FBIとのソワレでお騒がせ

『んー…ちょっと、待って…』

ベッドで寝ていたら呼び鈴に起こされ、寝ぼけながらやっと起き上がりズボンだけはとりあえず履いておく。
一度の呼び鈴ならまだしも、何度も呼ばれては敵わない。
どうせコナン君だろうと思って玄関に向かい、ドアを開けて文句を垂れた。

『朝から何事?
ちょっとシャワーまだだし…』

「まだ寝惚けてるのか」

『…はい?』

「もう10時半過ぎてるぞ、いくらなんでも朝寝坊じゃないのか?」

目を疑った。
門の外に停まっていた車はシボレーC-1500 EXキャブ。
立っていたのはニット帽の男。

『秀一…!』

わあっと走って門を飛び越えて抱きついた。

いやー、イケメン最高!
相変わらずの体格だしこの包容力たまらん!
たまりません、これがアメリカ帰りの匂いですね!

「…とりあえず服を着ないか、お前は」

『あ…』

上裸だったことを思い出して慌てて秀一から離れる。
恥ずかしい。
こんな格好で何をやってるんだと門を開けて中に入れてあげた。

『ごめん、シャワー浴びてくるから適当にしてて』

とりあえず放置。
大急ぎでシャワーを浴びてからTシャツとズボンを着て部屋に戻ったら、秀一はリビングで悠々と煙草を吸っていた。

『……』

「何だ」

『あのー…お土産は?』

「ない」

『えっ』

「仕事だと言った筈だ」

『折角の来日でお土産なし?
あのやけに甘ったるいショコラは?
ギラデリのショコラでも良かったのに…
ピーナッツバターは?
なんならダウニーの柔軟剤だって…』

「お前は何を期待してたんだ」

『いや、あの、久しぶりなんだから手土産とかあったらなとか…思っただけです…
なんかすいませんでした』

「ほう…俺の帰国より食べ物の方が良かったというわけか」

『え、それは違います!誤解!違う!』

ふっと笑う秀一が大人の余裕を見せつけてくるのでそれが一々辛い。
イケメンてずるい。

『朝ごはん食べるけど、いる?』

「いい、もう済ませた
大体お前は何時だと思ってるんだ、もう朝食どころか早めの昼食だ」

『…そうとも言いますね』

キッチンでパン・オ・ショコラを齧りながらカフェを淹れ、ストックしてあるバゲットの袋を見る。

「蛍」

バゲットのサンドイッチでも作ってピクニックでもしようかね、楽しそうだ…

「蛍」

あ、でも折角だからマダム・ジョディとかムッシュ・キャラメルも呼んで皆で再会のパーティーでも…

「蛍」

『うおお、びっくりした』

気付いたら秀一がすぐ左に立っていた。
そしたら補聴器を渡された。

「聞こえてなかったんだろう、忘れないうちにつけておけ」

『あ…ハイ』

秀一が帰ってきたことで完全に忘れてました。
補聴器をつけてからコーヒーを飲もうとしたらマグカップを取られた。
それを飲んだ秀一は濃い、と一言漏らした。

『なあ、仕事で来たんだろ?』

「さっきから何度もそう言ってるだろう」

『じゃあマダム・ジョディとムッシュ・キャラメルは?』

「…お前の頭の中はお菓子だらけか」

『あれ、なんか違ったっけ?』

「ジョディもキャメルも近くにはいる
ジョディは蛍に会うのを楽しみにしていたみたいだが…」

『じゃあ皆でお昼ご飯でも…』

「お前は相変わらず呑気だな」

『観光客装えばいいじゃん、簡単な話だよ』

「此処へは仕事前に立ち寄っただけなんだ
今夜空けといてくれ」

『…酔っ払っていいの?』

「いや、飲み過ぎはやめてくれ
お前の介抱は面倒臭い」

『え、ひどい!それあからさまに言う!?』

「事実だ」

なんてこった…

俺はそんなに酒癖が悪いわけじゃなかった筈だ。
多少記憶を飛ばした事はあるが、秀一が嫌がるくらいだ。
