日本語のあれこれ

『いただきまーす!』

日本に戻ってからコナン君と哀ちゃんにちょっとしたフランス土産を渡したりして、また工藤邸に戻ってきた。
哀ちゃんには本当にすぐ戻ってきたのね、なんてちょっとガッカリされた。
そんな反応をされてガッカリなのは俺の方だ。
まあ、そんなことは今はどうでもいい。
なんとなんと、安室さんがこの前買ってきたマイユの粒マスタードたっぷりのお手製サンドイッチと、バルサミコ酢を使った特製サンドイッチを作ってくれたのだ。

美味い…
美味すぎる、何これ、死んじゃうー!
ていうかこれだよ、これこれ!
パリのサンドイッチの物足りなさってこれだったんだ!
最高!
日本戻ってきてよかった!
局長、文句言ってごめんなさい!
本当にありがとうございます!

「…一言も発さずに味を表現してくださるのがお上手ですね」

美味すぎるのがいけない。
俺は至って普通の反応をしただけだ。

「あ、でも考えてみれば蛍さんは手話も使いますし、手話の時は感情が顔に出るので当然とも取れますね」

『馬鹿にしてます?
腐っても諜報部員ですよ、ポーカーフェイスくらいいつでも出来ます』

「じゃあ試してみます?」

『どうぞ』

まあ、仕事モードになればこんなのちょろいもんだ。
うん。
動じない。
安室さんは暫く此方を観察していたので見つめ返す。

…イケメンですね
貴方に落ち度というものはないんですか?

