サトシ×カノン前提のサトシ総受け | ナノ
 潮風が頬を吹き付ける。磯の香りに胸踊らせながら、少年は一歩踏み出した。
 赤い帽子でボサボサの髪。上着は青で、肩には黄色い電気鼠が乗っている。
「着いたぞ、ピカチュウ」
 少年が優しく電気鼠、ピカチュウの頭を撫でた。
 赤い帽子の少年。彼の名はサトシ。マサラタウンの出身で、夢に向かってこれまで様々な地方を渡り歩いてきた。
 故郷カントー地方、その隣のジョウト地方、ホウエン地方、シンオウ地方。そして、つい最近旅を終えたカロス地方だ。
 色々な仲間と旅をして、とうとう彼は帰ってきたのだ。ここ、ジョウト地方のアルトマーレに。
 この街は彼の故郷では無い。しかし、第二の故郷と呼んでも差し支えは無いだろう。なぜならこの街には……。「きっとカノンも待ってる。行こうぜ」
 カノン。それがサトシが異性としての好意を寄せ、また寄せられている少女の名だ。
 早く彼女に会いたい。気持ちを抑えられずに、駆けだした。



 世界一美しいと言われる都、アルトマーレ。その水路を進む船に、少年と少女が乗っていた。
「久しぶりだな、こうやってカノンと会うの」
「うん、サトシ君、変わらないね」
 どれだけ会っていなかったか。分からないが、驚くほど自然に話すことが出来た。こうして話していると、以前会ったのがつい昨日のようにも感じられる。
「そういえばさ、前にアルトマーレから離れる時に、その、絵を渡してくれただろ? あの時……」
 以前彼女は、サトシ達がアルトマーレを離れる時に絵を渡してくれた。問題はその後だ。「そ、その話は……。今はいいでしょ?」
 あの時のあれは、見た目ではカノンだったのか、カノンに扮したラティアスだったのか、他人からでは判別が出来ない。
 唯一違うのは体温だが、頬に直接触れたとはいえそれもわずかな間だった為どちらであったかはっきりと判別は出来なかった。
 サトシは恐らくカノンだっただろうと思ってはいるが、その確信をどうしても得たかった。
 言及するが、彼女もその話は恥ずかしいらしく、はぐらかされてしまった。
「サトシ君、顔真っ赤」
 そう、彼女も恥ずかしい。つまり彼女だけでなくサトシも自分で頬に熱が上がっているのが分かるほどには恥ずかしさがあったのだ。
「カノンだって」
 しかし彼女も顔が赤くなっている。感じてるものは同じようだ。それが嬉しくて、どちらからともなく笑みが零れる。
「あ、そういえばさ……」
 長らく話していなかったのだ、お互い積もった話が山ほどある。それからは、しばしの間思い出話に耽った。



「懐かしいな、この街並み」
 船を降り、食事も済ませた。今は二人で街を歩いている。
「久しぶり、サトシ!」
「やっほー!」
 可愛らしい少女の声が二つ、重なって背後から聞こえた。
 振り返ると、帽子被ったブロンドの髪の少女と金髪でサトシ達と比べても幾分幼い少女が手を振っていた。
「セレナ、ユリーカ!」
 彼女達は、カロス地方を共に旅した仲間だ。驚きと嬉しさに思わず叫ぶと、二人が笑顔で駆け寄ってきた。「えへへ、びっくりしたでしょ!」
 セレナは目の前で止まり、しかしユリーカは勢いを衰えさせずに突進のような勢いで抱き付いてきた。にまっと心底楽しそうな笑みで見上げてくる。
「ああ、まさかこんな所で二人に会うとは思わなかったよ!」
 言いながら自分に抱き付く少女の頭を撫でると、少女は何故か俯いてしまった。
 よく分からないけど、話を続けることにした。
「どうしてこの街にいるんだ?」
「ちょうどジョウト地方に来ることになったから、せっかくだし会おうと思って!」
「そっか、会えて嬉しいよ!」
「ユリーカも!」
 仲間との再会、嬉しいのは自分だけでは無いようだ。相棒のピカチュウは肩から飛び降りて、ユリーカのポシェットからはデデンネが出て来て、二匹で盛り上がっている。「……ねえ、サトシ君」
