事件に巻き込まれました。

『えっと……』

事件です。
大変なことになりました。

「通してください、警視庁です」

「下がってください」

道を歩いていたら目の前に人が落ちてきました。
頭から血の流れた人体が目の前にあります。
規制線を張られたのだが、何故か第一発見者として刑事さんに取り囲まれる羽目になりました。
事件です。

「貴方が第一発見者ですね、えっとお名前は…」

『……』

どうしよう
これは、俺が外国人だということを利用すべきだろうか

「あのー、すみません、お名前は…」

「あ…」

あれ?

振り向いたらコナン君。
それからこの前探偵事務所の前で出くわしてしまった女子高生と見られる人。

なぜだ…
なぜこのタイミングで出会ってしまうんだ…

「コナン君、もしかして知り合い?」

「うん」

「さっきから名前を聞いてるんだけど答えてもらえなくて…」

「無理もありませんよ、彼、日本語が通じませんから」

うん?

その女子高生の後ろから現れたのは、安室さんだった。

うそー…
なんで…ていうか今日も相変わらずイケメンでいいことですね

「君は確か…」

「毛利先生の弟子です」

「ということは…」

「なに、目暮警部、この毛利小五郎が来たからにはこの事件はすぐに解決しますよ」

はー、なるほど、そういうことか
この人が毛利小五郎か
なんていうか、普通の日本人のおじさん…

「Ça fait longtemps, M.Claude, ça va?」
(お久しぶりですね、クロードさん、お元気でしたか?)

『Oui, ça va bien, merci. Et vous, M.Amuro?』
(ええ、おかげさまで、安室さんは?)

「Pas mal.」
(悪くありませんね)

「君も知り合いかね?」

「ええ、フランス人のルイ=クロードさんです
僕の友人です」

さりげなく後ろに下がらされたついでに髪の上から右耳をチェックされた。
このさりげなさ、イケメンポイントですね。
隣に来た安室さんに小声で聞かれた。

「何が起きたんです?」

『人が上から降ってきました
目の前に落ちてきたので…第一発見者と言われて取り調べをされかけていたところです』

「…貴方、巻き込まれ体質なんですか?
あまり僕から離れないでくださいね」

うわー…
一度は言われてみたかったセリフ、イケメンに言われてしまった…

「とりあえず状況を聞いてみましょう、第一発見者の彼に」

お願いしますね、と小声で言われたので小さく頷く。
最後までちゃんとフランス人をやってくれというお願いだろう。

『Ah...Je suis allé au supermarché. En retour, je me suis baladé dans cette rue, il est tombé soudain.
Il a dit quelque chose et je me sens que c'est un peu bizarre, parce qu'on dirait qu'il s'était disputé avec quelqu'un.
Quand j'ai vu ce bâtiment, bah...je pense que les fenêtres de 5e étage et 7e étage a ouvert...』
(スーパーに行ってました。帰り道散歩がてらこの道を歩いていたら突然男が落ちてきたんです
彼は何か言ってたので変だと思いました…彼は誰かと言い争っていたようだったので
ビルを見た時には、ビルの6階と8階の窓が開いていたと思います…)

タブレット端末の音声翻訳アプリで日本語に直したのだがちょっとヘンテコな訳になっていたので、この役立たずアプリめ…と静かに怒った。

「目暮警部、このビルにいた被害者と関わりのある人物を3人連れてまいりました」

「ではその3人にも話を聞くとしよう
まだ自殺だと決まったわけじゃないからな…

千葉君、5階と7階の部屋を調べるように」

「いえ、警部、調べるのは6階と8階ですよ」

「どういう事だね?」

「彼が言った数字、この翻訳アプリでは言葉通りに翻訳されてしまいましたが…
イギリスやフランスは日本とは違ってグランドフロアが存在し、1階の事を0階と数えます
つまりフランス人の彼の言う5階というのはビルの6階、7階は8階になります」

そうです、流石安室さん…
なんか今日近くない?
隣にいるけどなんか…めっちゃ近くないですか?