これは何かあったんだろう。

「お前が酔っ払うと一晩俺の身が持たん」

『と言いますと?』

「いや…この話はよそう」

『え、なんでよ、今自分から話始めたよね?
今自分から話振ったよね?』

「世の中知らなくていい事は山ほどある」

『いや、格好つけて言うなよ』

「夜、ジョディやキャメルにも会える」

『あの、勝手に話すり替えないで』

「おっと、時間だ、また夜に会おう
また来る」

『ちょ、ちょっと…』

あのー…全部中途半端なままなんですけど…

秀一はそのまま帰っていった。
なんて勝手なんだろう。

『…何、結局俺、何したの?』

全部わからずじまいである。
だが、その答がわかるのは夜のことだった。
今日は夕方からツマミを作ったり、酒屋さんで一通りお酒を買ってきた。
準備は万端。
21時までは仕事をしていた。
時間になって、呼び鈴が鳴ったのでパソコンを閉じてインターホンをチェックし、ドアを開けた。

『お待ちしてましたー』

門を開けたら秀一とマダム・ジョディにムッシュ・キャラメル。
マダム・ジョディなんて久しぶりだからって抱き着いてきた。

ちょっと、俺、窒息する…

『マダム・ジョディ…あの、殺す気ですか…』

「いいじゃない、久しぶりなんだから
相変わらず可愛いわね」

『ムッシュ・キャラメルもお久しぶりです』

「あの、キャメルです…」

『相変わらずお元気そうで安心しました
ムッシュ・キャラメルの車にはもう乗りたくはないですけどね』

「えっと、キャメルです」

「諦めろ、キャメル
一度刷り込まれた名前をアイツはなかなか覚え直さん」

とりあえず家にあげてダイニングに通したら、秀一も酒を持ってきていたようだった。

『あれ、持ってきたの…買っといたのに』

「あって損はないだろう」

テーブルにはズラリと酒瓶が並んでいる。
確かに俺もちょっと買い過ぎたなあと思いながらもグラスを用意する。

「美味しそう、これ全部ルイが作ったの?」

『まあ、フランスのソワレならこれくらいのおつまみ作りますから』

各々グラスに酒を注いでいく。
思った通り秀一はウイスキーだったけど。
俺は赤ワイン。

「じゃあ久しぶりの再会を祝して乾杯でもしましょ!
ルイ、フランス語で何て言うんだっけ?」

『Santéですけど…』

「じゃあ、それでいきましょ」

最初からテンションの高いマダム・ジョディはグラスを持ち上げる。
ムッシュ・キャラメルもグラスを持つ。

「Santé!」
(乾杯!)

カラン、とグラスがぶつかる。
秀一は静かにグラスを持ち上げた。

イケメン…!
イケメンすぎる!
何この落ち着き払った貫禄…!

一時間後。

「やだもう、ルイったら…!」

『いやいや、マダム・ジョディもなかなか
ほらまだまだいきますよ
ムッシュ・キャラメル!グラスが空じゃないですか!』

「…嫌な予感がしてきた」

2時間後。

『マダム・ジョディ、まだ残ってますよ?』

「私は一旦休憩」

『そうです?
秀一、ウイスキーもう一本開けよっか』

「それくらいにしておけ」

『釣れないね、折角買ってきたのに』

キュッと蓋を開けてそのまま流し込む。

「いかん…悪夢が始まる…」

3時間後。

『結構買ってきたのになくなるもんだな…あとこれだけしか残らないなんて』

「ルイさん、殆ど貴方が飲んでますよ…」

『ムッシュ・キャラメル、全然ですねー
お酒弱いんですー?
秀一もチビチビ飲んでないで……』

ばったり倒れた。

「ルイ?」

「ルイさん…?」

「一晩俺の身が持たん、と忠告しておいたのにな
やれやれ、今晩も寝られない夜になりそうだ
悪夢が始まるぞ、蛍が目覚める前に撤収してくれても構わん
俺は一晩拘束されそうだが…」