 そうして三人と二匹で喜びを分かち合っていたら、カノンが少し不機嫌そうに呼びかけてきた。
「ああ、ごめん、二人の紹介がまだだったな」
 彼女が不満なのはそこだろう、と目配せして、セレナ達に自己紹介を促す。
「私はセレナ! サトシの正妻の呼び声高いエックスワイのメインヒロインよ! よろしくね!」
「あたしユリーカ! サトシがキープしてくれてる、サトシのかのじょです!」
「サトシの彼女……?」
 ユリーカの言葉を聞いた瞬間、カノンの表情が一気に怖くなったのが分かった。
「い、いや違うんだカノン! こら、ユリーカ! 嘘言っちゃ駄目だろ!」
「え……? ユリーカのことは、ただのキープだったの……?」
「してないだろ!」
「えへへ。ぼうしのおねえさん、うそをついてごめんなさい!」
 カノンはしばらくいぶかしげに見つめてきたけど、ユリーカが楽しそうに笑っているのを見てそれが本当に冗談だと理解してくれたようだ。
「じゃあ、これからどうする?」
 せっかく久々に会えたし、と疑問を投げかけた瞬間。
「サトシ! やっほー!」
 またもや、聞き慣れた声が聞こえてきた。慌てて振り返り、声の主を探す。
「違う違う、こっちよこっち!」
 だが、どこを見回しても見つからない。
「まさか……」
 会うのが久しぶりで忘れていたが、そうだ、今思い出した。彼女の最大の特徴を。「そこか!?」
 見上げると、屋根の上で後光を浴びた特徴的なシルエットが浮かんでいた。
 ようやく見つけると、「よっ」と、軽やかに飛び降りて、華麗な着地を見せてくれた。
「サトシ、相変わらず子どもねー」
 目の前に降りてきたのは、白い民族衣装で、肌はこんがりと焼けた少女。
「すっごーい、ヒコザルみたい!」
「サトシ君よりすごい……!?」
 ユリーカ達も、彼女の身体能力の高さに感嘆の声を漏らしている。
「……アイリス!? 久しぶりだな、どうしてここに!?」
 イッシュ地方を共に旅した仲間の一人、アイリス。そのボリューミーな髪からキバゴが飛び出して、見慣れたサトシ以外は皆一様に驚いている。
「ドラゴンポケモンを探してて、たまたま立ち寄ったの。それで偶然サトシを見かけたから……」「……わざわざ屋根に上ったのか? 子どもだなー、アイリス」
「ちょっ、私の真似しないでよ!?」
「キバゴも久しぶりだな。後でズルッグと会わせるよ」
「聞きなさいよ!」
 足元で何かを訴えかけてくるキバゴ。恐らく、一番の友達だったズルッグと会いたいのだろう。
 それを言った瞬間に、キバゴは瞳を輝かせて小躍りを始めた。
「あ、いたいた! サトシ! ピカチュウ!」
 元気な声が、少女の声が三度響いた。振り返るとミニスカートの少女が元気に駆けてきて、足元では彼女の相棒が彼女の一歩先を走っている。
 シンオウ地方で共に旅した仲間のヒカリと、その相棒のペンギンポッチャマだ。
 デデンネと仲良く話していたピカチュウも、ポッチャマに気付いて駆け寄りハイタッチをする。
 サトシとヒカリもそれに一呼吸遅れて、同様にハイタッチを交わした。
「ヒカリまで来たのか!」
「うん、サトシが来てるって聞いたから来ちゃった!」
「久しぶり、ヒカリ!」
「アイリスも久しぶり!」
 ヒカリとアイリスも面識がある。最強女子コンビとして以前サトシを苦しめた二人が、互いの再会に喜び合っている。
「……なんか、一気に増えたな」
 仲間との再会はもちろん嬉しい。だがここまで示し合わせたように一度に揃うと流石に困惑も少しは生まれる。
 一人呟くと、ユリーカがそれに反応を示した。
「サトシ、ポケモンだけじゃなくておんなのこまでたくさんキープしてるのね」
「え? キープっていうか……」
「というわけでユリーカのこともキープ!」「……それは、ごめん」
