組織からの報酬

あれから一週間分の報酬ということで、毎晩安室さんのご飯にお世話になっています。
美味しいです。
最高です。
ていうか俺が食べてるのを安室さんはいつも向かい側で見てるだけですけどご自分の食事はどうされてるんですかね。

『お…?』

携帯に入ってきたメールには暗号文。

「何かありました?」

『…ジン様からのお呼び出しです』

「急ですね」

『とりあえず明日の昼に杯戸公園の駐車場…
まあ、情報の取引でしょうね
安室さんには申し訳ないのですが、お仕事なのでフル装備で行かせていただきます』

しかし久しぶりの呼び出しだ。
ちょっと楽しみである。
俺の楽しみといえば一つ。
ジンの長い綺麗な髪の毛を三つ編みすることである。

「明日はちょっと警戒が必要ですね
まあ、何かあったら連絡してください、ポアロにはいます」

バイトですか、ブレませんね…

翌日。
今日は薄型の防弾チョッキにワイシャツ、スーツを着込んでH&KのUSPをホルダーにセット。
アタッシュケースには一枚忘れることもなく入念にチェックした報告書と、各国の諜報機関ごとの動向を記録したUSBを入れた。
お仕事用の革靴を履いて工藤邸を出た。

…免許取っとくべきだった
どうしよう、杯戸公園て、どこ?

非常に困りました。
いつもジンのポルシェに乗せてもらってたので免許は取ってなかったし、車もないし、杯戸公園なんて行ったことがありません。
カーナビとかないんだからわかるわけないだろ、と半ギレしながらタブレット端末を取り出し、地図アプリで調べた。

な、な、なんとか着いたけど…
疲れました、なんで俺歩いて来たの…

地図に忠実に歩いてきたらかなり時間が掛かりました。
これはタクシーを拾うべきでした、もしくは電車に乗るべきでした。
駐車場に足を踏み入れたらすぐに黒いポルシェ356Aを見つけ、一歩踏み込んで隣に停まっていた車の天井部に降り立った。

「5分前行動か、気まぐれのお前にしては上出来だ」

窓が開いて久しぶりにジンとご対面。
相変わらず美しい髪ですね、そのケアの仕方、今度教えてください。
ジンが後部座席にいるのはとても珍しいのでこれはちょっと遊んでくれるんじゃないか。
期待しちゃうぞ。

『ジン様、会いたかったです』

後部座席に乗り込んでうずうずしてたら何も言われなかったので肯定と捉えよう。
ジンの膝の上に乗ったら喉元に銃口を押し付けられた。
いつものことなので今更ビビりません。

「例の物はどうした」

『こちらに』

わー、久しぶりのジン様です
俺よりも体格がいいので抱き込まれたら絶対に隠れ家になりますね、素晴らしい…
実際仕事中、コートの中に匿ってもらったことがあります…

アタッシュケースを開けて報告書とUSBを全て提出。

「これで全部か」

『はい、今朝もう一度洗い直したので最新の動向です』

やっと銃口が離れて頭を撫でられた。

うわー、最高のご褒美ですね
もうもうジン様ってば、飴と鞭ですか?

