出会ってはいけない二人に巻き込まれる。

『……』

何故だ。
工藤邸でデパートの美味しいお弁当を食べていたら電話が鳴って、突然警察庁出禁という宣告をされた。
思わず箸が止まったし、これは何がどういうことなんだ。

や、やっぱりアポなしだったのがマズかったのか?
いや、でも仕事の話は直接って言われたから仕事が原因じゃなさそうだな…
部下がなんとかって言ってたけど正直よくわかんないし結局俺、ご迷惑をおかけしたってことなの?
出禁?
降谷モードの彼には会えないわけですか?

『C'est pas vrai...』
(嘘だ…)

なんてこった…
どうしたらいいんだ…
哀ちゃん、これって何かな、日本語でなんて言うの?
あ、待てよ、コナン君ならきっと…そうだよ!
上に住んでるんだからポアロに出入りしたってバレないし安室さんにそれとなく理由くらい聞けるだろ
それに俺が警察庁に行ったことも知ってる、そうだよ、彼だ!彼に連絡しよう!

早速コナン君に電話をしてみたが、呆れられただけだった。
生意気小学生だな、本当に。
もう一回APTX-4869でも投与して赤ん坊にしてやろうか。

いや、もう寝よう
寝たら全てが解決される…

そう思って実に穏やかな気持ちでお弁当を食し、仕事を片付け、寝ることにした。

『……』

おはようございます。
世界から音が消えました。

ストレスかよ!
ちょっと待ってくれ、警察庁出禁になっただけでこんなにストレスだったの!?
いや、寧ろこれは安室さんに会えないのがストレスってこと!?

しかも昨日テーブルに置いておいた筈の補聴器が見つかりません。

まさか、紛失…!?
あれ地味に高いんだぞ!
なんて日だ…今日は何もできない…
早くストレスフリーになって左耳を回復させなければならない…

『……』

どうしよう…
果てしなくピンチです…

部屋の中をウロウロしていたら携帯の画面が光ったので通話ボタンをスライドする。
それからコツコツと携帯を叩く。
そしたらタブレット端末に電話が掛かってきたのですぐにカメラを起動させた。

["…やさぐれたな"]

開口一番それですか。

『"最悪の一日だ、もう嫌だ、何もできない
補聴器もどっかやった、とりあえずショックというかストレスで起きたら左耳がやられた
ねえ、秀一、警察庁出禁になったんだけど!"』

["今それはどうでもいいんだが、そろそろ上着を取りに行こうと思って連絡したんだ"]

どうでもいい…!
どうでもいいって言いやがったぞ、このイケメン…
俺に洗濯させて保管までさせてたんだから愚痴の一つくらい聞いてくれたっていいじゃないか!

["それで、俺とは会ってくれるのか?"]

…そんな聞かれ方したら会うに決まってるじゃないですか
イケメンに癒されるのが一番です

『"…会うに、決まってんじゃん"』

["それは良かった
今から行くから…そうだな、15分後に着く
どうせ呼び鈴も意味ないだろう"]

小さく頷く。
ちゃんと時間通りに動く人だ、わかってる。
なので時計を確認してから通話を切った。

秀一と話せたのは良かった
やっぱりイケメンとのテレビ電話には救われました
とはいえ秀一も忙しい人だから長居はしないだろう
今日はどうしたらいいんだ…

とりあえず補聴器だけでも、と部屋を色々調べてみたがない。
ない。

ない…!
何故だ…!
寝る前何処に置いたんだよ、昨日の俺!

