名探偵とお仕事の話

工藤邸を間借りしてから一週間が経った。
ジンからのお仕事も特に苦はないし、家にいながらできることばかりだ。
それから改めて公安警察と安室さんの事を調べ上げておいた。
勿論組織内のバーボンという人物についてもだ。
そしてDGSEの情報局から不定期で入ってくるハッキングのお仕事も家でできるので問題はない。

『今日のご飯はどうしようかな…』

あ、そういえば今日は日曜日…
てことは、哀ちゃんは学校休みじゃないか!
それに哀ちゃんは隣の阿笠さんの所にいるんだし、遊びに行こう!

思い立ったが吉日。
隣の家を訪ねたら阿笠さんが出てきた。

『こんにちは、先日は驚かせてしまってすみませんでした
哀ちゃん、います?』

「哀君なら丁度コナン君と出掛けておるが…」

『なんてタイミングの悪い…』

「後で二人とも此処に来るそうじゃから、良かったらワシの新しい発明品でも見てくれんかのう?」

『新商品ですか!是非とも拝見したいです!』

というわけで阿笠邸にお邪魔して二人の帰宅を待つことに。
阿笠さんの作る物はたまにくだらないのだが技術としてはかなりのレベルだし、勉強にはなる。
新商品を拝見した後、ソファーで待たせてもらったのだが、余りにも二人が帰って来ないのでウトウトしてしまった。

「昨日は遅かったんですか?」

『ええ、まあ、仕事が思ったより長引いてしまいまして』

「仮眠ならベッドでも構いませんぞ」

『いえ、大丈夫です
ベッドなんて…ソファーで十分ですので』

ふあ、と欠伸を落とし、右耳から補聴器を外す。
お言葉に甘えてソファーに座ったまま仮眠を取ることにした。



「博士ー」

「帰ったけど…靴が一足多いわね」

「おお、哀君にコナン君、思ったより遅かったのう」

「ねえ、博士
この靴なんだけど、まさかあのロリコンが来てるんじゃないでしょうね?」

「あ、哀君、ロリコンて…まあ、そのまさかじゃよ
二人の帰りを待っていたんじゃが、待ちくたびれてソファーで仮眠を取っておる
なんでも昨日仕事で寝るのが遅かったらしくての…」

「本当にしょうがない人ね…」

「まあ、俺も丁度聞きたいことあったからいいんだけど…

雪白さん」

『……』

「雪白さん、仮眠ていうか爆睡?」

「あら、いつもならすぐ起きるわよ?」

「そうなのか?
雪白さーん!」

「無駄よ、江戸川君、彼の右手見てみなさいよ」

「…補聴器か?」

「彼、右耳聞こえないのよ」

「え?」

「珍しく補聴器まで外して寝てるってことは本当に仕事が長引いたみたいね
こういう時は…左からこれで一発よ

起きなさい!ロリコン!」

『うおお、何!?
ていうかロリコンじゃないし』

突然左耳の側でロリコン呼ばわりされたのでびっくりしたじゃないか。

『哀ちゃん、久しぶり
今日日曜日だから学校休みなんだろ?
てことで遊びに来たんだけど』

髪を掻き上げるフリをして右耳に補聴器を付ける。

「私じゃなくて江戸川君がお話したいそうよ?」

『え?』

哀ちゃんに言われて右側を見たら、コナン君が座っていた。
びっくり。

『コナン君、久しぶりだね』

「お前、勝手に人ん家で銃ぶっ放してんじゃねーよ…」

『盗聴器仕掛けたの、そっちだろ?
それにもう壁は修復したしコンセントも使えるように手配しといたし大丈夫大丈夫』

「お前、本当に楽観主義だよな…
で、公安行って何か収穫はあったのか?」

『まあ、そこそこ
何せ初めて日本に来たフランス人演じるのが疲れた』

「じゃあしなきゃいいだろ」

『いやー、そうも言ってられる状況じゃなかったんだよね…
あ、それからバーボンとも接触できたし…まあ彼の車からベルモットの匂いがムンムンしてたからベルモットと行動してるのは確実だな』