さっき俺の名前を聞き出そうとしていたヒョロリとした刑事さんと警部さんは3人から話を聞いていた。
死体を調べる毛利小五郎とコナン君。
それからそっと近付いていく安室さん。
ひょっこり安室さんの影から死体を覗く。

あー、他殺だねえ
死因は毒
青酸カリの匂いがプンプンするし、大方窓際に追い込まれて苦しんだ所を一押しされて窓から転落ってとこか

安室さんの袖を引っ張る。

「何ですか」

『大方読めました』

「奇遇ですね、僕も読めてきました」

「目暮警部!
8階の証券会社の一室から遺書のようなものが…それからこれが…」

さっきビルの中を調べに行った刑事さんが戻ってきた時に持ってきたのはビニール袋に入った手紙と、お茶のペットボトル。

じゃあ自殺に見せかけた殺人だね
ありがちなパターンか、呆気ない

まあ、これ以上事件には正直関わりたくない。
警部さん達は容疑者3人を連れてビルの中へと入っていき、毛利小五郎とコナン君も行こうとしたのに安室さんはここに残った。

『見なくていいんですか?現場』

「ええ」

『随分と推理に自信をお持ちのようで』

「この事件は彼に任せましょう
彼ならすぐに犯人もわかるでしょうから」

その"彼"は、一体どちらのことですかね?

「それに、僕から離れないでくださいとお願いしましたよね?」

『……』

本気だったんですか…!
てっきり仕事の流れかと思ってました!

「どうやら貴方は巻き込まれ体質なところがあるようなので
それにしても随分と細かい所まで観察しましたね、あんな証言じゃ疑われますよ?」

『事実を述べたまでです』

ブルーシートの掛けられた死体に背を向けてタブレットをしまう。

「あのー」

安室さんと話していたら、先日の女子高生が話しかけてきた。

「安室さん、フランス語話せるんですね
驚いちゃいました」

「いえ、最低限の挨拶程度しかできませんよ」

確かに公安の部屋で会った時もいかにも定型文だったっけ…

「それに安室さんのお友達の方、フランス人だったんですね
だからこの前私の言葉が通じなくて…もしかして安室さんのいる喫茶店と間違えて事務所に来られたんです?
ってこれもきっと通じてませんよね」

いや、通じてます
ていうかあの時は本当に何も聞こえてなかっただけです、ごめんね、お嬢ちゃん…

安室さんが気を利かせてわざわざ英語に直してくれた。
二度手間をさせてすみません。
彼女の言葉には一応頷いておいた。

『Enchanté, je m'appelle Louis Claude. 』
(初めまして、ルイ=クロードです)

手を差し出したので多分伝わったんだろう。

「毛利蘭です」

毛利小五郎の娘か…
コナン君の同居人だな
彼女についても後で調べておこう

とりあえず容疑者の疑いが掛からなくて良かった。
DGSEの登録証も出さずに済みそうだし。

「いつ蘭さんに会ったんです?」

『ああ、この前補聴器忘れた時です
なので本当に蘭さんの言ってたことを理解してなかったんです
俺、帰ってもいいですか?』

「まあ、一応関係者なので」

『…帰りたいんですけど』

「もうすぐ推理ショーも終わると思うのでもう少し待ってあげてください
今日の夕食は何ですか?」

『冷凍のパスタです』

「冷凍食品生活ですか」

『溶けるんで早く帰りたいんです』

「溶けてもいいじゃないですか」

『他人事だと思って…』

「冷凍なんかよりも美味しいパスタ作ってあげますから」

『…Quoi!?』
(…えっ!?)

それは一体どういう意味ですか?
神様、これはまさかお手製と考えていいんですかね
イケメンパスタ…!
サンドイッチで十分満足してたのにパスタまでご馳走になれるんですか!
ていうか今日の安室さん、いつもよりイケメン度高くないですか、気のせいですか?