気付けば15分経ちそうだったので、紙袋にジャケットを入れて慌てて玄関に向かい門の前で待っていた。
すると丁度シボレーがやって来た。
時間通りである。
流石イケメン。

『"ジャスト15分"』

ちょっと嬉しかったので、そう手を動かしたら車内にいた秀一はふっと笑った。
車から降りて来た秀一に小さく手を上げて門を開けようとしたら、すぐに出るからいいと言われてしまった。
門越しに紙袋を渡す。

『"感謝しなよ、ちゃんと保護してたんだから"』

「"感謝はしてるさ"」

紙袋からジャケットを取り出した秀一はそのまま羽織ったので紙袋を返された。

「"お前の匂いがする"」

『"わ、悪かったな"』

「"いや、気に入ってる"」

な、な、何なんですか…!
そんじょそこらの女だったら気絶してるよ?

『"今日も忙しいの?
お昼ご飯でも食べてく?"』

秀一は少し考えてから煙草を取り出した。
マッチを擦って火をつける。

あー、ずるいです、格好いい
大人の貫禄ですね

「"そうだな、お前の事も少し心配だから昼飯とまではいかないが少しくらい部屋に……"」

『"秀一!?"』

視界から秀一が突然消えた。

えっ、何事!?

呆然としていたら門の所に車のヘッド部分が見えて、だんだん状況がわかってきた。
秀一が、車に跳ねられた。
だけどこの車には見覚えがある。

…これは、RX-7ですよね…しかも白の

「朝から電話をしても出られないので来てしまいました
蛍さん、こんにちは」

ちょっと待って、事故起きてますよ!
おまわりさーん!
あの、警察の方…!
って安室さん、警察の人だー!

ムクリと体を起こした秀一は溜め息を吐き出して立ち上がった。

貴方は、無事なんですか…?

「やれやれ…とんだ邪魔が入ったな」

「赤井…」

「"とりあえずお前の体が心配だから少し邪魔することに…"」

「赤井」

「"それとも俺は今日お前を拉致しようか?"」

「お前は不死身か」

「"蛍、お前に聞いてるんだが…"」

「おい、無視するな」

ちょっと待ってくれ…
何故、こうなった…

気付けばリビングにいて、向かいのソファーには秀一が座っていて悠々と煙草を吸っている。
反対側の端には安室さんが座っていて、殺気を飛ばしている。
目に見えるようだ。

『"……"』

「"まあ、お前の愚痴でも聞いてやろう"」

あの、秀一、この状況理解してますか?
俺のデータベース上最も最悪な状況になってるんですけど…

「"蛍さん、お昼はもう食べました?"」

あの、安室さん、貴方昨日俺を警察庁出禁にしたんじゃなかったんですか?
工藤邸には出禁制度はないんですかね?
あ、それは俺が作るのか

秀一からは手話、安室さんからは俺が置いたタブレット端末で各々話しかけられたので、もうどう答えていいのかわからなくなった。

泣きたい…

とりあえず秀一には早口というか、早めに手を動かして事の次第を説明した。

「…昨日警察庁に行って、確かにアポを取らなかった自分も悪いけど仕事をして俺の隣に座っている男に会いに行って喜んで帰って来て東京のデパ地下巡りをしてワインを飲んでいたら突然警察庁出禁になった、意味がわからない、何か悪い事したんだろうか、彼を怒らせたのかもしれない、もう会うなってことなのかな、朝起きたら左耳もやられたからそんなにショックだったのかなと思って自分でも驚いたんだけど、これ何なの?

だそうだ、降谷君
今は安室透君か、本人は全く納得してないみたいだが?」

「誰もお前に翻訳を頼んでいないんだが」

「まあ、健気じゃないか」

「話を聞け」

かなり険悪ムードだ。
なんだ、これは。
でもなんで安室さんはわざわざ会いに来たんだろうか。
昨日警察庁出禁てことは会うなってことじゃなかったのか。

「"蛍、そろそろ仕事に戻る"]

『"え?帰るの?"』

ほんとに聞いただけ?
アドバイスか何か助言とかそんなものは無しに本当に愚痴をただ聞くだけ聞いただけ?