「あら、貴方、こそこそ内部探ってたくせに内部の人間知らなかったの?」

『もちろんコードネームくらいは知ってたよ
今回は俺の調査不足だったってことかな、うん、散々馬鹿なのかって罵られたよ…いやー、グサッときたね、あれは』

今思い出しても泣けちゃうくらいだ。
一日に何度罵倒されただろうか。

「蛍、貴方組織でも甘やかされてるんだから気をつけなさいって言ったじゃない」

『あのね、甘やかされたんじゃないの』

「どちらにしろ貴方が全部統括してる情報網を使えば組織の人間なんて一発だったじゃない
どうして使わなかったの?」

『それは…』

いや、安室さんがイケメンなのがいけない
そうだ、俺のせいじゃない

『うん、俺だけが悪いわけじゃない』

「でた、フランス人の自分は悪くない精神」

『実際そうだ』

すっかり表の顔に気を取られて調査を怠ったのは俺のミスだがそこまでさせる安室さんが悪い。
同じ組織の人間なのに疑ってかかるからそうなる。

『だってイケメンなのが悪い!』

「誰の話よ」

『内緒』

ソファーで悶える。
だって尋問さながらの質問攻めに遭った翌朝のサンドイッチも美味しかった。
ポアロに行こうかとも思ったけどやめた。
そしたら夜になって今日いらっしゃるかと思いましたと電話がきた。

『来てほしかったなら言えってのー!
わざわざ俺が遠慮したのに!』

「貴方、また男引っ掛けてきたの?
日本だからって油断してるとナンパされるわよ」

『されかけてるし、しかけてる』

「今回は随分手が早いのね」

『ところで哀ちゃん、今日一緒に夕食でもどう?
デートする?』

「しない」

『じゃあコナン君』

「いや、遠慮しとく…」

『なんだよ、揃いも揃って…!』

「貴方といると目立つのよ、半外国人」

『その言い方やめてくれるかな…結構傷つくんだけど』

ソファーに座りなおしてタブレット端末を開く。

「それで、結局何しに来たのよ」

『哀ちゃんと遊びに来たんだよ』

「雪白さん、本当にロリコン?」

『ロリコンじゃない!
コナン君は知ってるのか?哀ちゃんの18歳の可愛い姿を…!』

「一回くらいは見たことあるけど」

「それでも貴方と歳の差どれだけあると思ってるのよ」

『一目置いてたんだけどなー…』

それから、と家に届いていた封筒をコナン君に渡す。

『そうそう、今日届いてたんだ』

「手紙…?」

『工藤新一様って書いてあったから一般人かと思ったけど…そうじゃないみたいだね
ねえ、コナン君、ベルモットとどういう関係なの?』

今朝工藤邸に届いていた工藤新一宛の封筒。
差出人はベルモットだった。

「お前、組織の人間だろ?
だったら自分で聞けばいいじゃねーか」

『無理、俺ベルモットに嫌われてるから』

「あっそ…」

『今度コナン君のとこ、連れてってよ
結局毛利小五郎に会ってないし』

「おっちゃんに会うだけなら別にいいけど…」

そう言いながら封筒を開けたコナン君は手紙を読んで何か考え込んでしまった。
まあ、俺には関係ない。

「蛍」

『何?』

「…貴方無防備なんだから気をつけなさいよ
いくら人の飼い猫だからっていつ野良猫になるかわからないんだから」

『そうだね…暫くそれはなさそうだけど』

ジンへの定期報告も怠ってないしNOCリストも更新してるし、やることはちゃんとやってる。

「またあんな生活に戻りたくないでしょ?
折角檻の外に出られたのに…」

『うん…』

「…夕食くらい作ってあげるわよ」

『え、ほんとに!?』

「どうせ仕事で疲れて何も食べてなかったんでしょ」

『あ、うん』

「その代わり、食べたら帰ってちゃんと寝なさい」

『はーい』

コナン君は俺の袖を引っ張った。

「ねえ」

『何?』

「雪白さんてどういう立ち位置?
話聞いてる限りじゃ灰原にも手を出してこないしジンと連絡取れるくらいなのにベルモットとは関係がないって…」

『俺は組織内ではジンと直接繋がっているけど、ウォッカやベルモットとは違う
あの日のデータ、バーボンがベルモットに横流ししてた音声データ聞いてもらうのが一番手っ取り早い説明かなー…
ベルモットがジンに渡した音声データ
バーボンに取り調べされたよ』