 彼女が跪き、伸ばした手に優しく手を重ねながら、しかしカノンの見ている手前下手なことは言えない。正直に謝罪をすると、ユリーカはいつものように考えといてね、と言いながら慌ててデデンネを向いた。
「……ユリーカ」
 今のは本気だったのか。それとも、冗談だったのか。尋ねようか迷ったが、本気だったとして答えを変えるつもりは無い、と止めることにした。
「やっほーサトシ、ピカチュウ、ヒカリ! 久しぶりかも!」
 少し気まずくなったサトシとユリーカの間に、そんな空気を一転させる明るい声が入り込んできた。
「ハルカ!」
 赤いバンダナを巻いた少女。ホウエン地方を共に旅した仲間のハルカだ。
「ハルカ、ひさしぶり!」 真っ先に駆け寄ったのはヒカリだ。二人は互いにポケモンコンテストで戦うライバルとして、また同じ夢を目指す仲間としても親交を深めている。
「久しぶりだな、ハルカ!」
 そしてサトシも彼女に続いて駆け寄った。
「二人とも、久しぶりかも!」
 相棒達も彼女に駆け寄る。コーディネーターの二人とその仲間のサトシ、三人で懐かしの再会に喜びを分かち合う。
「ハルカ! あたしのヒノアラシ、マグマラシに進化したの!」
「オレのヒノアラシもマグマラシに進化したんだぜ!」
「そうなんだ。私も、二人に負けてられないかも!」
 自分のポケモンの成長を語り合う。ハルカもそれを聞いて対抗心を燃やしている。
「あれ? あんた、もしかして……」「……え?」
 またも、聞き慣れた声が耳に入ってきた。もし間違えてなければ、この声は……。
「やっぱり、サトシじゃない!」
「カスミ! カスミまできたのか!?」
 一番最初に旅をした仲間のカスミだ。
 なんということだろう。これで、共に旅した仲間の女の子が全員揃ってしまった。
「久しぶりだな、カスミ。元気にしてたか?」
「……うん」
 ……なぜだか、彼女の返事にいつものおてんばさが無い。
「どうしたんだ?」
「……いや、あんた、なんか雰囲気変わった?」
 カスミがいぶかしげに見つめてくる。どうやらなにかが気になるようで、ジッと自分の目を見つめてくる。
「え、いや……」
「……じゃあ、あたしの気のせいかな」
 それでも彼女は目をちらちらと見てくる。「サトシ、こんな目だっけ……?」と一人呟いたのは、聞こえないふりをすることにした。「……ていうか、あんたなんでこんなに女の子に囲まれてるのよ」
 顔を上げたカスミは、戸惑いを隠しきれずに尋ねてきた。
「ああ、みんな旅の仲間だよ。ヒカリとアイリスとセレナとユリーカ」
 面識のあるカノンとハルカを抜かして、他の人達を紹介する。みんなも、それぞれ自己紹介していく。
「いや、そうじゃなくて」
 だが、なにかが間違っていたようだ。頭に疑問符を浮かべていたら、彼女は更に続けた。
「あんた、そんなモテるやつじゃなかったでしょ」
「え?」
「でも、みんなサトシのキープだって」
「ゆ、ユリーカ!? だから違うって!」
「え!?」
 ユリーカのキープ発言で、皆がざわざわ騒ぎ出す。
「サトシ、なんだかんだあたしが一番フラグ立ってたでしょ!?」「フラグって、オレカスミと旗を立てた記憶無いけど……」
「そういう意味じゃないわよ!」
 ……じゃあ、どういう意味だろう。考えていたら、ハルカがあるものを取り出し突き出した。
「サトシ、今でもこれ持ってるでしょ?」
 彼女が出したそれは、綺麗に半分に割れたコンテストリボンだ。
「ああ、もちろん」
 サトシも、それの片割れをポケットから取り出して、彼女の出したそれとくっつける。
「……ちょっと、サトシ君」
 それが面白くないのはカノンだ。せっかくサトシが自分に会いにきてくれたというのに、他の人達と話してばかり。口を挟もうとしたが、遮られた。
「ねえハルカ! あたし今コンテストバッジが……」
「本当!? でも私も……」 ハルカとヒカリが二人で盛り上がり始めた。……今度こそ。
