛍さん?」

『…なんでしょう、何か、変です…』

おかしい。
なんか変だぞ、この感覚。
とりあえず階段を下りて警察庁の建物を出たのだが、地面が揺れる。

あれ、地震かな…これ…
まともに歩けてないような…

もう一度足を止めてみたけどなんか、変だぞ。
地面が歪んできた。

「蛍さん、どうしたんです?」

『地震、ですかね…?』

「地震は起きてませんが」

『なんだろう、なんか、あれ、変だ…』

手からアタッシュケースが滑り落ちる。

「蛍さん!」

なんか視界がブラックアウトしてる。
あ、ヤバい。
なんかヤバいかも。
そう思った後の記憶がない。

…ない
何故だ、何が起きたんだ…

ハッとして気が付いたら工藤邸のいつものベッドだった。

…え?
何…ていうか左耳もやられましたね…

「    」

はい?
ちょっと待って、わかんない
何が起きた?
何を言われたんだ?
何故降谷さんがいて、俺はベッドにいるんでしょうかね?

手を伸ばしてタブレット端末を掴む。

『"お仕事どうなったんです?"』

降谷さんはちょっと呆れ顔をした。
待って、仕事の話してたのになんで呆れられてるの。

「"貴方の頭の中には仕事しかないんですか?"」

『"…状況が理解できていません"』

降谷さんは俺からタブレット端末を取り上げると、画面一面にデカデカとした文字を表示させた。

「"過労です!"」

え…まさかそんな筈は…

「"だから仕事も程々にと散々申し上げたじゃないですか
いつか過労で倒れますよと忠告しませんでしたか?
どうして貴方は倒れるまで無理をなさるんですか!
ワーカホリックもいい加減にしてください!"」

うわあ…怒ってる…
超怒られてる…

「"39℃出してたんですからね!?
わかってます?
失礼ですがハッキングして貴方の仕事の更新履歴とパソコンや端末の使用時間を確認させていただきましたが仕事のしすぎです!
何をどうしたら毎日三時間睡眠の労働になるんですか!"」

そういえば最近あんまり寝てなかった気がする。
そうか、仕事してたのか。
ハッキングしてると仕事の感覚が抜けてしまうからダメだな。

『"ハッキングのお仕事は最早趣味と化しているので…気付いたら時間が経ってしまうんですよね
それに本部とも時差がありますし、公安の皆様にもわかりやすい資料を作ろうと思って色々としていたのですが…
折角降谷さんとのお仕事なのできちんとして臨みたかっただけで…"』

降谷さんは肩を落とした。

「"わかりましたから、もう少し自分に気を使ってください"」

『"降谷さん"』

「"安室です"」

『"あ、プライベートでしたね、すみません
よく寝た気がするので大丈夫です
それに部下さんも安室さんがいらっしゃらないと心配でしょうし、お仕事も…"』

引ったくられた。

「"3日間、蛍さんが仕事という言葉を使うこととその行為を禁止します"」

え。

「"暇さえあればすぐ仕事と仰る方なので一回仕事から離れてゆっくり休んでください
いいですか?
過労なんです!
過労で倒れたんですからね!"」

すごい…
イケメンが怒ってる…
怒ってもイケメンて何ですか…?

「"食欲はありますか?"」

ん?
突然話が変わったぞ…

『"そうですね、何日も食べていないような気がしてきました…"』

「"当然です、三日間寝てたんですから
お粥くらいなら作りますので寝ててください"」

…だからどんな家事代行サービスですか!
そんな気を使わなくていいですってば!
寝たら治りますし!

なんて言う前に安室さんは部屋を出て行ってしまった。

イケメンて…なんですか…?
完璧人間なんですか?
あ、ドライブどうなったんだろ…
地味に楽しみにしてたんだけどなあ…
あれのおかげで会議頑張ろうとか思ってたんだけど

はあ、と小さく溜め息を吐き出す。
過労なんて初めてだ。
この前の怒涛の出張でさえ倒れなかったのになんでこんな事になったんだろうか。

あ、安室さん俺のパソコンハッキングしたって言ったよね…?
毎日三時間睡眠って言った?
あれ、俺、寝不足だったの?