端末のファイルを開いて音声を再生させる。

[「では、まずお名前から」

『雪白 蛍』

「年齢は?」

『25です』

「独身ですか?」

『はい』

「身長は?」

『160…えっと、167くらいでしたかね』

「体重は?」

『52だったような…』

「お仕事は?」

『パリ4区のバーでバーテンダーを』]

コナン君は隣で真剣にこの音声データを聞いていた。
これは確かにベルモットがジンに渡したデータだ。
俺のデータバンクにも届いている。
組織の情報は全て俺の管理下にあるのだから持っていて当然なのだが。

[『横流しにしても無駄ですよ
今日本にいるんでしょう?ベルモットも』

「気付いたらしたんですか」

『独身だと言った貴方の車、彼女の匂いが充満してましたよ』

「では今度消臭しておきます」

『お願いします
あの…』

「はい」

『そろそろサンドイッチ食べるの再開してもいいですか?』

「ええ、どうぞ」]

そこで音声データは終わった。
それから別のファイルを開いてコナン君を見る。

『コナン君、何かわかった?』

「大体な」

『哀ちゃんは今のが色々間違いあるってことがわかってると思うので、コナン君には特別大サービスしてあげようか
この編集される前の元の音声データとその続き、聞いてみたいと思わない?』

「編集…?」

厳重にロックをかけてあるファイルを開き、そのデータを再生してやる。

[「では、まずお名前から」

『雪白・ルイ=クロード・蛍』

「年齢は?」

『25です』

「独身ですか?」

『はい』

「身長は?」

『160…えっと、167くらいでしたかね』

「体重は?」

『52だったような…』

「所属は?」

『DGSE 対外治安総局情報局及び技術局です』

「二局に所属ですか?」

『特例です
基本的には技術局に出勤していますが情報局からはいつでも仕事が入ります
デスクのない情報局員といったところでしょうか』

「そうですか、好きな食べ物は?」

『安室さんのサンドイッチですかね』

「光栄です、特技は?」

『特技…射撃ですかね、あとハッキング』

「情報局が欲しがるわけですね
ではここから裏情報に行きましょうか

まずはコードネームから」]

さっきとの違いに気付いたらしい。
コナン君も興味津々なのでまあ、よしとしよう。

[『横流しにしても無駄ですよ
今日本にいるんでしょう?ベルモットも』

「気付いたらしたんですか」

『独身だと言った貴方の車、彼女の匂いが充満してましたよ』

「では今度消臭しておきます」

『お願いします
あの…』

「はい」

『そろそろサンドイッチ食べるの再開してもいいですか?』

「ええ、どうぞ

さて、ここからは二人の時間です」

『そうですね、やっと心置き無く話せます』

「首輪の件ですが…そんな貴方がまたどうしてDGSEに?」

『情報収集のためです
実際FBIやCIA、ヨーロッパの諜報機関ともコネがありますので』

「結局白なのか黒なのかわかりませんね」

『グレーってところですかね
組織に入ってすぐジンから調教されましたし、つまりは教育係ですね
DGSEでも意外とその仕事の取り組み方は役に立つので…まあ、一時的に軟禁されていた事もありましたがやっと外に出られるようになったので』

