二人の砂の城づくり | ナノ
 青い空、白い砂浜、灼熱の太陽。
「海だぞ、西園寺!」
 短髪の少年、日向は後ろの少女を振り返った。
 さすがは修学旅行、五十日間なんていう無駄に長い日数を除けば拠点である南国の風情漂うホテル、図書館や農場など、観光には持ってこいの場所ばかりだ。
 そしてそれには当然、目の前に広がる絵に描いたような美しい海も含まれている。普通の高校生ならば、喜ばない筈があろうか!?
「見れば分かるよ、それが?」
 しかし返事は、冷め切ったものだった。
 ……そう、あくまで普通の高校生ならば、だ。橙色の和服に黄色いツインテールの彼女、見た目には小学生にしか見えない少女、西園寺。彼女は、いや、彼女だけでなくこの修学旅行に来ている人物は、例外無くなにかしらの「超高校級の才能」を持っている。
 さすがは超高校といったところだろうか、皆個性的な面々ばかりで、普通の感性を持つ日向の存在はその中では浮いていた。無論彼女、西園寺も、個性的な面々の一人だ。それはこの今すぐにでも泳ぎたくなるような海を前にしても全く嬉しそうにしない辺りにも現れている。
「えっと……」
「で、日向おにぃ。私をデートに誘ったんだから、ちゃんと私が喜ぶようなプラン立ててくれてるんだよね?」
 ……まずい、侮っていた。そう、彼女を海に連れてきたところで「わーい! 日向おにぃと泳ぎたーい!」などと、見た目に合った台詞を言ってくれるわけが無かった。
 訝しげに見つめてくる西園寺から逃れるように視線を剃らすと、誰がつくったのかは知らないが砂の城が目に入った。
「そうだ西園寺、砂の城をつくらないか?」
 ……果たしてこれで喜んでくれるだろうか。慎重に顔色を窺う。
「なんかすごく今考えましたって感じがするけど、仕方ないね、日向おにぃだもん。うん、いいよ!」
 ……良かった、なんとか難を逃れた……。もし外していたら、後からどんな罵詈雑言を浴びせられかけていたか……。
「じゃあもし崩したら、日向おにぃには人柱として埋まってもらうから!」
「ええ!?」
 どうやら、まだ山を登りきれてはいないらしい。むしろ更に険しく、俺の前に立ちふさがった。
 これは、気合い入れないとな……!
 早速二人で砂の城を作り始める。スコップとバケツを用意して、準備は万全だ。
「いいか、西園寺。砂の城をつくるにはコツがあるんだ」
 と、説明を始める。
「まず、目の細かい砂を選んで、作ろうとしている城の1.2倍くらいの山になるくらいまで、海水と合わせた砂を積み上げる。それで、水分が抜けて砂が固く締まるまで放置して、そこから城の形に削りだせばいいんだ」
「じゃあ日向おにぃ、頑張ってね!」
「……え?」
 西園寺はそういうと、俺に背を向けた。
「だって砂の厳選作業なんて、私には似合わないし。おにぃ一人で寂しくやってるのがお似合いだよ」
「ええ……。……それだと」
 そこまで言いかけて、これから言おうとしていたことの恥ずかしさに気付いてしまって口ごもる。
「……それだと、なに?」
「いや、なんでもない! 忘れてくれ!」
「あるでしょ日向おにぃ、はっきりいいなよ」
 だが、西園寺はそれを許さない。誤魔化そうと焦る俺に詰め寄ってきた。
「なに、日向おにぃ?」
 ……この追及は、逃れられそうにない。
「……いや、それだと、西園寺と一緒に遊べる時間が減るなって」
 俺は観念して、少しでも恥ずかしさを紛らわせる為に視線を逸らして頭をかきながら言った。
「えっ……!?」
 西園寺が、急に黙った。
「少しでも西園寺と一緒に居たいから、やるなら一緒がいいんだ」
 もうどうにでもなれ。俺は思っていたことを全て吐き出した。そして横目で西園寺を見ると、耳まで真っ赤になって爆発した。
「だから西園寺、俺は西園寺がやらないなら別の西園寺がやりたいことをやるよ」
 そう言って、膝を曲げて西園寺に目線を合わせる。
「……おらっ!」
「なんでだよ!?」
 なぜか、頬を叩かれた。理不尽だ、今に始まったことではないが。困惑していると、西園寺が再び俺に背を向ける。
「さ、西園寺……?」
「……なにやってるの日向おにぃ、日向おにぃも早く探しなよ」
 西園寺はしゃがんで、地面を見つめている。
「え、何を……?」
「本当日向おにぃって鈍いよね、細かい砂に決まってるじゃん!」
「でもさっき」
「早くしてよ日向おにぃ、奴隷でしょ」
 ……どうやら西園寺も、一緒にやってくれるらしい。結局なんで叩かれたかは分からないけど、素直じゃない西園寺のことだ、きっとあれも照れ隠しだろう。
 隣に座ると、私も、日向おにぃと一緒に砂の城づくりがしたいから、と呟いたのが聞こえた。
 それがかわいくてつい頭を撫でたら、いいから早く細かい砂を探しなよ、と諫められた。
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