「じゃあこれはどうですか?」

安室さんは俺が買い溜めしているクッキーを戸棚から持ってきた。
って、よく場所覚えてたな。

『美味しそうなクッキーですね』

うん、全然動じないわ。
ていうかフランスで散々食べてるし。

「じゃあ貴方の好きなコーヒーはどうです?」

一口飲んだが、好みの味がするだけだ。
別に仕事中も飲むから動じない。

『あの、いくら俺の好物だからって仕事中にも口にするような物で動揺は誘えませんよ』

「そうですか
でしたらそのサンドイッチをどうぞ」

『さっき食べましたから味で釣ろうなんて、甘いですね』

サンドイッチを一口。

『……』

なんだろうね
どうしてだろうね

ちょっと口元が緩みました。

「…今ちょっと口緩みましたよね?」

『見間違いです』

「じゃあ、こっちのマスタードの方も是非」

『今日は味見もしてますからね』

マスタードのサンドイッチも一口いただく。

『……』

「……」

沈黙が続き、それから机に突っ伏した。
ごめんなさい、ニヤニヤが止まりません。
ていうか死ぬほど美味しいです。
完全に俺の負けです。

「蛍さん」

『……』

「蛍さーん…」

『…降参です』

悔しいけど俺の負けだ。
だって仕方ない。
俺は悪くない。

『こんな美味しいんですから、しょうがないですよね!』

顔を上げてご飯再開。
いや、参った。
やっぱり美味しい物は人を幸せにするって本当なんだろう。

「…降参です」

『…はい?』

「そこまで美味しそうに食べてくださるなんて、作る側としてこんなに光栄なことはありませんからね」

だって美味しいのだから仕方ない。
お互い幸せってことで、ハッピーエンドですね。
素敵なお食事タイムです。

「今夜はあと寝るだけですか?」

『その前に2、3件ちょっと片付けをしないといけないのでそれから寝ます』

「程々にしてくださいね」

『一応程々のつもりなんですが…』

そんなこんなでサンドイッチも完食。
実に素晴らしいお食事でした。
やはりパリにもカフェを開くべきだと思います。

「じゃあ、程々にしてちゃんと寝てくださいね」

『はい』

門の所まで見送りに行ったら心配されてしまった。
この気遣い、イケメンポイントです。

「明日はポアロにいますので」

『…あの』

「はい?」

『…それは…来てくださいって解釈でよろしいんでしょうか…?』

いつもこのシフトに振り回されている気がしたので思い切って聞いてみた。
そしたら安室さんはちょっと意外そうな顔をしてから、俺の頭に手を乗せた。

「はい、お待ちしてます」

え、待って…なんですかこれ…
俺のこと子供扱いしてるんですか、それともこれは…

「ただ、強制ではありませんし蛍さんのご都合が良ければという話です
夜更かしはダメですよ」

では、と帰っていった安室さんのRX-7をぼけーっと眺めてまた項垂れる。
イケメンに子供扱いされた。
いや、イケメンに頭を撫でられるという貴重な体験だ。

『…お仕事がんばります!』

イケメンパワー、流石です。
エンジンフル稼働で仕事の2件や3件、片付けてやりました。
ベッドにダイブしてちゃんと寝て、起きて、シャワーを浴びて快適な朝も迎えました。

今日はポアロに行く、しかし毛利探偵事務所の偵察も忘れてはいないぞ…
俺が諦めると思ったか
まずは毛利探偵事務所の関係者から洗い出していくことにしよう
それにポアロに滞在するなら仕事道具も持っていくか…

革の鞄にパソコンとタブレット端末を入れる。
今日は向こうとの会議も入ってるのでイヤホンもちゃんと入れた。
準備万端なのだが。

…あれ、安室さんのシフト、何時からですか?

時間を知らなかった。
ていうかシフト入ってるって言うならついでに時間も教えてくれよ。
わからないじゃないか。
仕方がないので少し家で仕事をしてから出掛けることにした。
商店街を少し散歩をしたら遅めの昼食くらいの時間にはなった。

会議は日本時間の16時だし、それまで梓さんの警護でもしながらお仕事しようかな…

ポアロのドアを開けたら梓さんが出迎えてくれた。

『梓さん、お久しぶりです』

「お久しぶりです
コナン君から蛍さんが一時帰国されたって聞いて…
また日本に戻ってらしたんですね」

『ええ、今度は長期の出張で日本に滞在することになったのでいつでも梓さんに会いに来れます』

とりあえずいつものソファー席に座ってパソコンを取り出す。

『梓さん、カフェをお願いします』

「はい、いつもの濃いめのでいいんですよね?」

『覚えててくださったんですか…』

「勿論です」

なんて人だ…!
日本人てすごい、こんな細やかなサービス精神なの?

感動しながらお仕事開始。
組織のデータバンクをチェックしながら時々データを改ざん。
フランスに戻った時もそれは続けていたしジンへの報告も勿論怠ってはいない。
仕事をしてコーヒーのおかわりももらって、少し休憩と思って顔を上げたらドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

「梓さん、こんにちは」

なっ…なんて絶好のチャンス…!
あの毛利小五郎の娘、蘭さんがやって来たじゃないか!
って、コナン君も一緒かよ、いいご身分だねえ…

「あー!ルイさん、お久しぶりです!」

『……』

目が合ったらそう言われた。
どうしよう。
俺、フランス人て設定だった気がする。
ので軽く手を上げてみた。

もうハーフだってバラした方が話早い気がするんだけど…

「えー!誰この美人!蘭、知り合いなの!?
ちょっと紹介してよー!」

「ちょっと園子…!」

「やだ、目、すっごい青いんだけど…!
海みたいな色してる、綺麗ー!
鈴木園子です、よろしくお願いしまーす!」

「園子姉ちゃん、ルイさん、日本語通じないから…」

コナン君、ありがとうね…
久しぶりに君に感謝したよ、いつも生意気だけど

「え、そうなの?」

タブレット端末の翻訳アプリを起動する。
ポンコツ翻訳だがたまには役に立つかもしれない。
とりあえず鈴木園子が名前だと確認をとったら頷かれた。

『Bonjour Mlle. Sonoko. Je m'appelle Louis Claude, enchanté.』
(こんにちは、園子さん。ルイ=クロードです、初めまして)

一応はちゃんとした訳になっていたので良かった。

「えっ、フランス人!?
生のボンジュールって初めて聞いたかも…
マ、マドモアゼルだって…!」

「安室さんのお友達らしくて…安室さんがいたらもうちょっと話せたかもしれないけどね」

ごめんね、安室さんいなくても喋れます
ていうか探偵事務所のこととか聞きたい、是非お聞かせ願います…!
あー、もどかしい、非常にもどかしいです

仕方ないので、思い出したフリをして画面に文章を打ち込んで日本語に翻訳してみた。

「えっと…"蘭さんのお父さんは探偵の事務所をすると聞く、有名、ですがどういった事務所ですか?"
ってやっぱり機械の自動翻訳だとちょっと不思議な文章になっちゃいますね