秀一は立ち上がった。

『"秀一、あの…"』

「"向こうから来たんだ、心配することはないだろう
お前の考えすぎたと思うが…"」

『"いや、さっきの交通事故はいいの…?"』

「"構わん、ただの子供の遊びだ"」

どんな解釈ですか、貴方大人すぎるでしょ
ていうか咄嗟に受け身を取ったにしろ無傷で安心したけど心配したんですけど…

『"…心配、かけさせるな、馬鹿"』

「"すまん"」

頭を撫でられたのでもういい、許そう。
イケメンに頭撫でられるのはお幾らですかね、これ。
都内のカフェならお金取られそうな豪華さなんですけど。

「逃げるのか」

「逃げる気はないが…黙ってても追ってくるんだろう
彼の翻訳はさっき車で殺さずにおいてくれたお礼としておこう」

「何が礼だ、お前は…」

『"はい、ストップ"』

二人の間に入って距離を離す。

「"また連絡するからな"」

秀一には小さく頷いた。
部屋に取り残された俺と安室さん。
さっきの秀一の長いセリフからして、多分俺の愚痴を全部翻訳してしまった筈だ。
長めの溜め息を吐き出してソファーに座り込んだ。

「"あの、いつ会うなって言ったんです?"」

タブレット端末に打ち込まれた文章を見て首を傾げる。
ますますわからなくなってきたぞ。

「"僕は警察庁に来ないでくださいと言っただけで、個人的にお会いする事に関しては何も言っておりませんが…"」

『"…警察庁出禁とは"』

「"昨日お伝えした通りです
一々貴方に気のある部下を通していただくよりも、僕に直接仕事の話をしていただければ僕が部下を動かします
貴方が悪いのではなく、下心を持った部下のせいですね
貴方が気にすることは何もありません
何をどう誤解したのはわかりませんが…"」

誤解…?部下…?
下心ってなんですかね…
ん?下心?

『"…もしかして、俺、警察庁でナンパされました?"』

「"はい、その解釈で大体合っています"」

嘘だろー!?
たった一回行っただけだよ!?
昨日が二回目だったよね!?
ナンパって何!?
最早ナンパの定義がわからないんですけど!

『"じゃあ、安室さんにお会いできないというのは…"』

「"蛍さんの勝手な誤解ですね"」

いや、笑顔で言わないでください。
タブレット端末にどんどん会話の履歴が綴られていく。

「"昨日の電話、途中で切れてしまったのでもしや誤解されてるのではと思って今日掛け直したんですが出ないので来ました
その…ショックで今聞こえていない状態にあるということはちょっと期待してもいいんですかね…?"」

期待?何のだ

「"そんなに僕に会えないのがショックでした?"」

突然何を言いだすんだ、と安室さんを見たらニッコリ笑っていたのでソファーの隅っこに逃げた。

キザだ…キザすぎる…
だけどイケメンだから許す

「"ところで蛍さん、補聴器は?"」

『"…行方不明です"』

「"でしたら探してみましょうか"」

ハイ?

安室さんが取り出したのは普通の携帯。

「"ハウリングさせれば何処にあるかわかると思います"」

『"…それもそうですが、今日はいいですよ
俺、補聴器なんて車のクラクションとか携帯の音とか物音が聞こえるようにしてるだけで、つけたからといって人の声とかちゃんとクリアに聞こえるほど右耳は良くないので…
とりあえずお昼ご飯作りますね、いつもお世話になってるので今日くらいは俺が作りますから"』

逃げた。
キッチンに逃亡し、溜め息を吐き出して心底安心した。

安室さん、俺に会わないってことじゃなかったのか…
昨日が昨日だったから本当に機嫌損ねて嫌いになられたのかと思った
ていうか秀一と顔を合わせてしまったからどうしようかと思ったけど秀一が大人の対応過ぎてホント、助かりました…
ていうか何なの、あの余裕…