「あ、悪夢って、赤井さんそれは…」

「見たかったら見ても構わん、手伝ってくれるならな」

「手伝う?
シュウ、どういう…」

ムクリと体を起こす。

「テーブルは端に寄せておけ」

『しゅーいち…どこー…?』

ふらっと一歩歩いて倒れた。

「蛍、あれだけ俺に介抱させるなと言った筈なんだが…」

声を頼りに匍匐前進。
ソファーに座っていた秀一を見つけて腰に手を回す。

「ちょっと待て」

『大好き』

「お前…」

『よっこらせ…!』

そのままジャーマンスープレックス。

「シュウ!」

「赤井さん!」

『んふふー、俺の愛情はこんなもんじゃないよ
秀一、いつまでも澄まし顔してられると思ったら大間違いだぜ…!』

「全く手のかかる奴だ…早く寝てくれないか?」

踏み込んで秀一の首に足を入れる。
間一髪で避けられて壁に足を置いて体勢を変えて秀一の足元に突っ込む。

「何度お前のこれに付き合わされてると思ってるんだ」

秀一の指先が眼前に迫り反射的に躱して距離を取る。

「キャメル、これって…」

「ルイさん、酔っ払うと猟奇的になるんですね…」

「猟奇的っていうか…本人すごく楽しそうだけど…」

「普段温厚な分お酒飲むと出ちゃうんですかね、こういうとこが…」

「でも生でフランスのサバット見たのは初めてよ、貴重ね」

「呑気に観戦してる場合ですか!
赤井さん、さっき一晩拘束されるって言ってましたけど、これがまさか一晩中続くってことなんじゃ…」

目の前で繰り広げられる截拳道とサバットの異色な格闘劇を呆然と見つめる二人。

「シュウ、帰ってもいいって言ってたわよね?」

「え、赤井さん置いてくつもりなんです?」

「心配するな、もう終わる」

『なんか…眠い』

「あれだけ飲んでるんだ、体力の消耗も早い
今の蛍は本能でしか動いてないしすぐ寝る」

『秀一、もうおしまい?
じゃあこれで一発K.O.ってことで…』

助走を付けてから秀一に一発拳を向けたら、足がよろけてふらりとした。

『あれ…』

そのまま抱きとめられた。

「もう寝ろ」

えっ…なんかとってもあったかい…
ていうか頭撫でられてる…何事ですか…
ていうか体重いしなんか怠い…

『秀一、近い…』

「寝ろと言ったのが聞こえなかったか」

『近くてドキドキして寝れない…』

「強制的にベッドに押し込むからな」

『じゃあ秀一も一緒ってことで…んー、ひあわせ、大好き』

「…服から手を離してくれないか」

『……』

「蛍」

「寝たわね…」

「寝ちゃいましたね…」

「…今日は帰してもらえそうにないな」

『…う』

「「「……」」」

『気持ち悪い…』

「シュウ!トイレ!」

「赤井さん、トイレあっちに…」

「だからコイツの介抱は面倒なんだ…
二人とも帰っても構わん、俺は明日合流する」

秀一によってトイレに強制連行。

「…ルイってどこまでも破天荒ね」

「赤井さんもなんだかんだ世話焼きなんですね」

「それは…ルイだからじゃないかしらね」

「え?どういう事ですか?」

「あら、キャメルも鈍感なのね
さ、撤収しましょ、暫く日本にいるんだからルイにもいくらでも会えるわ」

『秀一、大好きー、おえ…』

「吐きながら人の名前を連呼するのはやめてくれんか…
あと服からいい加減手を離せ」

荒れた夜が静かになるのは一時間後の話。
今日は久しぶりにベッドに二人寝転んでいた。







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