「ねえサトシ君」
「あのねサトシ! ユリーカね!」
 と思っていたら、今度はユリーカに遮られてしまった。
「そうなのか! 良かったじゃないかユリーカ!」
 ……一体いつまでこうしていればいいのだろう。
「カノン」
 ……せっかくサトシ君が会いに来てくれたというのに、どうしてこんなことになったのだろう。
「なあ、カノン」
 ふと顔を上げると、彼の顔が目の前にあった。思わず距離を取るが、彼は不思議そうにしながらも言葉を続ける。
「いや、そういえばカノンの紹介だけしてなかったからさ。というわけで、この女の子はカノン。アルトマーレに住んでて……」
「サトシのかのじょ? なんだって!」 サトシの紹介をユリーカが遮り、言った。その瞬間みんなの目つきが変わったのが、サトシにもカノンにも、ユリーカにも理解出来た。
「ご、ごめんサトシ……」
 ユリーカは皆の雰囲気の変貌の原因が自分にあると察して、申し訳なさげに頭を下げてきた。
「ちょっとサトシ、どういうことよ!? なんであんた、ちょっ、どういうこと!?」
 ユリーカに「いや、大丈夫さ、気にするなよ」と優しく声をかけて頭を撫でていたら、カスミが吠えた。
「いや、どういうことって言われても、そういうことだけど……」
「この世界の美少女カスミちゃんルアーまでもらっといて……! あんたさいってい!」
 どうしてそこまで言われないといけないんだ……! 怒鳴り返したい気持ちを、しかしユリーカにこれ以上罪悪感を増させない為にぐっと堪える。「そうよ! 私と半分このリボンを持ってるし、一緒にラブカスを見た私の方がいいかも!」
 次はハルカがアピールしてきた。
「い、いや、そう言われても……」
「……はあ、もうサトシになにか奢ってもらうしかないかも……」
 ハルカはショックを受けた様子でちらちらとこちらを見てくる。
「……分かったよ、しかたないなあ。好きなだけ食べてくれ」
 彼女はなにか、と言っているが十中八九料理のことだろう。諦めて言うと、「本当!? 嬉しいかも! ありがとサトシ!」と急に元気を取り戻した。
「オレが言うのもなんだけど、本当に食べるの好きだなあ」
「もちろん! 名物食べ歩きツアー、サトシ隊員にも頑張ってもらわないと!」
「お、オレも!?」
 オレはついていけるのだろうか……。ハルカの食べるスピードに……。胃が重くなるのを感じていたら、下から服の裾を引っ張られた。見ると、ユリーカが瞳を輝かせている。
「……分かったよ、ユリーカも一緒に行こうな」
「うん!」
 ……お金、足りるかな。ますますお腹が痛くなるのを感じたが、喜んでいる二人を前に今更嫌だなんて言えなかった。
「サトシ! あたしね、サトシと会えて良かったって思ってる」
「ヒカリ……」
 何を食べるか、どんなものがあるかを楽しそうに話すハルカと、それに一々オーバーな程に飛び跳ねて喜ぶユリーカ。二人を見ていたら、ヒカリが呼びかけてきた。「オレも、ヒカリに会えて良かったって思ってるよ。ずっとオレを隣で励まし続けてくれたよな。ありがとう、ヒカリ」
「……ううん。あたしこそありがとう、サトシ」
 彼女に真っ直ぐ向き合って自分の思うままを伝えると、彼女は俯き目元を拭った。
「ヒカリ」
「だ、だいじょーぶ! ただサトシに会えて嬉しいし懐かしくって、つい……」
 心配して伸ばした手は、彼女の口癖に止められてしまった。
「……ヒカリのだいじょーぶは、いつもだいじょばないからなあ」
「……まあ、そうだけど……。……でも、本当に大丈夫、だから!」
 若干茶化したようにいいつつも、心配を伝える。彼女はそれを聞いて、心配させまいとしたのだろう、顔を上げて笑った。「……そっか」
 ……やっぱり、だいじょばないじゃないか。拭いきれずに零れた涙は、しかし明るく振る舞う彼女の気持ちを無駄にしないように、と気付かないふりをした。