それから右耳をチェックされた。

「…相変わらずか」

『ですね』

「左は?」

『変わらないです』

右耳を噛まれました。
痛いけどジン様なりの愛ですね、わかります。

「ネズミ臭ぇな…」

『ネズミひっ捕らえてたら匂いくらい移ります』

俺の報告書をチェックした後、俺を後部座席に置いたままジンは運転席に移動した。

「米花町だ」

「兄貴、猫は…」

「遊ばせておけ、今日は留守番させる」

後部座席を占領して、ゴロゴロする。
それからジンの髪に手を伸ばし、サラッサラの髪を三つ編みにしてやった。

「あ、兄貴…髪が…」

「やらせておけ」

『あ、ウォッカ、いたの?』

ごめん、今気づいたよ。

『ウォッカもやってほしい?』

「ふざけるなよ、アンジュ」

『なんで?
ジン様なんてこんなに寛大なのに』

「アンジュ、ウォッカに触るな」

『…はーい』

「お前の手が汚れる」

あ、そういう事ですか。
ジン様の愛ですね、わかりました。

久しぶりのジン様の髪、やっぱり綺麗だねー…
ほんと素敵

ウォッカにちょっかいを出そうとしても、ことごとくジンに邪魔された。
運転中なのによくわかるな。
暫くして車が路肩に停められた。

「アンジュ、留守番だ」

『……』

「すぐ戻る」

乱暴にわしっと頭を撫でられました。
素敵です。
ジン様なりの愛です。
ということで車内に置いてきぼりにされたので、パソコンを開いて妨害電波を発信。

…お?
なんか引っかかったぞ、誰だ、何かしようとしてるのは

後部座席の窓をそっと半分程開けて、USPを持った腕を真下に向けたら何かにぶつかった。
窓を全部開けて下を向いたら、なんとコナン君だった。

面倒な時に会っちゃったな…

『…発信器ならやめとけ
ジンとウォッカもすぐ戻ってくる
今回は見逃してやるからもう行け、余計な事すんなよ?』

やっぱり彼も組織を追ってたか…

コナン君は俺を見上げた。

「…な、なんで此処に?」

『留守番、猫はネズミ捕りって言うだろ
悪いけど今日はフル装備だから一歩間違ったらマジでこのまま脳天ぶち抜くよ』

セーフティーを解除。

『今日はもう行きな、そんなに気になるなら日を改めて話してやるから』

通りの向こう側からジンとウォッカが戻ってくるのが見える。

『貸し一つな』

銃を離して腕をしまい、窓を閉めてまた後部座席でゴロゴロする。
戻ってきたジンとウォッカはちょっと周りを見渡してから車に乗り込んだ。
二人も戻ってきたので妨害電波を止めてパソコンをしまう。

「異常は?」

『ないよ
ウォッカって俺のことなんだと思ってんの?』

ふあ、と欠伸をしたらジンにツナ缶を渡されました。
完全に餌ですね。

『今日の報酬これだけですか…』

「文句があるならお前を連れ戻す」

『…ないですよ、美味しくいただきます』

車の中で一眠りしてから起きたら夕方でした。
どっかの路地裏に停められた車内には煙草の匂い。
見上げた先にはジン。
いつの間に後部座席に来たんだろうか。
しかも膝枕です、美味しい展開です。

『ウォッカは…?』

「外だ」

ということは密室に二人きりですね。
ジンの髪をまた三つ編みにしてたら軽く頭を叩かれた。

『ジン様、なんで俺を外に出したんです?』

「内情を探るだけじゃお前も飽きるだろうと思っただけだ」

やっぱりハッキングしかしてないイメージなんですか?
組織ででもですか?

「同時に外の情報を探るくらいにはお前も従順になった、特に深い意味はねえ」

そうですか。
まあ、確かに組織の中と外の心理戦を眺めてるのは楽しいですけどね。

『…今日のお仕事は?』

「お前の仕事は終わってる」

『あ、そうですか…』

「帰りに一件だけ仕事だ、定期報告は忘れるな」

『はーい』

ねえ…今俺の仕事は終わりだって言ったよね?
終わってなかったんじゃん…!

紙を胸ポケットに滑り込まされ、体を起こす。

「アンジュ」

『はい?』

「目が澄んできたな」

『…右ですか?』

「左だ、用心しろ」

コクッと頷いてから車を降りた。
帰り道に胸ポケットの紙を取り出してから、米花町のとある建物に入る。
指定された所にいた人物はコードネームも持たない構成員。

『お掃除に来ました』

「誰だ、テメェ」

『コードネームはアンジュ、ジンの飼い猫だよ
裏切り者には、罰だよね?』

USPを取り出したら状況を理解したらしい。
俺の作ったNOCリストの男を心臓と喉元、額の三ヶ所で仕留めた。
一丁上がり。

『ジン様、片付きました』

[追加の餌が欲しかったら自分で魚を探してこい]

『頑張ります』

掃除屋を呼んでからその場を離れる。
スーツも汚さなかったし、今日のお仕事は楽勝。
夕方の商店街を歩いていたら気配を感じて足を止めた。

「案外忠実ね」

『飼い犬ではありませんよ?』

「猫の気まぐれなんて、いつまでかしら?」

『餌貰ってる身分ですからね
貴方のヒール、切り落としても構いませんか?』

靴の底からナイフの刃を覗かせる。
ベルモットは黒い女優帽を目深に被ってふっと笑った。

「貴方、引っ掻くことも出来るのね」

『猫ですから』

では、と靴を戻してパン屋に向かう。
いつものパン屋でバゲットとパン・オ・ショコラを買い込んでから、ちょっとだけと思ってポアロに顔を出してみた。

「いらっしゃいませ」

そしたら子供達がいたので半歩下がった。

「あー、灰原のボディーガードの兄ちゃんだ!」

「あ、本当ですね、灰原さん、ボディーガードさんですよ!」

「だから私にボディーガードなんていないわよ」

俺…やっぱ帰ろうかな…

「Hi, how was your work today?」
(今日のお仕事、どうでした?)

