強制帰国命令です。

あれから何日考えても鈍感という言葉の意味がわからなかったのですが、本当に山のようにやってきた仕事に追われる毎日でした。

充実した生活ですね!
Oui!仕事至上主義!
何もかも忘れられます、最高!

先日"降谷"さんに渡したデータも読んでいただけたようで資料をいただくことができました。
それをフランスの本部へ送って調査も進み、無事に日本の地下に潜んでいたサイバーテロ集団を引っ捕らえる事が出来ました。

降谷さんと二人三脚のお仕事ですね、素晴らしいです!
そして降谷さんは仕事中ちょっと凛々しいです、安室さんの時は優しいけどなんかちょっと違うよな
あれは仕事人の顔だ…

ようやく溜まっていた仕事も終わったのでパタンとパソコンを閉じたら電話が鳴った。

『Allô, c'est Louis Claude.』
(もしもし、ルイ=クロードです)

電話の相手は今しがたデータを送った上司だった。

『…Quoi?』
(はい?)

休暇の強制終了。
そして、即刻帰国令。

なんてこった!
どうする!?
折角米花町楽しい、やったーってなった頃にこの始末ですか!?
俺、長期休暇を申請したはずなんですけど…!
それに休暇中でも仕事バンバン送り付けてましたよね?
ちゃんとした休暇という休暇でした!?

怒ったので電話を掛けた。

[俺だ]

『フランスに強制送還される』

[仕事か?]

『らしい…
休暇だったんだよ!?
休暇中仕事してたんだよ!?
休暇中に日本の警察ともちゃんとお仕事して無事に事件解決した瞬間に休暇終了、帰国命令
なんなんですかね!?』

[愚痴だけなら切る、仕事中だ]

『仕事仕事って…折角秀一だって日本にいるんだからと思ってたのに何なのこれ?』

[口で言ってくれないとわからん]

『…帰国前にお会いしたいのですが!』

[構わんが…いつ発つんだ?]

『5時間後』

[随分と急だな]

『身支度と家の掃除とで忙しいので待ってます』

くそー、なんで急な帰国になるんだ、この野郎
俺の休暇を返してくれ…!
もっと日本でゆっくりしたいんだ!
させろ!
仕事ばかりしてたじゃないか!

コナン君にも急にフランスに戻ることになったと伝え、家は掃除しておきましたとちゃんと連絡を入れておいた。
すぐに戻ってやる。
それから阿笠邸にも顔を出した。

『哀ちゃーん!』

「何よ」

『5時間後のフライトでフランスに戻ります』

「やっとロリコンから解放されるのね」

『言うほど害してなかったよね!?』

「それで、組織の仕事は放り出すの?」

『まさか、すぐ戻ってくるよ
休暇中なのに仕事押し付けた挙句休暇の強制終了だなんて納得できないね
文句つけて日本に戻ってくる、すぐ戻ってくるからね
俺がいなくても悲しがらないでね』

「誰も悲しがらないわよ」

『それ酷くない…?』

「まあ、戻ってきたらまた何か夕飯でも誘ってあげるわ
せいぜい死なないことね」

…ツンデレですね、哀ちゃん
可愛いです

工藤邸に戻って荷物を纏めたら丁度シボレーがやってきた。

「乗れ、空港までは送ってやる」

『えっ、本当に!?』

イケメンハイヤー…!
まさかすぎる!
そういう小技ちょいちょい出してくるのやめて、惚れそう

わーい、と助手席に乗り込む。

「随分急な帰国命令だな」

『ね、絶対おかしい、絶対何かあるよね
俺にだけなんか変な任務課せられるんじゃないかな…どうしよう…』

「それはお前だから、特殊な任務でも任されるんじゃないのか?」

『秀一…』

なんて素晴らしい解釈。
イケメンが煙草を咥えながら空港まで送ってくださるなんて本当に素晴らしい帰国です。
ありがとう神様。

『まあ、文句つけてすぐ戻ってくる予定だ』

「お前が文句言える立場なのか?」

『だって休暇中なのにお仕事してたし』

「お前がワーカホリックだからじゃないのか?
どうせ仕事以外やることがないとでも思われてるんじゃないのか?」

『失礼だなー…
俺だって休みたい時は休みたいに決まってる!』

空港に着いて、秀一はなんと見送りまでしてくれた。
なんて素晴らしいイケメン。
これで12時間のフライトも耐えられそうだ。

…なんか一つ忘れてる気がする
なんか忘れてる気がするんだよね…何だろう…
まあ、いっか

無事出国手続きも済ませてビジネスクラスの席でシャルル・ド・ゴール空港まで直行だなんて快適だ。
乗り継ぎなしなんてラッキーだった。

『…帰ってきてしまった』

あー…アルファベットだらけ
日本語恋しい、ていうかなんか恋しいものがあった気がする、何だっけ…
やっぱり俺何か忘れてる気がするんだけど何だ?
まあ、とりあえずは本部に戻って文句をつけて日本に戻るのが一番だ

空港からバスに乗ってパリ中心部まで戻り、それからメトロで20区までやってきた。
モルティエ通り、141番。
"Direction Générale de la Sécurité Extérieure"

『Je suis rentré!』
(ただいまー!)