「なのでスーパーに行き直しですかね」

『スーパー…!』

「はしゃぎすぎはダメですよ、なんなら僕一人で行きますんで」

『いい歳してはしゃいだりしません』

暫くして犯人もお縄になってようだしやっと解放された。
コナン君にはまた何やってんだよ、と言われたけれど笑って誤魔化すしかなかった。

「じゃあ、後で伺いますので」

俺がまたスーパーに行くのは二度手間だろうからと安室さんがなんと食材調達してから来てくれることになった。
出来すぎた人だ。
これはいかん。

しかしまあ、仕事をする時間が出来たわけだ
ありがたく時間を有効に使おうじゃないか

工藤邸に戻ってすぐスーパーの袋を開けてみたのだが、案の定冷凍食品はもう解凍されていた。
最悪だ。
買ってきたアイスも形状を留めてないくらいには溶けてた。

…これ、冷凍庫に入れて固め直しても意味ないよね
練乳入ったトロトロ感が売りの商品だったのに…

はあっと盛大に溜め息を吐き出して放っておいた。
とりあえずパソコンを立ち上げたらメールが3件入っていたし、DGSEのお仕事はすぐにやって送り返した。
それから色々とハッキングをして見つけた彼女の情報。

…ベルモットのAngelねえ
まさかベルモットが俺を嫌ってる理由って…この子がいるから?
天使は二人もいらないって…彼女がベルモットの言うAngelだとしたら確かに俺は二人目として存在するAnge
そしたら彼女はベルモットの何だ?
ベルモットは恐らく彼女が工藤新一に繋がってる事も気付いてるんじゃないのか…?
なら何故手を出さない?

データバンクに入ってきた情報をチェックしながら暫く考えていたが、一向に答が見つからないので後回しにすることにした。
情報を処理してからそれをジンの元へ流し、ソファーで横になる。

DGSEには組織の情報も流しておいたし、まあ、今はこれで…

呼び鈴が鳴って起き上がり、インターホンでチェックしてからドアを開ける。

「すみません、遅くなりました」

『いえ、別に…』

「仕事でもしてました?」

『まあ、少し…』

お邪魔します、と家にあがった安室さんは二つあったスーパーの袋のうちの一つを俺に渡した。

『えっ』

「長い時間拘束されたんですし、どうせ溶けてるだろうと思って買い直しておきました
すぐ冷凍庫に入れてくださいね」

袋に入っていたのはドライアイス付きの、さっき全部溶けてしまった練乳入りのアイス。

な、な、なんというイケメン…!

「お腹空いてます?」

『はい!もちろんです!』

「すぐに作ります」

え、え、何これ…
日本に来て良かったー…
ていうかほんとに日本人優しい、感動、なんだこの感情…

「あの、アイス溶けますよ?」

『あ、そうでした』

慌ててキッチンに行ってドライアイスを取り出して冷凍庫にしまっておく。

『あの、レシートは…』

「ああ、すみません、捨てました」

『はい?』

「いくらしたかなんて一々覚えてませんからお代はいりません」

『いや、でも俺の夕食ですし…食費なんで…』

「日本の事件に貴方を巻き込んでしまったお詫びだと思ってください
大した額でもなかったので」

ねええぇ、ちょっとこんなのアリなの!?
ダメだよね?
ていうかお手製の夕食が無料っておかしくない?
金銭感覚がおかしいの?

『あの、安室さん』

「今日は依頼されるんですか?」

『はい?』

「ご夕食のお供です」

『…安室さんのお仕事次第ですかね』

「今日は何もありませんよ
強いて言えば、後ほど貴方のデータバンクに届くことになるようなお仕事です
時間はかかりません」

ジンへの連絡か
なら確かに時間はそんなに要さないだろう

『じゃあ、夕食の相手の依頼を…
報酬は何ですか?』

鍋を取り出して水を張り、湯を沸かし始めた安室さんは此方を振り返った。

「貴方が夕食をとる"時間"、ですかね」

く、く、口説かれてるような気がしてきた…
哀ちゃん、これってナンパかな?
日本人てこんなナンパするの?
時間がほしいなんて言われたの初めてなんだけど…!?
ねえ、やっぱりこれナンパかな!?
教えてくれ、哀ちゃん…!





阿笠邸。

「……!」

「哀君?」

「なんでもないわ、寒気がしただけよ」

「風邪でも引いたかの?」

「そういう寒気じゃないわ…
もっと、そうね、ロリコンに襲われそうな気がしただけよ」








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