色々な事件を解決してます、殺人事件とか…」

ご丁寧に蘭さんが日本語でわりと細かい情報まで打ち込んでくれたので、自動翻訳されたフランス語も文法がヘンテコだったが大体わかった。
話を続けようとしたらパソコンの方に電話がかかって来てしまった。
時刻は16時。
しまった、会議である。

"すみません、またお話聞きたいです"

今度はちゃんと綺麗な翻訳が出てくれた。
蘭さんははい、と笑顔で頷いてくれた。
よし、ひとまず仕事だ。

『Allô, c'est moi. Je suis désolé de prendre le temps...』
(もしもし、俺だ、時間をかけてすまない…)

とりあえず日本が関わっていそうな案件は全て俺に降りかかってきている。
まあ、仕方がない。
潜入捜査だと思えばいいし、それで長期滞在できるならいい。

「あ、安室さん」

「蘭さんに園子さんもいらしてたんですね
コナン君も一緒に来たんだね」

「そ、そだね…帰り道、蘭姉ちゃん達に会ったから…」

「安室さん、久しぶりにルイさん来てますよ」

「ああ、確かに久しぶりですね
近々日本に戻ると連絡は来ていたのですがもう来ていたなんて知りませんでした
まあ、今はお仕事中のようですし、後でお話します」

うーん…
潜入捜査か…案件を完全に丸投げされた気がしてならない
いずれにせよまた公安にはお世話になりそうだな…

『Mais comment pensez-vous de cette photo?
C'est trop vieille et j'ai impression que c'est un peu difficile de spécifier le groupe.
Je voudrais l'autre nouvelle photo.』
(だがこの写真についてはどう思う?
これは古すぎるし組織を特定するには古すぎる
新しい写真が欲しい)

電話会議も長引くものだ。
結局新しい資料を送らせるからと同期を説得させ、あまり収穫のない会議が終わった。

あ、そうだ、テレビ電話立ち上げてるついでに連絡しとこ
秀一にまだ日本戻ったこと言ってなかったな

というわけでそのまま通話。
出先だと先に伝えて手を動かした。

『"先日日本に戻りました…!
それから長期任務!日本にだよ!?
局長が特別任務だって言ってくれて…
この前秀一が言った通りだったね、空港行く時に話した特殊な任務の話"』

「"日本に長期滞在か、俺達もまだ当分はいるだろうから軽く酒でも飲もうか"」

『"家でもいいしどっかバーに行っても…"』

「"外は厄介だ、飲むなら…"」

突然通話が切れた。

えっ、何、怪奇現象!?

よくよく見たらマウスのカーソルは通話終了ボタンの上。
マウスを見たら見慣れた手。

「Long time no see, Mr.Claude.
How are you today?」
(お久しぶりですね、クロードさん。
お元気ですか?)

顔を上げて思わず苦笑した。

ニッコリ笑ってるけど安室さん、貴方、後ろから物凄い殺気が漏れてますよ…

『Yeah, fine. 』
(元気ですよ)

「Are you ready to order? 」
(ご注文はお決まりですか?)

『Yes, of course. I'm very hungry, so...ah, wait a minute.
I bought a book for learn Japanese in France, I want to try to order in japanese...
Ah...サンドイッチ、さんこ、そしてカフェ、おねがいします』
(勿論です、とてもお腹空いてるんですよね、なので…あ、ちょっと待ってください
フランスで日本語の教本見つけたので買ったんですよ、日本語で頼んでみたいです)

これは流石に予想外だっただろう、安室さん
どうだ、この完璧な偽装工作は

わざわざちゃんと"japonais"と書かれた本までフランスで買って持参して来てやったのだ。
これで徐々に俺が日本語が喋れる設定になれば毛利探偵事務所にも怪しまれずに近付けるわけだ。

「…サンドイッチ3個とコーヒーですね
ルイさん、カフェはフランス語ですよ」

『Pardon?』
(はい?)