とりあえず暫くは天井を眺めていたけれど、三日間寝ていたと知ってバッと起き上がった。
まずい。
三日分の仕事が溜まっている筈だ。
パソコンを掴んで開き、急いでデータバンクをチェックしてジンにも至急定期報告を入れる。
DGSEの本部に連絡を取っていたら、スッとパソコンを引き抜かれた。

あ…

「"仕事禁止って、言いませんでした?"」

丼をテーブルに置いた安室さんは俺のパソコンを部屋の奥へ持って行ってしまった。

あ…仕事…
とりあえずジン様への定期報告には間に合ったからいいけど仕事…仕事…

「"貴方が三日間仕事しないように僕が付きっ切りで看病しますので、覚悟しておいてくださいね?"」

返す言葉もない。
ていうかバイトはいいんですか。
安室さんこそお仕事いいんですかね。

…あれ、付きっ切りってどういうことだ
三日三晩一緒ってこと?
え、そういうこと!?

『"…付きっ切り、とは…"』

「"言葉通りです
蛍さんが仕事をしないように監視します"」

む、無理です…
イケメンと同じ屋根の下に三日三晩一緒ってどんな試練ですか、神様…!

「"温かいうちに食べてください"」

仕方ない。
逆らえない。
スプーンを取ろうとしたら、奪われた。

え、なんで…?
食べろって言ったのそっちだよね?

ポカンとしてたら口に突っ込まれた。

…これは所謂あーんてやつですか?
あの、とても子供扱いされてますが…
あ、でもイケメンにこんなことされる機会滅多にないですよね
ていうか…なんでこんなシンプルなお粥なのに死ぬほど美味しいんですか…!
貴方天才ですか!

「"お口に合ったようで良かったです"」

ちょっと待ってくれ…
お仕事を没収されたらイケメンの介抱が与えられるって何なんですか…
あの、殺す気ですか…?

俺の心臓がそろそろ持ちません。
イケメンずるい。

「"完食ですね、この調子ならすぐ良くなりそうで安心しました"」

ですから三日間は大袈裟だと思いますよ。

『"ところで何処で寝られるんです?"』

「"貴方の監視をするんですよ?
決まってるじゃないですか、隣です"」

ちょっと待った。
これはいくらなんでも俺が気絶する。
笑顔で言われてもこっちは身が持ちません。

『"すぐ治ります、寝れば治るので安室さんはちゃんとご自分のお仕…"』

パンッと音がした。
痛い。
なんかほっぺた痛いんですけど。

「 "仕事は禁句だと言いましたよね?"」

えええっ、会話にすら使えない禁止ワードなんですか!?
会話進みませんけど!
ていうかマジで痛い…

『"とりあえず…ご自分のことなさってください…"』

少し考えた安室さんはタブレット端末に文章を打ち込んだ。

「"今回お粥は作り置きしていないので、僕が仕事に行って食事がなくて餓死してもいいということでしょうか?"」

待って、笑顔で餓死とか言わないで…
絶対居座る気だよ、このイケメン
わかってます、もうわかりました、逆らえません
だって…このお粥食べたい…

『"…お粥ほしいです"』

「"ではそういうことで"」

なんで満足そうなの、あの人…
イケメンの考えてることって全然わかんない…
ていうかもう熱上がっちゃいそうだよ、俺、三日間一緒に過ごす自信がありません…

「"あ、そういえばお隣から風邪薬が届いていたのでお礼言っておいてくださいね"」

哀ちゃん…!
なんてツンデレなんだ!
ありがとう、本当に助かりました!

「"とりあえず3日分入っていたので飲んでおいてください"」

『"……"』

水も渡されたので薬をありがたく頂戴したのだが、三日分いただいたってことは三日分何かあるってことなんだろうか。
ちょっと待て。
考えるのやめたい。

『"寝てもいいですか?"』

「"どうぞ"」

じゃあ、とばかりになんで隣に来てるんですか?
貴方副作用で眠いとかそんなんじゃないですよね?
ほら、ちょっと待ってイケメンのせいだよね?
熱出してんの絶対過労じゃなくない?
この人のせいだよね?

「"…あれ、ちょっと体温上がりました?
測ります?"」

『"寝かせてください…"』

これは貴方のせいです。
俺は何も悪くないからね。

哀ちゃん、こうなることでも見越してたの?
天才ですね…

暫く俺、気絶しそうです、寝ます。
寝ますからね。






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