「……まさかお子ちゃまなサトシに彼女が出来るなんて。ほ、本当にそうなのサトシ!?」
 話が終わると、アイリスが肩を揺さぶり尋ねてきた。その瞳は信じられない、という気持ちを表したように見開かれている。
「ほ、本当だけど……」
「あたしに花が似合うって言ってくれたのに……」
「ああ、似合ってたよ。アイリスらしくていいと思うぜ」
 何故か悲嘆に暮れたように呟かれたその言葉にサトシが思ったままを告げると、彼女は再び瞳を見開き顔を背けた。
「……どうしたんだ、アイリス」「……なんでもないわよ! はあ、サトシって本当子供ねー」
「なっ、なにがだよ!? アイリスだって子供じゃないか」
「そういうところが子供だって言ってるのよ」
 ……なんなんだよ。もうなにがなんだかわけが分からないままだが、このまま追及したところで教えてはくれないだろう。
 一緒に旅した経験から、必要以上の言及は避けることにした。
「ねえ、サトシ」
「ん?」
 とはいえ分からないままではやはり悔しい。アイリスがなんのことを言っていたのか考えていたら、セレナが話しかけてきた。
「ヒカリと被っちゃうけど……。私もサトシと会えて、一緒に旅が出来て、本当に良かった。サトシのおかげで私は、人間としてもトレーナーとしても、立派に進化出来たから。だから、ありがとう、サトシ」
「ううん、オレこそ」 セレナが言っていること。それは、セレナだけのことではない。
「オレだって、セレナのおかげでここまで来れたんだ。だからオレこそお礼を言わないと」
「サトシ……」
 セレナが見つめてくる。サトシも、それに真正面から見つめ返す。そうして見つめ合っていたら、お腹に衝撃を受けた。
「ユリーカも! ユリーカも、サトシとあえてよかった!」
「ユリーカ……」
 サトシとセレナの間に入ったユリーカが、勢いをつけてお腹に抱きついてきた。そしてそのままサトシを見上げている。
「ユリーカだってサトシがいたからたのしかったし、ドキドキしたし、しんかできたもん! だからサトシ、ありがと」
「オレこそありがとう。ユリーカはいつもポケモンのことに一生懸命で、無邪気で、好奇心いっぱいで……。ちょっと危なっかしいとこもあるけど、そこも含めて一緒にいて楽しかったし色々学ばせてもらったよ。オレこそありがとな、ユリーカ」 必死に伝えてくる彼女の頭を再び撫でる。彼女は一瞬俯いた後すぐに顔を上げて、満面明るい笑顔を浮かべた。
「……カノン!」
 カスミが呼びかける声が聞こえた。その声には多少の、いや、溢れ出さんばかりの怒気がはらまれている。
「あたしとバトルしなさい!」
「え、けどカノンは……」
「あんたは黙ってなさい!」
 怒りを露わにするカスミを止めようとサトシが割り入ったが、その一言で伏せられてしまった。
「ちょっと、さっきからなんなの?」
「いい? サトシはバトル馬鹿なの。だから誰がサトシの本当の彼女か……。バトルで決めましょう!」
「……なにその理屈」
 カスミの謎暴論。カノンは戸惑うが、しかしそれは彼女だけのようだ。
「このチャンス、見逃せないかも! それなら私ともバトルよ!」
「負けられない、がんばろうポッチャマ!」
「そういうことなら、でてきてカイリュー!」
「バトル……。ユリーカ、よく分からないけどこれは私達にもチャンスよ!」
「うん! セレナ、がんばって!」
 そう、カノン以外はすっかりやる気だ。
 カノンを見ると、げんなりしているのが分かる。
「……がんばろうぜ、カノン」
「……うん」
 バトルをするにしてもしないにしても、この場を収めるだけでも一苦労だろう。サトシもさすがにこれ以上は見逃せない、カノンの肩を叩いて、彼女も疲れ果てたように返事をした。
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