「You ordered 3 sandwiches and a cup of coffee, that's all?
"Cafe" is French, Mr. Claude」
(サンドイッチ3個とコーヒーですね?
カフェはフランス語ですよ、クロードさん)

『Ah, sorry, I didn't know that.』
(あ、すみません、知りませんでした)

伝票を書いた安室さんは一枚の紙を置いてカウンターへ行った。

"なんですか、この茶番は"

傑作である。
そしたら紙が重なっていたのに気付いてそっとめくってみた。

"店内であの男と会話しないでください、虫唾が走ります"

『……』

えっと…これは相当ですね、気をつけます
秀一、色々頑張ってね…
これはもう切り替えよう、仕事だ、仕事

仕事の前に、パソコンに英語で今度毛利探偵事務所について詳しく知りたいです、等色々書いて蘭さんに画面を見せた。
さっきまでの茶番を見ていたコナン君は完全に呆れ果てていたのでちょっと仕返しでもしてやろうか。

『蘭さん、恋人、います?』

使える日本語会話!というネイティブが使う例文集を集めた本の恋愛という項目の例文を読み上げる。

「えっ」

「いる!いるわよ、旦那が!
全然姿見せない無責任な旦那だけど!」

園子さん、いいぞ、もっと言ってやれ!

『もしも彼氏がいなかったら、私と結婚を前提にお付き合いしてください』

笑える。
このナンパの項目の例文集は工藤邸で読んで散々笑ったくらいだ。
この指南書は本当に面白い。

「この本ウケる…!
この例文集すごいんだけど!」

「フランスってこういうの売ってるんですね…」

園子さんは教本を見てすごい笑ってるし、蘭さんはカルチャーショック状態。
コナン君を見下ろしてやったらジロリと見られた。
そしたら何故か慌てて、机の影で俺の横を指差された。

「お待たせしました」

バンッと乱暴に皿を置かれた。
もしや虫唾が走ったままなんでしょうか。
とっても不機嫌です。

「ちょっと安室さんも見てくださいよ、これ
こんな事普通日本人言わなくないですか?
この例文集すごいですよ!」

「そんなにすごい例文集なんです?」

教本を園子さんと一緒になって見始めた安室さんですら苦笑。
どんだけすごい例文集なんだ、これ。

「…ここはR-18ですね、高校生のお二人にはまだ早いです
それにしてもこんなものが海外では出回ってたんですね、こんなの初見です
ルイさんの教育上よろしくないので没収しましょう」

ハイ…?
ちょっと待って、おふざけにしてはちゃんとした教本なんだけど…!
フランスでもウケてるからって同期に勧められてわざわざ買ったやつなんだけど…!

『What are you talking about...?』
(あのー、何をお話されてるんです?)

「I confiscate this book.
If you want to learn Japanese, I'll teach you.
Do you have any problem?」
(この本、没収しますね
もし日本語を習いたいのでしたら僕がご享受します
何か問題ありますか?)

『…Nothing.』
(…ありません)

怖い怖い
ちょっと笑顔で没収されたよ、俺の20ユーロ…
そんなにその本ダメだった?

蘭さんと園子さん、それからコナン君が帰った後、梓さんと安室さんが本を読んで笑ってた。
なんだこれ。
何これ、俺、完全に被害者だよ。

「傑作ですね、こんなの何処で売ってるんです?」

『ごくごく普通の本屋に売ってますけど!』

「こんな例文使います?
これから私と一つになりましょうって、外国人がいきなりこんな例文使います?
このR-18項目は相当ギャグセンス高いですね、それともフランス人て平気でこんな風にナンパされるんです?」

『だからそれは友人から勧められたんです!
ちょっと日本語覚えようとしてるフランス人装うのには丁度いいから買っただけですよ!
話のネタくらいにはなるじゃないですか!』