「軟禁?」

『はい、申したはずです、ジンのペットと』

「それは仕事関係でのペットではなく?」

『仕事関係ですが、絶対的な服従です
コードネームを持たない構成員に見せかけた、組織内の秩序を保つ構成員です
そしてそれをジンに報告、というわけです』

「ダブルスパイみたいな事をされますね」

『あれ、安室さんも同じようなものじゃないですか
ポアロでのお仕事、潜入捜査なんじゃないんですか?
公務員の副業は認められていませんよね』

「そう思ってくださって構いません」

『あ、NOCのことはご心配なく
いつジンに報告するか、それともしないか、全部俺の一存なので』

「そしたら貴方もNOCの対象者になりますよね?」

『その時はDGSEを裏切りますからご心配なく』

「猫は気まぐれですね」

『そしてまたDGSEに戻ります、再びスパイとして』

「貴方にそんな器用な事が出来るんです?」

『できますよ
腐っても諜報機関の人間なので』

「僕は随分貴方のことを買い被っていたようですね」

『疑う、の間違いでは?』

「そうとも言います」]

『はい、おしまい
そういうわけで、俺のお仕事はこういうことでした』

「ベルモットが盗聴してたデータをいつ書き換えたんだ?」

『勿論ジンに連絡が行く前
まあ色々細工はしてあるんだけど、ジンの端末に向かう情報は全て一度俺のパソコンに集約される
ベルモットが同時進行していたとしても、ジンに連絡していたならそのデータは俺のパソコンに送られて俺の認証がなければジンの元へ届かない仕組みにしてある
それに音声の編集くらいはやり慣れた仕事だし、このくらいの音声データなら必要最小限の場所だけ猛スピードで書き換えてジンにお届けってわけ

わかった?組織の情報が俺の元に集約される仕組み
この仕組み開発するのに結構時間かけたんだよね
だからシェリーの情報も曖昧にしてもみ消すことができる』

「雪白さん、組織の裏情報とか相当持ってるってこと?」

『さあ、それはどうかな?
俺も組織に疑われない程度に細工はしなきゃいけないんだし全部を語ってあげられるほど親切じゃないから
さっきのは本当に大サービス、家貸してくれたしね』

端末をしまってコナン君の頭を撫でる。
少し教えすぎてしまっただろうか。

『今日は哀ちゃんの手料理食べられるみたいだし、阿笠博士の新しい発明品も拝見できたし最高だね
来て良かった』

なんて平和な1日だろう。

「雪白さん、本当に諜報部員の人だね」

『え?』

先日さんざんけなされたのとは真逆のことを言われたので思わずコナン君をじっと見てしまった。

「ここまで一般人のフリするの上手い人、初めてだよ」

『それほどでも』

「諜報部員にしては楽観的すぎて相手を油断させ、結局どっち側についてるのかもわからなくさせてる
それを危険視してジンは雪白さんを軟禁したんじゃないの?」

『……そうかなあ?』

「え、違うの?」

『結局軟禁中はハッキングさせられてただけだし、情報の解析とか
楽観的って言われるのはちょっと傷つくと思ってたけど、なんだろうね、俺の無意識だったのかな?』

「天然かよ…」

『まあ、諜報部員ぽいだなんて褒められて光栄だな!
昨日は遅くまで仕事してたし明日はゆっくり休ませてもらうとするよ
良かったらコナン君一緒に遊ぶ?』

「明日は学校だっつーの…」

『月曜日か、そうか…
じゃあ学校の前で待ってようか』

「雪白さん、どんだけ暇なの?」

『だって休暇だよ!?』

遊ばなくてどうする。

『コナン君のお友達には哀ちゃんのボディーガードだと思われてるみたいだし小学生と遊ぶのも悪くないな
気が向いたら探偵事務所に遊びにいくよ、場所もわかったから』

「別に明日じゃなくてもいいだろ…」

『明日は…』

確か安室さんのシフト入ってたはず…!
え、明日ポアロ行っちゃおうかな

『米花町のお散歩でもして偶然毛利探偵事務所を見つけたって設定で行くことにするよ』

「一々手の込んだことするなよ…」

『その方が楽しいだろ?』

今日の夕食はなんだろう。
哀ちゃんに手伝うことある?と聞いたら近寄らないでと追い返された。
なんか、酷くない?




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