サトシとサトシのことが好きなユリーカ | ナノ
『行け、ピカチュウ! 10まんボルト!』
 バトルをしている姿も、
『よしピカチュウ、気持ちいいか?』
 楽しそうにピカチュウを撫でている笑顔も、
『二人とも、危ないから下がってるんだ』
 自分達を守ってくれる、その背中も、
「どうしよう、デデンネ……」
 何故かは分からないが、共に旅する仲間、サトシのことが頭に浮かんで来る。
「あたし、どうしたんだろ……?」
 こうしてデデンネを撫でていても、サトシのことが頭から離れない。
 気付いたら、彼のことを考えてしまっている。
 今だって……。
「おーい、ユリーカ!」
 こんな風に、サトシが自分のことを呼んでくれないかな、なんて思っている。
 今遊んでいるのは自分とデデンネだけ、ここに居ないはずなのに、だ。
「ユリーカ?」
 目の前近くに、赤い帽子が現れた。
「さ、サトシ!?」
 驚いて思わず倒れかけたが、彼が戸惑いつつも支えてくれたおかげで体勢が戻った。
「どうしたんだ、ユリーカ」
 さっきから呼びかけても応えないし、と続けられる。サトシは、心配そうな顔で隣に座り込んだ。
「うん、ちょっと……」
 勿論、言える筈が無い。サトシのことを考えていたなどと。
「何かあったら、話した方がいいぜ。その方が、気も楽になるしな」
 だが彼は心配するような表情はそのままで、諭すように言う。
「……じゃあ」
 ……どうしよう、いってみようかな。
「な、ユリーカ。オレで良かったら聞くよ」
 ……だいじょうぶよ、よくいってることだから。……きんちょうするのは、きのせいだから。
 意を決して、高鳴る鼓動を少しでも鎮める為に胸を押さえる。そして緊張を抑える為に、決めゼリフの為に、息を吸い込んだ。
「サトシ!」
 不思議そうにしている彼に跪いて、手を伸ばす。
「ユリーカをシルブプレ!」
 まっすぐに見つめあって、声高に叫んだ。言い慣れている言葉であるからか、すんなりと、違和感無くそれを口に出すことができた。そう、それは普段兄の為にしていることだ。
「……え?」
 当然いきなりのことに、サトシもピカチュウも呆然としている。
「えっと、頼りないシトロンの為にやってるんだろ、つまり……」
 ……よかった、いつもいってるから、サトシもいみをわかってくれたみたい。
「……うーん、けど、ユリーカ。ユリーカはシトロンの料理を手伝ったり、今でもオレよりしっかりしてると思うよ」
「そ、そう? えへへ……」
 その褒め言葉が素直に嬉しくて、隠そうとしても隠しきれずににやけてしまう。嬉しくて、けど恥ずかしくて、隣で寝ているデデンネを撫でる。
「それに、シルブプレするならオレよりセレナの方がいいんじゃないかな?」
 だが、流石はサトシ、一筋縄では行かないようだ。本人は善意で言っているのだろうが、ユリーカからしてみると的外れな発言を飛ばしてきた。
「ええ、セレナはダメだよ……」
「え、なんで」
 やっぱり、サトシはサトシ。ちゃんといみをわかってなかったみたい。
「だって、あたしはサトシが……」
 はずかしいけど、ここでいわなきゃきっとタイミングをのがしちゃう。
「……ああ、分かった! そっか、ユリーカはまだ自分のポケモンを持てる年齢じゃないもんな!」
 だが、勇気を持って紡ごうとした言葉は彼に遮られた。
 彼は納得したように、腕を組んでしきりに頷いている。
「……え?」
 そして予想の上を突いてくる。
「大丈夫だよ、オレもシトロンも、ユリーカを守るからさ」
 その言葉を聞いて、今まで寝ていたデデンネが目を覚ました。眠そうに目を細めつつも、鳴いて自己主張をしてきた。
「ごめん、デデンネもいるよな」
 手を伸ばして、デデンネの頭を撫でる。
「それはうれしいけど、そうじゃなくて」
「え?」
 やはり彼は、わけが分からない、といった感じに首を傾げている。
「もういいよ、サトシには分からないから」
 本当は全く怒っていないが、わざとふてくされたようにそっぽを向く。
「え、ええ……。ご、ごめんユリーカ」
 謝ってくるが、面白いし楽しいので反応を示さないで拗ねたふりを続ける。
「な、なあユリーカ……」
 そうしてそろそろへんじをしてあげようかな、なんておもってふりかえると、ピカチュウがおにいちゃんたちのとこをゆびさしてサトシをよんでいた。
「あ、そうだった!」
 それで彼は、何かを思い出したように手を叩いた。
「オレ、シトロンに言われてユリーカを呼びに来たんだ!」
 ユリーカが心配で忘れていたが、ようやく当初の目的を思い出した。
「助かったよ、ありがとうピカチュウ。ユリーカ、ご飯もうすぐ出来るって!」
 サトシが立ち上がって、明るい笑顔がはじける。
「ほんと!?」
 それを聞いて、ユリーカも、隣で寝ていたデデンネも思わず立ち上がった。
「……ところでユリーカ、さっきの話だけどさ」
「サトシがわかるようになったらおしえてあげる!」
 サトシが先ほどのことを追求しようとしてきたが、遮って彼の手を握る。
「それよりいこ、サトシ、デデンネ、ピカチュウ! おにいちゃんたちがまってるよ!」
 サトシがなにかいってるけど、きにしない!
 ユリーカはサトシを引っ張って、シトロン達の元へと駆け出した。
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