技術局のテーブルにとりあえず日本土産のお菓子を置いておく。
情報局にはなし。
当たり前だ、休暇中にあんなに仕事を放り込んできたんだ。
それから局長に抗議をしようと思っていた矢先、そちらから呼ばれた。
しかも何故か情報局。

『Excuses-moi, c'est Louis Claude.』
(失礼します、ルイ=クロードです)

「Entre」
(入りなさい)

『Ça fait longtemps, directeur. 』
(お久しぶりです、局長)

「Tu m'as donné un grand succès, en ce qui concerne cet incident.」
(この事件において、君はよくやってくれたね)

『Ah, merci de me dire ça. À propos, j'ai une proposition à vous, directeur...』
(あー…ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです。
そこで局長、一つ提案があるのですが…)

「Par conséquent…」
(そこでだ…)

おい、話聞いてくれよ

「Je te donne une grande mission spéciale.」
(私は君にある特別な任務を与える)

無視か
無視ですか、局長…!
何にこやかにしてるんですか?

『Directeur, j'ai une proposi...』
(局長、あの、提案が…)

「Louis, c'est un grand incident qui peut faire que toi.」
(ルイ、これは君にしかできない案件なんだ)

ちょっとイライラしてきた。

『Que moi...?
J'ai impression que c'est un peu exagère, n'est-ce pas?
Directeur, je répète d'avoir une proposition à vous...』
(俺だけ、ですか…?
それはちょっと大げさな気がしません?
それよりご提案があると申しているのですが…)

「Ce n'est pas du tout exagère.
D'ailleurs, tu aimes le travaille, tu pirate toujours même si tu as le temps libre.
Ah oui, t'as déjà entendu...」
(全然大げさじゃないさ
それに君は仕事が好きだろう、空き時間ですらハッキングするくらい
ああ、そうだ、君はもう…)

ダメだ、全然話を取り持ってもらえない。
なんなんだ、局長、自分の話は話すくせに部下の話は聞かないのか。
それとも俺をおちょくってんのか。
ていうかマジで仕事以外することがない人間だと思われてたのか。

「…c'était trés intéressant.
Bon, je te donne des dossiers autre fois. Vas-y.」
(それが本当に面白かったんだよ
よし、また書類は後日渡すよ、行ってよろしい)

任官状のような物はまた後日渡すと言うので、ため息を吐き出して部屋を出た。

『……』

なんでー!?
なんで、なんで話を聞かないんだよ!局長め!
何が特別任務だ!
俺は日本に戻るぞ!
戻ってやるからな!
しかも俺にしかできない任務って何!?
俺の代用なんていくらでも利くよね!?
何考えてるんですかー!

イライラしながら技術局に戻ったらデスクに置いておいたお土産のお菓子がもうすっからかんになっていた。

皆…日本のお菓子好きすぎるだろ…
何をどうしたら一瞬でお菓子がなくなるんだ、後で俺も食べようと思ってたのに…

ため息を吐き出して今日は技術局で定時までお仕事。
やっぱり何か忘れてる気がするんだけど、今日は局長へのイライラでそんなことどうでも良くなってしまった。
夜はお帰りなさいと局員とバーに行ってソワレをして翌日も出勤。
その任官状みたいなやつは一体いつ来るんだ。

『…信じられない』

今日はモンマルトルの丘まで抜け出してきたけど観光客でいっぱい。
階段に座ってレタスとサーモンのサンドイッチを食した。
カフェも忘れずにテイクアウト。
なんか物足りない。

…なんだろう、お気に入りのカフェのサンドイッチだったはずなんだけど
ていうかやっぱりなんか忘れてる気がしてモヤモヤするな…

なんか騒がしい、と思って目をやれば、観光客同士のトラブルなのかアジア系の人とアフリカ系の人が喧嘩をしていた。

あー…ポリスもまだ来ないのね、仕方ないか

『Pardon, laissez-moi passer.』
(すみません、通してください)

人垣を掻き分けてから、喧嘩をしている二人の間に入り込み、腕と足を受け止めた。
そしたらアフリカ系の人がナイフを取り出したので、靴を一振りしてから何かされる前にそれを蹴り上げた。

「Quoi...!?」
(何だ…!?)

宙を舞ったナイフは回転して俺の手に落ちてきた。
靴を見たアフリカ系の男は驚いた。
仕込みナイフ。
ポリスの気配を感じたので足を一振りして靴底にナイフをしまい、男を取り押さえる。

「Qu'est-ce qui se passe!?」
(何事だ!?)

やっと来たポリスに男とナイフを引き渡す。
それから一人のポリスにはこっそりDGSEの登録証を提示して状況を報告し、後で事件の詳細を送ってくださいと伝えておいた。
やっぱりこういうことが起こるんだから日本は平和だな、と思ってやっと何か思い出しかけた。

…平和?
平和っていったらなんかそんな会話したような…
何だっけ

とりあえず昼ごはんを再開して勤務に戻り、金曜日になってやっと任官状を受け取ったのだが。

『…Une mission à long terme?』
(…長期任務ですか?)