買ってきたそば粉を取り出してボウルに開けて調理しながらまた小さく溜め息を吐き出す。

どっちかって言うと安室さんの方がやっぱり執念抱いてるのかな、俺の見解だと
難しい関係性だな…

フライパンに生地を垂らして焼き、ハムとチーズ、それから卵を落とし、円形の生地を四角に折って少し焦げ目を付けてパリッとさせたら完成だ。
皿に乗せてダイニングに置く。
もう一つ同じものを作ってからリビングに行ったら安室さんはいなかった。

何処だ

まさかと思って部屋に行ったら、ベッドの近くで安室さんが何かしていた。
慌ててタブレット端末を取り出す。

「"ベッドの下の方で音がしました
恐らくこの下にありそうですね、ちょっと目視できませんが"」

調べてくださってたんですか…
別にいいって言ったのに

「"いい匂いですね"」

『"…お腹、空いてますか?"』

安室さんは営業スマイルでもない自然な降谷さんの顔で笑って頷いた。

…今のは、反則じゃないですかね

ダイニングに行ったら安室さんは珍しそうな顔をした。
いつも作ってもらってばかりだったし、俺の料理が安室さんの口に合うかがとても心配である。

『"ガレット・コンプレットです"』

「"ブルターニュ地方の伝統料理ですね
パリでも食べられるんです?"」

『"ええ、まあ、たまには…それに日本人はガレットがお好きと聞いたものですから…"』

「"女子受けがいいんですよ"」

え。
そんな情報聞いてないぞ。
日本にはガレット専門店が出来て行列が出来ているというニュースを流した情報屋は誰だ。

「"温かいうちにいただきますね"」

なんだか不思議な気分だ。
いつもは安室さんが作ったものを俺が食べてるだけだし、安室さんはそれを見てるだけ。
とりあえずお口に合ったようなので良かったのだが、食後に安室さんは少し不機嫌そうなオーラを出した。

「"そういえば蛍さん、以前他人と同じベッドで寝たと仰いましたよね?"」

文面から滲み出てくるこの殺気はなんだろう。

『"…ええ、友人とですが"』

「"友人となら一緒に寝るんですか?"」

『"…生憎酔っ払ってあまり覚えていないのですが、友人なら、まあ、はい、寝ますけど"』

「"今夜また伺いますね"」

『"はい?どうしてまた…"』

「"貴方と寝るためですよ
あの男に先を越されたようで腹立たしいので泊まりにきます
午後はポアロのシフトが入ってるので終わったらまた来ます"」

…なんて執念だ
ただの酔っ払いの介抱をした友人だぞ
安室さんてたまに何か俺の想像の斜め上を行くようなこと考えてる時あるよね、気のせいかな…

皿を洗おうと思ったが一旦停止。

今、安室さん何て書いた?

慌ててタブレット端末を覗き込んで会話の履歴を読み直す。

"あの男に先を越されたようで腹立たしいので泊まりにきます"

『……』

"あの男"

あれ、気のせいかな
これって結局秀一のことバレてるような気がするんだけど
安室さんがこんな言い方する人っていったら、一人しかいないよねえ…?

チラッと様子を伺ったらまたリビングの消臭してるし。
しかもさっき秀一が座ってた所を重点的に消臭しまくってるし。

これは…今夜、俺、死ぬんじゃないんですか?
神様、何の拷問ですかね…

皿洗いをしてリビングに戻ったら何の匂いもしなかった。
流石すぎる。

「"ではちょっとポアロに行ってきます
夕食の心配はしないでください、何か作ります
お昼のお礼だと思ってください"」

門の所まで見送ってから、白いRX-7が遠ざかっていくのを見て口から魂が抜けていきそうだった。

…なんか修羅場に巻き込まれた
俺、やっぱり巻き込まれ体質なの?
ねえ、今夜、どうしたらいいの?
イケメンが泊まりに来るって一体どんな宿泊サービスですか、幾らするんです?







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