そしたらコナン君からメールが来ていたので開いてみたら、やっぱり今度覚えとけよ的なものだった。
下に続きがあったので画面をスクロールさせてみる。

追伸
お前、安室さんの前でよくあんな事言ったな
相当気にしてると思うから覚悟しといた方がいいと思うぜ

はて。
あんな事とはなんだろうか。
思い当たる節がありません。
覚悟しとけって一体何の話ですか。

まあ、いっか
それより今はこの教本を返してもらう方が先だ。

『いい加減返してください』

「これ使って何するんです?」

『別に何もしませんよ、話のネタだと言ったじゃないですか』

結局返してもらえないし。
送りますね、なんて言って今日も安室さんの車で帰ることになったのだが、助手席に座ってシートベルトを締めたらペシッと教本で頭を叩かれた。

え…

「何が話のネタですか」

『しょうがないじゃないですか、蘭さんにはフランス人で通ってるんで』

「それにしても、貴方って平気で人を口説いたりするんです?」

『…そんな簡単に口説きませんよ
ナンパされても断ってきましたし、ナンパしたことは…特にありませんし』

「それにしては随分慣れた口調でしたね」

…完全に機嫌損ねてます
何故?Why?Pourquoi?

『あのー…なんでそんなに怒ってらっしゃるんです?』

「また自覚ないんですか?
貴方、本当に鈍感なのかただの馬鹿なのかわかりませんね」

ちょっと、今の刺さった…
心が痛い…

「これは僕の方で処分しておきます
それから国外でこんな代物が出回っていることも報告させていただきます
貴方が二度と他人を口説いたりしないようにしておかないと気が済まないので」

心、折れそう…

『なんて日だ、もう寝れない、辛い…辛すぎる…』

項垂れてダッシュボードに頭を強打。

「寝られないなら依頼でも承りますけど」

『馬鹿って…俺、馬鹿…』

「あの、聞いてます?」

『何なの、やばい、また怒らせたのかな
無自覚って何かな、俺、何なんだろう…
全然よくわかんないんだけどこれなんか、やばい気がする…』

「蛍さん、全部口に出てますよ
今日泊まりましょうか?」

『…はい?』

この一泊サービスは何の代償ですか?
怖い…
絶対何か裏がある筈だ…

「…どうせ寝られないんでしょう?」

『…そうですね、頭の整理がつきません』

「じゃあ泊まります」

『それは何か裏があるんですか!?』

「つきっきりで日本語教えて差し上げますよ」

…とりあえず従っておこう
なんかやばい匂いがする
あ、だけど安室さんなかなか怒ったことないよね、じゃあレアってことでどうでしょうか
いや、でも笑顔で怒る人だった…

『…とりあえず謝っておきますね、すみませんでした』

「謝れば済むと思ったら大間違いですよ」

『……』

完全に機嫌損ねた。

『…すみません、あの、コンビニ寄ってもらっていいですかね?』

「何か食べるんですか」

『とりあえず自棄酒でもしようかと…』

「どうしようもない人ですね」

『俺、どうしたらいいんですか?』

「とりあえず僕に誠意を持って謝ってください」

『すみませんでした』

なんで俺、謝ってんの…?

「茶番に付き合わされた僕の身にもなってください
それからあの男と楽しそうに会話してる貴方を見るのは実に不愉快です
他人を口説く貴方は見たくありません
これでもまだ僕が起こってる理由が分からなければ、相当の馬鹿ですよ?」

…ねえ、これ、またナンパかなあ?

『…それを日本語で何というんですか?』

「言わせる気ですか」

『日本語、教えてくださるんですよね?』

「蛍さん」

車が工藤邸の前で停まった。
ハンドルから手を離した安室さんは、此方を見て顎をクッと掴んできた。

あ、ときめくやつですね、イケメンです…

「嫉妬って言葉の意味、ご存知ですか?」

『……聞いたことは、あります』

「そういうことです」

では、と車から放り出されてしまった。
ちょっと待て。
今日泊まってくれるんじゃなかったのか。

コナン君…
君って本当はすごいんだね…
忠告の意味がやっとわかりました

ちょっと今日はダメージがデカいのなんでだろう。
トボトボと工藤邸の門を開けて中に入り、今日はもうベッドに直行してパタリと倒れ込んだ。






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