安室さんに引き止められた。
助かったというかなんというか。

『Not bad. A cup of coffee please.』
(悪くないですね、コーヒーお願いします)

仕方ない。
ソファー席に座ったら子供達に囲まれてしまった。

「哀ちゃんのボディーガードさんは何人なの?」

「灰原さん、ボディーガードさんてやっぱり強いんですよね?」

「おい、灰原、この兄ちゃん日本語喋れないのか?
この前はこんにちはって言ってくれたぜ?」

「あのねえ、貴方たち…」

「クロードさんは今日本語の勉強をしてるからあんまりわからないと思うよ」

助け舟出してくれる安室さん素敵です。
流石です。
本当にありがとうございます。

「日本語勉強してるんですか?
じゃあもう少ししたらお喋りできるんですね!」

「小学生でもねーのに勉強なんてするのかよ
大人って勉強すんのか?」

そりゃするさ、本物の小学生は無垢でいいねえ
どっかの元高校生小学生とは違って

帰り際のコナン君にはチラッと見られたけど、まあ、仕事なんだから仕方ないしジンに口止めをしてるのは俺だ。
どれだけ貸し作ってると思ってるんだ。
コーヒーをいただいてから今日も安室さんの夜ご飯。
工藤邸に戻ってツナ缶をテーブルに置いたら苦笑された。

「何ですか、これ」

『報酬です』

「え…?」

『ジン様からいただいたお仕事の報酬、餌ですね』

「貴方、本当に猫なんですか…」

『…今日の煙草の匂いは何も言わないんですね』

「彼の煙草の匂いは、あの男の物とは違いますからね」

…そこまで嗅ぎ分けてるんですか?
貴方こそ犬並みの嗅覚じゃないですかね?

「それにしても報酬がツナ缶とは…」

『今日の夜ご飯はツナ食べましょう』

スーツを脱いでホルダーからUSPを抜いてテーブルに置く。
ワイシャツと防弾チョッキ、スラックスも脱いで解放感を感じた瞬間、頭からスポッと部屋着を被せられた。

「服を着てください、一応人前です」

『安室さん、そんなこと言ってたらリラックス出来ませんよ?』

「僕は別の方法でリラックス出来ていますので」

Tシャツを着たら追い討ちをかけるかのようにズボンを投げ付けられた。

『気を許してなかったらこんな格好してませんよ!
全く、日本人はお堅いですね…』

「…でしたら今すぐ脱いで構いませんよ」

『はい?』

「それは僕に気を許してるって解釈で構いませんよね?」

『……』

「別に全裸でも構いませんよ?」

『…いえ、あの、言葉の文です』

「僕がお堅い日本人だということも、自分を見直すきっかけになりました」

『…それは、えっと…』

やばい、使う言葉を間違えた…
目が笑ってないよ、完全に機嫌を損ねました

「今日は直属の上司からの報酬もあるようなので、夕食はツナ缶一つで構いませんよね?」

『本当にすみませんでした…』

違うんです、誤解なんです。
お願いします、ご飯ください、と懇願してやっと機嫌を直してもらえた。

「僕が作ったものよりもツナ缶を食べて幸せそうな顔をされるのは癪ですからね
ちゃんと美味しいもの作りますよ」

やっぱりイケメン…

所々言葉に棘があるのは気のせいだろうか。
それでも今日もとても美味しい夕食を作ってもらえたのでダブルワークでも全然辛くないですね。
はい、幸せです。

んー、たまりません
安室さんの料理本当に大好き
ツナ缶もちゃんと有効に使ってくれてるのもなんか嬉しい

安室さんはいつものように向かい側で食べてる俺を見てるだけ。

『あの、食べないんですか?』

「いいんですよ
これが僕のリラックスする時間なので」

…あれ、今さらっと凄いこと言われた気がする
ていうか俺、もしかして餌付けでもされてるんですか…?

穏やかな安室さんは確かにリラックスしてそうなんだけど、なんか言葉が引っかかる。
まあ、今は美味しいからいいか。
うん、美味しい。







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