その内容はまあ、結論としては文句もなかったので素直に任官状を受け取ってまたデスクの上を掃除してから週末を迎えた。
久しぶりに夜シャワーを浴びて、寝る前にベッドでうだうだしていたら電話が鳴った。

『Oui, c'est Louis Claude.』
(はい、ルイ=クロードです)

[Bonjour, M.Claude. Ça va?]
(こんにちは、クロードさん、お元気ですか?)

Bonjourってもう夜ですけど…あれ?

『……』

ん?
この声は、もしや…

『あ、あ、安室さん!?あ、降谷さん!?え!?なんで!?』

[聞きましたよ、コナン君から
あと家のお隣の博士からも
それからあの男からも連絡が来ました

どういう事ですか、今どこにいらっしゃるんですか?
僕に一言も言わずにパリですか?]

どこにいるのか知ってるならわざわざ聞かないでくださいよ…!
ていうか相当お怒り…!
"あの男"ってすごく強調されたんですけど…!

『あの…ご存知ならその通りなんですけど…』

[どうしてあの男は知っていて僕は知らなかったんですかね?]

『えっと……』

ん?
何か忘れてたことって、もしかして…

『あー!わかった!わかりました!
ずっと何か忘れてた気がしたんですよね、降谷さんに連絡するのを忘れていました!』

[合同捜査までしておいてその仕打ちですか、よく僕に挨拶もなく帰国しましたね
どれだけ貴方の世話したと思ってるんですか]

うわー、完全に怒ってる、どうしよう…
申し訳ない、一週間完全に忘れてました…
あ、でも、そうだ、これがある

『それは申し訳なかったです
なので降谷さんに一番にご報告させていただきますね

実はですね、先日の日仏合同捜査のおかげで事件の早期解決に繋がったということで引き続き日本の公安との良好な関係を築いてほしいとのお達しで、日本とフランスのハーフで言葉もわかるということで俺が任命されました
要するに日本での長期任務を課されたのでお受けすることにしました
明日のフライトで日本に向かいます』

電話の向こうで息が一度止まった。

[何時のフライトですか?
航空会社と便名、空港と到着予定日と時刻の情報を要求します]

『え?えっと…』

慌てて手帳をめくって時間やら便名を伝えた。
こんなもの知ってどうするんだろうか。
とりあえずそれを伝えたら機嫌を直してくれたようなので一安心である。

あ、なんかお土産でも買っていこう
流石に今回は申し訳なかったかな

通話を終えてからもう一度荷物を確認してからスーツケースをパタンと閉じる。
スーパーでお土産を買ってから、次の日シャルル・ド・ゴール空港で搭乗し再び来日。
12時間のフライトの間にも仕事は舞い込んでくるもので、機内の無料LANを使ってお仕事。
空き時間でも仕事ばかりとは言ってくれたものだ。
確かに俺はワーカホリックだ、認めてやろう。
3時間くらいしか寝られなかった。

眠い…
流石にもう少し寝ておくべきだったかな…

欠伸を落として一週間ぶりの日本に足を踏み入れる。
スーツケースも取って手続きを済ませ到着ゲートを通り抜けて、一度足を止めた。

「ようこそ僕の日本へ」

『C'est un rêve…?』
(これは夢ですか?)

夢かと思った。
到着ゲートで立っていたのは安室さんだった。

『安室、さん…』

「おかえりなさい、蛍さん」

これなんていうお迎えサービスですか…!
泣きそう…ていうか泣いてもいいですか…!

スーツケースから手を離して思わず駆け寄り、反射的に抱きついた。

うわ、本物の安室さんの匂いだー
本物だー
この胸筋腹筋本当にごちそうさまです

「…あの、公共の場です」

『…そうでした』

パッと離れて荷物を持とうとしたらさりげなくスーツケースを奪われた。
はい、さりげないイケメンポイント入りました。

『あの、お土産買ってきたんです』

「お菓子ですか?」

『なんでそうなるんですか』

「なんとなく…
蛍さん、お菓子お好きでしょう?」

『まあ、好きですけど…これを』

駐車場に連れられて久しぶりの白いRX-7とご対面。
紙袋を渡す。
中身を覗いた安室さんは少し意外そうな顔をした。

「マイユのマスタードにバルサミコ酢…
貴方、また僕にサンドイッチ作らせようとしてますね?」

『え?』

「無意識でしたか…まあ、構いませんけど
マイユのマスタードが手に入るとは思いませんでした、これは嬉しいですね」

う、嬉しい…!
イケメンから嬉しい頂きました…!
俺も嬉しいです!

助手席に乗り込んでシートベルトを締めたら、初めて車に乗った時のことを少し思いだした。

「12時間のフライトは疲れたでしょう、何かされてたんです?」

『仕事を片付けてました』

「フライト時間まで仕事ですか
貴方、いつか過労で倒れますよ?」

『それは大丈夫です』

何か土産話でも、と思って考えているうちに寝てしまった。
やはり3時間睡眠は足りなかったらしい。
工藤邸に到着した後、何度起こされても起きなかったらしい。





.

[ 18/64 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -