本物が一番

今日は日曜日。
日本はフランスとは違って日曜日でも店が開いてるのですごいと思う。

なんていい天気なんだ…
先日の疲れも一気に取れるよ…
とんだ貧乏くじを引いた

先日因縁関係であるバーボンとライの遭遇を阻止しようと、二日酔いだったにも関わらず奮闘したのだ。
結果、元凶であるライのジャケットはまだ俺のクローゼットに入っている。
しかもちゃんと俺が洗濯をしてやったんだ。
偉すぎる。

『今日はいいんだ、もうそんなこと忘れてのんびりしよう』

パン屋でバゲットを2本買って近くの公園まで散歩をして、ベンチで優雅に朝ごはん。
なんていい朝なんだ。

「お隣、いいですか?」

聞き慣れた声に顔を上げてから答えた。

『嫌です』

「僕じゃ嫌な理由でもあるんです?」

『大有りです
大体他にもベンチがあるじゃないですか、どっか行ってください
貴方から近付いてくるなんて、どういう了見ですか?』

強引に隣に座ってきた人物からちょっと離れる。

「最近バーボンが貴方に妙に肩入れしてるみたいだから気になったのよ」

『バーボンの姿でその口調やめてください、なんか気持ち悪い…』

イケメンが台無しだからやめて…

「貴方が文句を言ったからって突然車に消臭スプレー置かれたんだけど、どういうことかしら?」

『匂いがすごいって言っただけです
あの、どっか行ってください、朝ごはんゆっくり食べたいんで』

「ねえ、アンジュ
ジンに送った私の情報、後でジンに確かめたら内容が違ってたんだけどどういうことかしらね」

『知りませんよ、一体何の情報ですか
もうご飯食べたいからどっか行ってください
ご飯中の猫に手を出したら噛まれますよ?
こうなったら…』

電話を取り出してジンに電話を掛けた。

『助けてください
ベルモットがご飯を食べさせてくれません
それから先日の報告の件で何か不手際があるとのことです
そんな事はないと思うんですけどねえ…

じゃもう一回洗ってみるんで…

とりあえずベルモットどうにかしてください
ご飯が食べたいです』

電話は切れた。
そしたら今度はベルモットの電話が鳴った。

流石です、ジン様…
早急な対応ありがとうございます
時々貴方の髪を三つ編みにしたい衝動に駆られます、今度させてください…

「ずるいのね、飼い主に助けを請うなんて
見苦しいわ」

『所詮飼い猫ですから』

「いつ捨てられるのか見物だわ」

『貴方こそ、用心した方がいいと思いますよ』

隣から気配が消えたので安心して朝ごはんを再開。
とんだ邪魔が入った。
しかも安室さんの姿とはやってくれたな、ベルモットめ。
許さん。
イケメンを何だと思ってるんだ。

「お隣、いいですか?」

デジャヴか。

『嫌です』

「僕じゃ嫌な理由でもあるんです?」

『大有りだとさっき言ったばかりでしょう
大体他にもベンチがあるんだからとさっき説明したばかりじゃないですか
またジンに電話しますよ?』

「…あの、さっきってどういう事ですか?」

…ん?

顔を上げた。

『…本物ですか?』

「…ベルモットですか?」

『いや、それ俺の質問なんですけど』

「とりあえず隣座っていいですか?」

『……』

そっと安室さんらしき人物に近寄って匂いを確認する。
香水とかしてないのかな、首筋とかエロいですね、いい匂い。
うん、いつも通りの安室さんだ。
しかしまあよく出来たイケメンだ。

「あのー…」

『お隣どうぞ』

「ベルモットと何を?」

『何もしてません』

「会話くらいされたでしょう」

『いえ、してません
俺の朝ごはんの邪魔をするのでジンに連絡したら帰っていきました
流石ジン様様ですね』

「あの、彼女の愚痴を後で僕が聞く羽目になるってわかってるんです?」

『どうせジンが飼い猫に加担しすぎとかそんなところだと思います
聞き流すのが一番です』

「そうですか…」

『あと消臭スプレーのこと気にしてました
これは俺の勝ちですね』

バゲットを一本食べ終えてから実に清々しい気持ちになった。
今日は何をしようか。

『で、どうしてまた公園に?』

「たまたまですけど…?」

『ストーカーですか』

「はい」

『えっ』

「パン屋から出て行く貴方を追いかけるベルモットを見かけたので追いかけてきました」

なんだこのややこしい状況は。
わかってたならベルモットを事前に引き止めておいて欲しかった。

『知ってたなら…』

「まさか貴方の所に彼女から出向くとは思わなかったので珍しいと思って…」

『好奇心ですか』

「はい」

『実に不愉快だったのでやめさせるように言ってください
大体安室さんの外見でベルモットの口調だなんて考えてみてください
気色悪くないですか?
気持ち悪くないんですか?』

「…そこまで言います?」

『自分に扮した人が俺を追いかけてくるから追いかけたなんてどんなヘンテコな図ですか』

「それもそうですね」

『今日はお仕事ですか?』

「はい、残念ながら」

『残念も何も、ちゃんとお仕事してくださいよ』

「残念ですよ、折角貴方と会う時間があるのに仕事だなんて」

…ねえ、哀ちゃん、これってナンパかな?
これを世間ではナンパって言うのかな?

『えっと…ですね…』

「それともまた社会科見学されます?」

『それは遠慮しておきます』

「残念です」

暫くして電話が鳴ったのだが、安室さんのだった。
しかも降谷名義。

「すみません、仕事が入りましたので失礼します」

『お仕事頑張ってください』

「夕食のお相手でしたらいつでもお受けしますので」

では、と去っていった安室さんの後ろ姿を見てからもう一本のバゲットに手を伸ばす。

「お隣、いいですか?」

ちょっと待て、これ何回目だ。

『嫌です、いい加減にしてください』

「僕じゃダメな理由でもあるんです?」

『大有りだとさっきから申し上げてあるのですが!』

この野郎、ベルモットめ…

「貴方を追いかけたら私を追いかけるバーボンに気付いたからまた戻ってきたのよ」

なんてややこしいことを!
もうやめてくれ!

『だからその外見で喋るのやめてください』

「バーボンと何の話を?」

『何もしてませんよ』

「会話くらいしたでしょう?」

『バーボンに扮したベルモットがあまりに不愉快だったのでやめさせるよう言っておいてくださいと頼んだだけです』

「またジンに報告を?」

『はい、今メールでしました』

ベルモットは音を鳴らした電話に出て不快感を滲ませた。
だから安室さんの顔でやるのはやめてくれ。
イケメンのことナメてんのか。
暫くしてやっと一人になれたし公園には親子連れが増えてきた。
ふう、と一息ついてバゲットに手を伸ばす。

「お隣、いいですか?」

『…嫌です』

いい加減にしろ、全く、何回同じ手を使うんだ…

『だからさっきから…!』

「すみません、貴方を追いかけるベルモットを追いかけた後、僕と話しているのを待ち伏せしていたベルモットに気付いたので…」

だから一々ややこしいんだ、この二人は!
なんなんだ、一体…!

『仕事はどうしたんですか!』

「これから行きますよ」

「バーボン、ちょっといいかしら」

「やっぱり自分に変装されるのはあまりいい気分ではありませんね…」

なんだこれ…
イケメンが二人いるんだけど
ドッペルゲンガーかよ

安室さんは俺の左隣に座った。

『お仕事いいんですか?』

「少しくらい大丈夫です」

右側にベルモットが座った。

『あの、用事は何なんですか』

「貴方の監視よ」

「ジンの飼い猫ですよ?」

「それが何かしら」

「そんなに気になるなら貴方が猫を飼えばいいじゃないですか」

「嫌よ」

ちょっと待ってくれ…
なんでイケメンにサンドイッチされてるんだ…
確かに俺はいつも安室さんのサンドイッチをいただいてるけど、今日は安室さん本体のサンドイッチですか?
あ、俺、具なの?ねえ、俺、何?

これ普通に変な光景だぞ。
ほら、あそこのいたいけな少女もこっち指差して変な顔してお父さんに報告してる。
恥ずかしい。
何なんだ、これ。

ていうか俺の頭上で会話しないで?
俺の頭上で静かな口喧嘩やめてくれない?
同じ顔して喧嘩しないで、なんかすごい複雑…

『…帰りますね』

「ゆっくりしていったらどうです?
折角の日曜日ですよ?」

『誰が邪魔にしに来てると思ってるんですか』

「あ、ジンから指令だわ、行かなきゃ」

「じゃあ僕も仕事に行きましょうか」

『……』

また言い争いをしながら帰っていった二人の背中を見て長い溜め息を吐き出した。
何だったんだ、今のは。
なんて無意味な会話だったんだ。
もう嫌だ、癒されたい、イケメンか可愛い子。

「蛍さん、お隣いいですか?」

え。

『何回目だと思ってるんですか!仕事はどうしたんですか!?』

流石にイラッとして横を向いたら、コナン君だった。

「雪白さん…ご乱心?」

『…えっと、何事?』

「こっちのセリフだっての」

『だって今、安室さんの声…』

「変声器」

『博士の発明品てわけか、なるほどね…』

朝から疲れました。
やけ食いとばかりにバゲットを食べてイライラをぶちまけてやったら苦笑された。

「ベルモットが安室さんにねえ…」

『おかしくない?
絶対おかしいよね?
なんで二人とも普通の顔して俺の隣座ってんの?
いや、正直安室さんにサンドイッチされたのはいいよ、それはよしとしよう
百歩譲ってよしとするけど、流石に変装してるなら声も口調も揃えろよな
組織の人間相手だからって手抜きやがって…
ベルモットはイケメンをナメてる…!』

「お前、本当に安室さんに弱いな」

『そんなことはない!
ていうかコナン君だってなんでこんなまどろっこしい事をするんだ!
日曜なんだから友達と遊んでりゃいいだろ!』

「これから遊ぶけど…
雪白さん、一人だったからちょっとからかってやろうと思って」

『生意気小学生め…お前の情報も全部ジンにリークしてやろうか…』

「最初からする気ないくせに、大人げねーな」

『うるさいな
ていうか安室さん、仕事だっていうから名残惜しく見送ってやろうと思ってたのになんでベルモットと一緒だったんだ、この野郎…
やっぱり本物がいい、本物に会いたい…
あ、社会科見学来てもいいって言われたな…』

「…まさかまた警察庁行くのか?」

『…それも悪くないな』

「え、本気?」

『アポなしだけどなんとかなるだろ
ちょっと家帰って着替えて警察庁行ってくる!
あ、先回りして連絡とかすんなよ?』

「しねーよ、そんな面倒なこと」

じゃ、とコナン君に別れを告げて工藤邸までダッシュ。
門を乗り越えて部屋まで一直線。
スーツに着替えてアタッシュケースの中身を確認。
タクシーを捕まえて警察庁まで急いでもらった。

土日でも当直の人がいるみたいだし、遠慮なくお邪魔しますね

緊急で警備局警備企画課の方にお会いしたいと英語で説明し、DGSEの登録証も提示してなんとか入れてもらえた。
ちょろいぜ。
そしたらこの前俺に箸の持ち方を無理やり教えてきた部下さん達を見かけたら、向こうから話しかけてくれた。
なんということだ。

「Hello Mr.Claude. How are you? 」
(クロードさんじゃないですか、お元気でした?)

『I'm fine thank you. I'm sorry to come suddenly without appointment...』
(ええ、おかげさまで。
突然アポも取らずに来てしまってすみません…)

仕事でちょっと日本の方に協力してもらいたくて…と言ってみた。
まあ、言ってみるものだ。
極秘なんです、と諜報部員ぽく言ってみたら部屋でお話しましょうということに。

「降谷さん、先日いらしたDGSEの方からお仕事のことでご相談があるそうで…」

「報告は何も来ていないが…」

「アポを取らずにすみませんと、緊急事態なようでして…」

「…わかった、とりあえず話だけ聞こう」

ドアが開いたので営業スマイル。

『Bonjour, monsieur.』
(こんにちは)

「…Please enter the room and close the door.」
(部屋に入ったらドアを閉めてください)

お邪魔します、と部屋に入ってちゃんとドアを閉めた。

「…何しに来たんですか」

『社会科見学です!』

「…貴方、馬鹿ですか」

『社会科見学してもいいって言ったのは誰ですか』

「ご用件は」

『安室さんに…』

「降谷です」

『降谷さんのお仕事見学です
あ、勿論お邪魔はしませんのでお構いなく
俺も仕事道具持って来てるので』

「…アポなしで社会科見学とはいい度胸ですね」

『…社会科見学してもいいと言ったのは誰ですか?』

「わかりました、もうその話はやめましょう」

アタッシュケースからパソコンを取り出してタブレット端末を立ち上げる。

「まだ何も許可してませんが」

『お構いなくと言ったはずです
降谷さんのお仕事姿、拝見したかったもので』

「蛍さん」

『安室さんじゃなくて、本物の降谷さんにお会いしたかっただけなんですけど?』

諦めたらしい。
やっぱり本物が一番だ。

「…今度からはちゃんとアポを取ってください」

『はい、その件については申し訳ありませんでした
それでですね、今日本国内に潜んでいると思われる過激派組織に動きがありました
フランスで今ちょっとしたサイバーテロが起きていまして、その容疑者についてもちょっとお聞きしようかと…』

「本当に仕事の話なら先に言ってください」

『あ、すみません
降谷さんに会えたので仕事がどうでもよくなってしまって…』

「貴方、それでも諜報機関の人間ですか…」

『詳細のデータお渡ししておくので目を通していただけるとありがたいです』

データをパソコンからコピーしてUSBをスッと机に置く。

『あまり長居しても貴方の部下に怪しまれるでしょうからお暇しますね』

「貴方本当に何しに来たんですか」

『降谷さんに会いに来ました!』

「朝会いませんでしたっけ?」

『会いましたよ、それが何か?』

「仕事だと言いませんでしたか?」

『仰ってましたが、それが何か?』

「貴方って人は本当に…」

仕事道具を片付けてアタッシュケースをパタンと閉じる。

『…朝は、全然嬉しくありませんでした
寧ろ幸せな日曜日を阻害された気分です
何故かわかりますか?』

スーツを整えてからアタッシュケースを持ち上げた。

『いつもの貴方じゃなかったからです
やっぱり本物が一番ですから』

お邪魔しました、と部屋を出て警察庁を後にする。
折角こんな所まで来たんだから都内の観光でもして帰ろうか。
そしたら今日はデパートの美味しいお弁当でも買ってお酒でも飲んで寝よう。
デパ地下グルメでもいい、最高だ。





警察庁。

「いやー、まさかまたクロードさんにお会いできるとは思わなかった」

「フランス人てやっぱ違うんですかねー
あの顔立ち、人形みたいですよね」

「この前蕎麦を食べた時の笑顔がとても可愛くて…
可愛いっていうか美人だな、ありゃ」

「次お会いする時までにフランス語でも覚えて直接お話してみたいですねー」

パタリとドアが閉まる。

「…もしもし、蛍さん、降谷です

やっぱり今度から仕事の話は僕に直接お願いします
警察庁出禁にしておきますね

え?理由ですか?
そうですね、部下が使い物にならなくなるので
どうやら貴方と不純な理由で会おうとしている輩がいるようで仕事にもなりませんし、日本にいる以上貴方をお守りすると以前約束した筈ですから
ではそういうことでお願いしますね」






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